札幌発大学生テクノバンド「LAUSBUB」から学ぶ制約を乗り越える軽やかさとDIY精神

札幌発大学生テクノバンド「LAUSBUB」から学ぶ制約を乗り越える軽やかさとDIY精神
文:葛原 信太郎 写真:カワジリ リョウイチ

あらゆる自由が制限されたコロナ禍。その環境を乗りこなし、世界中に自分たちの音楽を届けた当時高校生だったニューウェーブ・テクノポップ・バンド「LAUSBUB」は、常に新たな挑戦と、DIY的に活動を続けている。

2021年、札幌の女子高生テクノポップ・バンドが、インディペンデントミュージックのプラットフォーム「SoundCloud」の全世界ウィークリーチャート1位を記録した。岩井莉子(いわい・りこ)さんと髙橋芽以(たかはし・めい)さんによる「LAUSBUB(ラウスバブ)」だ。国を超えて多くの音楽好きに知れ渡った二人は、大学生になった今も音楽活動を続けている。

軽音楽部に入った途端にコロナ禍に突入し、練習はもちろん、ろくに会うこともできなかった莉子さんと芽以さん。その環境を逆手に取り、部屋で音楽をつくり、スマホでコミュニケーションを取り、SoundCloudやEggsで楽曲を届けた。立ちはだかる制限を味方につけ大きく前進した二人の姿勢に、変化の多い現代社会を生きるヒントを見出す。

YouTubeで流れてきたYMOからすべてがはじまった

── まずはお二人が音楽を好きになったきっかけを教えてください。

莉子 幼稚園のころからピアノはやっていましたが、LAUSBUBにつながるようなきっかけは、中学生のときにYMO(YELLOW MAGIC ORCHESTRA)のミュージックビデオを発見したことです。YouTubeを見ていたら関連動画にYMOのサムネイルが偶然出てきて。当時は彼らのことをまったく知らず、古い楽曲だということも最初は気づきませんでした。開いてみたらとにかく衝撃的で。

── 莉子さんは YMOのどんなところに衝撃を受けたのでしょうか。

莉子 そうですね…。自分が聞いたことのない音楽の要素がたくさんつまっていると思ったんです。特に気になったのはシンセサイザーの音色でした。「この音はどの楽器から鳴っているんだろう」と不思議に思い、さまざまなYMOのライブ映像を見ました。次第にどの音がどの楽器から鳴っているのかわかってくると、今度はYMOの使用機材がとても気になるようになり、それも調べました。すると今度はYMOが使っていた機材の音を再現できるアプリを発見して「これで演奏したものを録音してみたい」と思うようになり、はじめてパソコンで音楽をつくるDAW(Digital Audio Workstation)と呼ばれるようなソフトウェアをいじるようになりました。

LAUSBUBでトラック制作・ギター・シンセサイザーなどを担当している岩井莉子さん
トラック制作・ギター・シンセサイザーなどを担当している岩井莉子(いわい・りこ)さん。リリース作品のジャケットやバンドロゴのデザインも手掛ける。

── ずいぶんと熱心に研究したんですね。音楽に限らず、気になりだしたら止まらないタイプですか。

莉子 いえ、こんなに何かに夢中になったのは初めてです(笑)。YMOにハマったのをきっかけに、関連する音楽家の楽曲やジャンルを調べるようになり、ますます音楽にのめり込んでいきました。

── 芽以さんはどんなきっかけで音楽を好きになったんですか?

芽以 私は母の影響が大きいですね。音楽がとても好きな母で、家にいるときもドライブする時も、80年代・90年代の楽曲が流れていました。また、自分と同じ世代ではあまり聞いている人がいないような、姉が日常的に聞いていた音楽も好きでしたね。

そんなこともあって高校では軽音楽部に所属しました。そこで出会ったのが莉子です。YMOをはじめたくさんのバンドや音楽ジャンルを教えてもらって、自分の興味もどんどんどん広がっていきました。

パンデミック下だったからこそ、テクノを選び、世界が広がった

── お二人が高校に入学したのは2020年の春。新型コロナウイルスの感染拡大であらゆる生活が一変したタイミングですよね。

芽以 私たちの学校は、オンラインで授業する環境もなかなか整わず、休校状態が続きました。課題もほとんどなくて、先生たちは「こんなことはめったにないから、思い切って自分がやりたいことをやればいい」という方針でした。高校生になった途端、「何をやっても良い時間」が突然できたんです。そんなタイミングで、莉子から声をかけてもらってバンドを組むことになりました。

