もしも「心」が可視化されたら、社会はどう変わる?22歳のZ世代起業家が「ときめき」に着目する理由

もしも「心」が可視化されたら、社会はどう変わる?22歳のZ世代起業家が「ときめき」に着目する理由
文:森田 大理 写真:今井 駿介

心拍(ドキドキ)に合わせて光るイヤリングを開発。「ときめき」をテーマに活動する山本愛優美さんの生き方から、Z世代ならではの価値観を学ぶ

1990年代中盤以降生まれの「Z世代」が、いよいよ社会で活躍をはじめている。彼らはどんな社会背景を持って育ち、どのような価値観を持っているのだろうか。今回話を聞いたのは、「ときめき」をテーマに活動する実業家であり研究者の山本愛優美さん。北海道帯広市出身の山本さんは、14歳から起業を志し、いくつかの事業を経て「ときめき」を軸とした活動にシフト。上京後は大学・大学院でも数理心理学・感性工学的なアプローチで「ときめき」を研究している人物だ。

これまでの社会では個人の感情よりも集団の合理性が優先されがちな側面があったが、昨今は自分や他者の心に重きを置くことが増えている。山本さんの活動はそんな時代感とも重なるものだ。また、心拍に合わせて光るイヤリング型のデバイス「e-lamp.」を開発するなど、ときめき≒心という抽象的な概念の可視化に取り組む山本さんの発想の源はどこにあるのだろうか。山本さんの活動を辿りながら、現代若者の価値観を探った。

“高校生起業家”の肩書きが外れたら、私に何が残るんだろう

── 山本さんは10代の頃から起業家として事業に挑戦していたそうですね。早いうちに学生とは別の肩書きを持つようになったのは何がきっかけなんですか。

いくつかの理由が重なっているんです。起業家に憧れるようになったきっかけは、親戚のおじさんの影響。スイスで日本料理店を経営している話を聞いて、私もいつか自らの手で事業を興して世界へ出てみたいと思いました。10代でやってみるきっかけになったのは、実は漫画の影響なんです。私の地元が舞台の漫画『銀の匙 Silver Spoon』で、主人公が起業を決意するエピソードを読んで、「若くても起業して良いんだ…!」って。私にとっては漫画の主人公がロールモデルでした。

でも、ポジティブな理由だけではないんですよ。学校で挫折を味わったことも起業のきっかけになっていて。私は、中学2年のときに半年間生徒会長を務めたことがあるのですが、全然上手くできずに再選を断念しました。だったら学校という枠にとらわれず、自分のやりたいことをやってみようと思って外に飛び出したんです。ちょうど地元で起業家育成プログラムの参加者を募集していることを知り、そこに応募しました。

10代で起業家を目指すきっかけについて話す山本愛優美さん

── 学校以外にも自分の居場所をつくろうとしたことが、山本さんの視野を広げてくれたのかもしれませんね。

たしかに、一緒に受講していたのは大人ばかりだったので、普段の学校で見ている世界とは全く違いました。「起業とは世の中の課題を解決することだ」と教わったのも、私には新鮮だった。それで当時の自分は、家庭環境によって教育の機会格差が生じているという課題を解決しようと、教育関連の事業を模索。他にも自分にしかできない事業をやろうと考え、高校進学後は高校生向けのイベントの企画などいくつかの事業にも挑戦しました。そうやって活動していると、ありがたいことにメディアから注目いただくことも度々あって。「高校生起業家」という肩書きがいろんな経験を引き寄せてくれました。

── その当時はまだ「ときめき」に関する事業ではなかったのですね。では、いつから山本さんの活動テーマが変わったのでしょうか。

きっかけは高校3年生の8月頃です。それまでの私は高校生目線を大事にして自分と比較的距離の近い関心ごとに取り組んできましたし、「高校生起業家」だったからこそ一定の注目もいただいてきた。でも、この肩書きが外れる期限がいよいよ間近に迫っていると実感して、「起業家」としての今後を考えるようになりました。何か自分の軸となるものを定めたい、自分は社会にどんな価値を提供したいんだろうと考え、これまで自分を取り上げてくれたメディアを見返してみたんです。すると、複数のインタビューで「自分の心がときめくことをやりたい」と発言していることを発見しました。

私って「ときめき」を原動力に行動してきたんだ。だったら、それだけの力がある「ときめき」という素敵な気持ちを、たくさんの人に届けたい。世界をときめかせる仕事がしたいと考えるようになったんです。

ビジネスパーソン×研究者の視点でたどりついた、心の可視化

── 高校卒業後の山本さんは、慶應義塾大学環境情報学部(SFC)に進学。現在は同大学院に在籍されていますが、ここで「ときめき」の研究をしているそうですね。ビジネスと並行して研究の道に進んだのはなぜですか。

大学1年のときに立ち上げたビジネスが上手くいかずクローズしたことが大きいです。それは、『SmartKiss』という教育×恋愛がテーマのゲーム。「イケメンたちとの出会いにときめきながら、新たな学びにときめく」というコンセプトでβ版まで開発を進め、正式リリースを目指していたのですが、最終的には断念しました。

というのも、事業に出資いただくべくベンチャーキャピタルなど様々な人たちとお会いすると、「あなたはこの事業におけるどの部分で世界一なんですか(誰にも負けない自信があるんですか)」と問われることが何度もあって、自分がまだ何者にもなれていないことを突きつけられたんです。それまでの私は、何かの分野でNo.1や第一人者になれると思ったこともなかったのですが、何かで1番になった方が周りから応援してもらいやすいことに気づいて。それなら私は、学術的に「ときめき」を解き明かしてこの分野の第一人者になろうと思ったんです。

