飲食業界の人手不足はリクルートから解決策を提示。時給UPだけでなく、DXと働き方改革が効く!

飲食業界の人手不足はリクルートから解決策を提示。時給UPだけでなく、DXと働き方改革が効く!

厳しい採用環境のなか、コロナ後の求人回復期を迎えた飲食業界では、慢性的な人手不足の解消が喫緊の課題。コロナ禍に伴う会食自粛も一段落し、忘年会・新年会などの宴会需要には回復の兆しが見えます。一方、飲食業界からは「社長自ら厨房に立ち、やっと店を回している」「人手が足りず思うように予約を受けられない」といった“悲鳴”も聞かれています。

そこで今回は、メディア関係者向けオンラインレクチャー「コロナ後の求人回復期におけるフード業界の雇用動向~年末年始以降、人手不足への対応策とは?」(2022年11月開催)をレポートします。
Indeed Japan株式会社Hiring Lab エコノミスト 青木雄介、リクルート ジョブズリサーチセンター センター長 宇佐川邦子、リクルート 飲食Division総合企画部 赤嶺征志の求人・求職情報に向き合う3人が事例を交えながら、時給アップだけでは対応できない飲食業界の人手不足を解消するふたつの戦略―働き方改革・DX化について解説します。

コロナ禍を経験した「飲食業界」の人手不足の課題と背景

―コロナ禍を経て求人回復期を迎えた今、飲食業界の雇用動向とは?

青木:Indeed Hiring Labエコノミストの青木雄介です。まず、Indeedの求人割合と検索割合のデータを基に、飲食業界のトレンドを見ていきたいと思います。

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青木:飲食業界の求人割合は、第1回目の緊急事態宣言時の2020年4月、2021年の1月は非常に低い水準でしたが、それ以降は順調に回復しています。職種全体の回復に比べると差があるものの、2022年5月以降は、コロナ禍前を上回る水準となっているのが分かります。

今後についても例年の傾向通り、宴会シーズンには求人割合が増加すると私たちは見ています。

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青木:一方、飲食業界に対する関心度合いを表す検索割合に関しては、減少の一途をたどっており、2019年からの調査で2022年が最も低い水準です。しかし、年末年始などの繁忙期に合わせて求職者の検索割合が増加し、関心の高まりが感じられます。

―現在、飲食業が抱える人材不足の根本的課題とは?

宇佐川:リクルート ジョブズリサーチセンターの宇佐川です。飲食業界の課題として挙げられるのは、「シフト充足率の向上」と「小規模化した宴会ニーズへの対応」の2点だと考えています。

まず1点目の課題、シフト充足率の向上に関しては「賃金水準の低さ」と、先ほども話があった「飲食業への関心離れ」による人材獲得の難易度が上がっていることが原因として挙げられます。

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宇佐川:リクルートで調査している「アルバイト・パート募集時平均時給調査」によると、三大都市圏の飲食業を含むフード系募集時平均時給は2022年4月以降、7ヶ月連続で過去最高金額を更新中です。

しかし、平均時給としてはまだ他業界よりも低い水準にあります(2022年10月度は全体平均1,151円、フード系1,088円)。観光や小売といった別業種との人材獲得競争にさらされている一方、求人数もコロナ禍以前の水準に戻った今、飲食業が人材を確保していくためには、今後も時給引き上げは必要になるだろうと予測しています。

次に、飲食業のアルバイト・パートのシフト充足率を他業界と比較したデータを紹介します。

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シフト管理サービス『Airシフト』のデータによると、飲食業は小売や旅行・宿泊など他業界のシフト充足率に比べて低い充足率となっています。飲食業が時間帯によって大きく繁閑差のある業態であることを差し引いても、他業種に比べて非常に強い人手不足感を抱えながらの店舗運営をしていることが想像できます。

また、コロナ禍の営業自粛によって一時的に人員数を減らしてしまった名残りで、ひとり当たりの労働時間増に頼って人員補充をせず、時にはオーナーや社員なども厨房やフロアに立ち、なんとか運営をしているという悲鳴も聞こえてきています。

シフトの未充足を解消するには、来店者側のニーズ(来店が集中する時間帯)と働くスタッフ側のニーズ(シフトに入りたい時間)を、うまく組み合わせることが必要です。朝ならシフトに入れるという方とうまくマッチングして、コロナ禍で業務効率が悪くなってしまった深夜営業やランチをやめて、朝食サービスを始める…など工夫を凝らした事例も出始めています。

―飲食店にとって繁忙期に増える「宴会」の形態も、コロナ禍で大きく変化しているのではないでしょうか?

