『ビジュアルシンキング』櫻田潤氏が語る、スキルの掛け合わせでみえた趣味と仕事の関わりかた

『ビジュアルシンキング』櫻田潤氏が語る、スキルの掛け合わせでみえた趣味と仕事の関わりかた

写真/佐坂和也 文/小山和之(写真は櫻田潤氏)

『ビジュアルシンキング』の運営からNewsPicksへ。インフォグラフィックを趣味から仕事にした櫻田潤氏から、本業と趣味、会社と個人の境目を探る。

社会として多様性を許容する流れが加速している中、この流れは私たちの働き方においても同様ではないだろうか。マルチキャリアやリモートワークの促進など、多様性は今後さらに増すことが予測される。この変化に対し、私たちは改めて「働き方」について考える必要があるだろう。

インフォグラフィックの人気サイト『ビジュアルシンキング』を運営し、昨年12月には株式会社ユーザベース(現・株式会社ニューズピックス)のインフォグラフィックス・エディターに就任した櫻田潤氏。本業のかたわら趣味で始めたインフォグラフィックを、そのまま仕事にした櫻田氏にこれからのキャリアと働き方について伺った。

本記事は『働き方変革プロジェクト』サイトに掲載された記事を転載したものです。

櫻田潤

「得意でないこと」も、掛け合わせが新たなスキルに

ー ビジュアルシンキングをはじめたきっかけは何だったのでしょうか?

最初は自分の勉強のためでした。本をただ読むだけでなく、図解してまとめてみようと思い始めたものです。サイト運営自体は以前からやっていまして、プログラマーだったころに始めた、プログラミングのサイトを運営していました。でも、周りのプログラマーと自分を比べたときに、プログラミングでは敵わないと感じるようになり、迷っていた時期にこのサイトをはじめました。2010年頃のことです。

ー 以前はプログラマーをされていたんですね。

プログラマーとしてキャリアをスタートし、SEやWEBデザイナー、マーケティングなどを経験しました。ビジュアルシンキングはその傍らでスタートしました。

ー 2010年のスタートから、どの様にして認知を広げていったのでしょうか?

割と初期の頃からコンタクトを取って下さる方はいらっしゃいました。最初の1,2年はコンサルタントの方などが、プレゼン資料やメソッドをまとめるというところに興味を持ってというのが多かったです。そこから図解の講座などを始めたのですが、ちょうど2012,13年頃からインフォグラフィックが世間的にも話題になり、そこから一気に広がりはじめました。たまたま世の中の流行とタイミングが合ったかたちでしたね。

櫻田潤

ー もともとデザインは得意だったのですか?

いえ、僕はデザインに向いてないと思っています。プログラミングも同様で、自分自身あまりこれが得意という意識がないんです。スキルの掛け合わせで上手くやっている感じですね。

ー でも問い合わせがあるというのは、人の目に留まる何かがあったのではないでしょうか?

それはプログラミングの経験が大きいと思います。今やっているデザインもそうですが、基本的に無駄なものを増やさず、シンプルに表現するようにしているんです。この考え方の背景にはプログラムを組む考え方がある気がしています。普通のデザイナーなら、もっとゴリゴリとデザインしてしまうのではないかなと。それに加え、IllustratorやPhotoshopといったソフトのスキルがあまり無かったので、自然に単純な形を使うようになり、結果的にわかりやすい表現に繋がったのかも知れません。

ー でも、絵は上手ですよね。

絵は好きなんですよ。元々漫画家にもなりたくて(笑) でもデザイナーとして仕事をするのであれば、クライアントの要望に合わせて形にしていく必要があります。僕の場合デザインが個性を持ちすぎているので、職業としてのデザイナーには向いてないと思っています。逆に、簡略化する方向に動いてみたところ、上手くいったというわけです。

櫻田潤

オンオフを切り替えず、スリープ状態をつくる働き方

ー 株式会社ニューズピックス(以下・NewsPicks)に入社されたきっかけは何だったのでしょうか?

NewsPicks編集長の佐々木が、僕の出した本を読んでくれていたんです。そこから会って話してみたところ、僕のやりたいことと彼のビジョンに合致するものがあり、それがきっかけになりました。ちょうどビジュアルシンキングでの経験を、どう仕事に活かしていくか考えていた時期だったということもありました。

ー NewsPicksに入る以外に、考えていたものはありましたか?

いくつか考えていました。1つはインフォグラフィックの受託制作をやることです。ただ、前述したとおりデザイナーとしてクライアントの要望を実現するというイメージが出来ませんでした。2つ目は自分でメディアを持つことです。でも、ビジュアルシンキングをもっとビジネス面でもメディア化していくことも違うと思いました。これからも興味のおもむくままに運営を続けたいと考えたからです。それで、リスクも考えると本業は他で持つ方がいいと思いました。

次に本業を何にすればいいか考えた際、メディアで働きたいと思いました。インフォグラフィック自体の今後を考えると、普及させるためには長く使われることが重要で、それを実現する場を考えるとメディアかなと。メディアの場合、情報を常に発信していかないといけないので、手法として長く使われ、結果的にインフォグラフィックの普及にもつながると考えました。

ー その中で編集長の佐々木さんと考えが一致し、NewsPicksを選ばれたと。

そうですね。特に共感したのはモバイルファーストだった点です。モバイルを第一に考えてオリジナルコンテンツを作るというのは、他の媒体にない魅力でした。また、佐々木が海外の事例に精通しており、ビジュアルをどう使うかというイメージを持っていたので、こういった理解がある佐々木のもとで働けば、ある程度好きにさせてもらえるだろうという考えもありました。

櫻田潤

ー インフォグラフィックを仕事にされるにあたり、これだけは気をつけようみたいなものはありましたか?

