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【後編】「トレンドって作れるんですか?」 日経BP総研 マーケティング戦略研究所 品田英雄×リクルート岩下直司、中村太郎

Recruit , アイデア , ビジネススキル , マーケティング , メディア , 事業推進 , 事業立案

文:稲生諒(レフトハンズ) 写真:伊藤勇

毎年数多くの「トレンド」が現れては消えていく世の中で、どのようにトレンドを予測し仕掛けていくことができるのか、その答えを探る。

かつて「トレンド」が一大ブームを巻き起こし、誰もが流行りを追いかける時代があった。そこから社会の成長とともにライフスタイルは多様化され、トレンドは人々の無意識のなかに存在するようになっていった。そうしたトレンドの変遷を直で体験してきた、日経BP総研 マーケティング戦略研究所上席研究員の品田英雄氏とリクルートが毎年発表する「トレンド予測」の生みの親である岩下直司、同社社外広報の中村太郎。前編に引き続き後編では、見えづらくなったトレンドをどう予測し掴んでいくのか、その具体的な方法とビジネスでの活かし方をテーマにクロストークが繰り広げられた。

定性と定量、その両方を使うことでトレンドは見えてくる

中村太郎(以下、中村) トレンドの在り方はSNSが世の中に浸透する以前、以降と分けられるように思いますが、その現れ方にどのような変化があったのでしょうか?

品田英雄(以下、品田) 昔は情報を収集して検討を重ね、ある程度成り行きを想定してから実行に移すことでトレンドを仕掛ける、というのが定石でした。昔は企業側が仕掛けていましたが、今はひとまず実行に移してみて、その結果を受けてトレンドへと収斂していくことが常識化していっています。コンビニが分かりやすい例で、様々な商品を並べて売れ筋だけを棚に残していきます。そういう時代になったので、昔は強かったバイヤーの力も弱まりました。

岩下直司(以下、岩下) そうですね。今はトレンドを仕掛けるというよりも、どちらかというと淘汰に任せるという手法が主流ですよね。

岩下 それと、SNSの登場というより、ネットの登場以前と以後では全ての常識が逆になりました。それに伴いビジネスのKFS(勝ちパターン)も今と昔とでは大きく異なってきています。昔は企業が情報を握っていて企業側からの発信主導で社会が動いていましたが、2000年以降は個人や個人が発信する情報の価値が優位な「生活者主権」に移行してきています。

今や、企業はお客さんが何を考えているのか知りたくてしょうがない状態です。さらには、どういうお客さんをターゲットにしたらいいのかわからない、なぜリピートしてくれているのかがわからないといった企業や店舗が非常に多く、その課題を解決できるビジネスに注目が集まっています。

中村 つまり、かつて企業が資本を投じて仕掛けていたとされるトレンドが、現代では消費者の総意として結果的に「トレンド」として扱われていると言えますね。そうなるとビジネス的な仕掛けだけで動かなくなった世の中で、未来に起こるトレンドを見つけ出すのは一層難しいと思うのですが、どのように予測しているのですか?

岩下 世の中に溢れている定性的な情報と定量的な情報を集め、ファクトとしてフレームワークにのせることで我々はトレンドを予測します。また、ある領域で発生したトレンドが、別の領域でも遅れて発生するということがよくあります。例えば、飲食の領域のトレンドが、次は住宅の領域でもトレンドになるという感じです。

ITの進化の歴史をみると、螺旋のように回りながら相似的な革新が繰り返し起きています。PC主流の時代に10年かけて起こったことが、ガラケーのときには5年で起こり、スマホになると3年で起こるといったように。同じような構造で、分散と集中を繰り返しているんです。

品田 小池百合子都知事風にいうと「アウフヘーベン」ですね。

岩下 過去、そして現在があって、未来があります。そのコンテクストからある程度の未来を予見することは可能です。人口動態による影響など確定的な事象から予想出来ることは多い。また、人工知能などのテクノロジーによって非連続な変化が起き得ますが、それも螺旋状の進化として未来に起きそうなことは、ある程度予見されています。

だから、アラン・ケイの「未来を予測する最善の方法は、それを発明することである」という言葉が示すように、大きな流れに乗った上であれば、トレンドを仕掛けることは確かに可能なんです。

例えば、壁紙などをカスタマイズできる賃貸住宅などが昨今増えましたが、だいぶ前から我々はこのトレンドを予測していました。予測の発表から、そのトレンドはすぐには到来しませんでしたが、リクルート住まいカンパニーは諦めずにずっと業界に働きかけていました。すると、壁紙を選べるサービスを標準化した賃貸住宅管理企業が出てきたんです。

このトレンド予測が的中するには、5年ほどかかりましたが、発表した時点で確信がありました。どう考えても、これから空室は増え続けていくというファクトがあるのですから、大家さん側の経営努力が必須になるはずです。トレンドになる理由があるのかどうか、その予測が理にかなっているのかどうかをチェックをして、我々は予測を発表するんです。

