超大規模でも円滑にマネジメント!ロケット打ち上げプロジェクトに見るJAXAの仕事術
難解かつ複雑で大規模な宇宙開発をいくつも抱えるJAXA。その仕事術はあなたのプロジェクトにも活かせる仕事の極意の宝庫だ。
人々の夢を一身に背負い、たくさんの人が関わるロケットの打ち上げ。宇宙を舞台とする大規模プロジェクトに挑むJAXAのプロジェクトマネジメントには、私たちの日々の仕事にも活かせることが多くあった。長年JAXAのロケット開発に従事し、現在はプロジェクトマネージャーとして活躍されている井元隆行さんに大規模プロジェクトでの仕事術を伺う。
大規模なプロジェクト。効率的に進めるために必要なこととは。
イプシロンロケット3号機打ち上げの瞬間(Image Credit:JAXA)
井元 「他部署や企業へ依頼をするときは必ず資料化し、システムを使い共有します。大切なのは、言った・言っていないの問題にならないよう、ファクトを残すこと。我々の場合文章に立ち返り、書いてある・書いていない、を基準にしています。また、決定や変更は結論だけでなく、根拠や過程を残すことも徹底しています。必要なことは答えよりも根拠や過程にある場合が多い。技術資料や引き継ぎ資料などでも同様ですよね」
適切なコミュニケーションが求められるのは、膨大な人数が関わるからだけではない。関わるのは膨大な『部品』もしかりだ。ロケットを構成する大量の部品は、全て仕様どおりに動くかチェックしなければならない。さらに、部品は単体だけでなく、組み合わせてうまく挙動するかが鍵になる。
井元 「ロケットは外から見ればツルッとした円筒ですが、その中には何十万点もの部品があり、その1つでも壊れれば打ち上げが失敗するかもしれない。しかし、そのすべてを組み上げてテストすることはできません。それは本番。一発勝負です。ロケット打ち上げの現場では『Test Like You Fly, Fly Like You Test.』という言葉があります。飛ばすことを想像しながら地上でテストをし、地上でテストをしたように飛ばしなさいという意味で、開発関係者に対しいかにテストが大切かを伝えるワードとして使われています」
いつでも本番を想像し、他部署、他部品との連動を前提に作業を進めていくことで組み上げた際のリスクを極力低くすることができる。十数万人規模のプロジェクトを進めていたのは、そういったノウハウの積み重ねであり、全員が持たなければならないマインドセットがその根底を支えている。
プロジェクトマネージャーは共感できるビジョンを作り、浸透するまで発信していくポジション
筑波宇宙センターロケット広場(Image Credit:JAXA)
プロフィール/敬称略
- 井元 隆行(いもと・たかゆき)
- 九州大学大学院工学研究科応用力学専攻修了。1989年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社し、H-IIロケットのエンジン・推進系の開発に従事。H-IIAロケットの開発取りまとめを担当した後、イプシロンロケットのプロジェクトチームへ。イプシロンの研究開始当初から開発の取りまとめを担当。