利用規約やプライバシーポリシー管理の新サービス『termhub』の立ち上げから学んだこと

利用規約やプライバシーポリシー管理の新サービス『termhub』の立ち上げから学んだこと

リクルートが40年以上続けている新規事業提案制度『Ring』。『ゼクシィ』『スタディサプリ』といったサービスを生み出したこの『Ring』に入賞し「企業の利用規約やプライバシーポリシーの管理」というテーマで継続検討した結果、2022年10月から実証実験をスタートするサービスがある。それが『termhub(タームハブ)』だ。受け身スタンスを捨てて挑んだ新規事業に対する思いを開発者の宗田憲治、篠原孝弘に聞いた。

―『termhub』とはどのようなサービスなのでしょうか?

termhubの仕組み

宗田:アプリやWebサイトの利用規約の作成、当該Webサービスへの掲出、規約の継続的なバージョン管理、ユーザーの同意記録管理までをワンストップで行えるサービスです。

企業の利用規約やプライバシーポリシーはユーザーとの契約の一種ですが、数えきれないほどのWebサービスが存在する現在、こうした企業が管理すべき契約は指数関数的に増えています。しかしながら、利用規約は複数の画面やサービスにまたがるため、正しく運用しようとするほど、法務を中心とした管理部門の規約運用ルールやユーザー同意記録の管理は複雑になります。

このように、さまざまな画面、そしてサービスに散らばっている自社の利用規約の管理を集約し、ユーザーごとにどの規約に同意したかを一元管理できるようにするのが『termhub』です。

篠原:起案当初、さまざまな企業に利用規約やプライバシーポリシーの管理状況をヒアリングしに行きました。すると、サービス担当者が自身のデスクトップ上にフォルダを作り、そこに規約内容を保存しているというアナログな現場があったり、サービスごとに規約内容、それを管理する担当も異なり、法務担当者がその全貌を把握することすら難しいケースもあるのが実態でした。

その一方、海外に目を転じると、こうした利用規約やプライバシーポリシー、ユーザーとの同意に関する法規制が進んできているという現実がありました。今後、日本にも同様の波が来るのではないかと私たちは考えたんです。

プロジェクトを率いる篠原孝弘。「まずは法務の方々が今抱えている大変さを解消したい」
プロジェクトを率いる篠原孝弘。「まずは法務の方々が今抱えている大変さを解消したい」

―今回のように、ゼロからサービスを立ち上げる経験は過去にもあったのですか?

宗田:ふたりとも新規事業の立ち上げ経験は全くありませんでした。私も篠原も元々は広告制作の組織に所属しており、私はクリエイティブディレクターとして企業ブランディングのお手伝いを、篠原はそういった制作組織のマネジメントをしていました。人材領域を担当していたので、オンラインインターンシップのパッケージ化や採用のためのメルマガを簡単に送るサービスの開発に関わることなどはありましたが、新しいサービスをゼロから作るのは初めての経験でした。

篠原:さらに、今回私たちが立ち上げた『termhub』は、利用規約の管理システムと同意情報の管理データベースを提供するサービス。いわゆる、企業内の「法務系の方々」に活用いただくサービスなのですが、そういった「法務」に関する知識も全くないところからのスタートでした。

―新規事業の立ち上げは、通常の業務と何が違いましたか?

篠原:『Ring』を通過して、事業化検証フェーズになると、新規事業の専門知識を持った「伴走者」がついてくれるんです。その伴走者とは週1回くらいの頻度でミーティングするのですが、最初のうちはその週に調査・ヒアリングできたこと、進んだことを全て報告していたんです。だって「報・連・相」は仕事の基本ですから。

でも、なにか報告や共有するたびに「で、ふたりはどうしたいと考えているのですか?」と聞き返される。最初は、社内で日常的に交わされる「あなたはどうしたい?」という問い、よくある「リクルートの文化のひとつ」くらいに考えていました。

しかしある時、「どうしたい?」という問いの意味合いの深さが、既存事業を担当していた時とは全く違うことに気づきました。具体的にいうと、「この領域の第一人者として、ふたりはどうするのが正しいと考えているのか?」と問われていたのだ、と。

宗田:そうなんです。その時、「自分たちは会社員だけど、会社員じゃないんだ」と初めて自覚し、その時に「受け身スタンス」を捨てました。それまでは、「報告・共有する」ことで、「正解を他者に求める」という気持ちが少なからずあった。自分たちよりも経験豊富な伴走者に今時点で知りえたすべての情報を伝えた上で「こうしたらいいんじゃない」と言ってくれるのを待っていた気がします。

でも新規事業は、先人もいなければ、足跡もない。もちろん正解もない。誰もやったことがないからこそ新規事業なわけで、この領域に最も詳しくなければいけないのは、他でもない事業オーナーである私たちふたり。「このマーケットの正解を自分たちで創るしかないんだ」と、覚悟が決まりましたね。

「篠原の熱い思いをどうやって実現させるかを常に考えていますね」と語る宗田憲治
「篠原の熱い思いをどうやって実現させるかを常に考えていますね」と語る宗田憲治

―それ以降、仕事の進め方、向き合い方に関して変化はありましたか?

