住宅確保要配慮者を含めた全てのカスタマーのために、不動産会社やオーナーとともに挑戦する『SUUMO賃貸』

住宅確保要配慮者を含めた全てのカスタマーのために、不動産会社やオーナーとともに挑戦する『SUUMO賃貸』
カスタマープロジェクト参加メンバーの従業員たち。左から香美 諒、浅尾碧城、楠原李菜。全員が自ら希望してプロジェクトに参加し、仕事との両立に挑戦中

賃貸住宅のお部屋探し情報サイト『SUUMO賃貸』を運営する賃貸Divisionでは、2021年10月に「カスタマープロジェクト」を開始した。政府の住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律の策定を受け、高齢や外国籍、シングルペアレントなど住宅確保のために何らかの困難を感じている方々のために、SUUMO賃貸としてできることは何か? をプロジェクトで話し合い、打ち手を検討してきた。今回は、そのプロジェクトメンバーから、北陸エリアの営業担当者でもある浅尾碧城さん、首都圏エリアの営業担当である香美 諒さん、非対面営業チームリーダーである楠原李菜さんの3名にプロジェクトの軌跡と目指す未来について語り合ってもらいました。

1)「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」と賃貸業界が向き合う社会課題とは?

賃貸Divisionで開始された「カスタマープロジェクト」は、半期ごとに立候補制でメンバー募集を重ね、2022年10月に3期目を迎えました。開始当初35名だったメンバーは、現在90名、25チームの大所帯に。プロジェクト発足の背景にあるのは、賃貸Divisionの掲げるミッション「百人百通りの住まいとの出会いを、もっと豊かに。速く。日本中に。」。この新ミッションステイトメントの検討プロセスで、「現状のサービスには住宅確保要配慮者への視点が不足している」という反省が生まれたことから。「ひとりでも多くの方に、もっと速く、納得感のあるお部屋探しができる世界の実現を目指す」という趣旨に多くのメンバーが賛同している。プロジェクト参加者は、まずカスタマー理解のために、当事者研究のためのチームに所属。法令(「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」と国土交通省令)で「住宅確保要配慮者」として定められている考え方をベースとした、「シングルペアレント」「外国籍の方」「高齢者」「LGBTQ」「障がい者」「生活保護受給者」などの6属性を検討するチームが設置されている。

―皆さんは、自ら志願してカスタマープロジェクトに参加されたわけですが、どのような課題意識を持って参加されたのですか?

楠原李菜。入社以来8年間同じ部署で経験を積んだ楠原にとって、プロジェクトへの挑戦は新しい視点を得る経験でもあった。

楠原:仕事とプロジェクトの両立ができるか心配でしたが、身近な体験からプロジェクトに興味を持ちました。実は、私の母は離婚をきっかけに一時期、生活保護を受給していたことがありました。久しぶりに会った時に住んでいた部屋は以前と違い古く狭いものでした。以前なら、たくさんあった選択肢も離婚で世帯所得が下がったことで狭まり、家探しが一気に困難になりました。同じように課題を抱えている方々にとって、もっと家を探しやすくするためにはどうすれば良いのか、という問題意識があったのです。

浅尾:私は、自分のファーストネームが「たまき」という読み方なので、女性に時折間違えられるという経験や、料理やメイクなどに関心もあったことなどから、もともとジェンダー問題に関心を持っていました。このプロジェクトでLGBTQの方々のご支援も対象とすると聞いた時、仕事を通じてこうした問題に取り組めるのであれば、ぜひ参加したいと考えたのです。またプロジェクトの主旨のなかで「本業のなかで実効性を持って取り組んでいきたい」というアナウンスがあったことにも共感しました。社会課題の解決には、ボランティアだけではなく、本業として取り組んでいくことも重要。こうした活動には社会的影響力や継続性も必要だと感じていたからです。私も普段の業務とプロジェクトの両立ができるか迷って、手を挙げることを躊躇しましたが、どうしてもやってみたいと思い、決心して手を挙げました。

香美:私も、まさに「本業のビジネスとしてどんな挑戦ができるか」という言葉に共感して参加を決めました。もともと「事業を創る」ことに興味があり、普段の業務を離れて新たな経験を積むことで、「できること」の幅を広げられるのではないかと思ったのです。プロジェクト参加時には、6つの属性検討チームのなかから主に取り組む分野を選ぶことになっていたので「外国籍」の方を対象としたチームを選びました。その理由は、今後を考えると日本に居住する外国人は増加する見込みですし、海外では既に外国籍の受け入れも進んでいて事例もあるはず。比較的早く仕組みを作れるのでは? と思ったのです。でも、それが浅はかな考えだったことがすぐに明らかになるのですが…(笑)。

2)現場に自ら飛び込む! プロジェクトメンバーが見つけたファクトの数々

香美 諒。プロジェクトでの経験を通じて自分自身のできることの幅も広がっているのを感じているという。

―属性別の検討チームでの活動はどうでしたか?

