たくさん悩んで、迷って、自分で選びたい。シンガーソングライターao、17歳の今を紡ぐ言葉

たくさん悩んで、迷って、自分で選びたい。シンガーソングライターao、17歳の今を紡ぐ言葉
文:森田 大理 写真:小財 美香子

小学生でオーディションに合格し、中学生でメジャーデビュー。現役高校生シンガーソングライター aoさんが、表現者として挑戦を続ける理由を聞く

2021年に15歳(中学3年生)でメジャーデビュー。2022年にはSpotifyが選ぶ次世代アーティストに選出され、2023年にはCMソングやRADWIMPSの楽曲でフィーチャリングボーカルを務めるなど、若年層を中心に注目を集めているのが、シンガーソングライターのaoさんだ。

2024年には、リクルートが主催する高校生向けのアントレプレナーシップ教育プログラム『高校生Ring』のテーマソングとして書き下ろした新曲「問.1」を発表。自身も17歳の現役高校生であるaoさんは、自分の夢に向かってどのようにチャレンジをしているのだろうか。これまでの道のりや、楽曲制作の秘訣を聞いた。

好きなことはとことんディグる。興味が薄いこともまずやってみる

― はじめに、aoさんの音楽活動の原点について教えてください。歌や演奏に興味を持ったのはなぜですか。

はじまりは4歳から習っているクラシックピアノです。近所に住むお姉さんがピアノをやっていて、その姿に憧れてはじめたんですよ。歌が好きになったのは、小学3年生のとき。家入レオさん、SEKAI NO OWARIさん、RADWIMPSさん、西野カナさんといったJ-POPが好きで、ニンテンドー3DSのYouTubeアプリで動画を探して聴いていました。

― 携帯ゲーム機が音楽にアクセスするツールだったとは驚きました。

あとは母が使わなくなったおさがりのスマホも、色んな音楽と出会わせてくれました。小学5年生のときにTWICEの「TT」が流行っていてK-POPが好きになったんですが、いろんなK-POPの動画を探していくうちに、K-POPアーティストの洋楽カバー動画を目にするようになったんです。すごくかっこよくて、原曲も聴いてみたくなった。そうやって自分の好きなアーティストや曲に関連する動画をディグっていくうちに、洋楽にすっかりハマっていきました。

― 小学6年生の夏休みにオーディションに挑戦してみようと思ったのはなぜですか。一歩踏み出せた原動力が知りたいです。

そのときは純粋に歌うことが好きで、何かやってみたいなという気持ちで応募したんです。ちょうど平成最後の年だったので、「思い出づくり」の意味もありました。それに、好きだったK-POPの世界では、もっと小さな頃からオーディションを受けて練習生になるのが珍しくないので、それなら私だって挑戦して良いんじゃないかなと思いました。

音楽活動の原点について話すシンガーソングライターのaoさん

― オーディションに合格後、aoさんは歌や楽器の演奏だけでなく、作詞・作曲の勉強もはじめています。もともと楽曲制作にも興味があったんですか。

いえ、その頃はもっとたくさんいろんな音楽に触れて歌ってみたいという気持ちが一番で、自分でつくりたいとは思っていなかったんです。でも、事務所の方に音楽スクールのシンガーソングライターコースをすすめられて、通ってみることに。すると、受講生は私が一番年下で、まわりは高校生のお兄さんお姉さんばかりでした。すでにオリジナル曲をつくっている人たちが更なる勉強のために通っているようなところだったので、当時の私にはすごくレベルが高かった。でもそれがかえって刺激になりました。

他の受講生に追いつきたくて必死に作詞作曲の課題に取り組むうちに、楽曲をつくることが段々と好きになっていったんです。ただ、本来はDTM(パソコンを使った音楽制作)を学ぶカリキュラムなのに、私だけ最後までウクレレ一本で課題に取り組んでいましたけど(笑)。正攻法ではなかったけれど、それでも無理だと諦めずに当時の自分にできるやり方でやってみたことが、今の自分につながっていると思います。

異なる環境に飛び込むことは、新たな自分に出会える機会

― 楽曲をつくるのは、ゼロからイチを生み出すことだと思うのですが、aoさんのつくる歌詞やメロディはどこから湧き出てくるのですか。

1st EPの『LOOK』に収録されている初期の曲は、日常での出来事やそこで感じたことなど、自分自身の経験をもとにしたものが多いです。具体的にイメージできる身近なものをヒントにした方が、作詞・作曲をはじめたばかりの私にはつくりやすかったんです。そこで試行錯誤を繰り返していくうちに楽曲制作の経験値がたまってきて、段々と大きなテーマや抽象的なテーマも表現できるようになっていきました。2022年に発表した「リップル」は、映画のポスターやグラフィックからイメージを膨らませてつくった曲なんですよ。

