“ふるさと副業”は地方創生の救世主となるか?北海道『北国からの贈り物』と『サンカク』の目指す未来

“ふるさと副業”は地方創生の救世主となるか?北海道『北国からの贈り物』と『サンカク』の目指す未来

『サンカク』は、自分の力を試したい、もっとスキルを磨きたいと考えている社会人が、副業や兼業、あるいはインターンシップという カタチで、今いる会社以外の場で可能性を拡げることのできるサービス。中核となるサービスのひとつが、都市部で働く人が地方企業に副業として参画する「ふるさと副業」です。

人口減少に悩む地方企業にとっては、都会でスキルを磨きながら頑張っている若手を含む社会で活躍している方たちの力を取り込むことで、ITスキルや情報、人材不足の解消に高い期待を寄せられ始めています。こうした新しい働き方や副業という入り口から地方転職や移住の、ひいては地方創生につながる「ふるさと副業」。実際にサービスを利用して人材を受け入れている株式会社『北国からの贈り物』代表取締役 加藤敏明氏と、『サンカク』プロダクト担当者の古賀敏幹が、地方企業の現状と地方創生に向けての課題を語り合いながら、その解決のためにリクルートができることを考えてみました。

北海道弟子屈町の町おこしのため、『サンカク』を活用して副業人材の受け入れを積極的に進める加藤敏明氏

人材不足だけじゃない…地方企業の課題と背景とは?

―『北国からの贈り物』は北海道弟子屈町を拠点とする企業。まずは加藤さんからご覧になった弟子屈町の現状と、それに対して感じていらっしゃることをお聞かせください。

加藤:弟子屈町の人口は6800人。自分が子どもの頃は1万4000人が暮らしていたので、50年でほぼ半減したことになります。また昔は町内の川湯温泉が栄え、年間200万人が訪れて賑わっていましたが、昔30軒あった宿も年々減り、コロナ禍を経た今は3軒になってしまいました。

実は僕自身は高校生の頃から地元の町おこし、今で言うと地方創生に取り組みたいと考えていました。当時の課題は主に「発展の中で失われていく自然を守りたい」ということで、豊かな暮らしと自然の共存を目指す都市計画をしようと一度は建築家になったのですが、経済の衰退が続く中、建築だけではできることが限られると考え、「売上100億円の大社長になろう」と決め、水産物をインターネットで販売する会社を立ち上げました。社長になって産業を興せば、経済の活性化ができると考えたんですね。

といっても働き手のいない状況は本当に厳しく、ネット通販で売上が伸びても、地元でカニを茹でるスタッフや商品開発メンバーがいないという状況。若い人に入社して欲しいけれど、田舎ということもあってなかなか来てくれません。ただそれは、この町のよさが伝わっていないせいであり、まずは地域のよさや実際の暮らしのイメージを発信する必要があるとも考えていました。

そんなところへ、コロナ禍の影響で地方で働きたい人が増えているのを感じ、同じ頃に『サンカク』と言うサービスにリモートで仕事を手伝ってくれる人がいると知って、「これは使える!」と思ったのです。2020年のことでした。

かつては川湯温泉への観光ニーズで栄えた弟子屈町だが、50年前に1万4000人だった人口は6800人になり、宿泊施設の数も10分の1になっている
北海道 東部にある弟子屈町。北部 に屈斜路湖,摩周湖、阿寒国立公園 などがある

―実際にはどんな方を採用されたのですか?

