『スタディサプリ』10周年。学校に必要とされる存在に進化した理由

『スタディサプリ』10周年。学校に必要とされる存在に進化した理由

教育機会格差解消を目指して、オンライン予備校サービスとして始まり、今や全国の約4割の高校に導入されるまでになったオンライン学習支援サービス『スタディサプリ』が、2022年10月に10周年を迎えた。同サービスに立ち上げから関わるリクルート従業員の池田脩太郎に、10年の歩みとこれから目指す未来について話を聞いた。

誕生のきっかけは、教育機会格差に気づいたこと

―『スタディサプリ』 が10周年を迎えましたが、そもそも本サービスはどのような目的で立ち上がったのでしょうか?

池田:リクルートのまなび事業はもともと、高校生向けに進学情報を提供し、進路や将来に迷っている生徒に対して多様な選択肢を示すものでした。ですが、金銭的余裕がなかったり、特に地域によっては、居住地の周囲に塾や予備校がなければ、希望の進路を叶える学力を身につけるために塾に通うことも、志望校に沿った参考書を買うこともできません。教育現場には厳然たる教育機会格差が広がっていたんです。こうした格差をなくしたい。そんな思いで新規事業を立ち上げることを決意し、まなび事業のメンバー数名で起案に向けて動き出したのが今の『スタディサプリ』の始まりです。

―経済的な負担を少なくし、居住地にとらわれない学習機会の提供を目指したのですね。どう動いていったのでしょうか?

池田:高い費用や長い移動時間をかけて塾に通わずとも希望進路に進める基礎学力をつけられる方法は何か。叶える方法として浮かんだのは、動画で授業を配信するオンライン予備校のサービスでした。2011年当時、スマホをはじめとするスマートデバイスと動画配信サービスの普及が進み始めており、ここに着目した形です。ですが、リクルートでは、教育コンテンツを提供している学校情報を扱ったことはあっても、自ら教育コンテンツを作ったことはありません。『スタディサプリ』を通じて配信する授業を一緒に作ってくださる講師の方を見つけることから始める必要がありました。

―どのように見つけていったのでしょうか?

池田:本当に大変でした。カリスマ講師と呼ばれる方々にメールや電話で連絡を取ってみるも、なしのつぶてで…。調べられる方には一通り声を掛けてみても協力者はゼロ。諦めかけていた時にまなび事業の営業担当者とたまたま親交があった肘井 学先生にお話を聞いていただくことができました。ですが先生は、最初は我々のプロジェクトに協力する意志はなく、むしろこんなことやめておけと話すつもりだったそうなんです。しかし、私たちの教育機会格差を解消したいんだという、少し青臭いけれど熱いプレゼンでそのビジョンに共感してくださり、当時勤めていた予備校を辞めてまで、私たちに協力を申し出てくださったんです。その後、先生が知り合いの山内恵介先生らをつないでくださり、企画が動き出しました。人は、ビジョンでこそ心が動くものなのだということを目の当たりにした瞬間でした。

―そんな裏話があったとは…。同時期に社内の新規事業提案制度「New RING(現Ring)」にも応募されていますよね。

池田:はい。企画立案後すぐに応募し、肘井先生にも企画にご参加いただきながら審査に臨みました。有難いことに2012年にグランプリを獲得。事業化予算が付き、事業化に向けて一気に走り出し、10月に『受験サプリ』(のちに『スタディサプリ』に改称)として正式ローンチを果たすことができました。

『スタディサプリ』に立ち上げから携わる、リクルート従業員の池田脩太郎

ローンチ半年で価格を5000円から980円への大英断!?

―順調に思えます。

池田:いや、ローンチしたもののなかなか会員数が増えなかったんですよ。当時の価格は、1講座5000円の買い切り制で設定していました(英語や数学などの1講座につき、60分×10講義の動画が視聴可能)。塾ですと年間数十万円以上かかるのが通常ですから、そこに比較すると格安のつもりでしたが、当時他社が提供していた定額制Webサービスの単価は月100円程度。Webサービスに支払う価格のイメージとしては5000円はとても高いことに気づきました。そこで2013年、全講座使い放題のサブスクリプション型のサービスに切り替える決断をし、価格を月額980円(現在は1980円)にすることを決意。正直なところ、会社は承認してくれないかもしれないとも思いました。しかし、経営判断としては、中長期的に社会へ貢献できる事業だから頑張れ、と。高校生だけではなく、将来的に小・中学生にもサービスを拡げ、ユーザーを増やしていくことで事業拡大を目指そう、と意思決定してくれました。

―かなり思いきった決断ですね。

池田:私たちが思い描いていた世界を実現するには必要な決断でした。価格を落として、TVCMも打ったことで会員数は急増しました。当初、最高のコンテンツを創って、極端に言えば学校の先生は敵に回してもいいくらいの気持ちで『スタディサプリ』を創っていました。ですが、ある地方高校の先生から「放課後学習用に『スタディサプリ』を学校に導入できないか?」という打診が入ります。そこから、新たな学校教育のカタチを共創できることに気が付いたのです。そこで、学校向けにサービス開発をしていく協働の道を探っていきました。今では全国の高校の約4割に『スタディサプリ』を導入いただいていますが、サービス開始当初は予想もしていなかった有難い展開。新規事業は改めて、予期せぬ出来事の連続だ思いました。お客様やユーザーとともにどんどん形を変えて磨きながら成長していくのだと実感します。

―どのようにTVCM効果などで個人申し込みのユーザー比率が高かった時代から、学校単位でのお申し込みによるユーザー比率が高くなっていたのでしょうか? プロセスも是非教えてください。

