ご当地グルメで地域活性!9ヶ月で4.4億円売上『うずの幸グルメ』。地域と走り続ける『じゃらん』メンバーが開発の舞台裏を語ります

ご当地グルメで地域活性!9ヶ月で4.4億円売上『うずの幸グルメ』。地域と走り続ける『じゃらん』メンバーが開発の舞台裏を語ります

「地元の方にとっては当たり前で見過ごしているようなものでも、旅行者にとっては魅力的に感じるものが、全国にたくさんある」とリクルート旅行Divisionじゃらんリサーチセンター 客員研究員 田中優子は語る。宿泊施設の集客PRの仕事と並行して、地域の方々からのご相談を受け、ご当地グルメ開発にも携わってきた。兵庫県内だけでも既に20以上のグルメ開発プロジェクトを支援し、現在はそのフィールドを全国に広げている。そのひとつである『うずの幸グルメ』(うずのさちグルメ)は、鳴門海峡を挟んで位置する徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市が合同で、地元の生産者や事業者、観光従事者の方々とともに開発。コロナ禍にも関わらず、2022年度の9ヶ月間で25施設が参加したこのプロジェクトで、4.4億円の売上となったうずの幸グルメの舞台裏について話を聞いた。

「ご当地グルメ開発」はあくまで手段。地域全体の活性化が目的

兵庫県・淡路島の原種『淡路島なるとオレンジ』を活用したグルメ開発を手掛けた淡路市の事業者の方々とリクルートじゃらんリサーチセンター 田中優子

―旅先の魅力は、食の魅力…旅先には、郷土料理や名物、B級グルメ、ご当地○○…などありますが、田中さんが開発を支援している「ご当地グルメ」とは、そもそも何ですか?

田中:旅の目的を調査すると、常に上位に「地元の美味しいものを食べる」があります。私が地域の方と開発している『ご当地グルメ』は、地域にしかない食材や提供スタイルを、その地域が持つ環境や歴史、文化などともつなぎ、食の魅力と地域の魅力をひとつのコンセプトにまとめ上げていくものです。

具体的には、消費者調査から割り出した外から見た地域の魅力や食材などを整理し、「差別化」「優位性」「独自性」という付加価値をプラスできるようなコンセプトや提供ルールなどを地域の方と話し合っていきます。こうしてできたコンセプトに沿って、地域の各飲食店や宿泊施設などの料理長の方々がアイデアと工夫を凝らして、それぞれの得意を活かしたグルメメニューの開発をしていきます。なので、どのお店もそれぞれ個性的なメニューで勝負しているので、旅行者は滞在期間中、いろんなお店でそれぞれのメニューを食べ比べて楽しむこともできます。こうして、食の魅力を地域観光の目玉にしていこう、という活動をしています。

―ひとつのコンセプトに乗って和・洋・中・スイーツなどバリエーション豊かに開発するんですね! 同じ料理を地域の複数店舗で出すわけではなく、コンセプトに則ったメニューを各店舗が出しているということなんですね。

田中:そうなのです。例えば、兵庫県・淡路島で携わらせていただいた『淡路島なるとオレンジ』を使ったグルメ開発では、クッキーやジュース、ジャム、寒天ジュレなどのお土産、デザートや料理まで、2年間で約65メニューが誕生しました。その後も淡路島なるとオレンジを使ったメニューはどんどん広がっていき、この地域にとってなくてはならない果物となりつつあります。

―ちなみに、その淡路島なるとオレンジって美味しいんですか?

田中:実は、見た目もゴツゴツしていて、食べてみたら強烈に酸っぱくて、苦い。種もいっぱいあり、皮も分厚い、かなり個性的な柑橘でした。一口かじって「これをグルメにできるのかな…」と、正直戸惑ったことは忘れられません(笑)。しかし、自治体の方や地元の生産者の方々にお話を聞いてみて驚いたのは、食材の持つ歴史と心に残るストーリー。この淡路島なるとオレンジは、300年前に淡路島で発見された原種で、昭和の“高級果物” とされていたこと。最盛期には、2800tあった生産量が今では90tに。その理由は、高齢化に伴う生産者の高齢化で、既に10名まで減少していて、平均年齢は79.4歳。このまま誰も後継しなければ、生産者が不在になり原種は絶滅してしまう。島の気候風土が生んだこの原種を守るために、あるいは島の原種オレンジの歴史を終わらせないために何ができるのか? など、このプロジェクトを通じて考えるきっかけが生まれました。

