『じゃらん』が挑戦する宿泊施設のDX化支援。『レベニューアシスタント』でタイムリーな適正価格化を

『じゃらん』が挑戦する宿泊施設のDX化支援。『レベニューアシスタント』でタイムリーな適正価格化を

リクルート旅行領域では、旅行情報誌『じゃらん』、旅行予約サイト『じゃらんnet』 を通じて、旅館やホテルなどの宿泊施設に対して集客や業務支援サービスを提供しています。

2021年5月からは、「宿泊施設が、急な宿泊需要の変化に合わせて最適な売り方が分かる」機能を大幅に拡充した価格調整業務サポートシステム『レベニューアシスタント』を提供開始。サービス開発担当者自らが、宿泊施設業界施設の皆様が抱える課題感を理解するために、宿泊施設に駐在させていただきその業務を体感してサービス開発にあたりました。

今、インバウンドの再開も受け、国内旅行市場の活況で、全国の宿泊施設をはじめとするサービス業では、質・量ともに人材不足の問題が叫ばれています。リクルート旅行領域が提供する業務支援サービスの開発背景にある課題感や目指していることなどを、リクルート プロダクトマネジメント統括室 宮田道生に語ってもらいました。

成長産業の旅行・宿泊業が抱える課題とは

旅行領域で宿泊施設向け価格調整業務サポートシステム『レベニューアシスタント』プロダクト担当のリクルート プロダクトマネジメント統括室 宮田道生が語る。

―今、国内・海外からの旅行客も増え、成長が期待されている旅行・宿泊業ですが、どんな課題があるのでしょうか。

宮田道生(以下宮田):はい、国内・海外からの旅行客が増えて、今、宿泊業界は活況です。しかし、一方で、宿泊業界の人手不足は深刻です。地方の働き手不足やベテランのスタッフの方が高齢化して世代交代を迫られていたりします。加えて、ネットでの集客やPR、海外からのネット予約対応、外国人客の現場対応、取引先との手続きのデジタル化など、「英語やITが分かる人がいなくて、現場は大変だ」という声も届いています。

―宿泊業界の人手不足は、旅行者にも影響がありそうです。

宮田:もちろん大きな影響があります。日本の宿泊施設のホスピタリティは世界でも類を見ない素晴らしいものです。例えば、まず宿につくとお部屋で客室担当の方がお茶を淹れながら、夕食の時間やお布団を用意する時間帯の希望を聞いて個別に対応をしてくれたりします。
また、お部屋で夕食がゆったりできるのも素晴らしいところでした。しかし、人手不足になってくると、そうしたひと組ひと組のお客様に合わせた対応は難しくなります。ある宿泊施設の方からは「お客様のお見送りは全員でしてきたが、難しくなって寂しい」といった話も聞いています。

ニューヨークでは現在、素泊まりで1泊料金平均約5万円というデータもありますが、対応するのは学生のアルバイトのところがほとんど。日本の宿泊施設ではおもてなしのプロが対応してくれて全国平均1万3400円(「じゃらん宿泊旅行調査2023」1泊あたりの平均価格)が相場というのは安すぎるかもしれません。
長年、宿泊施設の方々とご一緒してきた『じゃらん』としても何とかできないかという思いで、宿泊施設の業務支援の検討を重ねてきました。

―宿泊業以外の業界でも人手不足の話が出ていますね。

宮田:そうですね。飲食店や販売店なども人手不足で、時給が上がっている印象です。その分は原価高も含めて、消費者価格を上げることで対応している現実もあります。宿泊施設では時給調整、宿泊価格調整双方にご苦労されているというお話を伺います。

―確かに宿泊施設の料金は休日と平日や季節によっても異なりますね。

宮田:宿泊業界の価格の決め方はとても複雑です。繁忙期は高く、閑散期は安くして常に稼働率を上げていくことが利益率を上げていくためには必要です。ただ、毎年同じ時期は同じ価格というわけにはいきません。特に近年、気候が変則的で梅雨が短かくて夏季が長かったり、桜や紅葉の時期も変則的になります。毎年紅葉のハイシーズンだからと高い金額に設定していても紅葉が始まっておらずお客様が入らないということもあります。

その場合は、価格を柔軟に安く設定すると「少し紅葉には早いけれど泊まってみよう」というお客様を増やせたりします。逆に安く設定しすぎると予約が殺到してしまい、オーバーブッキングやお断りをするお客様が出てしまいます。適正価格であることはお客様にとっても宿にとっても大切なことなのです。

リクルート『じゃらんnet』のトップ画面。
リクルート『じゃらんnet』のトップ画面

―確かに。タイムリーに適正な価格に調整できれば稼働率は上がりそうですし、お客様にも宿にとっても良いことなのですね。とはいえ、宿泊施設の価格調整業務はとても複雑そうです。宿泊施設ではどのように実行しているのですか?