加藤:ちょうどその翌年、『弟子屈スタイル』という組織を作り、地元の方と外の方で弟子屈の町おこしについて語り合う会議を計画していました。この会議のなかで出たアイデアを実行するためのプロジェクトリーダーを募集しました。「20人くらい採用したい!」と言ったら、古賀さんから「ちょっと多くないですか?」なんて言われながら(笑)、でも最初の募集で「弟子屈は今、こんなことに困っている」と熱いメッセージをたくさん書いて募集したら、40名くらいの応募があったんです。

古賀:案件の打ち出し方や人材要件などでこちらからもアドバイスさせていただくことも多いのですが、加藤さんの場合は副業としての関わり方や役割も明確で、アドバイスの必要がなかったですね。カスタマーの心に届く印象的な募集告知でした。

取り組み事例―『北国からの贈り物』の目指した副業希望者との素敵な関係~自分で仕事を発掘してもらう体験こそが、キャリア自律につながる

地方企業として地域活性のハブになっている好事例である「弟子屈スタイル会議」。安心で豊かな暮らしを支えるコミュニティマネージャーとともに新たな地域創生のカタチを推進中
中長期滞在向けも可能な“繋がる民宿”美里の前で。安心で豊かな暮らしを支えるコミュニティマネージャーとの一枚

―ふるさと副業で参画された方は、具体的にはどんな仕事をされているのでしょうか

加藤:『弟子屈スタイル」には「まちづくり」「一次産業の高度化」など4つの支援プロジェクトがあり、副業の方にはそのいずれかのリーダーになって欲しいと伝えました。そのうえで、2泊3日で弟子屈に来ていただき、自分の目で弟子屈を見て、地域の人と触れ合って、
何をやりたいかをご自身に考えてもらいました。「やりたい仕事を自ら決める、考える」という体験に慣れていなくて悩まれる方もいます。「社長は何をしたいですか?」と聞かれるたびに、「それを考えてみて欲しい」と戻します。そのうち、ぽつぽつと提案が上がってきて、実現のスピードは速い。最初は時間がかかるけれど、ご本人が弟子屈にとって、弊社にとって必要だと腹落ちしたことは、実現へのエネルギーが大きくスピードが全然違いますね。
募集の回を重ねるごとに、事前に得意なことややってみたいことが明確な方をアサインできるようになっていて、さらにスピードが上がっているのを実感します。

「弟子屈スタイル」会議向けにまとめられた資料より。副業者は、ここで掲げられた4つの支援プロジェクトからひとつを選び、どんな活動をするかを自ら決定、推進する

古賀:最初に「何をやるか」をすり合わせる期間がとられていて、そのなかで一緒に決めたゴール設定と役割を自分自身で担っていく、というプロセスは、副業として限られた時間内で何を実現できるか、どのように関わるかを明確にする上でも効果的ですね。

加藤:応募してくれた人の7割は、知名度の高い大手企業の、30~40代の中間マネジメント層。5年10年後にはそれぞれ本業として勤務されている企業の役員になっているかもしれないような意識の高い方たちです。そんな方々と対話をして、抱えている課題感を相談したり地域の魅力をプレゼンできるだけでも、いち地域の中小企業や自治体にとっては貴重な機会なんですね。

―“ふるさと副業“に参画された方が、本業として転職してくる、ということもあるのでしょうか?

加藤:そうですね、かなり長期的に見て、そういう方も出てくるかもししれません。もちろん最終的に移住して欲しいという気持ちはありますが。ただ、サンカクで実現したかったのはまずは「関係人口」を創ること。とにかく地域を知っていただける方を増やして、例えば将来研修旅行の行き先を考えるときに弟子屈に行こうと思ってもらえるだけでもいい。そのためにも、良い印象を与えることは意識しています(笑)。採用人数を多くしたかったのは、そういう方をたくさん作りたかったからでもあります。

『サンカク』プロダクト担当者の古賀敏幹。働く人が社外で実力を試したり、スキルを磨く機会を作ることを目指して創ったサービスが、地方創生という形でも活かされている

古賀:「関係人口」は意味の広い言葉ですが、「人と人とのつながりを作る」という点はサービスとしても強く意識しています。2017年に「社外活動がキャリアに与える影響」について調査したところ、人と人とのつながりがキャリアに対する自信を強めるという結果も出ているからです。

