ネット予約をスタンダードに 美容業界をDX化した『SALON BOARD』10周年

ネット予約をスタンダードに 美容業界をDX化した『SALON BOARD』10周年

『ホットペッパービューティー』掲載サロン向けに、ネット予約受付をはじめとしたサロン全体の予約管理や、顧客管理・CRM・会計・分析といった多岐にわたる業務・経営を支援するデジタルツール、『SALON BOARD』が、2022年6月26日に10周年を迎えた。同サービスに立ち上げから関わるリクルート従業員の長尾美樹に、10年の歩みと業界の当たり前を変える困難さについて話を聞いた。

開発当初は夜中でも、どこからでも、ネット予約! は出来なかった

―『SALON BOARD』が10周年を迎えましたが、そもそも本サービスはどのような目的で立ち上がったのでしょうか?

長尾:つい15年程前まで、髪を切りたい時は、サロンに直接電話予約をするか、施術時に次回予約をするのが普通で、たくさんあるサロンから自分にあったサロンを比較検討することも難しい状態にありました。サロンと利用者をつなぐプラットフォームがない。そんな状況を改善すべく、2007年に『ホットペッパービューティー』はサービスを開始しました。この際生まれたのが、『ホットペッパービューティー』上で、サロンのスケジュールを見ながら好きな時間に予約ができる、現在多くの方に馴染みがあるであろう、「ネット予約」サービスです。

―私も使っています。便利ですよね。リリース当初から重宝されたのでは?

長尾:それが実はそうでもなくて。いざネット予約しようとすると、サロンの施術枠は空いているはずなのに予約できる時間帯が少ない、という状況でした。15年前の『ホットペッパービューティー』では、「ネット予約が可能な時間帯をサロンに公開していただくこと」が課題となっていたんです。

―なぜそのような状況が生まれていたのでしょうか?

長尾:その背景にあったのは、各サロンが使い慣れた独自の「紙台帳」です。当時のサロンでは、美容師さんは予約の電話を受ける度に、各サロン独自フォーマットの紙台帳に書き込んでいました。そこに、『ホットペッパービューティー』が提供するネット予約のシステムが加わったものですから、ネット予約の一覧画面と紙台帳のふたつのスケジュールを見るのは煩雑だということで、ネット予約はサロンスタッフさんから敬遠される傾向にあったのです。結果、本来は空いているはずの施術枠も、ネット予約上ではクローズドにしてしまうなど、悲しい状況に。だったら、全ての予約を一元管理できるシステムを提供できればいいのではないかと考え、管理システム『SALON BOARD』の開発がスタートしました。

『SALON BOARD』に立ち上げの段階から携わってきた、リクルート従業員の長尾美樹

―長尾さんは企画ディレクターを担当されたのですよね。

長尾:はい。ディレクターを任されたので、まずはサロンでどんなシステムが求められているのかを知ることから始めました。具体的には『ホットペッパービューティー』の営業担当者に紹介してもらって、サロンに直接話を聞きにいくことから始めました。

―聞き込み結果を開発に活かしていったのですね。

長尾:プロトタイプを作成して持ち込んだのですが、反応は芳しくなく、「紙台帳のほうが使いやすい」と言われる始末…。そもそも、サロン側は紙の予約台帳に不便を感じておらず、私たちのシステムを求めていなかったんですよね。これは大きなハードルでした。ですが、定休日などサロンにいない時に予約の連絡を受けると、サロンで紙台帳を確認してから再度日程調整をする必要があるなど、紙台帳だからこその「不」は確実に存在していたんです。だからこそ、「今までの慣習を変え、クライアントもカスタマーも喜ぶシステムを作るのだ!」という思いで、ひたすら改善を重ね続けました。

サロンの特性に寄り添い、デジタルツールへの心理的ハードルを下げる

―求められていないものを提供するというのは、かなり大変かと思います。

長尾:私は、こういう場合の克服の仕方はふたつしかないと思っています。ひとつは、心理的なハードルも無く移行できるくらいにユーザビリティを良くすること、もうひとつは、他の付加価値を付けること。なので、この2点を強く意識して開発に取り組みました。そのためにはやはり現場を知ることが一番と、休日も個人的に毎週のように、いちカスタマーとしてサロンに通い、スタッフの動きなどを観察。サロンへのヒアリングの際には、実際の紙台帳を見せてもらって、ヘアカットの略称を「c」としているのを真似してみたり、お客様が退店したらマーカーでチェックしているのを参考に、退店チェックができるようにしたりと、紙台帳のプロセスをそのまま『SALON BOARD』の機能に落とし込むようにしました。

