不安より使命感が上回った。3人のZ世代が立ち上げたジビエブランド「やまとある」

不安より使命感が上回った。3人のZ世代が立ち上げたジビエブランド「やまとある」
文:葛原 信太郎 写真:其田 有輝也(写真は左から山本海都さん、江口和さん、笠井大輝さん)

補助金もクラウドファンディングも使わず学生起業。自分たちの力でやりきることにこだわる株式会社RE-SOCIALの3人が語る、地域課題を解決への情熱。

1990年中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。今回話を聞いたのは、1997年生まれの笠井大輝(かさい・だいき)さん、江口和(えぐち・のどか)さん、山本海都(やまもと・かいと)さんだ。

大学時代に同じゼミに所属していた3人は、とある山林でのフィールドワークに衝撃を受け、鹿の捕獲・解体・流通・販売を手掛ける株式会社RE-SOCIALを学生時代に起業。ジビエブランド「やまとある」を立ち上げた。そんな彼らを突き動かすもの、目指すものからZ世代の価値観を探る。

その場から動けなくなるほど衝撃だった「現場」の光景

── まずは、皆さんが起業するきっかけとなったゼミに入った経緯を教えていただけますか。

山本 僕は、小さい頃から自然の中で遊んでいたことが影響していると思います。登山やキャンプなどによく行っていたので、大学でも生態系保護などに興味を持ちました。フィールドワークで山地へ通ううちに、次第に地方が抱える課題に目が向くようになりました。

笠井 恥ずかしい話なのですが、僕は中学・高校と大変な悪ガキで(笑)。そんな中ある時、大人から「お前みたいな奴がこの社会をダメにしていく」と言われたのを機に、少しずつ未来を考えるようになりました。加えて、ずいぶんと周りに迷惑をかけてきたから、大人になったら少しでも社会のためになる仕事がしたいと思うようにもなったんです。

高校3年生の冬前に「さまざまな垣根を越えて協働でき、地域の発展に貢献する人を育てる」という大学紹介を目にして「ここだ!」と思い、突然受験することを決めました。勉強とは無縁な人生でしたが、そこから猛勉強してなんとか入ったかたちです。

ジビエブランド「やまとある」について語る株式会社RE-SOCIAL 代表取締役の笠井大輝さん
株式会社RE-SOCIAL 代表取締役の笠井大輝さん

── 進学を決めてから受験まで数ヶ月ですよね?

笠井 そうですね。遅すぎるタイミングでしたがなんとか合格できました。自分には訪れるはずのなかった大学4年間ですから、とにかく充実した時間にしたいと考えいろんな活動をしました。僕らが所属していたゼミもそのひとつ。社会課題を自ら発見し解決のための実践的な取り組みを生み出すことを学べると聞き、所属したんです。

江口 私は笠井とはまったく違うタイプでした。小中高と親から「勉強しなさい」と育てられ、テストの点数を上げるための勉強をしてきた。実はもっと偏差値の高い大学を目指していたんですが失敗してしまい、滑り止めだった大学に行くことになりました。

でも、得られたものは大きかったです。大学の勉強は高校までと違いずいぶん実践的で「私が生きる上で本当に必要な勉強はこっちだ」と思うようになりました。私たちのゼミは、他のゼミと比べてもビジネスに直接つながる具体的な勉強が多く、それを魅力に感じて選びました。

── 大学に入り、自分が学ぶべきことを見つけられたような感覚があったと。

笠井 ゼミのフィールドワークのひとつで、とある地域に獣害被害の実態を調べに行ったんです。そこで見た光景は衝撃的でした。駆除された動物たちが、山の中にある巨大な穴に投げ入れられて、高く積み重なっていたんです。3人ともその場から動けなくなるほどにショックを受けました。

駆除された鹿や猪は利活用されることなく9割は廃棄されているという数字自体は知っていたものの、実際の現場には「廃棄」という言葉から見えなかった現実がありました。この劣悪な状況が「仕方ないこと」とは思えなかった。この現実を変えるために自分たちが何かできないか……。

そう3人で話し合った結果、せめてジビエとしておいしくいただくことで現状を変え、事業化することで持続的な仕組みをつくろうと、起業の道を模索することになったんです。

捕獲・解体・流通・販売すべて自分たちでやる

── ジビエもビジネスも、経験もないところからのスタートかと思います。どのような課題とぶつかり進んでこられたのでしょうか。

笠井 そうですね。事業化すると決めてからいろいろ調べだしたくらい。目の前には課題しかなかったです。例えば、おいしいジビエは獲り方や獲ったあとの処理がとても大事。つまりフィールドワークで見た「駆除されて廃棄されるしかなかった鹿や猪」はジビエにはできなかったんです。であればベテラン猟師と協業し、自分たちは販売を頑張ろうと思っていました。しかし、それではビジネスとして成り立たないことが分かったんです。