威力を持っているものだからこそ、ミスリードする恐れがあることを忘れないようにしています。ですから編集部内でも、インフォグラフィックを使いたいと話に上がるもの全部は受けないようにしています。インフォグラフィックよりも文章で丁寧に説明してあげる方がいい記事もありますし、そこは精査するようにしていますね。

特にモバイルの小さい画面を考えると、インフォグラフィックで伝えることは非常に難しいんです。一覧性のある紙媒体や、PCでは向いている場面も多かったのですが、モバイルの小さな画面では状況が異なります。消費される場面も多くなるので、インフォグラフックがその記事に向いているかをよく考える必要があるんです。

ー 4年間ひとりでやってきたことを仕事にしたことで、どんなメリットがありましたか?

やはり関わる時間が増えたので、スキル的に上達しましたし、今まで出来ていなかった様々な表現を試すことも出来るようになりました。また、自分ひとりでやっていたときと違い、編集者といった他の人と関わることで、自分の知らない分野に関われるのは楽しいですよね。

また、表現先のデバイスやシェアされる方法が変わっても、「情報をビジュアルという手段で伝える」という1つの軸を持てたことは、自分の中で大きな変化でした。

ー ビジュアルシンキングを趣味ではじめたことなどを考えると、オンオフの境界が曖昧なのではないかと思いますが、どう切り替えていらっしゃいますか?

むしろ切り替えないようにしています。電化製品もオンオフを切り替えすぎると良くないように、オフではなくスリープ状態を作るようなイメージで動いています。いつでもスイッチを入れられるような感じにしていますね。

ー 今NewsPicksでやっていることを仕事だとするとビジュアルシンキングは引き続き趣味なんでしょうか?

趣味色が強くなっています。以前以上にマニアックな方向に向かっていて、自分が好きなことを実験する場になっています。ただ、当然そっちでインプットしたことが仕事でも役に立っているのでいい影響を与えていますね。

ー 時々嫌になったりしませんか? 仕事でも家でも同じことをやるとなると。

むしろ仕事だけだと嫌になるかもしれません。趣味でやっているビジュアルシンキングの活動は非常に大事なので、むしろ自分の中でバランスを取るようにしています。

櫻田潤

続けられることは、得意なこと

ー 今仕事している上で、一番嬉しい瞬間はどういう時でしょうか?

「わかりやすい」という反応をもらえることが一番嬉しいですね。あるタイミングから、自分の中で「かっこいいこと」の定義が「わかりやすい」に置き換わったんです。ここにもプログラミングの経験が関係していて、ボタン一つ押すだけで結果が出てくるようなシンプルなものがかっこいいと感じたことが、その原点にはあると思います。

ー 今後はどう活動していきたいと考えていますか?

NewsPicksではデザインやビジュアルに関する文化があまりないので、デザインは表面的なものではなく、思想なのだということを社内的に浸透させないといけないと思っています。そして、ビジュアルが使われないテキスト主体の記事に関してもモバイルに最適化したものを探求し、モバイルでトップのメディアにしていきたいです。

ビジュアルシンキングでも、今後はもっとモバイルに最適化していきたいと思っています。現在ビジュアルシンキングは60%がPCユーザーで、デザインもPCをベースに作ったものなんです。これは実際に実験しているのですが、プライベートの方でもモバイルの課題感というものを考えていきたいですね。

また、インフォグラフィック全体では使える人を増やしていきたいと考えています。手段としてはアカデミーのようなものになるのかもしれませんが、当たり前のようにインフォグラフィックが様々なシーンで使われている状況を作っていきたいですね。

ー 人間『櫻田潤』としては今後何をやっていきたいと考えていますか?

ゆくゆくは漫画を書いたり映画を撮ったりしてみたいですね。もともと絵が好きだったことにも関係していて、デザインというよりはアートの方が感覚が近いのかもしれません。それ以外だとアンディ・ウォーホルのようなポップアートですかね。大量生産することにあこがれがあります。昔は特に好きではかったんですけど、今の仕事をするようになってからその素晴らしさを感じるようになりました。

櫻田潤

ー 働き方について教えてください。櫻田さんのように、自分の趣味を仕事にしたいと思ったら何から始めればいいでしょうか?

まずはサイトの運営でしょうか。サイトを立ち上げなくてもblogやTumblrといった簡単なもので構わないので、自分の帰るところを作ることです。自分が得意なものって最初は分からないと思うんですが、続いたことは得意なことなんだと思うんです。僕自身、前やっていたサイトは続かなかったんですけど、ビジュアルシンキングは続いているので、これは得意なのかなと思っています。

自分がずっと継続してやれるものって、会社ではないような気がするんですよ。会社だと、得意不得意に限らず環境に合わせたことが求められます。ただ人のポテンシャルってそれだけじゃないと思うんです。それをしっかりと発揮する場所は外に持っていた方がいいと思いますね。

ひとつのことを100点満点を目指すのって大変ですし、そこで成功するのは一握りの人に限られてしまいます。僕は色々なスキルが全て60点くらいだと思っていて、それの掛け合わせで面白いことがやれると思っています。そう考えれば、いろいろな人に、多様な可能性があるのではないでしょうか。

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