― 自身の音楽活動の他、ラジオパーソナリティなどにも挑戦していますよね。aoさんは、慣れないことや経験のないものに飛び込むのは怖くないんですか。

チャレンジすること自体は怖くないですね。むしろ普段の自分とは違う世界に入っていくと、新しい自分を見つけられるような気がしてワクワクします。例えば、2023年にRADWIMPSさんの楽曲「KANASHIBARI feat.ao」に参加したときは、野田洋次郎さんが手がける詞の言葉選びがとても勉強になりました。昔からRADWIMPSさんは好きでよく聞いていましたが、聞き手ではなく歌い手の一人としてRADWIMPSの世界に飛び込んだことで、「私だったらきっと違う言い回しにする部分で、野田さんはこの言葉を選ぶんだ」という発見がありました。そこで、この直後にao名義で発表した曲「4ever」では、野田さんから学んだことを作詞に取り入れているんです。

― 異なる環境で得た気づきを持ち帰って、自分の活動に活かしているんですね。それは学生も社会人も誰もが必要なマインドだと思うのですが、どうすればaoさんのようなチャレンジができると思いますか。

うーん、どうなんでしょうね。いろんなことに飛び込んでみるのが正しいかは、その人が何を大切にしているかによると思うんです。同じ高校生でも、まずは学業をしっかりとやってから次のステップに進む方が向いている人もいるだろうし、ひとつのことに専念して極めていく道も素敵なこと。私が新しいチャレンジにわくわくするのは、ほかの人があまりやらないことを経験してみたいからなのかもしれないですね。

リクルートのアントレプレナーシップ教育プログラム『高校生Ring』のテーマソングとして新曲「問.1」 を書き下ろしたaoさん

自分自身に向き合い、考え抜いた時間は絶対に無駄にならない

― リクルートのアントレプレナーシップ教育プログラム『高校生Ring』のテーマソングとしてaoさんが書き下ろした新曲「問.1」についても教えてください。aoさんにとっては普段の楽曲制作とは一味違う経験だったのではありませんか。

そうですね。はじめは自分も高校生なのでつくりやすいかなと思っていたんですけど、実際に制作に取りかかってみると、自分の思いというよりも『高校生Ring』にチャレンジしているみんなの思いを知りたい気持ちがどんどん強くなってきて。そこで、これまで『高校生Ring』に参加した高校生にインタビューした様子をたくさん見せてもらい、私の高校生活と照らし合わせながら共感できる部分や、自分とは違う視点などを少しずつ取り入れて歌詞を書いていきました。

― 将来への期待と不安が入り混じる高校生ならではの心情と、一歩踏み出すことを応援するフレーズが散りばめられているのが印象的でした。

高校生って、小さい頃に漠然と考えていたいくつもの可能性の中から、自分が進む道を選んでいく時期だと思うんです。「自分のやりたいことってなんだろう」と悩んだり、「本当に私にできるのかな?」と迷ったり。たしかに不安だし、その後の人生に関わる決断をしなければならないプレッシャーもあると思うんですけど、それでも自分自身で「私のために」考えて決断することが大切なんじゃないかという意味を込めました。

いま高校生の私たちも、大人になればいろんな社会の問題に向き合っていかなきゃいけないと思うんです。『高校生Ring』は、「自分が社会の何に問題意識を持ち、どのように役に立ちたいか」を真剣に考えてみる一歩目の機会。そう捉えて、試験問題になぞらえた「問.1」というタイトルをつけました。

― 「問.1」というタイトルは、高校生のaoさんだから出てきた言葉なのかもしれませんね。楽曲全体を通しては、どんなメッセージを込めたのでしょうか。

『高校生Ring』でビジネスプラン作成に取り組んでいるときは、なかなか良いアイデアが浮かばずに苦しい思いをしたり、上手くいかなくて悔しい気持ちになったりすることもあると思うんです。でも、そうやって悩みながらも真剣に考え抜いた時間は絶対に無駄にはならないはず。私も曲をつくっているときは同じように苦しい思いをすることがあります。でも、たくさん迷ってたくさん悩むこと自体が素晴らしい経験だと私は思っているので、みなさんもぜひそんな機会を楽しんでほしいと考え、曲に込めています。