―移行に対する心理的ハードルを下げるようにしたのですね。

長尾:美容師さんは高校卒業後に専門学校に通い、そのままサロンに就職するケースがほとんど。当時パソコンでの業務に慣れた方は多くはありませんでした。そんな方々にも紙台帳と同じ感覚で使っていただけるよう、ユーザビリティには徹底的にこだわりました。何度も検証を重ねるうちに、初めて見せるサロンの方にも使い方をパッと理解いただけるようになっていき、「あなたはサロンのことを良く分かっている」と言っていただけた時は、本当に嬉しかったです。

▲実際の『SALON BOARD』の画面

接客技術とハサミと『SALON BOARD』があれば、サロン経営ができる世界を目指して

―約1年の開発期間を経て、2012年6月26日のリリース日を迎えたわけですが、リリース後も進化を重ねていますよね。

長尾:導入・活用フォローは営業担当者と連携。大変ありがたいことに、利用サロン数もネット予約数もぐんぐん成長していったのですが、リリース後も数えきれないほどの改善要望がサロンから寄せられました。その声に最速で応えていくことを意識して、予約管理にとどまらず、顧客管理やメッセージ配信、会計機能まで実装していきました。

―ただ、急成長を続けていく最中、長尾さんには異動の辞令が出ます。

長尾:当時、サロンや美容師さんのことを知れば知るほど、あれもこれもできるかもと思えるのが楽しくてたまらなかったんです。正直、リクルートの中で一番楽しい仕事をしているのは自分だという自負があったので、異動はしたくないと抵抗していたのですが(笑)。このまま『SALON BOARD』だけしか知らない開発ディレクターとして存在するよりも、一度違うサービス分野を経験し、共通性や事業ごとの違いなどの俯瞰した知見を得たほうが、長い目で見れば私のパフォーマンスが高まるだろう、と会社が投資してくれたんでしょうね。今では、いろいろな領域を経験できたことに感謝しています。異動して『レストランボード』(飲食)や『レベニューアシスタント』(旅行)などの他領域を経験させてもらい、いろいろな知見を蓄えました。そして、2020年に6年振りにマネジャーとして『SALON BOARD』の開発チームに戻ってきたのですが、以前に比べて、ネット予約数が5倍以上、メンバーも数倍になっていて驚きました。

―今は美容室のネット予約が当たり前になっていますが、『SALON BOARD』立ち上げ当初はこうなることを予想していましたか?

長尾:こうなってくれたら良いなとは思っていましたが、ここまで浸透するとは思っていませんでした。ただ、ご利用いただけるお客様が増えた分、私たちが負う責任も重いものになっています。

―それはどういった時に感じるのですか?

長尾:今や予約受付から会計管理まで一気通貫して業務管理できるようになった『SALON BOARD』。サロンによっては、『SALON BOARD』に何かあったら業務が滞ってしまうというところもありますし、『SALON BOARD』の進化次第で、サロンの売上・経営・業務にも影響しかねません。それに、サロンからのリクエストや改善要望もまだまだたくさんいただきますので、課題は山積みなんです。ですが、違う領域も経験した今の私から見ると、こういうやり方がある、とか、美容業界ではあの機能は要らないのだろうか、など、気づけることも多く、やるべきことはまだまだたくさんある。目下、サロン、ユーザーの行動や業務をよりスピーディにシンプルにできるような便利な機能を開発・進化させている最中です。接客技術とハサミと『SALON BOARD』があれば、サロン経営ができる。そんな世界を目指して、これからもサービスをサロンの皆様とともに磨き続けていけたらと思っています。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

長尾美樹(ながお・みき)

株式会社リクルート プロダクトデザイン・マーケティング統括室 プロダクトデザイン室 販促領域プロダクトデザイン3ユニット(飲食・ビューティー・事業開発)飲食・ビューティー領域プロダクトデザイン部 部長

大学卒業後、2009年に入社。『カーセンサー』の営業を経て、美容領域へ。プロダクト開発担当として『SALON BOARD』の立ち上げに携わった後、飲食・旅行領域へ異動。20年より美容領域に戻り、22年4月より現職

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