おしゃれは見た目だけじゃない。ZOZOのD2C事業に学ぶ共感消費モデル

おしゃれは見た目だけじゃない。ZOZOのD2C事業に学ぶ共感消費モデル
文:森田 大理 写真提供:ZOZO

インフルエンサー個人が手掛けるアパレルブランドが好調。ZOZOの新事業『YOUR BRAND PROJECT』から、生産者と消費者の距離が近い時代のヒットの法則を考える

洋服、化粧品、食品、眼鏡に寝具…。さまざまな分野で生産者が消費者に商品を直接販売するD2C(Direct to Consumer)が活況だ。卸や小売を介さない、店舗を持たないなど従来の商流に捉われない分、有名ブランドや大手メーカーだけでなく、スタートアップや個人のような小規模な事業者にもチャレンジしやすいビジネス形態なのが特徴。SNSの普及により、生産者と消費者がコミュニケーションしやすくなったこともD2Cが好調の理由だと言える。

こうしたD2C事業を2020年から始動させたのが、『ZOZOTOWN』でおなじみの株式会社ZOZO。『YOUR BRAND PROJECT』と名付けられたD2C事業では、同社が培ってきたノウハウを活かして「アパレルブランドを立ち上げたいインフルエンサー」と協働。ブランドの立ち上げから生産・販売を支援している。

今回は、このプロジェクトの責任者、藤本真美さんにインタビュー。アパレル業界における消費動向の変化や、『YOUR BRAND PROJECT』を推進する過程で見えてきたノウハウを伺いながら、生産者と消費者のコミュニケーションの取り方や、両者が近い関係性の中でヒットを生み出すためのヒントをもらった。

「手の届かないカリスマ」よりも「身近な憧れ」が影響力を持つ時代

藤本さんは2011年にZOZOへ入社。『YOUR BRAND PROJECT』の立ち上げ以前は、ファッションコーディネートサイト・アプリとして人気の『WEAR』を担当していた。そんな藤本さんに、この10年のアパレル業界における流行・消費の変化を訊ねると、個人の影響力が増大していることを挙げてくれた。

「ファッションブロガーなど、発信力のある個人は10年前からもいました。ただ、当時はまだブランドやメディアが流行を牽引していた印象が強かった。それがここ数年で、インフルエンサーと呼ばれる人の数やジャンルも増加。ファッションコーディネートを見せる場も『WEAR』やブログだけでなく、InstagramやYouTubeなどにも拡大し、彼らをお手本にファッションを楽しむ人が各段に増えていきました。

近年増えたインフルエンサーは一般の会社員や学生も多く、ファッションモデルや芸能人と大きく異なるのは、ファンやフォロワーとの距離感。手の届かないカリスマではなく身近で親しみを感じられる存在なんです」

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インタビューは新型コロナウイルス感染拡大防止のため、オンラインで実施した

数多くのインフルエンサーを見てきた藤本さんによれば、フォロワーが多く影響力のあるインフルエンサーに共通するのは、コミュニケーション力と自己分析力だという。それは、SNSなどを通してダイレクトにつながることを前提に活動しているからこそ、必須の能力だとも言える。

「SNSは双方向のコミュニケーションが前提の場。影響力のあるインフルエンサーは、フォロワーとのやり取りが人一倍丁寧な印象があります。何気ない問いかけにも、一つひとつ自分の言葉で親身になって答える。そのやり取りからにじみ出る人柄も、フォロワーとの結びつきを強くしているようです。

また、写真や動画で自分の個性を見せつつも、ファンやフォロワーから何を求められているかを分かっている。『頑張れば真似できそうな憧れの対象』として見られていることを理解しているからこそ、自宅の様子を公開したり日常の何気ない動画を配信したりすることにも意欲的で、それが一層の人気を呼んでいるのだと思います」

