人材不足の農家を支えたいのは、自分の家族も同じ道を通ったから
営業として『Airワーク 採用管理』の個人農家への導入支援を行う、リクルート従業員の田尻洋一。日本の農業を支援し、雇用創出を支えたいと強く思うのは、同じ困難にぶつかった家族の苦労を間近で見てきたからだと言います。
農家の人材不足は待ったなし。農業を営む祖父母の苦労が重なる
私は営業として、宮崎県の個人農家に対して『Airワーク 採用管理』という採用管理サービスの導入を支援しています。作物が旬を迎えたら待ったなしで収穫・出荷しなくてはいけない農家は、収穫期に労働力を確保できるかどうかが売上を大きく左右します。家族・親戚に頼らない採用こそが、実は事業継続の肝なのです。しかし実際には、農家が家族以外の人を雇うことは稀です。家族総出で収穫期は朝から晩まで働き、体を壊してしまう方もいれば、急に人手が足りなくなり、出荷できるはずの農作物を畑で腐らせ、その年の売上が落ちてしまうことも起きているんです。
農家の人材採用支援に人一倍思い入れがあるのは、実は私の祖父母も、農業を営んでおり、苦労を間近で見ていたからです。畑に出ることが何より好きなふたりでしたが、高齢で体力の問題もあり、徐々に作付面積や品目を維持するのが難しくなりました。幼少期に当たり前のように食べることができた美味しいスイカやメロンなどは、もう食べられません。もっと前からこのサービスがあれば、ふたりは人の助けを借りながら、イキイキと農業を楽しめたかもしれない。そう思うこともあります。現在は祖父の他界もあり年々面積が減ってしまい、祖母がひとりでできる範囲で農業を営んでいます。
「農家は大変だから」と孫の私が家業を継ぐ以外の進路選択を勧めてくれたのも祖父母でした。営業としてキャリアを積もうと入社したリクルートで、農業に関わる機会に恵まれたのも何かの縁。このサービスは、祖父母のような個人の農家さんにこそ提案するべきだと強く思い、営業を始めました。
農家の救世主は、働きたくても働けない主婦・シニアの方かもしれない
実は力を入れた理由は、祖父母のこと以外にも、もうひとつあります。雇用が限られる地域に新しい仕事を生み出し、働く選択肢を増やせることに強く惹かれたことです。子育てがひと段落し仕事探しを始めた私の妻は、希望する働き方と募集条件が合わずなかなか仕事が見つからない時期がありました。農家の求人は柔軟にシフトを調整できる場合も多くあるので、主婦やシニアの方といった、働きたくても時間や体力に制約があって働けない方々にとって機会になる。誰もが自分らしく働ける選択肢をこの地域で創りたいと心から思っていました。
無料でもスマホだけでも、カンタンではない営業の道。Iターンの新規就農者の方が、お客様第一号に
個人農家の皆さんに営業を始めた当初、『Airワーク 採用管理』は0円でカンタンに求人募集ができるサービスなので、使うハードルはそこまで高くないと考えていました。ところが導入を断られてしまうことも多々あったのです。無料だと逆に怪しく感じられたり、スマホの操作がよく分からないという声をいただいたことも。スーツを脱いでパーカーに着替えて畑に出向き、スマホの使い方からご説明したり、経営のお役に立つような情報提供を粘り強く続けました。「将来も事業を続けるためにどうされたいか」などの会話もさせていただきながら、お困りごとを気軽に話せる身近な存在になり、信頼いただけるように努める。農家の方の将来を左右するかもしれないのは、自分の行動一つひとつの誠実さかもしれない。そんな使命感を感じながら営業を続けていました。
すると、初めてこのサービスを利用してくださる方に出会うことができました。Iターンで東京から宮崎にやってきて、農業を始められた新規就農者の方です。「収穫期に頼れる知人がまだ近所にいなかったから助かった。ご実家が農家でもあり農家の苦労などに理解がある田尻さんだからお願いしたいと思った。」と、使い始めてくださいました。結果口コミやご紹介で広めてくださり、サービスが広がる大きなきっかけにつながりました。
農業協同組合や他農業団体との協業でサービス利用が広がる。「農業の大変さ」を人材採用で支えたい
地道な営業を進めるなか、大きな転機になったのは、農家の人材不足に課題感をお持ちのJA宮崎中央(農業協同組合)との協業です。セミナーや相談窓口を通して、多くの方にサービスの存在を知っていただけるようになり、この協業をきっかけに利用いただく方も増加。農業関連の求人件数はわずか数件だった初年度から、2023年現在は160件程にまで増えています。
ある若手の農家の方は、外部の人を雇うことに抵抗があるご親戚も多いなか『Airワーク 採用管理』を使って採用を行いました。収穫期をいつもより効率的に乗りきることができた体験でご親戚も納得され、「人が採用できるなら、来年は作付面積を2倍にしたい」「働く人のための休憩室を、もっと整備しようと思う」とイキイキと事業拡大や職場環境の向上について、お話ししてくださいました。少しはお役に立てているかもしれない、と実感できるのはこういう瞬間です。
「農業は大変だから」こそ、それを支える役割を全うしたい。農業に関わる人たちがイキイキと働き、自分に合った農業を営み、継続できる。そして地元にも新しい雇用の機会が生み出せる。機会をひとつでも多く届けるため、今日も畑に出向いて汗を流しています。
プロフィール/敬称略
※プロフィールは取材当時のものです
- 田尻洋一(たじり・よういち)
- 株式会社リクルート 中途Divsion ソーシャルソリューションデザイン部 業界共協創グループ 兼 エリアセールス1部 宮崎グループ
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熊本の高校卒業後、地元の金型メーカーにて技術職として勤務。2011年リクルートHRマーケティング(現 リクルート中途Division)に入社し、北九州支店に配属。『タウンワーク』の営業を担当し、14年宮崎拠点に異動。自治体との協働を行いながら、現在は農業への『Airワーク 採用管理』導入推進を担当