「社会課題解決と経済的成長の両立」を目指すゼブラ企業。普及を担う24歳の価値観

「社会課題解決と経済的成長の両立」を目指すゼブラ企業。普及を担う24歳の価値観
文:栗村智弘 写真:今井駿介

収益最大化のみを目的とせず、複雑な社会課題の解決をも両立して目指す“ゼブラ企業”。その普及に挑むZebras and Company第1号社員・阪本菜さんは、なぜムーブメントの広がりを目指すのか?

上場や売却を目指すスタートアップでもなければ、営利を目的とせず社会的活動を行うNPOでもない。社会貢献と企業利益の両方を追い求める新たな存在として、日本でも少しずつ注目を集めているのが“ゼブラ企業”だ。持続的に社会課題の解決を目指す姿勢に対し、魅力を覚える人も少なくないだろう。

今回取材した阪本菜(さかもと・さい)さんもその一人だ。自らもその担い手を志し、国内におけるゼブラ企業の普及や支援などを行うZebras and Company(以下、Z&C)に第1号社員として、新卒で入社した。

Z&Cと自身の出会いは「必然だった」と振り返る阪本さん。同氏は“ゼブラ”の思想のどのような点に、自身の価値観との結びつきを感じたのか。阪本さんの軌跡をたどりながら、その背景を紐解いていく。

“目指すあり方”としてのゼブラ企業

── まずはゼブラ企業についてお伺いします。どのような特徴を持った企業が当てはまる概念なのでしょうか?

一言でいえば「社会性と経済性を両立している、かつ長期的な目線を持っている企業」です。

ゼブラ企業の概念は2017年にアメリカで生まれました。「評価額が1,000億円を超える未上場企業」を指す“ユニコーン”に多くの資金やリソースが集中している状況に対し、危機感を覚えた4人の女性起業家が提唱したのが始まりです。

ユニコーンのように短期的な急成長を標榜していなくとも、意義のある活動を行っているスタートアップや中小企業は数多く存在します。それらの企業にも必要な資金やリソースが集まり、適切に循環していく社会を目指すべきではないか。ある種のアンチテーゼから芽生えた問題意識が、ゼブラ企業という概念の誕生につながったんです。

ユニコーンとゼブラ企業の違い
引用:https://www.zebrasand.co.jp/zebras

── ゼブラ企業であるかどうかを考えるうえで、具体的な基準やポイントはあるのでしょうか?

判断するための確固たる定義や、共通基準のようなものはありません。それこそが、ゼブラ企業という概念の特徴の一つと言えます。

ユニコーンには「評価額1,000億円超え」という判断軸があり、該当するかどうかを決めるのは市場をはじめとした第三者です。一方で、ゼブラ企業であるかどうかを決めるのは第三者ではなく、その会社を経営する自分たち自身。言い換えれば、企業にとって自分たちが“目指すあり方”として存在する概念なんです。

── 明確な基準は設けず、ある種の曖昧さをあえて大切にしているのですね。

はい。その背景には、「ムーブメントをつくっていきたい」というZ&Cならではの根強い思想があります。

社会性と経済性の両立を目指すプレイヤー同士が垣根を超えて集まり、「そもそもゼブラ企業とは何か?」から共に考える。そこからコミュニティが生まれ、その連なりがやがてより大きなムーブメントとなり、社会の変容へ結びついていく。提唱したアメリカの4人の女性起業家たちが思い描いた理想が、Z&Cの思想そのものに反映されています。

── そのうえで、阪本さんの所属するZ&Cはどのような活動を行っているのでしょうか?

さまざまな課題が持続的に解消されていく社会を目指し、ゼブラ企業のムーブメントやコミュニティづくり、ゼブラ企業への投資や経営支援、その理論化などに取り組んでいます。そのなかでも、特に力を注いでいることの一つが「実例を作ること」です。

Z&Cは現在20社以上のゼブラ企業に投資や経営支援を行い、その活動をサポートしています。それらのサポートを成果へつなげることで、ゼブラ企業の成功を支援する仕組みや方法の“実例”を作っていき、Z&C以外の企業が応用可能なモデルケースとして社会へ流通させていく。その積み重ねがより多くのゼブラ企業の成長を生み、エコシステムがより豊かになっていくと考えています。

Z&Cの活動
引用:https://www.zebrasand.co.jp/about

経済性と社会性、いずれかに頼りすぎることへの違和感

── そもそも阪本さんご自身がゼブラ企業の考え方に関心を持ったのは、どういった理由からなのでしょうか?

