コロナ禍を経て、変わる旅行実態『じゃらん宿泊旅行調査』じゃらんリサーチセンターが目指す地域振興のカタチとは?

コロナ禍を経て、変わる旅行実態『じゃらん宿泊旅行調査』じゃらんリサーチセンターが目指す地域振興のカタチとは?

産業活性、支援のために経年調査を実施しているリクルートのリサーチ組織のひとつ「じゃらんリサーチセンター」。旅行者実態やカスタマーニーズを調査し、業界課題の解決に向けた分析や提案を行っている。今回は、18回目を迎えた調査『じゃらん宿泊旅行調査2022』から、地域と観光の過去から未来を読み解いていきます。

コロナ禍を経た観光復興の兆し、今後の旅行ニーズの変化、じゃらんリサーチセンターの考える地域振興のカタチなどについて、じゃらんリサーチセンター主任研究員 森戸香奈子に話を聞きました。

地域比較で魅力が浮き彫りに!『じゃらん宿泊旅行調査』の役割とは

―今年で18回目を迎えた『じゃらん宿泊旅行調査2022』ですが、そもそも始めた理由を教えてください。

森戸:『じゃらん宿泊旅行調査』がスタートしたのは2005年。観光庁の開設が2008年でしたから、それ以前のことでした。日本の観光が全体としてどうなっているかを把握するため、「調べてみましょうか」ということになったんですね。もうひとつ、地域の観光戦略を検討されている方々にもお役立ていただけるようにと、当初からこの調査は、地域別の動向が詳しく分かるような設計にしてあります。同じ調査のなかで、全国的に同じ条件のもと、データをクロス集計したりエリア別に見たりして比較できる調査として、毎年楽しみに待っていただけているとのことで、やりがいを感じています。

―この調査結果を観光業界ではどのように活用されているのですか?

森戸:『じゃらん宿泊旅行調査』の結果、とくに「都道府県別ランキング」については地方紙によく取り上げていただいています。地域の方々は「他県と比べてどうか」ということに興味があるんですね。今年は特に、【地元ならではのおいしい食べ物が多かったランキング】では、北陸3県(石川県、福井県、富山県)がトップ3を独占したので、現地でもかなり話題にしていただいたようです。こうしたランキング結果を地域の観光メディアや観光施設から「PRに使いたい」というご要望もありました。基本的にはどんどん使っていただきたいと思っています。

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森戸:実感値として最も活用していただいているのは自治体の観光に関わられる方々です。観光基本戦略の立案などに、本調査の結果を参考にしていただいているようです。先ほど触れた、都道府県別魅力度ランキングのなかで、「観光ホスピタリティ」や「情報発信」のレベルを上げたいという場合に、自県が何位なのかを知り「何位まで上げたい」というようにひとつの指標にしていただくケースもありました。日本全国に魅力的な観光地が増えていくことで、旅行者も増えていくと考えているので、観光戦略を検討している自治体の皆様に調査結果を活用していただけるのはとても嬉しいです。

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旅行復活の兆し?調査結果に見るコロナ禍~アフターコロナでの「旅行スタイルの変化」とは?

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―最新の『じゃらん宿泊旅行調査』は2021年度の国内旅行市場について調べたものですが、注目のトピックスにはどのようなものがありますか?

森戸:2020年度(2020年4月~2021年3月)はコロナ禍の影響で旅行市場はかなり縮小しましたが、それと比べると2021年度(2021年4月~2022年3月)は、順調に復活しているといえます。日本人全体の宿泊旅行実施率は34.1%と、コロナ禍前の2019年度53.6%と比べるとまだ回復途中ですが、「旅行に行った人」のひとり当たりの旅行回数はコロナ禍以前に戻りつつあり、旅行1回あたりの宿泊数は調査開始の2005年以来、過去最高となったのも明るい話題です。その他、コロナ禍初期には敬遠されていた都市部への旅が戻ってきたり、宿から出ない「おこもり旅」から脱して、宿の外でのアクティビティも回復し始めた傾向も見られました。

また、「一人旅」の実施比率はコロナ前から上昇傾向にありましたが、調査開始以来の過去最高となりました。一人旅は他の旅のスタイルと比較して、より遠くの旅行先を選んでいて、宿泊数も多い傾向がみられます。コロナ禍の影響が残るなか、「同行者に気兼ねして、あまり遠くの旅行先を選択しづらい」という気持ちから、逆に遠くに行きたい時には一人旅で…という可能性もあります。このように、コロナ禍影響と長期トレンドが入り交じっているのも今回の特徴といえそうです。

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―本調査については、じゃらんリサーチセンターが自治体や観光事業者様向けに開催している『観光振興セミナー』でも発表されていますね。コロナ禍の今、セミナーはどのように実施されているのでしょうか。

