TOKYO WORK DESIGN WEEKオーガナイザー 横石崇さん  働き方を探求する人間が見据える、個人と会社の働き方のこれから

TOKYO WORK DESIGN WEEKオーガナイザー 横石崇さん  働き方を探求する人間が見据える、個人と会社の働き方のこれから

写真:佐坂和也 文:モリジュンヤ(写真は左から横石さん、林さん)

働き方は今、変革期を迎えている。おそらく、人類が”会社”を発明して以来、もっとも大きな変動が起きているのではないだろうか。テクノロジーは進歩し、いつでもどこでも働くことを可能にした。人々の寿命は伸び、100歳まで生きることが前提となる世の中が到来しようとしている。「働く」の前提が覆り始めているのだ。

地殻変動が起きている「働き方」をリードする存在とは、どのような人なのだろう。11月の勤労感謝の日前後の7日間に開催される"働き方の祭典"「TOKYO WORK DESIGN WEEK(以下、TWDW)」の発起人でありオーガナイザーである横石崇さんに、働き方変革のエバンジェリストである林宏昌が話を伺った。

本記事は『働き方変革プロジェクト』サイトに掲載された記事を転載したものです。

面白い働き方の点をつないで面にしていきたい

 TWDWの活動、大変興味深く拝見しました。まず、横石さんがなぜTWDWを始めようと思われたのか、お話をお聞かせいただけますか?

横石 TWDWを最初に開催したのは、東日本大震災後に勤めていた会社を辞めて、自分の会社を立ち上げた時です。リンダ・グラットンが『WORKSHIFT』を出版するなど、世の中の価値観や生き方が揺れ動いていた時期でした。

当時、就職氷河期を超えて社会に入って10年くらい経過した同世代の「日本仕事百貨」のナカムラケンタくんや「greenz.jp」の兼松佳宏くんなどが、どんどん面白いことを始めていました。自分は特に何もせずフラフラしていたこともあり、世に点在している面白い働き方をしている人たちが観測できていた。点になっている動きを、一つずつつないで線に、そして面にしていきたい、と思ったのが発端です。

新しい働き方といっても本当に多様で、とても一言では語りつくせません。TWDWは、働き方にも多様性があることを知ってもらえるきっかけの場でもあるので、1日では時間が足りないため7日間での開催になりました。

2012年以来、毎年開催していて、2017年で5年目ですね。僕の大好きな人たちをゲストにお呼びして、働き方のアイデアやヒントの交換ができるように場を設計しています。毎年3,000人ほどの来場者が足を運んでいるので、累計で13,000人もの方がTWDWに参加してくださいました。

 TWDWにはどんな方が参加されているんですか?

TOKYO WORK DESIGN WEEK 2016 オフィシャルWebサイト
TOKYO WORK DESIGN WEEK 2016 オフィシャルWebサイト

横石 TWDWを始める前は、働き方に関するイベントには仕事に困っていたり、転職を考えている人が来るのかと思ってました。もちろん、現在進行形で仕事を探している人たちにも来てもらいたいのですが、社会的にインパクトを残すのであれば、普段から企業で活躍している方にどれだけ来てもらえるかも重要です。新規事業開発やイノベーションを担当している人たちが興味・関心を持って来てくれたことが、自分の中でも驚きでした。

TWDWには、同じ会社の人だけが集まらないことが良いですね。同じ会社の人たちで集まってしまうと、知らず知らずのうちに自らの考えにバイアスがかかってしまいます。社外の人と話すことによって、「自分と同じことを考えている人って結構多いんだな」と感じることができ、「もしかしたら、自分が思っていることって変なことではないのかも」と感じられる。

 たしかに、会社に勤める人にとって社外のユニークな人々と出会える環境は貴重ですね。TWDWで何か変化が生まれた事例などありますか?

横石 リモートワークの話はまさにそうです。社内ではまだやっていなかったけど、社外で実際にリモートワークをやっている方に話を聞いたり、やり方を教わる内にその利便性や必要性を感じるようになって、リモートワークの制度を導入された会社も多いようです。

外圧がかかったほうが社内で提案が通ることってありますよね。TWDWに集まる人たちは、社内だけに閉じて会社を変えていくのではなくて、社外の人たちと集まり、つながっていくことによって、変化を生み出そうとしている。プロセスを間近で見ているので、エキサイティングです。

全員がリーダーシップを発揮する時代

横石崇

 2016年のTWDWのテーマは「リーダーシップ」だったかと思います。なぜこのテーマを設定したのかお伺いしてもいいですか?