また加藤さんのお話を聞いていて改めて「何をやるかを決める期間を設ける」というのは素敵だな、と思いますね。というのは、先ほど主な応募者として挙がった大手企業の中間マネジメント層というのは、本業では「やりたいこと」より「やらなけれぱならないこと」に追われている方かも多いかもしれません。そういう方々が「自分で決めて、自分の力で何かを成し遂げる」経験をしたくてサンカクに登録されているのです。でも、いざ、やりたい仕事を考えよう、創ろうとすると、意外と難しくて苦しむことになる。それはとても重要な体験ですね。その先のご本人のキャリアを自律的に考えることにもつながっていく経験になると思うんですね。

そう考えると、副業したいというエネルギーを取り込みたい企業側が「副業の方にご依頼する業務を限定し過ぎてしまうと、副業者にとってそれは本業と変わらないものになってしまうのかもしれない。今聞いていて改めてそう思いました。

加藤:気づきを起点に仕事を創っていただくというやり方をしているのには、多様性を大切にしたいからという理由もあるんです。多様な方々が、それぞれが感じた魅力を発信してもらうことがその先の交流人口の拡がりにつながると思うんですね。単純にそれぞれがどんな弟子屈の課題や魅力を見つけてくれるかにも興味がありました。

副業の方には、自分の取り組みをnoteに書くことも業務としてお願いしていますが、そうやって書き溜められたものが、将来また別の誰かにとっての「弟子屈町の楽しみ方」にもなると思っています。

「弟子屈スタイル」の活動はnoteで発信。副業者の業務は、それぞれのプロジェクトを推進しながら、自らが感じた弟子屈の課題や魅力、活動内容を発信することだ

地域と副業する人の双方に成果をもたらすために必要なものとは

―企業が副業で関わってもらうことで成果を出すためのポイントは何でしょうか。

古賀:よくある副業の失敗例として、受け入れ側が副業者のことをまるで魔法使いかのように受け止め、その方に全部丸投げしてしまうということがあります。実際には実際には「強力の剣」を手に入れたと考えていただくほうがうまくいくかと思っています。武器はあくまで武器であり、使いこなせるかどうかはその人次第。力を発揮してもらえるかは受け入れ側次第でもあります。

北海道弟子屈町の町おこしのため、『サンカク』を活用して副業人材の受け入れを積極的に進める加藤敏明氏

加藤:あれもこれもと期待し過ぎるのはいけませんね。受け入れ側としてはあくまで副業の範囲で関わっていただいていることを理解し、余力の範囲で経験、スキルを身につけたいという副業者の気持ちに寄り添うことも大切。雇用者と被雇用者という主従の関係ではなく「パートナー」として、互いのリソースを交換しながら今までになかったものを生み出すつもりで、長期的なスパンで結果につなげたいと思っています。

古賀:同時に副業者にも、「仲間」「パートナー」という意識を持つことが重要だと思います。「手伝っています」というスタンスではなく、自分に責任を持ち、バリューを発揮する意識がないと受け入れ企業への貢献やご自身の成長にはつながりにくいかもしれません。

サンカクとしても、副業者への副業としてどのような貢献や成長を目指していくかを考えていくように意識醸成をしています。これは今後の課題でもありますが。

加藤:サンカクの契約更新は3ヶ月ごとですが、地方創生は息の長い取り組みです。5年、10年、30年後にどうなってもらいたいかを考えるのも、経営者の大事な役割だと思います。

『サンカク』を活用して副業人材の受け入れを積極的に進める加藤敏明氏と、『サンカク』プロダクト担当者の古賀敏幹。取材日には、今まで語られることのなかった意外な思いも語られた

ふるさと副業の未来~働く人のエネルギーが集まれば、地方創生の力にもなる

古賀:地方企業での仕事のなかには、現地で働く仕事とリモートでもよい仕事があり、サンカクは主に後者のニーズに応えるサービス。でもこれが進んでいくと、リクルートオールで「現地で働く」ニーズを拡大していく道もあると考えています。ニワトリかタマゴかという話で、今は現地に産業がないので人が減ってしまう、人が足りないから産業が維持できないという課題に向き合っている状況だと思います。ですが、サンカクによってさまざまな人の力を地域産業に取り込むことによって企業力と地域全体が活性化し、さらに新たな雇用が創出されていくという、次のステップに進めればよいと思っています。