江口 ジビエを売る工程には、大きく分けて、捕獲・解体・流通・販売があります。それぞれの工程を外注していってしまうと、どう考えても消費者に買ってもらえるような価格に抑えられないんです。

ジビエブランド「やまとある」について語る株式会社RE-SOCIALの江口和さん
株式会社RE-SOCIALの江口和さん

笠井 そもそもジビエはビジネスとして扱うにはとても非効率なんです。野生動物ですからその日の捕獲量にばらつきがあり安定供給が難しい。その上、家畜と比べて「食べられるお肉部分」の割合がかなり少ないんです。鹿も猪も体重の約2割から3割しかお肉がなく、人気のある部位はさらにその半分ほどしかありません。

そういった背景もあり、例え難しいとしても、捕獲から販売までのすべて自分たちでやるしかないことが分かりました。そこから徳島にジビエの師匠を見つけて泊まり込みで学ばせてもらい、3人でさまざまな技術を身に着けました。

── 事業の立ち上げにあたっての資金も必要かと思います。どのように調達したのでしょうか?

笠井 幸い初期投資を賄うだけの融資をいただけたので、それを元手にスタートしました。最近ではクラウドファンディングを使う同年代も少なくないですが、自分たちが事業を始めるかを「どれだけ支援が集まるか」によって決めるのも嫌だったので、使っていません。

国や自治体の補助金制度も申し込みませんでした。補助金を使って事業を営んでいると世間からは「自分たちの税金の使いみちとして、正しいのか」という目で見られがちなんです。「続くかどうかもわからない学生企業に補助金を使うなんて!」と、いらぬ波紋を広げてしまうかもしれない。だからこそ、「やるからには自分たちの力でやる」ことに徹底してこだわりました。

山本 それでも「補助金を使っているんじゃないか」と疑われ「絶対協力しないぞ」と言われたこともあります。補助金ではなく自分たちの資金で始めたことを説明し、日々奮闘する姿を見てもらい、理解してもらえるよう努めました。その甲斐あってか、最近では協力してくれる地域の方も増えてきました。自分たちではじめるという姿勢はとても大事だったと思います。

ジビエブランド「やまとある」について語る株式会社RE-SOCIALの山本海都さん
株式会社RE-SOCIALの山本海都さん

── ブランディングや販売については若さゆえのアイデアや知識を活かせるとイメージできますが、3人で捕獲や解体もやっているわけですよね。自分たちだけでやりきるという決断にはかなりの覚悟が必要だったのではないでしょうか。

江口 もちろん不安はありました。でもそれ以上に、動物の死体が積み上がっていた光景に対する衝撃がとにかく大きかったので…。これは本当にどうにかしたい。どうにかしなきゃいけないという強い決意に突き動かされたかたちで、それは今も変わりません。

笠井 僕も不安よりも使命感が上回ってしまった。実は学生時代に就職活動もやっていて、内定もいただいていました。でも、自分がなぜ大学に入ろうと思ったのかを思い起こしたとき、ここで見て見ぬ振りをしていいのかと問われているように感じて。就職しても罪悪感は消えないだろうと思い、起業の道に決めました。

江口 それに、ビジネスとしてチャンスがあるのではないかという可能性も感じていました。業界を調べていくと、積極的にビジネスとして仕掛けている企業が少ない。難しさも背景にはあると思いますが、それを乗り越えた時のインパクトも大きいのではないかと思いました。

山本 実際、僕たちはおいしいジビエをビジネスとして継続できるビジネスプランを1年くらいかけて練り、それなりに可能性も見えてきています。これが確立できれば、今のエリアに限らずさまざまなエリアでの課題解決につなげられると考えています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

笠井大輝(かさい・だいき)

1997年生まれ。株式会社RE-SOCIAL 代表取締役。素行が悪過ぎた幼少期の経験から将来は社会に貢献する人材になりたいと考え、 龍谷大学政策学部に入学。大学の授業の一環で、鹿や猪が大量に廃棄されている現場を見て「知ってしまったのに何もしない訳にはいかない」と起業を決意。ジビエの流通を通じて社会課題の解決に取り組んでいる。

江口和(えぐち・のどか)

1997年生まれ。中学・高校時代は部活動に励み、人間力や忍耐力、何事にも一生懸命取り組む姿勢の大切さを学ぶ。大学時代は、食品ロスや集合団地の高齢化問題、地方の人口減少および過疎化について等、様々な分野についての学びを深めた。大学在学中に、ゼミのメンバーとともに起業を決意。ジビエの流通を通じて社会課題の解決に取り組んでいる。

山本海都(やまもと・かいと)

1997年生まれ。幼少期からアウトドアな環境で遊び、自然や生態系へ興味を持つようになった。大学入学後は自然への興味から徐々に、地方の課題解決へと関心を広げる。大学在学中に、ゼミのメンバーとともに起業を決意。ジビエの流通を通じて社会課題の解決に取り組んでいる。

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