香美:最初にプロジェクトに参加する際には、まず属性別の検討チームに参加します。その後はメンバーが各々やってみたい「打ち手」を提案し、その案件単位でチームを作って活動していきます。案件とは、浅尾さんが現在進めている「ウェビナー(動画)製作」や、楠原さんが取り組んでいる「ベストプラクティス アワード」のことを指します。現在、各属性の検討チームと合わせて全部で24のチームがあり、新しいチームも生まれつつあります。私は、システム開発が必要な案件を管理、調整する「案件リリース戦略室」や、各チームが進捗を報告する年4回の「定期報告会」を運営するチームにも所属しています。

―「参加時には属性別検討チームから参加する」のはなぜなのでしょうか?

浅尾:プロジェクトの方針として「知ったかぶりをしない」、つまり「当事者に学ぶ」ということを徹底しているからです。それぞれのカスタマーの属性ごとの「困りごと」に対して、当事者としっかりと向き合うことで、自分自身の常識や思い込みを取り払う必要があるということで、このような仕組みになっています。

楠原:自ら現場に飛び込んで当事者と接点を持ってみると、本当にいろんなことに気づかされます。私は、身近な事例があったので、生活保護属性の検討チームに参加しましたが、実際にはさまざまな理由で生活保護を受けている方がいて、自分の理解は上辺だけだったと感じました。例えば離婚や借金による離散などの家族問題、高齢、障がい、疾病などさまざまな背景がありますが、抱えている課題には共通するものも多い。これをどう分類して解決すべきか、まだ答えが出ていません。

香美:先ほど「自分の考えが浅はかだった」とお話ししましたが、これはまさに、当事者に学ぶなかで痛感したことです。外国籍の方の属性検討チームに参加して、実際に家を借りようとしている外国籍の方や外国籍の方向けのサービスに取り組んでいる不動産会社の方に話を聞きに行きました。最初に伺った先では、ビザの種類やそれに伴う就労ルールひとつ取っても、自分自身にそもそもの前提知識がなくて全く話についていけず、恥ずかしい思いもしました。また、日本では部屋の契約をするには職に就いている必要があるけれど、逆に仕事を探すには住所がないとエントリーできないという矛盾があり、その狭間で困っている方がたくさんいることにも気づかされました。外国籍の方向けのお部屋探しに力を入れている不動産会社では、ご本人を空港まで迎えに行き、その足で住民登録のために自治体を回り、携帯ショップに行ったりと、日本での生活を支えるインフラ支援まで行っているところもあるのですが、直接話を聞いてみて初めて、その必要性を知りました。プロジェクトに参加した当初は、自分の無知さや当事者の抱える不の大きさに心が折れそうになったこともありました。でも、そこはリクルートで鍛えた営業魂! で、多少恥ずかしい思いをしても、自ら現場に飛び込んで話を聴き、分からないことは素直に質問して一つひとつ教えていただきました。そうこうするうちに社外にはだんだんと、プロジェクトに協力をしてくださる方や、いろいろな方を紹介してくださる方など、応援団が増えていった気がします。

浅尾碧城。プロジェクト発足時から参加したかったが、まだ入社半年の新人だったため、まずは通常業務に慣れてからと考え、半年後の第二期から参加した。

浅尾:私の取り組んでいるLGBTQの属性検討チームでは、逆に問題が表層的には見えにくいということが難しさだと感じています。現状ではお金がないわけではなく、仕事がないわけでもなく、賃貸契約もできないわけではない。しかし、例えば男性同士ふたりで入居したい場合、それは「ルームシェア」として扱われることが多く、本当は1LDKでよいのに2LDKを勧められたりするのです。入居時の年収審査なども、男女の未婚カップルや夫婦ならふたりの合算で判断するのに、ルームシェアとして扱われる場合、どちらかひとりが出ていってしまう可能性を勘案し、代表者1名の年収で審査されたりします。お部屋探しのプロセスのなかで不都合が積み重なり、その一つひとつが当事者にとって心理的負担になり、結果、部屋探し自体をあきらめてしまうケースも多い。仲介会社と当事者とのコミュニケーションギャップを埋めながら、「快適なお部屋探しができる」ようにすることが、最も実現に近い課題のひとつだと分かってきました。