横石 2015年のTWDWでは、開催した60プログラムのほとんどから、「コミュニティ」というキーワードが登場していました。新しい働き方では、コミュニティが鍵になる、と。会社だけでなく、家庭だけでもなくて、サードプレイスのような3番目の場所がコミュニティなのではないか、といった議論も交わされました。そして、コミュニティを成立させたり、維持したりするためには何が必要かを考えてみると、結局は「人」です。リーダーシップを学ぶことで、新しい働き方へシフトする力になると考えました。

 「これからのリーダーに必要なのは5パート+1ベースだ」と掲げてらっしゃいましたよね。

横石 そうですね。私は、次世代のリーダーシップに必要なのは、交渉力、観察力、共感力、表現力、実行力。そして、創造力だと考えています。中でも、創造力がベースになる。

私がリーダーシップという言葉を用いるとき、従来のようなトップダウンではないリーダーシップの形があるよね、という意味を含んでいるんです。フォロワーシップと呼ばれたり、サーバントリーダーシップなど、様々な言い方があると思います。チームがフラットな関係になったときに、みんながリーダーでなければいけないし、本来誰しもリーダーシップを発揮することはできる、という考えが前提になります。

 なるほど。リーダーシップの捉え方も従来とは異なってきているんですね。

横石 リーダーシップの前提を見つめ直した際に注目されるべきなのは、いわゆる「プレイングマネージャー」よりも「マネージングプレイヤー」という働き方だと考えています。プレイヤーとしても活動しながらマネジメントを行う。私たちの世代は、現役で走り続ける人が増えていくでしょうし、その前提に立った時に考えなくてはならないのが、役職ではなく「役割」での働き方です。人々が自分の役割をちゃんと自覚できたほうが、いいチームが作れる。だから、リーダーはそれぞれの役割を見つけてあげられることが大事だと思っています。それは企業もコミュニティも変わらないですね。

プロジェクトの進め方を根本から変えていく

林宏昌

 リーダーシップのあり方やマネージャーのあり方が変化してくると、プロジェクトの進め方をそもそも変えていかなければなりませんね。リクルートも、まず3カ年計画を作り、ウォーターフォール的にプロジェクトを進めていくやり方から、もう少しアドホックに進めていくアジャイル型の進め方に変えていこうと思っています。

横石 働き方変革も、まずやってみて、うまくいったら取り入れて、失敗したら止めるくらいのつもりがいいですよね。アジャイルに、プロジェクトベースで進めていくのがいいんじゃないでしょうか。私は、プロジェクトを進める上で「リゾーム型」に注目しています。

リゾーム(rhizome)とは、フランス語の「根茎」を指す言葉で「横断的な関係で結びつくさま」を表現しています。リゾーム型のプロジェクトでは、従来のヒエラルキー型のプロジェクトの進め方とは異なり、縦横無尽に動き回れるような体制でコミュニケーションをしながら、プロジェクトごとに集まって働きます。

 リゾーム型、面白いですね。さらに突き詰めていくと、様々なことに変化が及んでいきますよね。企業文化はどう継承していくのか、文化の中でも変えていいことと、変えてはならないことは何なのか。リクルートでもその辺を整理しながら、変えられることから着手しています。

横石 変革しなければならない範囲が広くなってくると大変になりますが、働き方の変革は小さく始めながら少しずつ変えていくのが大切ですよね。

ワークの前にまずはライフのデザインから始めよう

横石崇

横石 プロジェクトのやり方や、マネジメント手法を変えていくことは、会社がワークの柔軟性をどれだけ高め、個別に最適可能にしてあげられるかにつながると思うんです。

 ワークの柔軟性とはどういうことかお伺いしても?

横石 もはや働き方は、世の中の関心ごとになりました。国も、企業も、みんなが働き方に注目しています。一方、注目を集めるほど、人々は働き方の本質的なことを忘れがちになっているように感じています。よく言われる「ワークライフバランス」も、本来はライフが先にあっていいはず。家族との関係や暮らす場所など、どういう生き方をしたいのか、どういう暮らしをしたいのかを考えた上で、働き方を考える時代になってきているのではないでしょうか。

個人が自由に働き方を考えるということは、その手前にまずライフデザインがあって、その中のひとつの要素としてワークデザインがある。ですが、企業側からみるとワークの話が中心になる。個々で異なるライフの話まで企業が考えてと言われたとして、「そこまで企業が見るのか?」ってことになりますよね。

 企業側が一人ひとりの個人のニーズに対応していくのは困難ですね。

横石 そうなんです。なので、「ワークの柔軟性をいかに高められるか」という問いになっていくんですよね。

個人が自由に働いていくために最も大切なこと

 会社におけるワークの柔軟性が高まり、プロジェクトの進め方も変わってくると、働き方の自由度が高まる一方、個人が考えなければならないことも増大します。個人がこれからの働き方に向き合っていく上で、私が1番大事だと思っているのは個人の意志です。