加藤:サンカクを利用してみて感じるのは、地方創生に関心の高い人は多いけれど、どこで何をしたらよいか分からないと感じている人も多いということです。自治体全体で移住者や地域への転職者を増やそうとしていますが、やはり地域全体でやろうとすると時間がかかります。だからこそ民間企業にとっては、優秀な人と一緒に仕事ができるチャンス。地域の経営者にはまだ、「雇用しないと仕事が任せられない」とか「リモートでは成果が出ないのでは?」という意識もありますが、それも変えていく必要があると思います。

古賀:そこに向けては我々も地道に啓蒙活動を進めて行くしかないと思っています。しっかり事例を積み上げて、日本中の企業に知ってもらうしかない。そこをサボっちゃいけないと思います。

実は「何をしたらいいか分からない」というのは、自分がまさにそうだったんです。なんとなくエネルギーはあるんだけど、「地方創生」なんて言われると、ちょっと意識が高過ぎてピンとこなくて…。でも考えているうちに「自分の地元・和歌山の力には、めちゃくちゃなりたい!」と思っていたことに気づいたんですね。そういう身近な地元への思いのようなものが100万人分集まったら、それは地方創生になるじゃないかと思って創ったのがふるさと副業でもあるんです。

加藤:古賀さんにもそういう熱い思いがあるのを聞けてよかったです!実際うちの会社でも、北海道出身の方はマッチしやすいんですよね。今後はUターン希望者向けの枠を作るのもよいかもしれないなどと考えています。

弟子屈スタイルのプロジェクトも進み、今は募集の内容も具体化してきています。例えば弟子屈町ではワイナリーができて、農業をしたい方を募集しています。プロジェクトが進んで具体化してきたことで今までとは職種が生まれたわけですが、サンカクも、そういう変化に対応できる長期的なマッチングサービスになっていってくれると嬉しいです。

「サンカク」を活用して副業人材の受け入れを積極的に進める加藤敏明氏と、「サンカク」プロダクト担当者の古賀敏幹。今後のサービス展開予定も含め、未来像についても改めて共有した

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

加藤敏明(かとう・としあき)
株式会社『北国からの贈り物』 代表取締役社長

北海道生まれ。1991年東京都立大学大学院修了後、TAK建築研究所にて公共建築や都市計画などの国家プロジェクトに携わる。1998年現・株式会社北国からの贈り物を創業。楽天市場、Yahoo!ショッピングにて年間グランプリを連続受賞し、EC業界のリーディングカンパニーに。海外事業では台湾・シンガポール・香港など中華圏を中心に北海道商品の輸出事業で成功を収め、「HOKKAIDO SHOWCASE」事業やアジア経営者会議の誘致などにも貢献した。2017年 HIDO(北海道国際流通機構)を設立。 2018年 WAOJE東京支部 設立に関与し、2020年 同支部長に就任。著書に「Eコマース成功の条件」「TOP0.1%の条件 ECビジネス成功者たちの志力」。

古賀敏幹(こが・としき)
株式会社リクルート HR本部 HRエージェントDivision ソリューション統括部 ソーシャルリレーション推進部 サンカクグループ

東京工業大学大学院修了。大手電機メーカーにソフトウェアエンジニアとして入社し、新規事業開発を担当。この期間、NPO法人を通じて3ヶ月間のプロボノ活動に参加し、パラレルキャリアの可能性を感じる。その後、『サンカク』立ち上げのタイミングで株式会社リクルート(旧リクルートキャリア)に転職、サンカクのプロダクトおよび事業開発を担当する。現在は、「社会人のインターンシップ」「ふるさと副業」の立ち上げなど、社会人の社外活動を支援するサービスに取り組みながら、企業の経営支援や採用ブランディングの支援も行っている。

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