選択は世界を変える投票。電気の小売事業社「みんな電力」が提供する顔の見える電力™️
誰から買っているか、誰がつくっているのか、日常で意識することも少ない「電気」という領域で小売業を営むのが「みんな電力」だ。目に見えないモノを提供しながら、マスメディアや自治体、街の小さな喫茶店までさまざまなユーザーに支持される同社は、何を大切にしているのだろうか。
年々深刻になる自然災害。個人にも法人にも、気候変動に対するアクションが求められる時代へと変わってきた。気候変動を引き起こす地球温暖化の主要な原因は、化石燃料などを燃焼して発生するCO2だと言われている。この課題解決の鍵となる再生可能エネルギーの推進に、「みんな電力」は電気の小売事業として取り組んでいる。
電気は目に見えず、香りも肌触りもない。恩恵や違いを感じづらい中、みんな電力は「顔の見える電力™️」というキャッチコピーで、どんな人や事業者がどんな思いで発電しているのかを伝えるコミュニケーション戦略にも取り組んでいる。なぜ、同社は再生可能エネルギーの推進に取り組むのか。そして選ばれる理由とは?みんな電力株式会社 事業本部 ソリューション営業部 部長の真野秀太さんに話を聞いた。
ユーザー視点に立つ電気の小売事業者
── はじめに、みんな電力が取り組む「電気の小売」について教えてください。
現在、電気事業には大きく分けて「発電」「送配電」「小売」の3つのビジネスがあります。まずは、電気をつくる「発電」。火力や水力、メガソーラーのような大きな発電所はもちろん、自宅の屋根に並んだソーラーパネルなど、何十万という事業者がいます。「送配電」は、電線や電柱などによって電気を届ける事業。電力事業における「道路」のようなものです。電線が何本もあっては無駄なので、現状は独占が認められています。
最後は、電気を使う人に一番近い「小売」。発電事業者から電気を買い、送配電会社にインフラの使用量を払い、ユーザーに電気を販売する。現在700社ほどが存在しています。
── 700社ですか。たくさんの事業者がいるんですね。
電気の小売事業は、他の商材と比べても参入障壁が低いんです。例えば衣服を販売する場合、つくったら在庫を管理しなければならないですし、販売後にもサイズ直しや返品交換などの対応が必要です。でも、電気は売ればそれで終わり。とてもシンプルなビジネスなんです。
700社の中でも、みんな電力はユニークな立ち位置を選び事業をしています。私たちが大切にしているのは、ユーザー視点に立ち、ユーザーにさまざまな選択肢を提案すること。私は4年ほど前にみんな電力に転職してきたのですが、当時、そんな視点でビジネスをしている電気事業者はほとんどありませんでした。
── そもそも、電気における「ユーザー視点」というものがイメージできないのですが、どういうことでしょうか?
電力に関わる事業者もユーザーも、そんなことは考えたことがない人がほとんどだと思います。電力自由化以前には「ベストミックス」という言葉がありました。 これは「火力発電は何パーセント、水力発電は何パーセント、原子力は何パーセント」といったように、電力事業者が考えるベストな配分で電気をお届けするというもの。どんな発電方法の電気をお届けするかは 事業者が考えるから消費者の皆さんは安心して使ってください、ということです。ユーザーに選択肢はなかったし、選択肢を必要とするユーザー自体も少なかったと思います。
しかし、時代は変わりました。東日本大震災以降、エネルギー問題に関心を持つ人は増えましたし、気候変動への危機意識も高まっています。自分が使う電気がどのように発電されたかに関心を持つ人たちも現れています。とくに再生可能エネルギーへのニーズが増え、みんな電力はその受け皿となりました。「こんな電気を使いたい」というユーザーの視点に立って、選択肢をつくったのです。
また、自宅に太陽光パネルを設置している人も増えました。自宅で発電した電気で生活に必要な電気をまかなったり、蓄電池に貯めてあとで使ったり、電気自動車のエネルギーとしている人もいます。つまり、ユーザーは単純な消費者ではなく生産者にもなっている。
このように、ユーザーがどんどん変化している時代ですから、事業者視点が当たり前とされてきた「電気」の事業も、「電気に対してユーザーが求めていることは何か」とユーザー視点で考えなければいけなくなってきているんです。
── 確かにエネルギー問題への関心など踏まえると、自分の使うエネルギーを気にする人も増えていきそうです。みんな電力のユーザーにはさまざまな分野の企業が名を連ねていますが、個人だけではなく企業にも変化は起こっているのでしょうか?