宮田:価格調整業務は複雑です。自社サイトだけでなく複数の予約サイトでプラン掲載をしている場合、同時に変更を掛けなければならないといった業務的な複雑さはもちろんですが、利益を出していく専門的なスキルも必要です。

例えば、外資系のチェーンホテルでは、レベニュー(収益)マネジャーと呼ばれる価格調整をしながら利益を最大化するためのマーケティングをする担当の方が1ホテルに1名以上いらっしゃいます。チェーン全体の稼働率を見ながら適正価格を調整するだけでなく、飲食も含めた利用可能性があるお客様に絞ってダイレクトメールを出したり、アップグレードのプランを提案したりしながら利益率を上げていくのです。

価格調整業務には、こうした専門人材、システム、そして常に最新で網羅性の高い情報が必要ですが、なかなかそれらを個社で揃えるのは難しい。しかし、タイムリーな適正価格化は宿泊業にとって必要不可欠です。その実現の先にある利益率を上げることで人材確保やおもてなしの向上、ひいては日本の宿泊業のおもてなし文化を継承できるとも考えました。

『じゃらん』が挑む、宿泊業界の業務DX化の可能性

旅行領域で宿泊施設向け価格調整業務サポートシステム『レベニューアシスタント』プロダクト担当のリクルート プロダクトマネジメント統括室 宮田道生が、これまでの業務支援サービスについて語る。

―難しいとされていたタイムリーな価格調整業務を、デジタルツールでより多くの宿泊施設でもできるように支援することに挑戦したのが『レベニューアシスタント』なんですね。

宮田:はい。『レベニューアシスタント』は、ITに詳しくない方でも使いやすいインターフェイスで、じゃらんnetの掲載データから常に最新の需要予測や価格設定が検討できるツールです。

これまでにも業務支援ツールとして、AIによる問い合わせ対応ができる『トリップAIコンシェルジュ』(ホテルのフロント業務を自動化するようなツール)で、対応できる人が少ない忙しい時間帯や夜中も自動対応できると好評をいただいています。また、自社HPが簡単に作成でき、各旅行サイトの部屋数管理を担うサイトコントローラーの機能も兼ね備えた『ホームページダイレクトサービスプラス』というサービスでは、複数のサイトからの予約管理の手間を省けるという声をいただけて、とても嬉しく思っています。

旅行・宿泊業ビジネスの根幹は、集客、予約管理とマーケティング。じゃらんnetで集客をお手伝いさせていただいてきましたが、人材不足を乗り越える一助として業務支援をできたらと考えています。

価格調整業務サポートシステム『レベニューアシスタント』開発の裏側

『レベニューアシスタント』の画面イメージ。宿泊施設の持つデータと『じゃらんnet』が持つデータを基に宿泊者の需要を予測することで、急な宿泊需要の変化に合わせて最適な売り方が分かるシステム
『レベニューアシスタント』の画面イメージ。宿泊施設の持つデータと『じゃらんnet』が持つデータを基に宿泊者の需要を予測することで、急な宿泊需要の変化に合わせて最適な売り方が分かるシステム

―開発にあたって、担当が実際に宿泊施設に一定期間常駐していたという話は本当ですか。

宮田:本当です。既に何人ものメンバーが経験させていただいています。長年宿泊施設の方々とご一緒してきたつもりでしたが、集客部分のお手伝いがほとんどで、実際に、お客様がどのように業務をされているか理解ができていなかったことに気づきました。

宿泊施設の繁閑の時間帯や日々の業務をつぶさに見にいかなければ、何をどう支援するべきかが分からない。実際に使っていただく宿泊施設の方々が求めるツールを作るべきで、私たちが想像で勝手に作ったものは使い勝手が悪いに決まっています。そこで、私たちの営業担当がお世話になっている宿泊施設にご協力をいただき、実際に一定期間常駐させてもらいました。

宿泊施設の方にとっては、新人が突然やってきたような状態なのでご迷惑だったと思いますが、快く受け入れてくださって大変感謝しています。実際に宿泊施設の方の横に付かせていただき、業務を見て、教えてもらいながら体験しました。そこで感じたこと学んだことを開発に一つひとつ活かしていきました。リリース後も使っていただく方のご意見を聞きながら、まだまだブラッシュアップしていきたいと思っています。

―凄腕のレベニューマネジャーがいない宿泊施設でも、『レベニューアシスタント』が支援できることはどのようなことでしょうか?