LAUSBUBでボーカル・ベースを担当する髙橋芽以さん
ボーカル・ベースを担当する髙橋芽以(たかはし・めい)さん。他のアーティストの楽曲への客演もこなす。

莉子 そこでバンドを組んだものの、練習することも会って話すこともできない状態でした。一緒にいられないのはもちろん残念ではありましたが、とにかく部屋にこもっていられるのだから、パソコンで作れて自分も大好きな音楽ジャンルであるテクノミュージックをやればいいと考えたんです。時間だけはほんとうにたくさんあったので、とにかく作りはじめてみよう、と。

── LAUSBUBの楽曲は、制約があったからこそ生まれたんですね。実際に会わずにどうやって作っていたんですか?

芽以 最初に二人で作った楽曲は、莉子から送られてきた楽曲に合わせて私が歌い、それをスマホで録音して送り返して、データを重ね合ってつくりました。

莉子 やり方はいろいろ試したんです。LINE通話でパソコンの画面を共有して話しながら作ったこともありました。でも結局、私が楽曲をまるっと作って、それを送り、フィードバックをもらってさらに作り進める、というやり方が一番やりやすかったです。

芽以 基本的に、楽曲は莉子がつくるんです。LAUSBUBとしての軸は、最初からずっと莉子が握っていますね。バンドを組むときに誘ってくれたのも、楽曲をつくるのも莉子。データを送ってもらっても、私はなにか言ったり、言わなかったりで(笑)。

莉子 私にとって芽以は、どんなときでもかまってくれる唯一の友達。だから最初は「とにかく芽以がいてくれればいい」という感覚もあったんです。でも今となっては、芽以の歌がLAUSBUBにとってとても大切になっています。芽以が歌えば、LAUSBUBになる。

── 芽以さんのボーカルはスマホで録音していたんですね…!二人が実際に顔を合わせて活動できるようになったのはいつ頃でしょうか。

芽以 2020年の夏前くらいには登校できるようになり、やっと学校で話せるようになりました。1曲目はまったく会えない環境でつくりましたが、2曲目からは学校の登校中や、帰りに寄り道しながらコミュニケーションを取ったり、莉子の家に遊びに行ったりしながらつくっていきました。制作環境が違ったせいか、1曲目と2曲目で雰囲気がぜんぜん違うんですよ。とにかくふざけた曲になってしまって(笑)。

結成後の活動について話すLAUSBUBのふたり

莉子 直接会って楽曲を作り始めるようになって、やっと「バンドをやっている」という実感が持てたことをよく覚えています。

── とはいえ、その後の数年間も“普通”とはほど遠い期間だったと思います。お二人はどう捉えていましたか?

莉子 授業は再開しましたが、学校祭も修学旅行もありませんでした。軽音楽部に入部したら、普通は学内外でのライブ経験だって積めるのに、高校生活中はずっとそういった経験ができないまま卒業したのが私たちの世代です。

芽以 LAUSBUBとしてライブ活動がしっかりでき始めたのは、結局高校を卒業したあとでしたから。

莉子 でもすべて悪い出来事だったかというと、そういうわけでもありません。コロナ禍がなければ、本来であればリアル開催だった軽音楽部の大会が、オンラインで開催されたことで、リアル開催では届かなったであろうたくさんの人に私たちを知ってもらうことができました。それにたくさん時間があったので、二人でインディペンデントな映画を見たり、ギャラリーでアート作品を見たりと、さまざまな刺激を吸収できたものよかったと思っています。

「自分たち」ができること・「自分たち」が生み出せるもの

── 音楽活動だけでなく、日常生活ですら自由にできない難しい環境でつくられたにも関わらず、LAUSBUBの楽曲はSoundCloudの全世界ウィークリーチャートで1位。SNSでも大きな反響を呼びました。当時はどう捉えていたのでしょうか。

芽以 最初は戸惑いのほうが大きく、全然実感がわきませんでした。X(旧・Twitter)のフォロワーが1万人になったときは、嬉しい反面、私たちに興味を持っている人たちの顔がぜんぜん見えないことに少し怖さも感じていたのが正直なところです。

莉子 多くの人は私たちの楽曲や活動を褒めてくれるけど、SNS上ではいろんな人がいますから…。あまり受け止めすぎるのもよくないと考え、他人事のように眺めていた時期もありました。ただもう少し時間が経つと、こうなることを待ち望んでいた自分がいたことにも気づいて。

── インターネットから話題になることを狙っていた部分もあった?