―地域の食材だけでなく、気候風土や文化まで紡いでひとつのストーリーとして受け取ると、いち消費者として、ぜひ見てみたい! 食べてみたい! という気持ちになりました。地域の宝物に気づき、皆で知恵を出し合っていったというストーリーも魅力的ですね。

田中:はい。ただこのオレンジは活用方法もあまり知られておらず地元利用も少ない状態でした。しかし、実はこのオレンジは皮が美味しく、活用方法もバラエティに富んでいることが分かりました。その価値すら知る人はほとんどいなかったのです。そこで、生産者の方と島の料理人の皆さんで絶滅の危機を“おいしい”で救う 「淡路島なるとオレンジ」復活プロジェクトを始動しました。

兵庫県・淡路島の原種『淡路島なるとオレンジ』を表紙にしたじゃらんで制作したパンフレットの表紙と、開発したグルメメニュー事例

―ご当地グルメ開発には最低3年かかる、とお話しされていると聞きましたが本当ですか?

田中:私はいつも「3年伴走型ご当地グルメ開発」をご提案させていただいています。3年間は続ける覚悟を持って始めた地域では、3年後以降も地域に定着し、そのプロジェクトが地域全体の経済活性化につながっていくのを多く見てきました。実は、地域での土産物やグルメなど新商品開発プロジェクトはたくさん行われています。しかし、一過性の盛り上がりだけで、結局あまり売れずに事業継続ができず、忘れ去られてしまうものも多いのです。せっかく、予算と手間をかけて生み出した地域商品を、地域一丸となってブランドに押し上げていくためには、関係者全体でPDCAサイクルを回していく仕組みが大切。グルメ開発をすることはあくまで、目的ではなく手段です。それを通じて、「地域の観光資源や新たなブランドにすること」、「地域全体の経済活性化につなげること」など、地域の課題解決が真の目的です。開発したご当地グルメを通じて、地域の魅力をより深く感じてもらい、また来たい…と思ってもらえるファンを増やしていくこと。じゃらんリサーチセンターとしても、観光を通じた「総地域消費額の増加」と、持続可能な地域経済全体の活性化がゴールだと考えています。

「ご当地グルメ」の開発を支援し続ける理由

ご当地グルメ開発の一環でメニューの試食会に集まった地域の宿泊施設、飲食店、観光施設などの方々とじゃらんリサーチセンタ― 田中優子

―田中さんは、最初からグルメ開発を仕事にしようと考えていたんですか? どうやってこの仕事にたどり着いたのでしょうか?

田中:グルメ開発を仕事にするとは全く思っていませんでした(笑)。でも学生時代から旅好きで、スキー板を担いで海外に滞在して、地元の子どもたちに関西弁でスキーを教えたりしていました。大学卒業後は営業を経験し、リクルート旅行予約サイトの『じゃらん』でも、兵庫エリアの宿泊施設の方々に対して集客のお手伝いをさせていただいてきました。もともと、私は好奇心旺盛で人が大好き。なので、営業という仕事も大好きです。お客様のお困りごとを伺って、一緒に解決策を考え、それを実現するお手伝いをさせていただけることが何よりの喜びなんです。

また、私は大阪の街中で育ち、それ以外の地域をあまり知らずにいたので、『じゃらん』の仕事を通じていろいろな地域にお邪魔することも楽しめました。そこでしか食べられないもの、初めての味…などにたくさん出会えて、いまだに、その味を忘れられずにいます。そんな時、私は消費者代表として、その感動をそのまま地域の方にお伝えするようにしています。地域の方は当たり前に思っていたり、気にも留めていないものに、こんなに興味を持ち、感動する人がいることに、いつも驚かれます。そして、その地域の持つ価値に、改めて気づけた、地域に自信を持てた、という声をいただきます。

例えば、宿泊施設の方々とのお付き合いが長くなるうちに、「賄いを一緒に食べてく?」というお声がけもいただいたりしました。食べたことのない地元の未利用魚や残ったカニなどの身をほぐして醤油とわさびであえたものをご飯に乗せた丼物など、初めての食材や食べ方にも感動します。特に「賄い」は外にメニューとして出されていないもので、お金を出しても食べられない。私にとってはブランド食材よりも、こうした地域ならではの食体験が、何より魅力的に感じられます。