中村 たとえばTwitterのトレンドや、Yahoo!の急上昇ワードは、多くの人によってつぶやかれたり、検索されたワードという明確な指標の上でトレンドとして定義しています。トレンドを選定される基準について教えてください。

岩下 昨年末に発表した2018年度の「トレンド予測」ですが、候補として挙がったもののファクトが揃わずに発表までに至らなかったものもありました。普段からリクルートでは、「N=1のファクトを示せ」とよく言います。事業計画をあるフレームワークの上で立てることは容易ですが、本当にその人たちは困っているのか、このサービスを提供したら本当に喜んでもらえるのかということを新規事業提案の審議の場などでずっと問うてきた会社なんです。

私は社内でビッグデータやAIの活用やIT戦略の推進もしていますが、今のところ収集・蓄積されたデータから非連続な事象を予測したり、作り出したりすることは非常に困難です。現在はまだ、人間の感情や体調などを推測できる非構造化データが十分には収集・分析されていないんです。

だから、新しいことや非連続なことを考え出そうとする際、今はまだ定量的情報よりも、定性的情報からのヒントの方が信用できるんです。一つひとつのファクトをフレームワークに乗せて帰納法で考えるのが今の正攻法でしょう。ファクトが足りず、トレンドが拡がるシナリオが見えないものは難しいと判断します。

先ほども触れましたが、新規性のある事例など定性的な情報からトレンドの兆しを発見し、定量的なデータによって、その兆しが本当にトレンドになるのかを判断するようにしています。そうでないとリクルートが作為的にトレンドを仕掛けているようにも見られてしまいかねませんから。

トレンドの拡大と活用には多様な価値観や人材が必要

中村 トレンドを先取りすることに注目が集まりますが、トレンドに価値がある、旬の時期は一体いつなのでしょうか?

岩下 旬ということであれば、専門家が予測したその領域のトレンドは、すぐにはトレンドにならないことが多くあります。なぜならば、専門家の予測は先取りしすぎていることがほとんど。だから、専門家の間では当たり前になったころに、一般の人たちの間で新しいものとしてトレンドになったりするんです。

中村 最近の例でいえば人工知能やビットコインなんかもそうと言えるかもしれませんね。ここ数年で一気に話題になりましたが、専門家はさらに前から目をつけていました。

岩下 つまり、旬なトレンドを求めるなら専門家の意見を聞き過ぎないことが大事です。専門家が少し古いと思っていることが、案外世間一般にはちょうど良かったりするんです。新しいものがコモディティ化するまでの変化を、S字のカーブに見立てると、我々が追い求めているのは、コモディティ化する前のトレンド期に差し掛かる変曲点です。

品田 我々は情報を世の中に向けて発信する立場なので、先取り感を重視します。ですが、先取りだけがビジネスにおいて重要ではないんです。既にカーブに乗ったコモディティ化したトレンドで十分にビジネスを成功させる、ということも大切です。

それを言い表した、ある証券会社にまつわる逸話があります。社長は社内の2人の別のタイプの稼ぎ頭をインジケーターにして、Aさんがもうダメだと言ったらまだいけると判断し、Bさんがまだいけると言ったときはもうおしまいだと判断していたんだそうです。これは0から1になるときに稼ぐAさんタイプと、100になっても101、102とまだ稼ぐBさんタイプの2パターンの人間が存在していて、人によってトレンドへの乗り方に違いがあるということなんです。

岩下 リクルートでは、よく、0→1、1→10と10→100というように事業のフェーズを分けて語ることがあります。一つのフェーズの仕事に長く従事していた人は、別のフェーズの事業では苦戦することが多い。新規事業を起こす0→1と、既存事業を成長させる10→100、100→120では頭の使い方が全く違うんです。既存事業をより強固にするときは、悲観的で具体的な打ち手が打てる人間が向いています。リスクを想定できて同業プレーヤーに負けないためのロジカルシンキングができる人間ですね。逆に新規事業を起こすには、見つけた兆しを楽観的に捉え、それを実行シナリオに書き起こせる具体的なビジョンのある人間が成功します。

リクルートは創業後の50数年間、主に日本の社会や経済の進化や成長に対応して事業展開して成長してきた企業なので、未来の日本社会に向けての良い変化の兆しを見つけ出して、それを拡げて行きたいと考えています。

品田 成長という概念に関して今の若者に多少媚びていえば、「伸びなければならない」という発想自体が古臭いものかもしれません。今の感覚では、「ちょうどいいところで続けていければいい」という発想に悲観的なイメージはありませんよね。そういう時代といえるかもしれません。

岩下 そうですね。常に成長を目指すアメリカ的な価値観は、もはやかつてのようには今の世代にとってのベンチマークにはできないですよね。個人的にはアメリカに憧れることをもっと早く止めるべきだったと思います。欧州の各国のように低成長を経験しており、人口が少なく、資源も限られているような国を見ながら、いかに持続可能な社会をつくっていくのかを考えなければいけないと思います。そうやって日本の近未来がどこにあるのかを探ってみると、確実にアメリカにその答えはありません。トレンドを探る活動の中でも、低成長社会へ向けて生活者が互助的に備えていこうとする確かな動きを感じています。