ファンとフラットに考えを共有しあえるコミュニティをつくりたい

― aoさんは次の4月で高校3年生。誕生日で成人を迎えます。節目の1年になりそうですが、新しく挑戦したいことはありますか。

早いうちに実現させたいのは、ワンマンライブです。私は2021年のコロナ禍デビューということもあって、リアルな場でファンの方々とコミュニケーションを取れるチャンスがこれまであまりなかったんです。SNSでの交流がメインで、イベントやフェスで歌わせてもらうことはあってもワンマンはまだ経験がなくて。やっぱり私の歌を聞きに来てくれた人たちのための特別な空間で歌を届けてみたいですし、私とファンの方々の交流だけでなくファン同士の交流も深められるような機会を、もっと増やせたら面白いなと思います。

― ファン同士の交流も深められるような機会というのは、aoさんをきっかけに人と人とのつながりが増えていくようなイメージでしょうか。

歌い手も聞き手も関係なくフラットに意見を言い合えるような“コミュニティ”をつくりたいです。これまでつくってきた歌も、ライナーノーツとしてその曲が生まれた経緯や自分の考えをSNSに投稿しています。それに対して「共感したよ」とコメント欄で言ってもらえるのも嬉しいんですけど、「私はaoとは違ってこう考えた」といった意見が出てきて、みんなで考えを深めていく過程が楽しいんですよね。そうした場をオンラインでもリアルでも育てていきたいです。

― 自分の作品に対して、称賛だけじゃなくいろんな意見を聞いてみたいというaoさんの感覚は、デジタルネイティブかつ多様性の時代を生きる若者らしいなと思いました。何かを発信すれば賛否の両方が来るのは当然のことだと受け止めているのではないですか。

言われてみれば、たしかにそうかもしれないですね。一方通行のコミュニケーションや偏った意見ではなく、たくさんの人の多様な意見を聞いてみたいです。

― そうした多様な人に歌を届けるために、aoさん自身が大切にしたいことは何ですか。

ひとつは、パっと聞いて良いなと思ってもらえるような印象づくりです。自分のつくりたい音楽の芯の部分はブレたくないんですけど、時代の流れや世の中の人たちが求めているものに敏感であり続ける努力は必要だと思っています。上手くいくかは別として、いろんなアプローチの曲に挑戦してみることが自分の可能性を広げてくれるとも思うので。

― では、aoさんの芯の部分、aoさんらしさとはどんなものですか。

洋楽アーティストから影響を受けた歌い方を魅力だと言ってもらえることが多く、自分でも私の個性のひとつだと思っています。ただ、それだけに甘えていては歌手としての成長もないと思っていて。自分の個性を更に活かせるように歌唱を磨いていきたいですし、声の特徴にマッチした曲をつくっていきたい。日本語の曲も大切にしつつ、全編英詞の曲を完成させて世界中の人にaoの歌を聞いてもらうことも今の目標です。

リクルート「高校生Ring」テーマソングとなる「問.1」(トイイチ)をリリースしたaoさん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

ao(あお)

17才・高校2年生。2021年9月、15才・中学3年生の時に「Tag」でメジャーデビュー。2022年1月にはSpotifyが選ぶ2022年に活躍を期待する次世代アーティスト『RADAR:Early Noise 2022』に選出。2023年4月にはRADWIMPSの楽曲「KANASHIBARI feat.ao」にフィーチャリングボーカルとして参加。7月にはEDMサウンドの新境地となる1曲「4ever」を、8月には東京・大阪・名古屋国際工科専門職大学のCMソングとして話題となった「ENCORE」をリリースし、“SUMMER SONIC 2023”に初出演。さらに、11月にNetflixオリジナルアニメ「陰陽師」ED主題歌となる「kioku」を、12月にはハーゲンダッツTVCM「本日、とろけ曜日。」篇CMソングとして話題となったオリジナルカバーソング「月のひかり」をリリース。そして、2024年2月14日(水)に、リクルート『高校生Ring』テーマソングとなる「問.1」(読み:トイイチ)をリリース。リアルな日常を独特の感性で切り取った歌詞、重厚感のあるダークなビートサウンドから高揚感溢れるキャッチーなメロディまで、aoならではの歌声で表現していき、若年層を中心に注目を集めている。

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