ヒットの条件は、「ブランドの個性」と「私も着られそう」のバランス

ZOZOのD2C事業『YOUR BRAND PROJECT』は、まさしくこのような個人の才能・魅力に注目した結果生まれたものだ。近年のZOZOは商材の拡張を戦略のひとつに掲げており、『ZOZOSHOES』『ZOZOCOSME』などのカテゴリ商材も強化。加えて、D2C事業においては、個人ブランドの立ち上げに必要な企画・生産・物流といったバックアップ体制も整備してきた。

『YOUR BRAND PROJECT』は、こうしたZOZOのノウハウで個人のインフルエンサーのブランドづくりを工程・資金の両面からバックアップし、彼らの魅力やセンスを活かしたアイテムを『ZOZOTOWN』限定で販売。オリジナルブランドをつくりたい個人の夢を叶えるプラットフォームとも言える。

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SNSを中心に活動するインフルエンサーのほかに、タレントの丸山礼さん、髙橋愛さんなどもブランドを立ち上げた

2020年の6月に事業が発足。すでに複数ブランドが展開しており、藤本さん自身もこのビジネスモデルを体現するためにオリジナルのD2Cブランド『nimiru(ニミル)』を立ち上げた。事業責任者 兼 ブランドディレクターという、マクロもミクロも知る身として、藤本さんは事業のポイントをこう語る。

「個人が起点のブランドなので、商品にその人の個性や好きなモノが滲み出ていることは大前提。しかし、だからと言って自分本位に個性的すぎるパターンやデザインをつくると、販売数が伸び悩むんです。やっぱりここでも“自己分析力”が大事。

ファンやフォロワーが何を求めているのか。親近感をもって『私も着てみたい』『これを着たら○○さんみたいになれるかな』と思ってもらえることが重要で、個性を尖らせすぎると『○○さんは着こなせても、私には無理』と敬遠されてしまう。だからなのか、D2Cカテゴリの商品は、Tシャツやブラウスといった割とベーシックなカテゴリの商品が多い印象です」

「セット買い」が象徴する、作り手と消費者の距離感

藤本さんが自身のブランドで感じたように、たくさんの人に着てもらえるものをつくろうとすれば、ベーシックアイテムを中心とした商品展開になっていくのはビジネスとしてある程度やむを得ないことかもしれない。しかしそれは、他のブランドとの違いが分かりにくくなる側面もある。ファンやフォロワーは、D2Cブランドの何に価値を感じて商品を購入しているのだろうか。

「ディテールのこだわりや、商品の背景にある企画や生産のストーリーに共感いただいているのだと思います。たしかに、D2Cブランドのアイテムは誰でも着やすくシンプルなものが多い。ですが、インフルエンサーのみなさんは、自身が普段の洋服選びやコーディネートで感じてきたことをもとに、丈感や襟まわりの形、肩のラインや袖の幅といった細部にまでこだわって商品を考えている。しかも、『高身長の人でも可愛く着こなせるように、ここを長くしました』といった具合にSNSで積極的に発信しています。

また、素材のこと、生産工程のこと、携わっている職人さんのことなど、一般の消費者の目には届きにくい裏側まで公開し、ものづくりのこだわりを見せているブランドも人気を集めています。本気で良いものをつくろうとしている姿勢を伝えることが、フォロワーから支持を得ているのでしょう」

商品のディテールや背景にあるストーリーを丁寧に伝えることでヒットが生まれる。こうした消費や流行のあり方は、D2Cブランドのある特徴的な購買傾向にも表れていると藤本さんは語る。それは、全身を同じブランドで揃えるような「セット買い」をする消費者が多いことだ。

「例えば、YouTuberのきりまるさんが『YOUR BRAND PROJECT』で立ち上げた「onetome(ワントゥーミー)」。このブランドでは、きりまるさん本人が着用モデルとなり身に着けたコーディネート一式を購入するお客様が多くいらっしゃいました。おそらく『きりまるちゃんみたいになりたい!』という気持ちがセット買いにつながっているのだと思います。

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登録者数40万人を超える人気YouTuber、きりまるさんのオリジナルブランド『onetome』