── 「ときめき」はこれまであまり探求されていないテーマなのでしょうか。

化粧品メーカーなどが、自社の製品開発に役立てるための基礎研究として扱っているケースはあるのですが、用途を限定しないで「ときめき」を扱っているのは珍しいと言われます。また、心理学的には「ハピネス」や「ポジティブエモーション」と近い概念だと捉えられているのですが、「ときめき」を専門的に研究するのは新しいようです。

── 山本さんのアプローチは、「ときめき」=心の動きを物理的に可視化しようというものですよね。心拍を心の動きに見立ててイヤリングを光らせる「e-lamp.」は、いかにも未来的で興味を惹くのですが、この発想はどこから来ているのでしょうか。

イヤリング型デバイス「e-lamp.」。耳たぶの血管の拡大縮小から心臓の脈動を推定し、変動にあわせてLEDが光るように設計されている。
イヤリング型デバイス「e-lamp.」。耳たぶの血管の拡大縮小から心臓の脈動を推定し、変動にあわせてLEDが光るように設計されている。

心の動きを可視化すること自体は、私がもともと大学で専攻していた数理心理学(数理モデルなどを用いて心理現象を表す学問)の理論そのものです。この分野の研究をするうちに感性工学(人の感情を科学的に分析し、商品開発などに活用するための学問)にも出会い、ハードウェアで人の心を表現することに取り組んでいます。

「e-lamp.」のアイデアにたどり着いたのは、コミュニケーション文脈で活用されるプロダクトをつくりたかったという意図ですね。もともとは、カメラで人の表情を読み取って色が変わる間接照明をつくっていたんです。でも、それだと自分の心の状態が可視化されること以上の価値づけが難しく、ずっとカメラが自分の顔をモニタリングしているのもなんだか落ち着かないなと思って。どうせなら人に自分のときめきをシェアできたらもっと素敵な世の中になるんじゃないか、イヤリングなら顔の近くにあるから自然とコミュニケーションに溶け込めるのではないか……と考えた結果、「e-lamp.」が生まれたんです。

自分のときめきが人生のコンパスになる世界をつくりたい

── 「e-lamp.」は現在社会実証中の段階です。今後はどのような展開が考えられそうでしょうか。

まずは比較的相性が良いと捉えているエンターテイメント分野での展開を考えています。ライブグッズとしての販売など、“推し”に会えたドキドキを視覚で表現するような、ライブの新たな楽しみ方を提供していきたいです。また、コミュニケーションに課題を抱えている人たちを支援することも構想の一つ。例えば自分の気持ちを話すことに苦手意識がある人もいれば、医療・介護現場では言葉での意思疎通が難しい患者さんもいます。そうした人たちが気持ちを伝えるための補助ツールになって、彼らがコミュニケーションに感じていたストレスを少しでも軽減できたら良いなと考えています。

とはいえ、心を可視化するデバイスを求めているマーケットがどこに・どれくらいあるのか、まだ誰も解明できていません。でも私はそのこと自体にもワクワクしていて。先日、ベンチャーキャピタルのANRIから出資いただいたこともあり、私たちの事業に可能性を感じてくれたパートナーのみなさんと共に新しい市場をつくっていきたいですね。

イヤリング型デバイス「e-lamp.」をつけた山本愛優美さん

── 「ときめき」に突き動かされて人生を歩んでいる山本さんからすると、世の中の人々はどう見えていますか。世代による「ときめき」の捉え方の違いなど、傾向はあるのでしょうか。

たしかに、自分の感情に向き合う習慣は上の世代ほど少ないものの、潜在的にはどの世代もときめきたがっているのではないでしょうか。「ときめき」とは、未知のものごとに出会ったときの好奇心や期待の感情。「きゅん」「ワクワク」といった言葉にも近いかもしれません。例えば新しい洋服を着て出かけたりするときのような高揚感は世代・性別を越えて感じたことがあるはず。そんな風に新しいことにチャレンジしたい気持ちは誰もが持っているのではないでしょうか。

── リクルートが掲げる「Follow Your Heart」という言葉は、自分の心に従って新たな一歩を踏み出すことを応援する意味が込められているのですが、山本さんが「ときめき」で実現したいことと非常に近いかもしれないですね。

まさしくそうですね。まだまだ世の中は自分がときめくものに気づいていない人や、いろんな事情があってときめきに素直になれない人たちがいる。自分自身のときめきを人生のコンパスにした方が絶対楽しいと思うからこそ、それが当たり前にできる世界をつくることに私は挑戦したいです。

e-lamp. Co., Ltd/ Nexstar, inc. CEOの山本愛優美さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

山本 愛優美(やまもと・あゆみ)

2001年生まれ。e-lamp. Co., Ltd/ Nexstar, inc. CEO。中学3年から4つの学生団体の立ち上げ・代表を経て、高校2年次に開業。エンターテイメント/教育領域で複数の事業プロデュースを行い、2020年4月より数理心理学・感性工学的に「ときめき」の研究を開始する。現在は心拍に合わせて光るデバイス「e-lamp.」を開発中(未踏アドバンスト2022採択)。WIRED JAPAN/ TEDxSapporo/ 日経新聞電子版/ with 他、メディア出演多数。

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