森戸:『観光振興セミナー』は例年7、8月に全国でリアル開催していたのですが、コロナ禍に入った2020年からオンライン開催にして、今年で3回目になります。参加者の方からは「オンライン開催のほうが良い」というお声が増えてきました。リアル開催だと、全国各地で開催するとはいえどうしても大都市中心での開催になるため、大都市から遠い地域の方にとってはオンラインのほうが参加しやすいようです。一度参加登録していただければ何度でも視聴できるところも好評です。今年は7月6日に第1回を開催し、全5回開催しましたが、延べ1万1,000名以上の方々にリアル視聴でご参加をいただきました。イベント型の開催形式だと、1会場あたり多くて400人程度であることを考えると、たくさんの方にご参加をいただけてありがたいですね。

『観光振興セミナー』では、『じゃらん宿泊旅行調査』以外の研究成果も発表していますが、新たな旅のトレンドとして『帰る旅 需要ポテンシャル調査』にも注目いただきました。第2のふるさとに近い感覚で地域に「帰る旅」のスタイルに可能性があるという研究結果の発表です。地域の方々からも「肌感覚で感じていたことが裏付けられた」という反応も多く、これもコロナ影響で生まれた新しい旅の概念だと感じます。観光庁でも「何度も地域に通う旅、帰る旅」という新たな旅のスタイルの普及・定着を図るべく、 「第2のふるさとづくりプロジェクト」を推進中とのことで、関心の後押しになっているようです。

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じゃらんリサーチセンターが地域の方々と目指す地域振興のカタチとは?

-じゃらんリサーチセンターとして目指していきたい方向について教えてください。

森戸:じゃらん宿泊旅行調査はカスタマーの旅行実態を調べるものですが、私たちが心がけているのは、調査結果の背景や要因を考察し、そこから将来的な変化を導き出すことだと考えています。

観光は本来、プロダクトアウトであるべきだと思っています。なぜなら、企業がマーケットに合わせて商品の生産量を増減するのと違い、地域にとって観光資源、環境、文化といったリソースを増減することはできないからです。理想をいえば、地域はどのような旅行者に来て欲しいか、どのように楽しめるか、楽しんでいただきたいかを、ある意味「意志」を持って選んでいく必要があるのではないかと考えています。誰でもいいから人が来ればいい、儲かればいいという発想では、あっという間に地域は破綻してしまうのではないかと懸念しています。限りある地域のリソースを活かしていく方法を検討するにあたって、私たちの調査や研究をお役立ていただけるように、私たちも知恵を絞りながら、地域の方々とともに汗をかいていきたいと思っています。

-森戸さんにとっての「理想の観光地」とはどのようなものでしょうか?

森戸:まず「全ての地域に『違う場所』であって欲しい」と思いますね! よくお問い合わせを受けるのは、「他の地域の成功事例」なのですが…。その地域ならではの魅力や大切にしていきたいと考えていること、それこそが地域のコアだと思うので、ぜひ大切にし続けていただきたいと願っていますし、大切にし続けるお手伝いをぜひさせていただきたいと考えています。

そんなふうに思うのは、自分自身が旅人として熟練してきたからかもしれません。旅をして経験を積むと「他にないもの」も分かるようになりますから。同様に調査から見える旅行者像も変わってきています。いわゆる宿・食・温泉など王道の旅を求める気持ちはありつつも、地域ならではのアクティビティへの関心も少しずつ増えてきています。

私が着任した頃はまだ『じゃらん宿泊旅行調査』も始めたばかりで、「観光領域はマーケティングが遅れているのではないか」と感じていました。しかし、地域でいろいろな方に話を聞くうち、観光のマーケティングの複雑さや難しさに気づくことができました。観光経営とは、観光事業者、住民、旅行者と多方面にステークホルダーを抱えていて、マーケティングもシンプルにはいかない。これからも、変化し続ける旅行者のニーズを地域の方々とともに見つめながら、お力になれることがあれば嬉しいと思っています。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

森戸香奈子(もりと・かなこ)

株式会社リクルート 旅行Division 
じゃらんリサーチセンター 調査・開発グループ 主席研究員 兼 マネジャー

1998年リクルートに入社。調査専門の関連会社(当時、株式会社リクルートリサーチ)へ出向し、調査の設計および分析を担当。リクルートの旅行事業『じゃらん』編集部、広告制作を経て、2007年4月じゃらんリサーチセンターに着任。22年4月グループマネジャーに着任。担当研究に日本人の国内旅行実態を調べる『じゃらん宿泊旅行調査』、インバウンドを含めた未来予測を行った『2030観光の未来需要予測』、持続可能な観光地研究『三方よしの観光地経営』など。書籍や業界紙への執筆活動、また各種地域の講演や委員等を務める。小学校6年生と2年生の2児の子育てと仕事の両立中

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