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赤嶺:『ホットペッパーグルメ』の赤嶺です。「ホットペッパーグルメ外食総研」で調査した忘・新年会(忘年会・新年会)の延べ回数の比較データを見ると、2020~21年と比べ2021~22年は1万件程度増加。コロナ禍に伴う会食自粛傾向は一段落し、忘・新年会などの繁忙期需要が回復してきていることが分かります。

一方、忘年会組人数比較を見ると、2019~20年には平均の忘年会組人数が21.6名だったのに対し、2020~21年、2021~22年は平均が10名未満。かつ、4~5名が圧倒的なボリュームゾーンとなり、小規模宴会化していきていることが感じられます。

これまでの50名の宴会1組を切り回すスタイルから、感染対策を考え、個室に分かれた複数の宴会を行き来しながら、一人ひとりに料理を配膳するスタイルへの変更が余儀なくされています。宴会時期の従業員の負担が、こうした理由から大幅に増加していることが予想されます。

飲食業界のシフト充足率が他業界に比べて低いなか、小規模宴会ニーズ対応でのオペレーション負荷が増大していることを考えると、短期・長期両面での対応検討が急務だと感じています。

時給アップだけでは人材確保の課題が解決しない理由―“働く人の気持ちの変化”

―飲食業の平均時給は上がり続ける一方で、人材確保の課題が解消しない背景には何があるのでしょうか?

宇佐川:時給アップだけで人材確保の課題が解決しない理由として、働く人の気持ちの変化が挙げられます。「飲食業で働きたいという方を増やし、離職を減らす」このふたつを実現するためにリクルートが調査した「飲食業のイメージ、離職理由」のデータを紹介します。

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宇佐川:飲食業で働きたいという意向を持つ人に、業界のイメージを聞いたところ「多くの人と交流できる」「人から感謝される」などが上がりました。一方、飲食店従業員に辞めたいと思った時の理由を聞くと「昇給の見込みがない」「体力的にきつい」という回答が多いのです。このデータから見ても、肉体的な負荷の大きさが、採用・定着の壁となっているため、長時間労働や休日出勤の解消を通じて負担軽減を検討することが必要です。また、感染への不安から就労をためらう人も相当数存在したので、求人の際は感染予防を徹底しているというメッセージの発信も、人材獲得と定着の鍵になりそうです。

―現状を打破する具体的な秘策はありますか?

宇佐川:宴会シーズンでもある繁忙期に向けた短期的な対策として考えられるのは、短時間のシフトを設け、忙しい人手の必要な時間帯と働き手のニーズの「ミスマッチ」を解消することが必要だと考えています。

以前のように繁忙時間帯を含めた週5日・8時間のフルタイム勤務の人材確保は難しいため、繁忙時間帯にあわせて週1~2回・1日2~4時間で働いてくれる人材、つまり、育児・介護などと並行して働きたい人、短時間で働きたい学生・シニア層などを取り込む必要があります。

こうした細切れのシフト組みを実現するには、何時から何名程度の来店客が想定され、それに伴ってどういった業務が発生するのか、また、その業務にスポットで入ってくれる人が即戦力として働けるようにするにはどこまで業務を細分化すればいいのか。結果、時間帯別に何名ずつ人員が必要になるのかなどを、緻密に計算しておく必要があります。

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青木:Indeedの検索動向調査によると、飲食業の求人検索割合は前年同月を下回るものの、「高校生」というワードは検索上位3位以内に入っています。この背景としては、コロナ禍で家庭の収入が減ったり、部活の休みが増えたりしたことで、高校生がスキマ時間に働きたいというニーズが高まっている可能性があると考えています。

宇佐川:Indeed同様、『タウンワーク』でもコロナ禍に入ってから高校生・シニアという検索ワードは常にTOP10に入っている状態です。飲食店は高校生にとっての初のバイト先となることも多いため、高校生の方々が活躍できるような仕事の場を創っていきたいと考えながら、私たちも調査・研究に取り組んでいます。