池田:放課後学習で利用していただいたりと、多忙な先生方の助けになるサービスだったこともあり、学校からの新規お申し込みが増えていきました。ですが、学校は年度単位の予算で動いているため、お試しで導入してくださった学校が翌年以降の継続にはつながらず、また伸び悩みました。継続してくださるかどうかのカギは、先生方が「これは便利だ」「良いサービスだ」と感じて活用くださったかどうかにありました。そこで、導入校数を増やすことではなく、ひとりでも多くの先生方に“活用”いただくことを大事にすることに。先生向けサービス『スタディサプリ for TEACHERS』を整備し、その機能も、個別に宿題を配信したり、生徒一人ひとりの進捗状況や苦手を確認できるようにしたりと、先生方の要望を聞きながら開発を重ねていきました。すると、翌年の継続率が150%も改善し、またもや驚きました。そんな感じで紆余曲折はありながらも、先生方や使ってくれる生徒の皆さん一人ひとりに支えらえて、サービスが磨かれた10年間でした。

―今では高校だけにとどまらず、小・中学講座や塾向けにサービスを展開していますよね?

池田:『スタディサプリ 小学講座』『スタディサプリ 中学講座』や、塾の補助教材としての『スタディサプリ』のサービス展開もしています。特に小学講座は費用を更におさえ、公教育の現場でも使っていただきやすくなるような展開を実施。徐々に活用いただける学校数も増えている最中です。また、対社会人・対企業に対しての学びの機会の提供として『スタディサプリ ENGLISH』も展開しています。

非認知能力を高める支援もしたい 動き出したアントレプレナーシップ・プログラム

―最近では非認知能力、いわば“生きる力”を高める施策にも取り組まれていますよね。

池田:そもそも『スタディサプリ』自体は、貴重な高校生活のなかで、受験勉強はサプリで効率よく終わらせて、もっといろいろなことに時間を使って生きる力を育んで欲しいという願いも込めて創ったものなんです。テストで測れる認知能力よりも、非認知能力の方が生きていく上では必要になる。ですが、この非認知能力はインプット型の教育ではなかなか育まれない。そこで非認知能力を育む取り組みの一環として、リクルートの新規事業提案制度「Ring」を高校生向けにアレンジしたアントレプレナーシップ・プログラム『高校生Ring』を立ち上げました。自分の半径5mに目を向け、そのなかで解消したい「不」はないか。そういったところから新しいビジネスを考えるまでのプロセスをこのプログラムを通して学び、アントレプレナーシップ(起業家精神)を育んでもらえるものを目指しています。ここでのアントレプレナーシップは、変化の激しい世の中を生き抜いていくため、自ら問いを立て行動し、変化を起こす力だと定義しており、決して起業家を目指そうという意図ではありません。『高校生Ring』を通じて、アントレプレナーシップを身につけ、人生を主体的に選び取っていってくれる人が増えてくれたらと願っています。

―『高校生Ring』以外にも非認知能力向上のための施策はありますか?

池田:商業高校と組んで人材育成支援プログラムを検討したり、キャリア教育支援をしたりと、少しずつではありますが、基礎学力の向上だけでなく、非認知能力育成につながる施策を実施し、総合的な教育支援ができるように動いています。

基礎学力から非認知能力の育成までトータルでサポートすることを目指す「スタサプメソッド」

学びを通じて、あらゆる世代の自己実現を応援したい

―従来の授業動画配信画面からも飛び出して総合的な教育支援を進めていく『スタディサプリ』。今後どのような未来を見据えているのでしょうか?

池田:この10年間でオンライン教育が市民権を得てきましたが、まだリアルで学んだ方が学びが大きいという認識を持つ方も多いと思います。これからも私たちはオンラインでの学習コンテンツの価値を磨き続けて、オンライン学習の価値や、学び甲斐を感じてもらえようにしたいです。また、幼児も含め子どもたちが夢中になる学習支援サービスをどう創るか、学ぶことが楽しいと思ってもらえる機会をどう提供していくかは取り組んでいくべき課題だと捉えています。

―引き続き小・中・高校生を対象に置きつつ、さらに、範囲を拡げることも検討されているのですね。

池田:学びの可能性は全世代にあると思っています。コロナ禍で明らかになったことですが、日本の社会人は忙しいから学ばないのではなく、時間に余裕があっても学ばない。ですが、日本の労働人口が減少するなか、生産性を向上していくためにも社会人のスキルアップはこれからどんどん求められていくものだと感じています。既にある『スタディサプリ ENGLISH』の拡充はもちろん、企業研修支援やキャリアアップ支援など、リクルート内の他事業とも協力しながら、幅広い学習サービスにも挑戦していきたいと考えています。

―今後はあらゆる世代の学びを支援していくのですね。

池田:まなび事業が従来携わってきた進路選択支援はもちろんのこと、『スタディサプリ』をさらに進化させ、一人ひとりの学習行動を科学した「個別最適化された学び」と「最先端のテクノロジーを駆使した新たな学び体験」を提供し、あらゆる世代の自己実現を応援していけたらと思っています。また、個人的な話ではありますが、私には双子の息子がおり、彼らが学び始める頃には、当たり前のように『スタディサプリ』を使い進路実現をする、社会に出たら『スタディサプリ』を使ってキャリア実現をする、そんな体験を生み出したいなと考えています。これからの人生100年時代、自分らしく学び、生きられる世の中を創る。その一端を担うために、これからも最高のプロダクトを創っていければと思っています。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

池田 脩太郎(いけだ・しゅうたろう)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 プロダクトマネジメント統括室 販促領域プロダクトマネジメント室(まなび) 室長

大学卒業後、2009年に入社。進路事業本部に配属。『New RING(現Ring)』を経て12年より『受験サプリ(現スタディサプリ)』の立ち上げに携わり、営業組織の立ち上げや小中高BtoB、進学情報領域のプロダクトを担当。20年より現職

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