子供の頃のさまざまな経験と、そこで生まれた違和感が影響しています。なかでも、小学生の頃に両親からプレゼントされた漫画『火の鳥』を読んだことは要因の一つです。

同作のなかでは、文明社会が過剰なまでに発展を遂げてしまった結果、最終的には戦争が巻き起こり、人類が滅亡へ向かっていく様子が描かれています。資本主義を中心とした社会が行き着く果てが、一つの可能性として示唆されているんです。

これを読んだとき、子供ながらに複雑な感情が湧いてきたことを覚えています。「自分が一生懸命働いた結果、世界が良くない方向へ進むなんて嫌だ」——そう強く感じました。

経済性だけでなく、社会性も追い求めるゼブラ企業の考え方に関心を持ったことに、その原体験は確かにつながっています。

ゼブラ企業に関心を持った理由について話す阪本菜さん

── そうした体験がありながらも、なぜ経済性を完全に否定するのではなく「経済性と社会性の両立」に関心を持ったのかが気になります。

そこには大学時代の経験が大きく影響しています。

私が通っていたウェストバージニアウェズリアン大学は、アメリカのウェストバージニア州、アパラチアという地域にあるリベラルアーツカレッジです。アパラチアはアメリカで最も貧困が進んでいる地域と言われています。私が住んでいたのは、そんな地域にあるBuckhannon(バックハノン)という人口5000人の小さな町でした。

そうした背景もあり、学内では学生が主導するボランティア団体やNPOがいくつもあり、自治体や地元企業のサポートが盛んに行われていました。私もそうした活動に4年間かかわり続けるなかで、たしかな意義を感じていたんです。

一方で、参加者のチャリティ精神から成り立つシステムに対し、危うさや違和感を覚えるようにもなっていきました。あって然るべきだけれど、もう少し持続可能性を見据えた、より良いアプローチがあるのではないか。NPOだけでなく、それ以外のアプローチや選択肢が増えていったほうが、社会はより良い方向へ進むのではないか……。そう考え始めたことが、社会性だけでなく、経済性もまた重要なのではないかと考えるきっかけになりました。

── アパラチアでの経験がゼブラ企業の考え方やZ&Cとの出会いにつながっていくのですね。具体的には、どのような経緯でZ&Cへ新卒入社することになったのでしょうか?

最初のきっかけは、大学4年生になる直前の2021年7月にZ&Cのローンチを記念したイベントへ参加したことです。

当時は先ほども少し触れたように、NPOの活動やチャリティハウスでのボランティアなど色々な取り組みにかかわっていました。意義を実感しながらも、少しずつ悩みが大きくなっていた時期です。自分が今やっていることは、果たして長期的に見てどんな成果につながっていくのだろうか。これから先も、自分はこういう活動を長く続けていきたいのだろうか……気づいた頃には、現状への疑問が拭えなくなっていたんです。

Z&C共同創業者の3人(阿座上陽平さん、田淵良敬さん、陶山祐司さん)と阪本菜さん
共同創業者の3人(左から阿座上陽平さん、田淵良敬さん、陶山祐司さん)と阪本さん

どのような道へ進むべきか考えていたある日、たまたまSNSで見つけたのがZ&Cローンチイベントの告知でした。そこでゼブラの考え方を知り、「これは絶対に面白い!」と確信したんです。迷いなく、参加の申し込みをしました。

イベントを終えると「社会性と経済性は本当に両立しうるかもしれない」「Z&Cの人たちなら色々なことが実現できるかもしれない」、そんな希望に近い感情が自然と湧いてきていました。同時に、Z&Cが描く未来を私も一緒に実現したいと考えたんです。

当時は社員もインターンも募集していなかったのですが、イベントが終わったその日のうちに問い合わせをしました。自分でも貢献できそうなことを整理したうえで、「働かせてください」と思い切って連絡したんです。その結果、まずはインターンとして仲間に加えてもらえることになりました。

── 思想や活動内容への強い共感があったとはいえ、かなり思い切った行動のようにも思えます。そこまで思い切れたのはなぜだったのでしょうか?

アメリカで長い時間を過ごしたことは、影響したことの一つだと思います。

アメリカには、まずなんでも聞いてみる、トライしてみるという文化が根付いています。テイクアウトできないレストランだったとしても、とりあえずできないかを店員に聞いてみる。値段が高いと感じたら、これ以上安くならないかを交渉してみる。それが文化として当たり前の環境で暮らしたことで、自分も自ずと「まずはやってみる」ことに抵抗がなくなっていたのだと思います。

── その後インターンの期間を終え、そのまま第1号社員として新卒で入社することになったのですよね。どのようなきっかけや決め手があったのでしょうか?

きっかけは、共同創業者の阿座上陽平(あざかみ・ようへい)さんから声をかけていただいたことです。

当時はアメリカでの就職を考えていた時期で、そのための準備を進めていました。Z&Cはまだ立ち上がったばかりで、自分が新卒で入るのは難しいだろうと思っていたんです。何年か経験を積んだあと、いつかまた戻ってきたいと考えていた頃でした。

そのタイミングで「社員採用を考えているのだけど興味ある?」と声をかけていただいて。驚いたと同時に、迷わず「働きたいです」と答えました。

── 新卒で、しかも第1号社員として加わることへの不安もあったのではないでしょうか?

