“つながり”が人を豊かにする――Z世代クリエイター野崎智弘&三橋優希の視点

“つながり”が人を豊かにする――Z世代クリエイター野崎智弘&三橋優希の視点
文:森田 大理 写真:斎藤 隆悟(写真は左から野崎智弘さん、三橋優希さん)

チームで使えるブレストツール「hidane」や、発想を広げてくれる「AIひらめきメーカー」など、デジタルプロダクトを続々発表。若きクリエイターがプロダクトに込める想いから、Z世代の価値観を探る

1990年代中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。今回話を聞いたのは、2002年生まれの野崎智弘さんと、2003年生まれの三橋優希さん。

2人は中高時代からデザインやプログラミングに親しみ、2021年には経済産業省所轄の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が主催する「未踏IT人材発掘・育成事業」にプロジェクトが採択され、ブレインストーミングツール『hidane』をリリースするなど、精力的に活動を続けている。20歳&18歳の若きクリエイターは、どのような発想を持っているのだろうか。新たな世代ならではの可能性を探るべく、2人に話を聞いた。

幼少期から「デジタル」「ソーシャル」に触れているから見えるもの

―― はじめに、2人がデザインやプログラミングに興味を持ったきっかけについて教えてください。

野崎 幼い頃からデジタルなものに触れるのが好きだったんです。幼稚園のときには、親が使わなくなった古い“ガラケー”を触って遊んでいて。小学3~4年のときは、Excelでゲームの情報などをまとめた新聞をつくって友達に配っていたこともありました。最初にプログラミングをしたのは小学校高学年のとき。父がおもちゃのロボットを操縦できるプログラミングキットを買ってくれて、遊んでいるうちにプログラミングの基礎を学びました。

三橋 私の場合は、もともと絵を描くのが大好きだったんです。最初はもちろん紙に手で描いていたんですけど、父がエンジニアだったこともあって自宅のパソコンにはIllustratorなどのクリエイター向けソフトが入っていたので、自然な流れでデジタルも使うようになっていきました。そんな私を見て、あるとき父が紹介してくれたのがScratch(8~16歳をメインターゲットとする、直感的にプログラミングが学べる開発環境、コミュニティ)。Scratchの機能を使えば、私の描いた絵やキャラクターを動かせるのが面白くて、いろんなものをつくってみるようになっていきましたね。

―― デジタルツールが身近にある環境で育った、まさしく“デジタルネイティブ”らしいきっかけですね。ちなみに、子どもの頃に影響を受けたものはなんですか。

野崎 ゲームの『マインクラフト』です。マインクラフトはユーザーの自由度が非常に高く、ゲームの中で何でもつくれるし、ユーザーが自らプログラミングをしてゲームを拡張することもできる。また、オンラインで世界中のユーザーと一緒に遊ぶこともできますし、マインクラフト好きが集まるオンラインコミュニティもあります。ゲームそのものの面白さはもちろん、いろんな人と交流できることや、他の人のために何かを創作することが楽しくて、ある時期は一日中熱中していました。

野崎智弘さん
野崎智弘さん

三橋 私も野崎と似ているのですが、Scratchのコミュニティ機能に大きな刺激を受けました。Scratchには一般的なSNSと同様に、アップした作品に対してコメントやいいねを送り合ったり、興味のあるユーザーをフォローしたりする機能があります。小学生でプログラミングやデザインをしている人なんて身近にはいなかったのに、Scratch上には同じことに興味を持つ同年代がたくさんいたのが嬉しかった。ある人は小学6年生で大人顔負けのゲームをつくっていて、そうした出会いが私のクリエイティブへの想いを更に高めてくれたと思います。

―― 早い段階でオンラインを通じて世界中の人と交流していたことは、自身の手掛けるプロダクトに影響していると思いますか。

野崎 「みんなで協働する」ことに関連したプロダクトが多いのは、その影響かもしれません。例えば、17歳のときに初めてつくったプロダクト『Platas(プラタス)』は、学校の教室に設置したQRコードをスマホで読み取ると1日1回アプリ上の植物を成長させられるという仕組みなのですが、1人だけでやってもなかなか成長せず、クラスメイト同士で協力するのが肝。みんなで共通のゴールを目指すことで、学校に登校する日常をちょっとだけ楽しくしたいと思って開発しました。

三橋 自分にとっての常識が他の人も同じとは限らないこと。多様性が発想のヒントになることは多いと思います。例えば、15歳のときにつくった家事の情報共有サービス『UTIPS(ウチップス)』は、我が家と親戚や友人の家では洗濯物の干し方が違うと気づいたことが起点。家庭(うち)に閉じている情報(TIPS)を世界中で集めて共有したら面白いなと思ったんです。

スキルも考え方も正反対だが、ゴールが同じだから違いを認めあえる

―― 兵庫在住の野崎さんと東京在住の三橋さんは、どうやって一緒に活動するようになったのですか。

野崎 2人とも高校生のときに、「CoderDojo」という世界的な子どものためのプログラミング教育活動でボランティアをしていたんです。あるとき東京でのイベントで一緒になり、話してみると興味の方向性が一緒で意気投合。それで、ハッカソンやコンテストに共同参加するようになっていくうちに、2人で活動をするようになりました。

―― クリエイターとして2人が似ている・共通していると思うところはどこですか。

三橋 「なんのためにプロダクトをつくるのか」といったものづくりの価値観が似ていますね。私たちは、テクノロジーやデザインで人の人生を豊かにしたい、プロダクトを通して世の中に新しい提案をしたいという想いで活動をしている。世の中にはマイナスをゼロにしていく課題解決型のプロダクトもありますが、私たちはゼロを超えてプラスにするようなプロダクトをつくりたいんです。“今”の課題解決だけではなく、“未来”の新しい体験や価値に目を向けているところが同じだから、チームでいられるのかもしれません。とはいえ、個性がぶつかって衝突することも割とありますけどね。