また、先日『WEAR』でも人気のJunさんのブランド「remer(リメール)」の展示会を覗いたら、洋服はもちろん髪型もJunさんそっくりの男性が列にたくさん並んでいるのを見かけました。それだけJunさんがファンにとって身近で真似したい存在である。そして、商品単体というより、佇まいや生き方を含めたインフルエンサーそのものに魅力を感じてフォロワーは商品を購入しているのだと思います」

多様な文脈で流行が生まれることは、産業全体の発展にもつながる

ブランドの作り手を身近に感じ、彼らの生き方や考えも含めて共感しているからこそ服を買う。このような消費・流行が増えていることを、藤本さんは「おしゃれの間口が広がっている状態」だと歓迎する。それは、「服が売れない時代」とも言われる現代において、アパレル業界の明るい兆しだからだ。

「D2Cのスキームに乗せて、さまざまな作り手がさまざまな形で好きなことやこだわりを発信してくれたら、その分だけ人々とファッションとの接点が増えると思うんです。最初はインフルエンサーに憧れて真似するところからはじめたとしても、次第に人それぞれの着こなし方やこだわりが見つかるはず。すると、他のブランドにも興味を持ち多様なおしゃれを楽しむようになるかもしれない。インフルエンサーの方々によるブランドづくりは、業界全体の盛り上げにもつながる可能性があるんです」

業界全体への影響という観点で、藤本さんは「ストーリー」の重要性についても強調する。なぜこの商品をつくるのか。何にこだわり、何を大切にしているのか。そういったものづくりの背景やストーリーは、インフルエンサーブランドに限らず、今後ますます重視されるようになる。

「今やSNSやWebサイトに情報が溢れている時代。消費者の目も肥えています。単に商品の見た目が良いからではなく、周辺の情報を集めて本当に納得できるものを買いたい・着たい人たちが増えてきたのを感じますね。それは消費者の変化でもあり、作り手であるブランド側の発信する内容が変化している影響も大きいように思います。

例えば、エシカル素材を使っていること、環境負荷の少ない生産工程であることなど、サステナビリティに関する取り組みを伝えるうえで、商品づくりの裏側を積極的に見せるブランドが増えています。作り手側がそうしたメッセージを続けていくことで、消費者側も自然と理解が深まり、服を選ぶ一つの基準になってきたのではないでしょうか」

たしかに、アパレル産業では環境問題や生産工程の労働問題が指摘されているのも事実。持続可能性の高いビジネスモデルへと転換を図る動きも増えてきた。こうした動きが時代の潮流となってきたことも、D2C事業にとっては追い風でもある。

「フォロワーの反応をみながら企画・生産していくため、需要予測をしやすく、商品を過剰につくりすぎない。環境負荷の面でもD2Cにはメリットがあります。ZOZOではMTO(made to order)という短納期の受注生産プラットフォーム構築にも挑戦しているのですが、これとインフルエンサーブランドが手を組めば、フォロワーに購買意欲や色展開のアンケートを取ってから生産数を検討することも可能でしょう。

『ENOF(イナフ)』というブランドでロングコートの企画をしたときは、着丈をどのくらいにするかを決めるために、打ち合わせ中にその場でInstagramを開いてライブ配信をはじめ、インフルエンサー自らフォロワーのみなさんの意見を聞いていました。こんな風に消費者の声に耳を傾け、それをタイムリーに反映して必要なものを必要なだけつくれる。こうした姿勢は今後ますます求められていくのではないでしょうか」

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

藤本真美(ふじもと・まみ)

2011年に株式会社スタートトゥデイ(現:株式会社ZOZO)に新卒5期生として入社し、ZOZOテクノロジーズにて「WEAR」のマーケティング業務を担当するなど、入社から約10年間インフルエンサーマーケティングを軸にキャリアをつくる。現在は学生時代から一貫してファッションに携わってきた経験を活かし、「YOUR BRAND PROJECT Powered by ZOZO」を通じて自身のブランド「nimiru」を立ち上げるなど、ブランドディレクターとしても活躍中。

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