もちろんありました。自分よりもはるかに経験豊富で実力がある、共同創業者3人のなかに一人飛び込むわけなので。それだけを切り取って見ても、不安は絶えなかったです。入社が決まってからは「これから自分はどうやって貢献したらいいんだろう?」と毎日考え続けていました。

── そうした不安とも向き合いながら、入社後はどのような考えや想いを大切に活動を続けてきましたか?

実力やスキルに関しては、地道につけていくしかないと考えています。なので、目の前の一つひとつに精一杯取り組んでいきたい。そのうえで、少しずつできることを増やしていきたいと思いながら過ごしてきました。支援先の広告のグラフィック制作や、Z&Cがリプランディングを担当する案件におけるメディア運営・記事制作など…。領域も様々ですが、その一つひとつを積み重ねることが今は大事だと思っています。

そのうえで、具体的なスキル以外にも、自分だからこそできる貢献は何か考え続けることも大切にしています。

たとえば、創業後に入社したからこそ見えるものや視点はあるはず。また、新卒だからこその気づきや発見、アイデアもあると思っています。今の年齢や立場の自分にしかできないことを常に探しながら、行動へ移し続けることをこれからも大事にしていきたいです。

── 入社後、試行錯誤を続けるなかで手応えを感じた経験や場面はありますか?

正直なところ、これと言えるものはまだありません。ただ少しずつ、自分の視座が上がってきていることは実感できています。

たとえば、一般的には新卒では参加できないような経営者同士のミーティングに、私が同席させてもらう場面があります。Z&Cのムーブメントは10年後どうなっているべきか、自社の利益だけでなく社会がより良くなっていくには何をすべきか……そうしたテーマについて、自分はどう思うかを考え発言しなければならない。今の自分にとって、視座を上げるための機会が日常のなかにいくつもあることで、考え方や行動にもちょっとずつ変化が生まれてきていると感じます。

若い世代がゼブラと出会うきっかけを作りたいと話す阪本菜さん

若い世代がゼブラと出会うきっかけを作りたい

── 阪本さんがZ&Cでこれから挑戦していきたいことや取り組みたいことについて教えてください。

今はまだ黎明期といえるゼブラ企業のムーブメントを、短期的なものではなく、長く続いていくものにしたいと考えています。

そのために、まずは私自身が研鑽を積んでいるのが現在地です。ただ、この先には、いま以上に若い世代にもゼブラ企業の思想やあり方を知ってもらい、コミュニティに加わってもらいたい。共に担い手となる仲間を増やしていくための活動にも、積極的にチャレンジしたいです。

特に私と同世代のなかには、関心を持ってくれる人も多くいるはずだと感じています。なので、若い世代の方々がゼブラ企業と出会うためのきっかけや入り口を、一つでも多く作っていきたいです。

── なぜ、阪本さんと同世代のなかには関心を持ってくれる人が多くいるはずと考えているのでしょうか?

社会的に大きな課題とされていることに対して、より高い当事者意識を持った人が多い世代だと感じるからです。

上の世代と比べて、私たちは環境や経済の問題がより身近な存在だと思っています。生まれた時から多くの社会課題が山積していて、それらが実生活にもさまざまな影響を与えている。当たり前のようにそうした状況のなかで過ごしてきたからこそ、「自分たちが考え、行動していかないことには変わらない」という意識を持っている人も多くいるのではないでしょうか。

そうした問題意識や価値観と、Z&Cが目指すあり方は少なからず相性が良いはず。だからこそ、きっと関心を持ってくださる人はたくさんいると思いますし、共感を得られればこのムーブメントを大きくできるはず。一人でも多くの仲間を増やすために、私にできることを考え行動し続けていきたいです。

── 阪本さん個人として、この先ほかにも挑戦していきたいことや取り組みたいことがあれば、最後にぜひ教えてください。

今とは別の場所で、ある程度の時間をかけて実践や学びを経験することには、どこかのタイミングで挑戦したいです。

共同創業者の3人を間近で見ていて、視野を広く持ちながら、色々なフィールドで経験を積む大切さを実感していることが理由です。別の場所が企業なのか、大学院なのか、どこになるかはわかりません。異なるフィールドで積み上げたものを活かして、将来的にはZ&C、ひいてはゼブラ企業にかかわる世界のどこかで活躍したいと思っています。

そのために、今いる環境で目の前に全力を尽くすことと、常に色々な可能性を見据えながら柔軟に動くことの両方を大事に過ごしていきたいです。これからも自分なりの形で「社会性と経済性の両立」を探究していけたらと思います。

自分なりの形で「社会性と経済性の両立」を探究していけたら、と話す阪本菜さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

阪本 菜(さかもと・さい)

1999年東京生まれ。都内の高校を卒業したのち、アメリカ・ウエストバージニア州にあるウェストバージニアウェズリアン大学に留学。アート経営学、ジェンダー学を学ぶ。体育会テニス部出身。2021年からZebras and Companyでインターンとして働き始めたのち、2022年7月に同社の第1号社員として新卒入社。現在は支援先のグラフィック制作やメディア運営に加え、日本全国の地域で同社が主催するコミュニティイベントの運営にも携わる。

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