宮田:いくつかあります。ひとつは「網羅性ある需要予測データ」の提供です。このデータを活用して、常に売り残しがないようにすぐに価格変更などに対応できることでしょうか。じゃらんnetに掲載された全国の宿泊施設の情報は網羅性が高く、最新の予約状況から需要予測ができるようになっています。

もうひとつは、ITに詳しくなくても、価格調整業務の専門知識がない方でも使いやすいツールであること。ですので現状のスタッフ体制のなかで導入いただいても安心してご活用いただけると思います。先ほど申し上げたように、専門性の高いレベニューマネジャー自体が国内には少ないため、新たに採用するのはなかなか難しい状況だと思います。

だからこそ誰でもこのツールを使ってタイムリーに価格調整業務が可能になると良いと思っています。旅行するカスタマーの視点で見ても、常に適正価格でプランが提供されていれば安心して宿選びができると思います。

日本の宿泊業界の未来に向けて、目指したいこと

宿泊施設向け価格調整業務サポートシステム『レベニューアシスタント』の目指したいこと、じゃらんとして目指したいことを語るプロダクト担当のリクルート プロダクトマネジメント統括室 宮田道生

―『レベニューアシスタント』がこれから目指していることを教えてください。

宮田:合言葉は「ゼロストレス、ゼロ時間」です。価格調整業務は価格変更を決定したら、複数の予約サイトを同時に変更しなければならず、煩雑な仕事でミスも起こしやすい。『レベニューアシスタント』がさらに使いやすくなることで、ストレスゼロで価格調整業務ができるようになるまで磨き上げたいと考えています。

また、需要予測データも常にタイムラグなく最新の予測が出せるようになったら良いと思っています。今は5分おきに予測データが修正される仕組みになっていますが、タイムラグがゼロになる世界を目指していけたらと思っています。

―カスタマーは大変そうですね。1分前の価格と1分後の価格が変わるなら、予約を急がないといけないです。

宮田:1分後に安くなることもありますので、必ずしも急ぐ必要はありません。その時その時で常に最新の適正価格で予約ができたほうが安心ですね。為替変動並みに(笑)。

―最後に、じゃらんとして、目指したいことを教えてください。

宮田:冒頭でお話ししたように、やはり、宿泊施設における素晴らしい日本のおもてなし文化を守って継承していけるように応援したいと考えています。そのためには、人材不足や利益率のさらなる向上など中長期的な経営支援ができるサービスをこれからも作り続けなければいけないと感じています。

宿泊業界で働く方々はおもてなしのプロ。プロとして満足度高く働ける健全な経営状態の業界であり続けるように支援できたらと思っています。それは同時に宿泊旅行者にとっても良いことです。宿泊者にとって嬉しいサービスを実現するために経営資源を投資できる経営状態であるということ。業界自体が今後もサステナブルに発展していけるように支援していけたらと思っています。

宿泊施設の方々にご協力をいただいて常駐経験のあるメンバーが増えるにつれ、支援したい業務やサービスのアイデアもあふれています。全てのアイデアを実現するにはまだ時間がかかりそうなのですが、一つひとつ形にしていけたらと思っています。

旅行領域で宿泊施設向け価格調整業務サポートシステム『レベニューアシスタント』プロダクト担当のリクルート 旅行プロダクトマネジメントユニット ユニット長 宮田道生がインタビューを終えて

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

宮田道生(みやた・みちなり)
リクルート 旅行プロダクトマネジメントユニット ユニット長

戦略系コンサルティングファームを経て2011年リクルートに入社。イベント管理サービス『ATND』など新規事業を立ち上げ後、13年10月より旅行領域で『じゃらんゴルフ』や、インバウンド、業務支援サービスを担当し、17年プロダクトマネジメント組織のグループマネジャーを経て、21年4月より現職

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