成長を続けるロンドンのスタートアップシーン、ここ数年の盛り上がりの背景とは?

成長を続けるロンドンのスタートアップシーン、ここ数年の盛り上がりの背景とは?

文:佐藤ゆき  写真:ロンドン(著者撮影)

国際的な金融都市、またファッションなど含めて世界的なトレンドの発信地でもあるロンドンで、ここ数年テック業界が成長している。テック業界が内外から注目されるロンドンのスタートアップシーンについての背景、そして現在注目されている現地のスタートアップを紹介。

国際的な金融都市、またファッションなど含めて世界的なトレンドの発信地でもあるロンドン。そんなロンドンで、ここ数年テック業界が成長している。

ロンドン市長のボリス・ジョンソンが、今年2月に米国ニューヨークでロンドンのプロモーション会社「London & Partners」が主催したイベントにて聴衆に語った内容によれば、「ロンドンでテクノロジー関連の仕事に従事する者の数は50万人おり、金融業界で働く者の数を超えた」という。テック業界が内外から注目されるロンドンのスタートアップシーンは、ここ数年でどのように成長してきたのだろうか。その背景、そして現在注目されている現地のスタートアップについて見てみよう。

スタートアップシーンの盛り上がりは、ロンドン東部から始まった

ロンドンのスタートアップシーンの中心は、東部のOld Street駅周辺であり、この辺りのエリアは俗にテックシティまたはシリコン・バレーにちなんだ「Silicon Roundabout」と呼ばれている。

テック企業がこのエリアに集まり始めたのは、2008、2009年のことだ。旅行関連SNSのDopplr(2009年にNokiaに買収され現在サイトはクローズ)、音楽サービスのLast.fm、TwitterプラットフォームのTweetDeckなどが拠点を構えており、同時にちょうど事業を大きく成長させていたタイミングでもあったため、内外から徐々に注目が集まるようになり、その存在が少しずつ知れ渡っていった。

当初は10数社がOld Street駅周辺に拠点を構えていたに過ぎなかったものの、テック企業への注目はどんどん勢いを増していった。2012年のWIRED UKのレポートでは、このエリアを中心に東ロンドンだけで5000のテック関連企業が設立されていると伝えている。

Googleもその勢いに注目し、2011年にはOld Street駅近くの7階建てのビルを購入、2012年3月には「Google Campus London」がオープンし、現在もコワーキングスペースやワークショップなどのイベントなどに使われている。

Google Campus London(著者撮影)
Google Campus London(著者撮影)

政府主導のイニシアチブ「テックシティUK」

この爆発的なテックコミュニティの成長の背景には、政府のイニシアチブによるところが強い。2010年、デーヴィッド・キャメロン首相は「ロンドンもシリコンバレーのような世界のハイテクの中心地になれるはずだ」と語り、Silicon Roundaboutに対する関心の大きさを示した。キャメロン首相はテックシティ構想を発表し、Old Street駅から東部のオリンピックスタジアムにかけた東ロンドンを「テックシティ」として、スタートアップやテック企業がこのエリアに集まるようインフラなどの面で支援を開始した。2012年のロンドンオリンピック後に、施設がスムーズに再利用されることも目的の一つだった。

こうしてスタートした政府主導の「テックシティUK」は、英国内のテック起業家に適切な支援を提供する、起業環境の育成について政策立案者との議論を深める、起業家、政府、教育、金融がともに起業環境の育成に取り組むことをビジョンに掲げ、様々な政策を打ち出してきた。

現在テックシティUKは、デジタルビジネスアカデミーという教育事業を運営し、最新のノウハウに基づいた起業家教育を提供したり、成長中のスタートアップ向けにグロースを支援するプログラム Future Fiftyを運営している。こうした政策の費用対効果を疑問視する声も一部で上がっているものの、「テックシティ」というブランドをつくり、内外からの注目を集めることに寄与したことは間違いないだろう。

スタートアップの資金調達額も成長を続ける

また、資金調達に関してもスタートアップの増加とともに継続して伸びてきた。2010年にスタートアップが調達した資金の総額は1550万ドルだったが、その後右肩上がりに増加し、CB Insightsのレポートによれば、2015年には第一四半期のみで6億8200万ドルの調達を記録しており、昨年の第一四半期からさらに66%も上昇している。

2015年に入ってからの大型の資金調達だけでも、オンライン送金サービスのWorldRemitが今年の2月にシリーズBで1億ドルを調達、ファッションEコマースのFarfetchが3月に8600万ドルをシリーズEで調達、 国際送金サービスのTransferWiseが1月にシリーズCで5800万ドルを調達と複数件の大型調達ニュースがあった。

最近注目されるスタートアップの例

さて、数あるスタートアップの中で特にホットなチームをピックアップするのはなかなか難しいが、比較的最近に資金調達を実施し、注目を集めているスタートアップを以下にいくつか挙げてみたい。

Lyst

従来型の店舗とオンライン上の消費者を結びつけるオンラインプラットフォーム。複数のEコマースサイトの製品を一度に見ることができる。Beaconも活用され、店内の買い物客は好みの製品の近くを通るとアラートを受け取る。ショッピングエクスペリエンスを革新するサービス。2015年4月にシリーズCで4000万ドルを調達。

CityMapper

CityMapperが提供するマップアプリは、地図情報以上の情報を提供する。A地点からB地点までを歩く場合の予想消費カロリーを表示したり、自動車を使う場合には、天気情報や渋滞情報、料金などユーザーにとって価値の高い情報を提供する。2014年4月にシリーズAで1000万ドルを調達。

Yoyo

モバイル決済アプリ。決済処理を効率化すると同時に、アプリを使うユーザーに特典ポイントを付与。Barclaycard、Paypalなどの決済サービス企業での経験が豊富なメンバーが起業。今年4月にシリーズAで1000万ドルを調達。

TransferWise

送金者の手数料負担を大幅に軽減する国際送金サービス。リチャード・ブランソンも投資した。スカイプ出身のエストニア人がファウンダーであるが、拠点をロンドンに置く。今年1月に5800万ドルを調達した。

RefME

脚注、参照・引用文献情報、参考文献一覧を簡単に論文やレポートに付けることができるサービスで、世界で50万人のユーザーがいる。引用方法のスタイルというのは7000もあるとのことだが、自分がつけたいスタイルに合わせて、簡単に情報を加えることができるという学生や研究者にとってありがたいサービス。今年4月にシードラウンドで500万ドルを調達。

トレンディでインターナショナルな都市としての魅力

上に挙げたスタートアップは様々な業界にまたがるが、やはり多様性のあるインターナショナル都市としての魅力、またファッションやテックのトレンドに敏感であるためB2Cマーケットとしての魅力が大きい点が多様なスタートアップを惹きつける理由であろう。かつ、ロンドン市全体の経済活動の大きさは、欧州の他の国から人材を惹きつける要因にもなっている。

一方で、デメリットとして物価の高さが挙げられる。資金調達なしにスタートアップを立ち上げることは、ベルリンや東欧などに比べるとずっとハードルが高くなるため、資金が少ないアーリーステージのスタートアップは大きなプレッシャーにさらされることになる。それはスタートアップを成長に駆り立てる原動力にもなる一方で、物価の高さや忙しさに疲弊した若者がベルリンなど、より物価の安いスタートアップ都市に移る傾向も最近では見られている。

とはいえ、やはり市場や資金調達面におけるロンドンの魅力は依然として大きい。また、レイトステージのスタートアップの大型資金調達も最近では目立つため、大きなエグジットの事例、そしてさらなるエコシステムの成長が今後も期待される。

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