そうですね。現在は、アパレル業界の事業者に選んでいただいているケースが多いんです。もともとアパレル業界は、大量の原材料や廃棄による環境負荷の高さや、生産国での人権問題など、さまざまな社会問題を抱えていました。
気候変動や社会問題への関心を持つ個人が増えたことで、アパレルブランドの「かっこよさ」も変化していると思います。身に着けるものを選ぶ際の基準に、機能やデザイン、価格だけでなく、「社会課題に誠実に対応しているかどうか」も含まれるように変わってきた。とくにグローバル展開しているブランドは、こうした個人の変化に敏感に対応しています。その流れもあって、我々を選んでいただけていると感じています。
とはいえ最近は、製造業や建設業、デベロッパーなどからの引き合いも増えています。さまざまな業種で、気候変動への取り組みが始まりつつあるのでしょう。
── みんな電力は、個人・法人への電気の販売だけでなく、発電事業者向けのシステム開発・販売などにも取り組んでいますね。ここもユニークな点だと感じました。
私たちは、発電事業者と、実際に電気を使うユーザーとの間に立つ“つなぎ役”です。私たちは、事業者とユーザーの接点をつくり、ユーザーには自分が使いたい電気を選べるように。発電事業者には「良い発電所」へお金が回るように、と取り組んでいます。
発電事業者向けのシステム開発・販売も「良い発電所」が事業をより継続しやすくなるためのアプローチなんです。電力を取り巻くあらゆるステークホルダーをつなぎ、経済を循環させることこそが、みんな電力の本質的な役割だと思っています。
無色透明な「電気」に色や香りを与える理由
── みんな電力が考える「良い発電所」とは、なんでしょうか。
地域の人々に愛されていること。環境負荷の低いこと。この2点を特に重視しています。電気とは、究極のコモディティ商品。電気は通常、目に見えませんし、どの事業者から買っても、どの事業者が発電しても、作られる電気に違いはありません。しかし、電気が作られる過程はとても多様です。太陽光発電や風力発電など、環境負荷の低い再生可能エネルギーであっても、大規模すぎると景観を損なったり、自然破壊を引き起こす場合もあります。
「再生可能エネルギー」という言葉のポジティブなイメージのうらで、取りこぼしているものはないだろうか。地域や関係者がみんな幸せになっているだろうか。本当にサステナブルなビジネスだろうか。みんな電力が提携する発電事業者さんは、こういったところにも適切に配慮している方々です。
再生可能エネルギーは、世界中でトレンドになっています。だからこそ、表面的ではなく、本質的なことに目を向ける必要がある。規模の大小は関係ないですし、経済的合理性が高いからといって、良い発電所とも限りません。
だから、我々は良い発電事業者さんと提携し、彼らの思いを伝えながら電気を売る。みんな電力ではこれを、「顔の見える電力™️」といっています。
── 「顔の見える電力™️」を実現するために、具体的にどのようなことをしているのでしょうか。
無色透明な電気という対象に、多様な「色」を付加するようなイメージです。無色でなんだかわからない電気を届けるのでなく、「◎◎(地域)で作られた、◎◎(発電方法)の電気」「◎◎さんがつくった電気」といったように、作られる過程や環境、事業者さんの思いも一緒にユーザーに届ける。
例えばウェブサイトでは、各発電所をオーナーさんの紹介・発電所の詳細情報・発電所が思い描く未来の3つの項目から伝えています。現在はオンラインですが、2ヶ月に1回は発電所ツアーも実施しています。発電所を訪れ、実際に事業者さんとコミュニケーションを取ることで、オーナーさんの思いをより深く伝えるためです。
さらに、現状では法人向けのみですが、ブロックチェーン技術を使い、“顔の見える電力™️”をより厳密に表現しています。これはお金で考えるとわかりやすいかと思います。例えば、北海道のATMから1万円を送金し、東京で1万円を受け取ったとする。物理的にお金が移動するわけではありませんが、台帳上では、誰が誰に1万円を送金したか、記録されますよね。これと同じように、今使っている電気が誰に作られたものかを管理し、ブロックチェーンを使って改ざんできないようにデータ上で管理しているんです。
営業は立候補制。主体性と情熱を大切に
── ウェブサイトの法人顧客リストを見ると、大きな会社に混じり、小さな音楽レーベルや、街の小さな喫茶店まで、さまざまなユーザーがいますね。
大企業のお客様が大切なのはもちろん、こだわりをもってビジネスをしている小さな規模のお店や企業の方々も同様に大切だと考えています。銭湯、酒造場、美術館、NPOなど、さまざまなこだわりを持つ方々に支えていただいていますね。
