羽田美智子さんが「おせっかい」を大切にする理由。「社会に不足しているものを補う側面も」

羽田美智子さんが「おせっかい」を大切にする理由。「社会に不足しているものを補う側面も」

旅番組の仕事を通じ、伝統産業の苦境に気づく。女優・実業家の羽田美智子さんに聞く、社会に不足しているものを補う「おせっかい」

女優業と並行し、2019年に日本各地のこだわりのものづくりを応援するセレクトショップ「羽田甚商店」を創業した羽田美智子さん。一部の商品シリーズを「osekkaiシリーズ」と名付けるほど、関わる方へのポジティブな「おせっかい」を大切にしているそうです。

実は「おせっかい」はリクルートでもキーワードになっています。企業文化の“圧倒的な当事者意識”の一端を表し、良い意味で使う従業員も多くいます。リクルートグループ報『かもめ』では「おせっかいでスミマセン」という特集も組まれました。今回はその特集のなかでインタビューした羽田さんの「おせっかい」観とともに、羽田甚商店創業の経緯を紹介します。

外国で日本の文化を語れない危機感。知的好奇心に従って日本を知るキャリアを歩む

羽田甚商店の創業のきっかけは、30代の頃に遡ります。日本の文化の魅力に気づいた、海外旅行の経験です。20歳で芸能界デビューをし、お仕事が軌道に乗ってきた30代。好奇心の塊だったので、お休みの度に学びを求めてパリやロンドンへ旅行に飛び出していました。

そういう時に、現地の方が話しかけてくださるテーマの多くは日本文化について。「君は日本から来たのか! 京都の龍安寺の枯山水を知っているよ」と。

ところが当時の私は日本の文化への理解も乏しく、話が広がらないことも多々ありました。これではいけない。今まで外にばかり目を向けていたけど、自分の生まれ育った国をよく知りたいと思い始めました。

プライベートで京都の寺社仏閣に通い始めたのはその頃から。博識な海外の友人たちから多くの視点を学び、仕事を通じ文化遺産を知るさまざまな機会にも恵まれました。知れば知るほど、日本の文化は奥深くて面白い。以降のキャリアで、「知的好奇心が刺激される仕事は断らない」と決め、心赴くままに旅番組などのお仕事を受けました。

日本各地の素晴らしい伝統産業が無くなってしまうかも…。苦境を知り、50代で創業を決意

日本の各地を訪ね歩くようになり、各地でものづくりに励む生産者の方々にお会いするチャンスがたくさんありました。コツコツ地道に積み上げていく生産工程や愛にあふれる品質管理を知り、こういう方々が素晴らしいメイドインジャパンというブランドを支えているんだと、感動しきりでした。

ですがその一方、課題も見えてきたのです。伝統産業は事業の採算がとりにくく、生産者の方々の暮らしにもご苦労が多いことです。「子どもには申し訳なくて継がせられない。自分の代で廃業にするつもり」。そう語る職人さんの言葉に、じわじわと危機感が募っていきました。誰かがこの商品の驚くような品質と、課題に気づかなければ、素晴らしい伝統産業がなくなってしまうのではないか、と。

その時期、自分の生まれ育った家では、私の兄弟も誰も家業を継げず、150年続いた「羽田甚」の屋号を途絶えさせてしまう出来事もありました。人生でいつか自分のお店を出したいという夢もあったことから、50歳で屋号を継承する形で羽田甚商店をスタートさせることを決意。

日本の生産者の皆さんが事業継続できることを願って、伝統産業のPRや宣伝を私たちがお手伝いさせていただく事業を始めたんです。この取り組みが、世界のなかでもユニークな価値がある日本の文化を支える一助になればと思っています。

おせっかいは成長につれ、範囲が広がるもの。人の心にキャンドルサービスがしたい

羽田甚商店の重要キーワードのひとつが「おせっかい」。ついつい、「お昼ご飯食べた?」「元気? よく眠れた?」とか、私が周りに声をかけてしまうからでもあるのですが、誰かを思いやるポジティブな用語として商店内では使っています。

そんな私のおせっかいは、家族や生まれ育った環境から作られたものです。若い頃はあれやこれやと世話を焼き、興味を持ってくれる周囲の人を煩わしく感じることもありました。

ただ、今の社会を見ていると、個人主義に徹しすぎるのも寂しいものがあるなと思うんです。例えば、誰かに「雨降りそうだけど、傘ある?」と、声をかけてもらうと少しその日は嬉しいじゃないですか。「関わる人が“ご機嫌”であって欲しい」と願うおせっかいは、良いものだと思うんです。

羽田甚商店のおせっかいシリーズ紹介画像
「相手には興味を持つけれど、意見を押し付けるようなおせっかいはしない」のが羽田さんのマイルール

そして最近では「おせっかい」は社会に不足しているものを補う側面もあると感じるようにもなりました。若い頃は自分のことで精一杯でしたが、年を重ねると、だんだん社会のなかで自分には何ができるか、世界のなかの日本の価値は何なのか、自分がいなくなった後の世界に何が遺せるかを考えるようになってきました。今の社会の仕組みでは助けが行き届かない部分で、困っている方がいるならば、関わりに行きたい。私にとってはそれが、日本の生産者さんたちでした。

今年は、創業5年目(2024年1月時点)。実店舗の開設やユーザーコミュニティでの商品開発など、挑戦したいことはまだまだたくさんあります。人の心にキャンドルサービスをするように、暮らしに小さな幸せを届け、ものづくりを支えていけたらと思います。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

羽田美智子(はだ・みちこ)
女優・羽田甚商店6代目店主

1968年生まれ。茨城県出身。94年公開の映画「RAMPO」でヒロイン役に抜擢され、日本アカデミー賞で新人俳優賞を受賞。以後、映画やドラマ、紀行番組など幅広く出演。主な出演作に、「サラリーマン金太郎」(TBS系)シリーズ、「特捜9」シリーズ(朝日系)、「おかしな刑事」シリーズ(朝日系)、「花嫁のれん」(フジ系)シリーズ、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」など多数。また、2019年4月にオンラインショップ「羽田甚商店」をオープン。「美」と「健康」をテーマに、「本当にいいもの」を作るために情熱を注いで頑張っている日本全国の生産者を応援するECセレクトショップ。店名は15年に150年の歴史に幕を下ろした実家の屋号を継承した

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