【後編】より発展的な未来を生むために - オープンイノベーションに大切な事と、実際にイノベーションを生む人材
オープンイノベーション、という言葉が聞かれるようになって久しい。
元々は「自社内の経営資源だけではなく、社外の技術・アイデアなどの力を借りイノベーションを起こす」という考え方で、分かりやすい例では「あえて自社の特許技術を無償公開する事で、その技術の新たな活用法を模索する」「自社が抱えるビッグデータを公開する事で、それを活用した新たな技術の提供を受ける」などがある。主に企業間コラボレーションを指す言葉として欧米などでは早くから注目され、日本でも近年企業内にオープンイノベーションを主目的とした部署・研究所が出来るなどの事例が増えてきている。
それ以外に、いわゆる「ハッカソン」なども個人間オープンイノベーションの場と捉えられる。個々人が持つスキル・ノウハウ・人脈などを活用し、それを持ち寄ることで新たなイノベーションに繋げるという仕組みは、まさにオープンイノベーションの取り組みと同じ意図で設計されている。
ここ数年で "オープンイノベーション" という仕組みがビジネスで見られるようになった要因として、主にビジネス環境の急激な変化が挙げられる。 IT基盤の整備・戦略的活用が進んだ結果、最近でもウェアラブル、ビッグデータ、IoT(モノのインターネット)など技術は目覚ましいスピードで発展している。それに対して、旧来の自社のみで行う事業開発は、採用等でしか新しい技術のキャッチアップができなかった。
そんな環境の中でも企業として画期的・革新的な製品・サービスを生み出すため、自社が持っている良い技術・データを提供しながら、キャッチアップしにくい新しい技術などを外部の企業に求め始めたのは当然の流れと言えるだろう。
前回の記事では、どのように場を設計し、どのように進めて行くとより良いイノベーションが起きるのかを、実際に今年2月に行われた「OPEN INNOVATION SESSION for Healthcare」を企画・運営したリクルートマネジメントソリューションズの井上功氏に聞いた。
今回は前回に続き、オープンイノベーションに大切な事と、実際にイノベーションを生む人材とはどういった人材なのか、を掘り下げて聞いてみた。
イノベーションを見続けた井上に聞く、イノベーションの起こし方
― それでは、実際に今回のようなイベントを行われてきて、結局イノベーションを起こすために重要な事は何なのでしょう?やはり場を設けるだけでは中々イノベーションは起きないですよね?
井上功(以下、井上) 幾つかの側面があると思います。まず、フレームワークの点で考えると、徹底的に実感値のある課題、を設定する所から始まると考えています。
不の設定方法として、私は石川明さん(元リクルートで1,500件を超える新規事業のインキュベートに従事した)が提唱している「国語・算数・理科・社会」という考え方を参考にしています。
国語は、よくテストで「この時の作者の感情を答えよ」という設問がありますが、自分が対象としているユーザの気持ちを知り、代弁して答えられるように徹底して仮説を立て、検証することです。不の解消の手探り感を得る、という感じでしょうか。
算数はいわゆるマーケットリサーチですね。ユーザの数、市場規模、どれだけの不があり、どれだけのニーズがあるのか、などをなるべく定量化していきます。
理科は、国語・算数で出てきた定性的なデータ、定量的な数字を構造化します。単に数字を列挙するだけではなく、構造化した際に何故そのような定性的データになったのか、定量的な数字と定性的なデータはどう繋がるのか、などを確認します。
最後に社会ですが、これはそのアイデアが過去どういったものから生まれ、いまの社会ではどう扱われており、将来的にはどうなる予想なのか、という肉付けです。社会的背景といってもいいです。
わかりやすい例では、現在の介護業界の "不" を過去の法令などから考え、高齢化社会を迎えた今課題が山積し、将来的により高齢化が進むことで、市場は拡大していくだろう、といったものになりますね。
― 「国語・算数・理科・社会」というのはわかりやすいフレームですね。ただ、中々そのフレームに情報を当てはめるだけでは事業は生まれません。
井上 ここからは少しエモーショナルな部分になりますが、やはり仮説をもって対象に飛び込んでいく事と、「誰に何を言われても自分はやるんだ」という気持ちに尽きると思います。"執念"を越えた"情念"がないとイノベーションは興せません。
まず、対象に飛び込んでいく、という話ですが、先ほどの「国語・算数・理科・社会」というのは、デスクトップリサーチだけでもある程度出来てしまいます。ただ、イノーベションを起こすためにはそれでは全く足りません。
よくヘンリーフォード(自動車メーカー「フォード」の創業者)が、まだ馬車移動が主な交通手段だった時代に、「もし顧客が望むものだけを考えたら、もっと速い馬と言うだろう」といった、というエピソードがよく引用されますが、デスクトップリサーチだけでは「顧客が気付いていない、本当に必要なもの」はわかりません。どうしても第三者目線の資料になってしまう。それでは顧客や、自分の事業を承認する経営者には響きません。
― 顧客が気付いていない。けど顧客に受け入れられるだろう、という裏付けですね。もう一個の「情念」というのは、いわゆるモチベーション、という点になるのでしょうか?
井上 そうですね。課題を解決するには自分ひとりの力だけでは足りないことばかりです。自ら機会を創る、顧客を巻き込む、パートナーを巻き込む。もしかしたら国や自治体を動かす必要があるかもしれない。前例のない仕組みを作り出す必要があるかもしれない。
中々安易な気持ちでは、途中で心が折れてしまうかもしれません。先ほども言ったように「誰に何を言われても自分はやるんだ」という情念を持って、時に泥臭く、時にクレバーに物事を進められる、というのもイノベーションを起こす上で重要なポイントになると思います。
オープンイノベーションがもたらす、ミライ
― 最後に、オープンイノベーションの盛り上がりがこのまま続いた場合、どういう未来に繋がると思いますか?
井上 オープンであること、は今後絶対必要だと思っています。個人や自社だけでは技術・経験といった "線" でしかないものが、他者・他社の持っている情報と組み合わさる事で、面や立体になっていく。今後どんどん色々なものが流動化していくと思っています。
― 流動化、ですか。
井上 会社・職種・業種などビジネスでもそうですし、国・地域・産官などもそうでしょう。性別・年齢などもダイバーシティの取り組みなどでどんどん流動化していきます。そういった点から考えても、これまでの閉鎖的で固定化された状況から、オープンにならざるをえないと言えるかもしれません。
― 今までのビジネスやライフスタイルの考え方と、大きく変わることがあるのかもしれませんね。
井上 とはいえ、未来で間違いなく起こる事から逆算して、今この瞬間に一つひとつ解決していく。そのために行動していく。そのやり方が、もっとオープンで、効果的になるだけだと思っています。より面白い事が出来るようになるのではないでしょうか。
プロフィール
- 井上 功
- リクルートマネージメントソリューションズ ソリューション推進部 エグゼクティブプランナー
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1986年リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。
2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材の可視化、人材開発、組織開発、経営指標づくり、組織文化の可視化等に取り組む。