私と同じように感じる旅行者は多いのでは? と思い、宿泊施設の方に、ぜひ朝食でこのメニューを出すプランを販売してみませんか? などと、「食」をフックにした宿泊プランのご提案につながったこともありました。そうした動きが高じて、ついには漁港や行政に出向き、地元のカニをブランド化するお手伝いなどを始めたこともあります。こうした経験を通じて2020年からは、客員研究員・グルメ開発支援の専任担当としてお仕事をさせていただいていますが、今、とてもやりがいを感じています。

―ご当地グルメ開発は、どの地域の方も興味はあると思うのですが、尻込みされるケースもありそうな気がしますが、どうでしょう?

田中:まさにそうです。地域の方とお話ししていると、「この地域には何もないから」とおっしゃることがあります。確かに、松葉ガニや、伊勢海老、神戸ビーフなど、誰もが知っている「ブランド食材」は、どこの地域にでもあるわけではありません。しかし、ブランド食材ではないけれど、自然条件や地形などが生み出す「地域の旬」はものすごく美味しい、といった、ご当地ならではの食材は意外と多いものです。
また、地域の方にとっては当たり前過ぎて見過ごしていたものでも、外からくる旅行者にとっては、初めて触れる食材、地域の歴史や風土に根差した体験を伴った食べ方などの食文化、魅力的に感じる要素にあふれています。それらを、各地域で見過ごしていてはもったいない…と心から思うんです。

じゃらんリサーチセンターでは地域資源の調査を実施し、旅行者にとって魅力的に見える観光商材を発掘していく
じゃらんリサーチセンターでは地域資源の調査を実施し、旅行者にとって魅力的に見える観光商材を発掘していく

―ご当地グルメ開発には3年必要…というお話がありましたが、どんなステップで進むのでしょうか?

田中:開発するだけなら、そんなに時間はかからないかもしれませんが、地域でPDCAを回しながら、観光の目玉にしていくためには、最低3年間かかると考えています。まずは、地域の気候風土が生んだ美味しい食材やご当地料理を、マーケット調査などを通じて発掘していきます。その次に、地域の持つ歴史や風土と食材などをひとつのコンセプトにまとめながら、そのコンセプトに沿ったメニュー開発を行います。そして、地域で開発した商品を持続的に成長させていくためのPDCAを回して、より良い商品にするために地域全体で話し合うようにしています。こうしたステップを丁寧に進めていこうと思うと、どうしても時間はかかります。すぐに結果を求めず、地域全体で協力者を増やしながら進めていくことで、息長く残り続けるグルメ開発が実現するような気がしています。

徳島県鳴門市・兵庫県南あわじ市『うずの幸グルメ』の場合

徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市が連携して開発した『うずの幸グルメ』のパンフレットの表紙
徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市が連携して開発した『うずの幸グルメ』のパンフレットの表紙

―田中さんは、兵庫県内でも20以上のグルメ開発を手掛けてきたそうですね。最近ヒットしたご当地グルメがどうやって始まったのか教えてください。

田中:はい。3年目を迎えた『うずの幸グルメ』をご紹介させていただきます。うずしおで有名な鳴門海峡を挟んで位置する兵庫県南あわじ市と徳島県鳴門市の合同プロジェクトなので、海の幸ならぬ「うずの幸」とネーミングしました。ここで育つ天然魚は100種類以上。魚たちが骨折すると言われるほどの激流に揉まれているだけに、筋肉質でぷりぷりの身が特徴です。

うずしおのなかを泳ぎ切ったタイの骨。リクルート じゃらんリサーチセンター主催「観光振興セミナー2023」にて、徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市が連携して実現した『うずの幸グルメ』についての講演資料より
うずしおのなかを泳ぎ切ったタイの骨。リクルート じゃらんリサーチセンター主催「観光振興セミナー2023」にて、徳島県鳴門市と兵庫県南あわじ市が連携して実現した『うずの幸グルメ』についての講演資料より

しかし、最初に一般消費者を対象にした調査を実施してみると「海の幸が美味しい」というイメージが6.1%と低く、とてももったいないと感じました。せっかく、豊富な魚介類が提供できる地域なのに、知られていなければ集客もできません。そこで、県さえもまたいだこの2市が広域連携をして、新ご当地グルメの開発とプロモーションをしていくことになりました。

