【後編】対談:伊達みきお×大久保幸夫 - 生き方・楽しみ方・働き方

【後編】対談:伊達みきお×大久保幸夫 - 生き方・楽しみ方・働き方

文:ミトミアキオ 写真:依田純子

サンドウィッチマンの伊達みきお氏とリクルートワークス研究所長・大久保幸夫による特別対談。最終回はコミュニケーション力について。

幅広い世代からの人気を集めるお笑いのプロと、日本全国を飛び回る人材開発のプロによる特別対談。最終回となる第3回目は、お笑いでもビジネスでも大切な「コミュニケーション力」をテーマにお届けします。

大久保 ぼくらサンドウィッチマンのファンは、この10年間でひとつのネタを何回も聞いてきたわけですが、毎回演じるたびに少しずつ変えたり工夫したりしていますよね。

伊達 詳しいですね(笑)。試行錯誤という意味もありますが、何度も演っていると自分たちが飽きちゃうんです。で、ここのフレーズをちょっと替えようとか......。だから元のネタには、なるだけ時事的なことを入れないようにしてるんです。古くなっちゃうので。

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大久保 ぼくも大学生のときオチケン、つまり落語研究会に属していたので、ネタの呼吸といったことにはすごく関心があったんです。ほんのちょっとした間のとり方の違いで、面白かったり面白くなかったりするじゃないですか。自分も実際に講演をやってみると、あの難しさがよくわかるんです。

伊達 ぼくも落語は見ますよ。勉強になりますよね。

大久保 学生時代に落語をやったことで、人とコミュニケーションすることに関して少しだけ自信がついたんです。相手の言ったことを引き受けて話すとか、時にはたたみかけて話すとか、そういうリズムとか強弱、緩急の違いによって、同じことを言っても相手にうまく伝わったり伝わらなかったりするのが感覚として分かってきたので、人と話すのが楽しくなったんです。やっぱり、相手に伝わらないとつらいじゃないですか。

伊達 伝わる話し方といえば、立川志の輔師匠がすごく上手なんですよ。

大久保 何が上手なんですか?

伊達 強弱、聞かせる声、おもしろいです。もう天才ですね。

大久保 桂枝雀さんも落語は緩急だと言い切っておられましたけど、コントや漫才も基本的には同じですよね。

伊達 同じです、伝わるような話し方。伝わらなかったら全く意味がないので、それはもう、すごく勉強になりますね。

「ぼくは年上の人と話すのが好きなんですよ」

大久保 舞台で演っている芸以外で、周りの人たちと会話したりやりとりするときのコミュニケーションでも何か気を付けたり、こうすると相手といい関係になるというころはありますか?

伊達 そういうのは会社員のときにいろいろ、上司を見て自分で勉強したような感じはします。人の目を見るとか。

大久保 要するにどうやってお客さんに案内して販売につなげるかっていう、まさしくコミュニケーションの練習ですよね。

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伊達 そうですね、それはすごく勉強になりましたね。

大久保 必ずしも相手は歓迎してくれているかどうか分からないですし、年も全然違うだろうし。

伊達 全然違います、相手はずっと年上でしたから。

大久保 年上の人と話すのと、同世代の人と話すのと、若い人と話すのってちょっと違うじゃないですか、技術が。

伊達 違いますね。ぼくは年上の人と話すのが好きです。

大久保 年寄り受けする感じですもんね(笑)。

伊達 何かを教わりたいんです、すごく。

大久保 だからですかね、85歳のおじいさんがライブ見に来るのも。

伊達 そうなんですかね、そうだとすごくうれしいですね。

「うちのネタ、よくテンポがいいって言われるんです」

大久保 ぼくはまだそんな年だと自分では思ってませんけど、聞き取れない芸人さんが多いんです。別にスピードが速いとか遅いの問題じゃないんです。聞いてて心地いいかどうか。だから落語もそうなんですけど、今、寄席に行くと聞いていてつらくなっちゃうんですよ。

伊達 それは何故なんでしょうね?

大久保 学生時代はずっと古今亭志ん朝を追いかけてたんです。聞いていてそのリズムがすごく気持ちよくなるんです。

伊達 ほかの落語家さんではそうならないんですか?