働き方改革とDX事例。人手確保に効くふたつの処方箋

―人手不足を解消する秘策とはどのようなものでしょうか

宇佐川:働き方改革とDXのふたつです。働き方改革では、仕事を探している高校生・シニアなどの人材層にフィットする業務を働きやすい時間帯に切り出すこと、繁閑差に着目して、短時間シフトを細かく組んでシフトの充足を目指すことなどです。

DXについては、心身ともに負担がかかっていた業務をデジタル化してストレスから解放するということを目指します。その代わりに、お客様との交流などモチベーションを感じる業務に集中してもらう環境設定、育成に割ける時間を捻出することが重要です。

働き方改革とDXに成功された事例を交えて紹介します。

事例1)働き方改革で、シフトのミスマッチを解消! ―コンパスグループ・ジャパン株式会社

宇佐川:高校生・シニアを採用するには、短時間シフトと業務切り出しによる業務のシンプル化が欠かせません。これらふたつに取り組み、採用成功につながった事例を紹介します。

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コントラクトフードサービス(給食事業)を展開するコンパスグループ・ジャパン株式会社(東京)はこれまで、早朝・夕方を中心に調理補助のアルバイトを週5日、1日7時間勤務ができる主婦をターゲットに募集をしていました。

しかし、夕方の時間帯の人数を確保するため週2~3日、1日4時間の短時間シフトを設け、業務内容も包丁を使った調理から、簡単な業務、および学生の4時限目終了(16:30)に合わせて「17時からの勤務可」とし、「少人数・接客なし」という働きやすい業務に変更。

すると募集開始から2週間で、大学生を中心に55人もの応募がありました。同社はさらに一部の業務を早朝へ切り出し、「朝の時間を有効活用」「働くことは体にもいい」などとアピールすることで、シニア層の獲得にも成功しています。

短時間での勤務と業務切り出しによるシンプル化を図れば、現状の求人市場でも十分人材確保ができると分かる良い事例です。

事例2)業務のデジタル化で心理的負担軽減とやりがいを感じられる環境づくり―株式会社まんてん

宇佐川:人間が担ってきた業務の一部にデジタルを導入し、本来希望していた接客業務に集中できる環境をつくるDXがテーマです。結果、接客サービスの向上、マーケティング力強化を実現した、焼き肉店を展開する株式会社まんてん(東京)の事例を紹介します。

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宇佐川:同社が導入されたのは、来店者がスマホで料理を注文する『Airレジ オーダー』セルフオーダー機能です。注文を受ける作業をなくした結果、来店者と従業員双方にとってストレスの種だった「オーダーミス」や「呼んでも店員が来てくれない」というクレームが減少しました。

さらに従業員が肉を良い状態に焼き上げる、客席でおすすめを説明するなど人にしかできない価値を発揮しつつ来店客と関わる時間や、従業員同士のコミュニケーションも増え、従業員満足度が向上。サービスの質も高まり、DXにより削減できた人件費を還元するなど、数々の成果が表れています。

―こうしたDXのツールについて他にどんなものがありますか

赤嶺:他には、入店時の席の場所をタブレットなどで示す『レストランボード』の『セルフチェックイン』、『Airレジ オーダー』のセルフオーダーによる会計時の無人レジ、『Airメイト』という業績と人件費の振り返りをするツールなどが挙げられます。これらのデジタルツールにより、ホール店員の業務をほぼ接客だけにし、飲食業を希望する方が本来注力したい業務に集中できる環境を整えている企業も数多くあります。

ツールの導入によって従業員の希望を満たす働き方ができれば、従業員のやりがい・意欲が高まり、離職率が下がって習熟度の高い人材が増加し、店舗のサービスレベルが向上。すると顧客満足度も高まり、リピート率が上がって業績もアップする、という好循環につながっていきます。

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ES(従業員満足度)がCS(顧客満足度)につながり、それが業績の向上につながっていく流れが実現可能です。さらにDXによって発注内容や顧客の来店状況が可視化されるため、マーケティングへの展開ができるというメリットもあると考えています。