自分が人生において何をしたいのか、今の会社で何をしたいのかが決まっていれば、仕事にも意欲的に取り組むことができるのではないかと思います。興味もなく、意志もない仕事を渡されてしまうと、どうしても仕事に対してネガティブな向き合い方になってしまう。いかに個人が仕事に対する意志を考えていくのかが大事だと思っています。

横石 個人の意思は重要ですよね。そこから共感が生まれていく。

林宏昌

 とはいえ、日本では、小さい頃からの教育の中で人と違うことを避けて成長してきている人が多いので、本当はやりたいと考えていることがあっても、それがどんどん潰されていってしまう。そう育ってきたにも関わらず、急に「明日から意志を持って生きていってください」と言われても難しい。どうしたら、そういう方向に変わっていけるかを考えないといけないなと思います。横石さんは、どんなことが大切だとお考えですか?

横石 私が大切だと考えているのは、「好奇心」ですね。内発的動機と言ってもいいかもしれません。好奇心や向上心があるかどうかで、ツールの使い方も変わってきますし、情報の取捨選択の精度も解像度も変わってくるはず。会社側は、各スタッフの好奇心を削がないようにツールを選んだり、環境をデザインしていくかが重要なのかなと。個人が会社に言われたから使っている、という状態では10年前と何も変わりません。それこそマネジメント側から、「あなたがやりたいことについて、こういうやり方があるよ」と手段を提示できたりすると、個人も好奇心を持ちながら考えられるようになるのではないでしょうか。

 個人の意思や好奇心を引き出すために、会社は、個人に対してサポートする役割を果たさないといけないと思いますね。

働き方はもっと自由で楽しいものになれる

 近い将来、今の仕事はなくなるかもしれないし、75歳まで働くことが前提になる社会が訪れるでしょう。また、テクノロジーの進化も早く、いまの自分の仕事が将来なくなることだってあるかもしれない。そんな変化が激しい社会で働いていくためには、外の世界を知り、自らも変わり続け、変化していかなければなりません。現在会社で働いている人たちの中には、働き方に変化を求めていないという人もいると思いますが、いずれ変化にさらされてしまう時がくると思います。

横石 100歳まで生きる時代において、ずっと変化せずにいられるかですよね。30代で変わる人もいれば、50代で変容する人もいる。僕らの世代は、特に死ぬまで変化を求められていく時代なのでしょう。変化を怖がらない人は幸せにみえます。

 横石さんはいろいろな方と働き方についてお話されているかと思うのですが、何か意識されていることがあったりするのでしょうか?

横石 自分の好きな人たちから得られることって多いですよね。人は身の回りにいる人に影響されて成長していく。だったら、いま自分が気になっている同世代の人たちの働き方を解剖していったらどうなるのかわかるんじゃないかと考えたんです。10人くらいのキャリアを解剖していったら、共通していることがわかってきました。ユニークな働き方をしている10人の平均値をまとめて分析することで、「新しい働き方」ってこういうことなんだ、と伝えるヒントになるんじゃないかなと。この10人のインタビューは書籍として出版※します。

 それは面白そうですね。出版されたらぜひ読んでみたいと思います。横石さんは、この先働き方はどうなっていくと思われますか?

横石 世の中は働き方について息苦しく考えがちだなと思ってるんです。働き方って、もっと自由で良いはずだし、楽しい気分になれるんじゃないか、そう思っています。自分の周囲の最初の10人が変わったら、さらにその周囲のメンバーが変わっていくと思いますし、それが社会全体に伝播していくのだと思います。

 変化が明るい未来や楽しいことにつながっていくんだということを伝えていきたいですね。人工知能も、本当は楽しい変化なんです。人工知能のおかげで、労働時間が半分になるかもしれない。そうしたら、空いた時間で何ができるかって考えた方が良いじゃないですか。

横石 そのとおりですね。これからの時代は、答えを得ることより、探求を始める、探求を楽しむことが大事になると思います。

『これからの僕らの働き方: 次世代のスタンダードを創る10人に聞く』

『これからの僕らの働き方: 次世代のスタンダードを創る10人に聞く』

著者:横石崇, 真鍋大度, 村上臣, 青木涼子, 松本理寿輝, 阿嘉倫大, 水野祐, 石川俊祐, 兼松佳宏, 藤本あゆみ, 丸若裕俊/1,620円(税込)/早川書房
全国書店、ネットショップなどで発売中。

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