大久保 そこまではならないですね。特に色々な人が出る寄席はだんだんつらくなって行かなくなっちゃったんです。だから、だんだん独演会だけに行くようになりました。

伊達 うちのネタ、よくテンポがいいって言われるんです。一応ぼくら大切にしていることではあるんですけど、そこを一生懸命練習してるわけではないんです。ただ、ものすごくテンポ早いとも言われますね。

大久保 テレビはテンポが早くないと出られないですものね。

伊達 そうですね、1分間でどれだけ笑いの数があるとか、何個ボケがあるとか考えますね。

「お笑いの前に会社員生活をしていてよかったなって思います」

大久保 伊達さんと相方の富澤さんって、コミュニケーションのスタイルが違うと思いますか?

伊達 違いますね。あいつコミュニケーション力、ゼロに等しい(笑)。まず人の目を見ないので。そこは全部ぼくが担当してるところです。

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大久保 富澤さんは人見知りなんですか。

伊達 人見知りです、極度の(笑)。

大久保 コミュニケーション能力は鍛えてこなかったんだ。

伊達 ほぼコミュニケーションとらない。人と会話しないアルバイトばっかりやってましたからね。

大久保 それじゃ、外交担当は伊達さんの仕事だと。

伊達 それはもうずっと前から。あいつ友達もいないですしね、ぼくしかいないですから(笑)。

大久保 やっぱり5年間の会社員生活で得たコミュニケーション能力が、どこかで生きているのかもしれませんね。

伊達 そうかもしれないですね。だから5年間仕事していてよかったなって思います。お笑いを始める前の期間としてみてしまうと、すごく無駄な5年間でもあったんですけど。

大久保 でも改めて振り返ると、お笑い以外の経験を積んでから始めるのも、ひとつの道筋だったような気がしますね。

伊達 そうだろうなと思います。もしもお笑いを始めないで、会社にずっといたとしても、それはそれでよかったんだろうなと思いますよ。

大久保 色々と面白いお話をありがとうございました。

伊達 ぼくの話、誰かの役に立つんですでしょうかね(笑)。

【キャリア的副音声】

コミュニケーション能力ってとても大事ですよね。

新卒採用の基準でも、変わることなく圧倒的第1位はコミュニケーション能力です(日本経団連調査)。 ただ、あまりにも普通に使われる言葉なので、具体的にどういう能力なのかと問われると考え込んでしまう人もいるのではないでしょうか。

今回の対談では話し方のところにフォーカスしましたが、基礎となるのは「聞き方」の方です。人と親和的な関係を築ける人は、もれなく聞き上手な人です。うまく話すことができなくても、人の話に相槌をうったり、うなずいたりしながら、しっかりと聞くことができれば、それだけで基礎的なコミュニケーション能力が備わっているということです。これって誰でも意識すればできることなので、才能の問題ではありません。習慣の問題です。聞き上手な人の周りには人が集まってきます。いろいろな話をしてくれます。そうすると人とコミュニケーションをすることが楽しくなってきます。

話すことによって、人を惹きつけたり、説得したりということは、その次の段階。順番を間違えないようにしたいですね。

(大久保幸夫)

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

伊達みきお
サンドウィッチマン

1974年生まれ。宮城県仙台市出身。高校時代にラグビー部に入部し、後にコンビを結成する富澤たけし氏と出会う。高校卒業後、父の紹介で介護用品の会社に営業職として入社。4年勤務した後に会社を退職し、富澤氏と上京。「サンドウィッチマン」を結成。アルバイトをしながらライブに出続ける。日本テレビの人気お笑い番組「エンタの神様」で地上波テレビ初出演。その後、吉本興業主催の新人漫才コンテスト「M-1グランプリ」で優勝。「東北魂」と銘打った義援活動やチャリティライブの開催など、東北出身の芸人の中心となって被災地の支援を続けている。

大久保幸夫
リクルートワークス研究所所長

1983年一橋大学経済学部卒業。同年株式会社リクルート(現 株式会社リクルートホールディングス)入社。人材総合サービス事業部企画室長、地域活性事業部長などを経て1999年にリクルートワークス研究所を立ち上げ、所長に就任。2010年〜2012年内閣府参与を兼任(菅内閣、野田内閣)。2011年専門役員就任。2012年人材サービス産業協議会理事就任。専門は、人材マネジメント、労働政策、キャリア論。

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