3)現在進行中の案件が続々。まずは視覚障がいの方や車いすユーザーの方向け情報発信を改善

―具体的な施策としてはどのようなことが進んでいますか?

住まいに関するさまざまな情報を紹介する『SUUMOジャーナル』の連載企画『百人百通りの住まい探し』は、カスタマープロジェクトの成果を記事にしたもの。これもひとつのアウトプット
住まいに関するさまざまな情報を紹介する『SUUMOジャーナル』の連載企画『百人百通りの住まい探し』は、カスタマープロジェクトの成果を記事にしたもの。

香美:プロジェクトメンバーたちが現場に飛び込んで、当事者と出会いながら集めた課題感を基にした、『百人百通りの住まい探し』という連載を 『SUUMOジャーナル』で開始しています。お客様である不動産会社や賃貸物件オーナーだけでなく、身近に住宅確保要配慮者に該当する方がいらっしゃる方や、ボランティアなどに携わっている方々からも大きな反響をいただいています。

浅尾:私は今、不動産会社の方々向けにカスタマ―属性ごとの不とニーズの理解を深めていただく施策を検討しています。まずは、LGBTQに関する基礎知識や接客に期待することなどの要望をまとめたウェビナー動画をリリースさせていただく準備をしています。

香美:そのほか第一弾としてリリースが決定している案件は、視覚障がい者の方と車いすユーザーの方に向けた情報提供の改善施策です。こちらはSUUMO賃貸で、実験的な実装を開始しています。『SUUMO賃貸』には動画で掲載している物件情報があるのですが、これに音声を追加することで視覚障がい者の方の情報収集を支援できるのではないか、と考えています。視覚障がい者の方の賃貸物件の仲介に実績のある企業に、掲載物件に音声データも追加いただくご依頼も進めています。知見のある企業の取り組みを我々が学び、広げていけたらという活動の一環です。また、車いすユーザーの方が賃貸物件を選ぶ際に知りたいのは、室内の廊下が車いすで通れるようになっているかでした。写真や間取り図だけでは、なかなか詳細が分からず困っているという声を受けて、「バリアフリー」の実態が分かるように、クライアントに車いすと同じ幅の実寸大のマットをお配りして、物件の室内に敷いていただいた上で写真を撮影いただくご依頼を進めています。車いす生活に対応した室内であるか、が分かりやすくなる情報提供に挑戦しています。まずはこのように、ちょっとしたお手伝いで「快適にお部屋探しができる」ように、私たちができることから順次リリースしていけたらと考えています。

廊下に車いすと同じ幅のマットをクライアントに無料配布。実際にこのマットを敷いて、物件の室内写真を撮影いただき、それらをSUUMO賃貸に掲載することで、「この家は室内で車いすを使える家かどうか」を判断してもらうことができるように
廊下に車いすと同じ幅のマットをクライアントに無料配布。実際にこのマットを敷いて、物件の室内写真を撮影いただき、それらをSUUMO賃貸に掲載することで、「この家は室内で車いすを使える家かどうか」を判断してもらうことができるように

楠原:私のいる「ベストプラクティス アワードチーム」では、不動産会社や賃貸オーナーや支援団体などへ、住宅確保要配慮者に向けた取り組みを表彰するアワードの創設に向けて動いています。積極的に取り組んでいらっしゃる不動産会社を公開し、カスタマーから支持された取り組みを表彰させていただくことで、業界内での知見のシェアを促進し、こうしたムーブメントを拡げていきたいという考えです。まずはフィジビリティとして、カスタマーの声を集めることを検討開始しています。本当の意味で当事者にとって望ましいコミュニケーションとは何か? を考え、整理していくために、実態調査も行っていきたいと考えています。また、同時に、住宅確保要配慮者対応に積極的な不動産会社の取り組み内容をまとめた「ベストプラクティス集」作りも考えています。その「ベストプラクティス」は、私たちが選ぶものではありません。当事者の方々の声を集めて、より良い支援につながるようにしていく必要があると考えているからです。