篠原:とにかく「前に進めること」を第一優先に判断するようにしました。前に進まない理由や理屈はいくらでもひねり出せるから。多少の不確実性があっても最終的に吸収できると判断したらとにかく前に進めようと決めました。

宗田:また、「自分たちの自尊心を守るための判断になっていないか」どうか、「自分たちの事業のための判断になっているか」どうかを常に振り返るようにしています。一度決めたことでも、間違っていると分かったらその時点で変えればいいんです。だって新規事業は、誰にも正解が分からない。その分難しいけど面白いと思うんです。

―今回、リーガルテックの先進企業である「弁護士ドットコム」との業務提携を結び、共同開発を進めていますが、どのような背景があったのですか?

篠原:リクルート社内には、私たちが今回取り扱う利用規約に関する専門的な知見がありませんでした。そこで知見をお持ちの社外の方々にコンタクトを取り、お話を聞きに行きました。そのなかのひとつとして、「弁護士ドットコム」の有識者にもダメもとでダイレクトメッセージを送ったところ、ご連絡をいただくことができたんです。『termhub』が目指す世界観からお話をさせていただき、半年間以上も議論を続けた上で、提携が実現できました。

宗田:「契約といえば捺印が必須」というのは一昔前。最近は電子署名も増えてきてはいます。しかし今後は「クリックひとつ」に代わっていくだろうという未来観とそこへの課題感に共感いただけたことも、今回、共同開発という話にまでつながった理由だと思っています。

―この先、『termhub』はどのような世界を目指しているのですか?

篠原:アプリやWebサイトを活用する際に「利用規約やプライバシーポリシーをきちんと読んだ上でサービスを利用しています」という人は、実はかなり少ないのではないでしょうか。また「記載内容も大差ないんじゃない?」と思っている人もいるかもしれません。

しかし、実際に読んでみると、サービスによってかなり内容が異なっています。その理由は、それぞれのサービスが提供したい価値やその根底に流れる思想が異なり、それを利用ユーザーに示しているのが、利用規約でありプライバシーポリシーだから。ゆくゆくは、『termhub』が各サービスの利用規約やプライバシーポリシーをより簡潔にし、ユーザーにとってより理解しやすいものにできたらいいなと考えています。

宗田:利用規約やプライバシーポリシーは、ユーザーとサービスや企業との最初の接点。だからこそ、本来は企業にとっての「名刺」であり「顔」なはず。規約の在り方に企業の態度が顕れているともいえると思っています。今後は企業の顔づくりにもっと活用することができるし、むしろ積極的にそうしていくべきものだとも思います。

規約の在り方の支援と、ユーザーフレンドリーな体験を両立できたら、世の中をさらにアップデートできる。そしてその先にこそ、「企業がユーザーと誠実な関係を構築する社会の実現を目指す」という私たちのありたい姿があると考えています。まだそのほんの一歩目、いや半歩目かもしれませんが、この挑戦にワクワクしています。

「1日中『termhub』のことを考えている。でもそんな毎日がとても充実している」と語るふたり
「1日中『termhub』のことを考えている。でもそんな毎日がとても充実している」と語るふたり

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

宗田 憲治(そうだ・けんじ)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 新規事業開発室 インキュベーション部 事業開発1グループ

大学卒業後、リクルートに入社。クリエイティブディレクターとして人材領域やまなび領域の企業のマーケティングやブランディングに携わる。現在は新規事業開発室に所属し、『termhub』の事業化に挑戦中

篠原 孝弘(しのはら・たかひろ)
株式会社リクルート プロダクト統括本部 新規事業開発室 インキュベーション部 事業開発1グループ

大学卒業後、2014年にリクルートに入社。HR領域の企画制作ディレクターや企画制作組織のマネジメントを経験。HR領域の新規サービス開発、カスタマーサクセス等のマネジメント経験を経て、現在は新規事業開発室で、宗田とともに『termhub』の事業化に邁進する

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