三橋優希さん
三橋優希さん

―― どういう衝突をしているんですか。

野崎 それぞれ得意なことが違うんですよ。僕はものごとをじっくり考えて全体をきちんと設計しながら着実に進めたいタイプ。一方で三橋は素早く手を動かして、試行錯誤しながら形にしていくのが好きなタイプ。スキルやものづくりのアプローチが正反対なので、自分との違いに驚かされることは良くあります。でも、それでお互いの短所を補い合っている効果も大いにあるんです。

三橋 野崎はこだわりが強くて、文章中の一つの言い回しやUIの細かな部分まで気にする人。私からすると完璧主義に感じることもあります。でも、私はざっくりの理解でつくりはじめるのでスピードは速いんですけど、ディテールが荒かったり、リスクの高い状態になったりすることも多々あります。だからこそ野崎に意見をもらって、自分が気づいてなかった観点でプロダクトをブラッシュアップできるのは本当に助かっていますね。違いはあれど、最終的に目指しているゴールは同じだから、お互いの意見を尊重しあえるのかもしれません。

多様な価値観やアイデアに触れることで、自分だけの軸をつくる

―― 2022年2月にリリースされた「hidane」は、リアルな場に集まって実施するものだったブレスト会議をオンライン上でも気軽に行えるように最適化したツールです。自分の世界を大きく広げていく10代後半の時期とコロナ禍がぶつかった世代ならではの発想を感じました。2人は上の世代との違いを感じますか。

三橋 世代による違いはあまり感じたことがないです。というよりも、同世代にもいろんな人がいますし、上の世代もいろいろだと思うので、一概には言えないですね。あえて私たちらしさを答えるなら、みんなが同じ価値観でなくても良いと思っているところでしょうか。でも、これは世代というよりクリエイターとして個性を大事にしたいからな気がします。

野崎 もちろん、育った時代背景が異なるので、考え方が違う部分もあるかもしれません。でも、逆に上の世代の方々は、僕たちよりも長い人生経験があるから、深い価値観を持っていることもある。まだまだ僕たちは発展途上だし、自分がどうありたいかはいろんな人の価値観に触れることで磨かれていくと思うので、世代に関わらず、共感できる考え方や生き方を取り込んで、自分だけの軸をつくっていきたいんですよね。

―― クリエイターとして参考になる人や活動はありますか。

野崎 自分たちとは分野が全く違うのですが、音楽ユニットの「YOASOBI」さんの活動には2人とも注目しています。小説を音楽で表現するという活動をされていて、曲それぞれに元となる物語があるのですが、どの曲にも「YOASOBI」さんらしい世界観を感じられるというところがすごいと思っています。作品によってコンセプトが違っても、全てに共通する“らしさ”が感じられるものを作れることを尊敬しているし、僕たちもプロダクトを作っていく上でそうありたいからです。

三橋 私たちはクリエイターとして注目を浴びたいわけではないのですが、プロダクトを通して自分たちの“想い”や“らしさ”がユーザーに伝わって欲しいとは思っています。世の中で支持されている企業やプロダクトも同じですよね。例えば、Appleや任天堂。どの製品も「さすが〇〇」と言わせるような一貫した“らしさ”がある。そんなプロダクトを私たちもつくっていきたいです。

野崎智弘さんと三橋優希さん

―― では、自分らしいプロダクトとはどんなものでしょう。

三橋 私はこれまでたくさんの人との出会いやつながりから学び、刺激を受けたことでクリエイターになりました。振り返ってみると、私がこの活動を続けているのは、「出会いによって人生は豊かになる」という実感があるからだと思います。だからこそ、これからも私は人と人とのつながりや協創を育むようなプロダクトを通して、世の中に新しい価値を提供していきたいです。

―― 出会いやつながりが人を豊かにするという発想は、まさにリクルートが大切にしている「まだ、ここにない、出会い。」とも共通しますね。野崎さんはいかがですか。

野崎 僕も「hidane」のように人と人とが関わることで新しい価値が生まれるような、そんなプロダクトを生み出して、世界中に届けていきたいです。それによって、誰かの日常や人生に変化をもたらし、世界を少しでも良い方向に変えられたらいいなと思っています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

野崎智弘(のざき・ともひろ)

2002年生まれ。兵庫県在住。10代でWebサービスの開発やプログラミング教育コミュニティの運営などを経験。2021年、三橋と共に取り組んだ「チャット型インタフェースを用いた集団発想法支援ツールの開発」が、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)主催の未踏IT人材発掘・育成事業に採択され、『hidane』をリリース。現在は、数社でデザイナーとしてプロダクト開発の業務に携わる傍ら、三橋と共にクリエイター活動を行っている。

三橋優希(みはし・ゆうき)

2003年生まれ。東京都在住。2018年、全国小中学生プログラミング大会にてScratchで作成したゲーム「つながる。」でグランプリを受賞。2021年、野崎と共に取り組んだ「チャット型インタフェースを用いた集団発想法支援ツールの開発」が、経済産業省所管の独立行政法人情報処理推進機構(IPA)主催の未踏IT人材発掘・育成事業に採択され、『hidane』をリリース。2022年には多摩美術大学に入学。学業の傍ら、野崎と共にデジタルプロダクトの開発やデザインを手掛けている。

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