ただ、それも社内に「こだわりのある方々を探してこよう!」としているのではなく、基本的には担当の主体性にまかせて、情熱を発揮してもらうことを重視した結果です。
例えば導入していただいている店舗に「陽のあたる道」という横浜の郊外にある個人経営の喫茶店があります。ここは、横浜に住む営業担当がとても熱意を持ってコミュニケーションをしているお店。電気を使っていただくだけでなく、同じ地名を持つ青森県横浜町の風力発電とコラボレーションを企画したりもしています。
青森県横浜町には、豊かな自然とその自然を活かした風力発電設備があります。行ったこともなければ、存在すら知らなかったさまざまな地域と電気と通じた出会いをつくることができるんです。
── 営業担当さんが、自らの意志で「一緒にやりたい」「応援したい」と思えるから、単なる導入にとどまらない展開がおこっているんですね。
そういった体制をつくるために、営業担当は立候補制にしています。「ここを担当して」とアサインするのではなく、一人ひとりの大事にしていることや好きなことの延長にいるお客様を担当する。意思や意図を大切にすることで、数字だけでは見えてこない深いコミュニケーションが取れ、継続的、かつ発展的なお付き合いにつながっています。
ただ、これも会社の規模が拡大する中で難しい場面も出てくるでしょう。現状は、正直今の規模だからできている部分はある。もちろん今のような関係性を大切にしつつですが、成長する中でもうまく回る方法や仕組みは今後考えていかなければいけません。
選ぶことで世界が変わるし、選ばれることでも世界が変わる
── 価格競争が一般的な電力の小売マーケットにおいて、みんな電力は再生可能エネルギーをメインにした電気調達や「顔の見える電力™️」など、価格ではない付加価値をつくり勝負してきました。みんな電力がユーザーから支持されたり、親しみを持たれている理由はどこにあると思いますか。
私が思うに「透明性」ではないでしょうか。みんな電力は創業以来、事業における透明性を大事にし、どんな発電事業者から電気を仕入れるかという調達ポリシーまで開示しています。これはユーザーの立場から見れば安心材料ですが、事業者としてはとても勇気が必要な判断でした。
私たちが取引している「良い発電所」を公開することになるので、私たちよりも良い条件を出して、調達先を取られてしまう可能性もあるからです。ですから、もし他社の方が条件が良かったとしても、私たちを選んでもらえるよう誠実に関係を作っていかなければいけない。
結局、問われているのは企業姿勢だと思います。サステナビリティや人権問題、働く人の幸福…こういったことに対し、「やってますよ」というポーズではなく、本気で取り組んでいるか。取引先の企業も、ユーザーも、しっかりと見ているんです。そうした姿勢を誠実なコミュニケーションで表明し、誠実に実行できている会社が選ばれていくのではないでしょうか。世界で今選ばれている企業を見ても、姿勢への共感は外せない要素だと感じています。
── 透明性を大事に、誠実にコミュニケーションを続けることで愛される企業になる。そんな企業と取引をすることで、その人らしさやその会社らしさを表現できるし、アピールにもなっているかもしれませんね。
私たちは日頃から「THE CHOICE IS YOURS.」という言葉を使っています。購入や契約は投票行為で、あなたが選択できる権利を持っているんだ、ということです。
個人も法人も、ほとんどの人が電気は使い、料金を払っています。その規模は18兆円にものぼる。とても巨大な市場です。ただ、現状では多くのエネルギー源を他国からの輸入に頼っていますし、環境に負荷もかけている。
しかし、太陽光発電のコストは10年前に比べて1/4ほどに落ちて、価格競争力も十分ついてきました。そういった背景もあり、再生可能エネルギーは、経済合理性を鑑みても選択肢になりうる時代になってきている。だからこそ、日々の活動の中で、気候変動という課題に取り組める選択肢を自分の意志で選んでほしい。みなさん一人ひとりの選択できる権利が、これからの未来を決めるんだと思っています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 真野秀太(まの・しゅうた)
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株式会社三菱総合研究所、自然エネルギー財団を経て、SBエナジー株式会社にて再生可能エネルギー発電事業に携わる。日本の再生可能エネルギー普及には需要側でのニーズ拡大とイノベーションが鍵となると考え、2017年よりみんな電力株式会社に参画。全国の価値ある再生可能エネルギーを電源や生産者の「顔の見える電力™️」として供給。電力供給に加えて、RE100企業などのサステナビリティ経営を目指す企業に対して再エネ導入コンサルティングなども実施している。