莉子 素人なりに真剣に考えて、ジャケットや当時のウェブサイトは自分でデザインしていました。ちょっとした言葉遣いやキーワードを伏線のように張り巡らせていたんです。多くの人に聞いてもらえると良いなという気持ちを持ちながらコツコツやってきてたので。それが実現できたのはありがたいと感じています。

── インターネットやツールの使い方を覚えれば、自分たちでプロデュースできる幅がどんどん広がりますもんね。

莉子 自分たちが興味のあることをどんどん組み合わせて、たくさんの実験を重ねているようなイメージなんです。最近やっとライブができるようになって、失敗もたくさんありますが、それも含めて実験の連続。エクスペリメンタル(実験的)という音楽ジャンルがありますが、自分たちの姿勢はまさしくエクスペリメンタルです。

芽以 札幌の同世代を見ていても、コーヒー屋さんをポップアップでオープンしたりイベントを開いたり、同世代の仲間とDIY的に活動を広げているが結構います。そういうローカルな仲間と一緒に東京でイベントをやったりすると、また別のエリアのDIYな同世代と知り合うことができて楽しいんです。

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO, Hygge Stage(photo by 山下恭子)
photo by 山下恭子
RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO, Hygge Stage

莉子 DIYであることを強く意識しているわけじゃないのですが、なんでもまずは自分たちでやってみる、手を付けてみるということは大事だと感じています。配信シングル(Michi-tono-Sogu)のジャケットは初めてデザイナーさんにお願いしましたが、それまでは私や芽以が撮った写真を加工したりして、自分たちでデザインしていました。

── 最後に、今お二人が大事にしていること、これから大事にしたいことを教えてください。

芽以 最近では、楽曲がたくさんの人に届き、関わる人が増えてきました。そんな今だからこそ、莉子と私、LAUSBUBである私たち二人の意思やコミュニケーションがもっと大事になるとも思っています。高校の軽音楽部の同級生というところからスタートしている私たちだからこそできるスタイルがあるんじゃないかと思うんです。

莉子 活動が忙しくなってきたからこそ、最近二人で遊べてないんですよ。どんどんいろんなところに行ったり、見たりしながら、いろんなものをインプットしたい。新しいことを知る機会を大事にしていきたいです。音楽に直結しなくてもいいんです。もっともっと二人で遊びたいなって思っています。

(撮影協力:Luv works sound.

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

LAUSBUB(ラウスバブ)

2020年3月 北海道札幌市の同じ高校の軽音楽部に所属していた、岩井莉子と髙橋芽以によって結成されたニューウェーブ・テクノポップ・バンド。2021年1月18日 Twitter投稿を機に爆発的に話題を集め、ドイツの無料音楽プラットフォーム”SoundCloud”で全世界ウィークリーチャート1位を記録。同時期に国内インディーズ音楽プラットフォーム”Eggs”でもウィークリー1位を記録。2021年6月18日 初のDSP配信となる配信シングル『Telefon』をリリース。2022年11月16日には初のフィジカル作品となる1st EP「M.I.D. The First Annual Report of LAUSBUB」をリリース。2023年8月には地元北海道の大型フェス「RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO」に出演。これまで北海電気工事(株)TVCM、北海道アルバイト社「アルキタ」TVCM、(株)バンダイ「TAMAGOTCHI REMIX」でのBose(スチャダラパー)とのコラボレーション、札幌PARCO「New & Renewal」などタイアップも多数。その話題性のみならず、本格的な音楽性からミュージシャン・音楽ファン・各メディアからの注目を集める。

関連リンク

最新記事

この記事をシェアする

シェアする

この記事のURLとタイトルをコピーする

コピーする

(c) Recruit Co., Ltd.