―広域連携…と聞くと関係者も多そうですし、大変そうなイメージです。

田中:そうですね。1自治体でも合意形成は難しいものですが、2自治体となるとなおさら、時間もかかります。でも、協力者が多ければ多いほどムーブメントは大きくなりますし、応援する私たちにもとてもやりがいがありました。検討開始から1年目の22年3月時点で、店舗でのイートイン、宿泊プランのメニューを合わせて、25店舗30メニューを販売開始することができました。その後も参加事業者に対して、単に売上を見るだけでなく、アンケートなどを基に、商品やサービスを改善するのはもちろん、訪れた人に伝えきれていない地域の魅力は何か? 伝え方はもっとよくできないか? などを皆で話し合ってPDCAサイクルを全員で回していきました。そして、22年3月18日〜12月末までの約9ヶ月で、販売食数1万9386食、販売金額4億4194万1736円(※宿泊プランも含む)に。そして直近の23年3月には、36施設51メニューがお披露目され、どんどん広がっているのも嬉しいです。詳しいステップについては、じゃらんリサーチセンターのサイトでも公開していますのでご覧ください。

地域とともに歩む「ご当地グルメ開発担当」としてのこれから

「食のブランディングづくりの方程式」
「食のブランディングづくりの方程式」

―先ほど、PDCAサイクルを回していくなかで、「(うずの幸グルメを食べた方に)伝えきれていない地域の魅力があるのではないか?」なども、検討ポイントになったというお話をお聞きしましたが、少し、詳しく教えてください。

田中:グルメって、美味しいことはもちろん大事なのですが、食材が生まれた背景にあるストーリーを知ると、「耳からも美味しくなる」んです(笑)。食材が生まれたその土地の風土気候や、その土地ならではの食べ方の背景にある歴史や文化など、全部含めてご当地グルメ、あるいは観光体験の一部だと思っています。2市の事業内容検討会ではうずの幸グルメの伝道師となる「うずの幸マイスター」を育成しよう…ということになっています。「うずの幸とは何か」「何故美味しいのか」などを、丁寧に伝えることで、より印象深い体験にすることができると思っています。

―確かに!先ほどお話に出た、淡路島なるとオレンジも、骨折するほどの激流のなかを生き抜いたプリプリのお魚も食べたくなるだけでなく、その土地を訪れて、実際に見てみたい! という気持ちになりました。今、すっかり旅に出る気満々になっています。

田中:それは嬉しいです。グルメ開発はあくまで手段です。目的はその地域の魅力を知って訪れてくれる人を増やすこと。もちろん地元の方々に地域の魅力を理解していただき、よりその地域を好きになっていただくことにもつながります。

―最後に、グルメ開発のお手伝いをするなかで、田中さんの「これから」を教えてください。

田中:もともと好奇心旺盛で、美味しいものも大好き。だからこの仕事がとても好きですし、これからも「変わる地域」の現場で一緒に走り続けていきたいと思っています。「変わる」というのは、これまでの慣習や当たり前だと思っていた枠から少しはみ出ることでもあります。調査として結果が出ていても、皆で話し合っていきついた「新しいアイデア」でも、時として、反対意見は出ます。しかし、最初は少数の賛同者で始めたことでも成功していくと、徐々に味方が増えていき、地域全体の大きな動きにつながっていきます。こうした変化は、現場にいるからこそ体感できるのです。こうした「変わる地域」のエネルギーに日々元気をいただいて、もっともっと自分も成長しなければ、と励まされています。これからも私を育ててくれる地域の方々に、新しい価値をお返しできるように走り続けていきたいと思っています。

取材を終えたじゃらんリサーチセンター 客員研究員 田中優子

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

田中 優子(たなか・ゆうこ)
リクルート旅行Division じゃらんリサーチセンター客員研究員 ご当地グルメ 開発プロデューサー

大学卒業後、通信系企業に入社し関西エリアで法人営業を担当。2003年12月に、旅行Divisionにて宿泊施設や観光施設の集客コンサルティング営業へ転身。13年、じゃらんリサーチセンターにて、兵庫県エリアプロデューサーとして、数多くの事業を担当。兵庫県内を中心として地域の方々とのご当地グルメ開発、食のブランディング等を担当して、地域誘客&経済効果アップを支援。20年4月より現職。その他、兵庫県商工会連合会の課題別専門家、自治体の委員や審査員なども務めている。

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