4)1歩ずつ進めたい。未来に向けて「私たちができること」

LGBT基礎知識をまとめたウェビナー(動画)製作に携わった浅尾(右)をはじめ、プロジェクト参加メンバーのそれぞれが自身の成長を感じている

―ここまでの取り組みで感じていること、今後に向けて考えていることを聞かせてください。

浅尾:とにかく体当たり、手探りで進めてきたプロジェクトや属性検討チームの活動でした。LGBTQのカスタマー理解のための動画製作によって、この活動をひとつ形にできた、微力ながらカスタマーの支援ができるかもしれない…という手応えを感じはじめています。今後は、この活動をどう持続可能な形で社会に実装していけるかが課題です。社会課題への取り組みや解決は『SUUMO』だけでは実現することはできません。当事者はもちろん、さまざまなステークホルダーの方々やお客様である不動産会社や賃貸物件オーナーの方々とも協働することができれば、より実現性が高まると考えています。これからもこうした、広く深いつながりを作っていければと思っています。

楠原:実は私は昨年上期、業務が忙しくなってしまい、プロジェクト活動との両立が難しくなったこともあって、プロジェクトを辞めようかと思ったんです。ですが今こうして、いくつかの案件にGOサインが出て実際に動きはじめているのを見ていると、やはりこのプロジェクトの未来を見ていたい、と感じています。もともと、すぐに答えの出ないような課題を一歩一歩解決していくプロセスが好きなんです。私の担当しているアワード検討チームでも、大きな概念から整理していくことで少しずつ道筋ができつつあります。また、ベストプラクティス集めについても、だいぶコンセプトが固まってきて、これから具体化されるフェーズにあります。アワードによってムーブメントが拡がれば、現状どうお部屋を探して良いのか分からない人が「この不動産会社に行けば良い」と分かるようになる。それはまさにカスタマー目線でプロジェクトに参加した私にとって、最も嬉しい成果です。

香美:これまでもSUUMO賃貸では、カスタマーに住まいの選択肢を提供し、一人ひとりが「納得できるお家選び」を支援してきました。今回のプロジェクトでは、これまで住まい探しをあきらめていたかもしれないカスタマーに新たな選択肢を提供することを目指しています。これからも、プロジェクトからリリースできる案件を増やし、住宅確保要配慮者の方々にとってより良い住まい選びのお手伝いができると良いと思っています。個人的には、プロジェクト活動を通じて「リクルートで新たなビジネスを立ち上げる」ことを経験していきたいと思っています。現在このプロジェクトはまだ0を1にする段階にあります。生み出すワクワクはあるのですが、「0から1を生み出すこと」は、自分があまり得意ではないことも分かっていて。逆に私なりに得意なのは1を10にする段階。今、このプロジェクトは生み出す段階。次の段階になった時に、自ら中心になって回していけるよう、営業の仕事とプロジェクト活動に向き合いながら、自らを成長させ続けていきたいです。

取材を終えて談笑するプロジェクトメンバーの3人

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

浅尾碧城(あさお・たまき)
リクルート 賃貸Division 東日本・中日本賃貸営業部

2021年4月リクルートに入社。名古屋を拠点に北陸3県(富山・石川・福井)の賃貸領域のクライアントを営業として担当。カスタマープロジェクトではウェビナー製作担当チームでリーダーを務める。学生時代には英語ディベート部でさまざまな社会課題について議論した経験を持つ

香美 諒(かがみ・りょう)
リクルート 賃貸Division 首都圏賃貸営業1部

2019年入社。賃貸領域の営業として首都圏のクライアントを担当している。カスタマープロジェクトでは案件リリース戦略室に所属。「リクルートの事業がどう創られるか」に興味があり、将来的には社内外の新規事業の立ち上げに携わりたいと考えている

楠原李菜(くすはら・りな)
リクルート 賃貸Division SUUMO賃貸営業部

2013年入社。SUUMO賃貸営業部の全国の企業クライアントを非対面でサポートするコールセンターでスーパーバイザーを務める。「なかなか答えが出ない」ことにこそ取り組みたいと考えてカスタマープロジェクトに参加。アワードチームで活動中

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