―一方、DXに向けたのツール導入だけでは解決しないこともありますね。

赤嶺:はい。とくに最近では、キーパーソンとして店を切り回す「ベテランバイト」が減少する一方、スポット的に超短期で店舗に入るアルバイトが増加している現状があります。スポットの新人を「即戦力」として活用するには、かつてのベテランのアルバイトの方が担っていた業務を細かく分解し、業務をシンプル化することも同時に進めなければなりません。

デジタル化を進められれば、機械と人で業務を分けられる。その分、人は接客業務に集中して高い満足感が得られます。また、混む時間帯、スタッフが余る時間帯をデジタルで正確に把握でき、シフトの充足率を上げることにも役立ちます。

その上で、業務ごとに分かりやすいマニュアルを準備できれば、「今日初めて店に立つ」というアルバイトがいても円滑なオペレーションが可能になるでしょう。人材確保が難しい現状を乗り切るためには、こうしたお店ごとの課題に応じて、デジタルツールを可能な限り導入することが肝になると、私たちは考えています。

宴会の小規模化でさらに繁忙化する時期には、限られたスタッフ数で対応できる体制が必要です。売上を確保するためにも、業務のシンプル化、マニュアルの整備、短期間でのアルバイト育成など、育成への投資が欠かせません。

飲食業の変化と未来―「筋肉質な体質改善」が未来へのカギ

―飲食業が離職を減らすために短期・中長期的観点でできることはありますか?

宇佐川:コロナ禍では欠員補充をあきらめ、一人ひとりの勤務時間を増やして運営するという選択をする飲食店も多くありましたが、行動制限が解除されている今、さらなる体質改善への取り組みが始まっています。短期的には、先程紹介した短時間シフト化・業務切り出しによるシンプル化やDXによって、短時間でも働きたいという人たちを取り込んでいくこと。中長期的には、飲食業で「自分らしく働ける」「やりがいや働く喜びを感じる」働き方の提供、生産性を高めるための人材育成に取り組んでいくことが重要です。

飲食業の離職理由にあった、「給与や収入の伸びに対する不満・キャリアの将来性」という部分を払拭するためにも、まずは継続的なコミュニケーションを取ることが重要です。加えて新メニューの開発を任せる、新人教育などのやりがいある業務・役割の提供と、スキルを可視化して適正な評価をすること。

これらの取り組みを踏まえて、飲食業界で成長できるキャリアパスを整備することも必要だと私たちは考えています。

赤嶺:コロナ禍を機に各飲食店が生き残りへの危機感を強めています。大規模店を展開していた飲食チェーンが家賃コストを抑えるためスクラップ&ビルドで小規模店へと業態転換したり、利益を出せるように「筋肉質」な経営を目指してDXや人材育成への投資などに積極性を持って取り組み始めています。こうした飲食業界の企業は増えていくのではないかと期待しています。

宇佐川:この人手不足解消に向き合うことを機会に、制約がある潜在労働力を活用したシフト運用や、従業員のやりがい創出と育成による生産性の向上、DXによる業務効率化、経営効率化など、新たな飲食業界の取り組みを応援していけたらと思っています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

青木雄介(あおき・ゆうすけ)
Indeed Japan株式会社Hiring Lab エコノミスト

外資系コンサルティングファーム等でエコノミスト・データサイエンティストとして政府・民間・司法機関に向けた経済統計分析及び報告書作成に従事。 2022年8月より現職。Indeedのデータを活用してOECD及び日本の労働市場を分析し、外部関係者に向けて分析結果・インサイトを発信している

宇佐川邦子(うさがわ・くにこ)
株式会社リクルートR&D次世代事業開発室 兼 株式会社リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター センター長

1992年にリクルートグループ入社後、一貫して求人領域を担当。2014年4月よりリクルートジョブズの調査研究機関であるジョブズリサーチセンターにてセンター長を務める。求人・採用活動、人材育成・定着、従業員満足のメカニズム等、「雇用に関する課題とその解決に向けた新たな取り組み」をテーマに講演・提言を行う。2017年2月よりリクルート次世代事業開発室にて「からだ測定」の開発も兼務

赤嶺征志(あかみね・せいじ)
株式会社リクルート 飲食Divisions総合企画部 法人営業2グループ グループマネジャー

リクルートグループ入社後、一貫して飲食領域を担当し、飲食店の新規開拓や大手チェーンの販促支援に従事。現在は全国チェーン店担当の営業およびカスタマーサクセス部署のマネジャーを務める

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