アナログとテクノロジーを正しくかけ合わせることでトレンドは生まれる

中村 トレンドという概念がかつてはモノやサービスに終始していましたが、今や社会の在り方や人の生き方にまで及ぶのですね。

岩下 結局、個人の生き方の総和が社会ですから、その通りですね。今回の対談を通して、品田さんと私の出発点の違いに気付きました。リクルート社内の昔の言葉で整理すると、「感動ビジネス」を推進するのが品田さんの出発点で、私は「行動ビジネス」を推進するというのが出発点なんですね。

品田 エンターテインメントの領域では、顧客満足度に重きを置いているだけでは感動は起きないんです。「こんなものが欲しい」という需要に対してストレートに供給するのではなく、「こんなものが欲しかったのに、こんなものが出てきてしまった!」という驚きに価値があるんです。小汚い料理店で絶品の料理が出てくるような、想定外のことに対して爆発が起こると思っています。その感動をつくれるかどうかに、私は一生懸命ですし、その先にトレンドがあると思っています。

中村 ここまでのお二人のお話を総括すると、ネット社会といわれ、あらゆる情報が収集されるデジタル化が進んだ現代でも、テクノロジーでは拾えない定性的な「生の情報」にこそ価値があり、それがトレンドの予測や仕掛けを手助けしてくれるということですね。

岩下 仮説を立てる段階では、今はまだ定性的情報の方が役立ちます。反面、立証には定量的データが役立ちます。今のところ、まだサービスの流れの上にある行動データしか収集できないので、定量的データは1→100には役立ちますが、0→1にはなかなか役立てられません。

先日、グーグルホームが発売されましたが、今後は、個人の感情やコミュニケーションなどがより定量的に分析できるようになっていくでしょう。しかし、たとえ今よりIoTやAIが進化しても、非連続なアイディアを考えたり課題設定を行うのが人間の役割であるべきだと思います。

中村 トレンドはつねに変化し続けています。後手にまわらないように、いち早くトレンドを察知してビジネスに取り入れていくためにはどのようなことを心がけるとよいでしょうか?

品田 圧倒的多数の人は、生きていく中でトライアンドエラーを繰り返して、徐々に洗練されていきますよね。それはいいことですが、その反面、余計なことをしないつまらない人間になってしまうと考えることもできます。予測不可能な起爆剤を持っているのは、やっぱり若者なんです。 だから、私は相変わらず若者にくっついて世界各国のクラブにもいきますし、いろんな女性と出会うためにサルサ教室にも通っています(笑)。

自分の好きなことを持つことは人生を楽しむ上で欠かせませんが、自分の好きなことがそのままトレンドになるわけではありません。今後、トレンドになり得るかを推し量るために、世の中を構成している多種多様な個人を知ることが肝心です。まずは自分の好きなことをトレンドにするために頑張ってみるのもいいと思います。そのうち、それだけでは通用しないことがわかると思うので、そのときにどうするかが、未来を担うみなさんにとって飛躍への鍵になるでしょう。

岩下 未来を担う子供たちのことを考える上で、私が個人的に一番気を付けていることは「大人が楽しそうにしていること」です。そうでないと、子供たちは大人になりたいと思えないし、未来に希望を持ちにくい。同じように、上司が楽しそうでなく、辛そうと思ったら、その下のメンバーは上司のようになりたいとは思わない。つまり、一人ひとりが、より良い社会に繋がると思える方向に少しでも行動を変えて行くことが大事だと思います。それと同様に、リクルートが毎年行っているトレンド予測の発表によって、社会の良い兆しを拡大していく方向の後押しが出来ればと思っています。

社会通念や商慣習が変わり、大きなトレンドとなるにはかなり時間がかかりますし、変えるのに大変な労力を要することもあると思います。しかし、変化に必然や合理性がある場合には着実に変わっていきます。例えば、TwitterやFacebookが出てきた当初、多くの人が日本では普及しにくいだろうと言っていましたが、現在は当たり前のものになっていますよね。読者の方々にも、自分が感じた良い兆しが起こりうるファクトが揃っているならば、諦めずに仕掛け続けて欲しいと思います。

「トレンドって作れるんですか?」 日経BP総研 マーケティング戦略研究所 品田英雄×リクルート岩下直司、中村太郎

  1. 前編
  2. 後編

プロフィール/敬称略

品田英雄(しなだ・ひでお)

日経BP社 日経BP総研 マーケティング戦略研究所 上席研究員

1980年に大学卒業後、ラジオ関東(現在のRFラジオ日本)入社。洋楽番組のディレクターを務める。87年日経マグロウヒル(現在の日経BP社)入社。記者、開発室を経て、97年編集長として「日経エンタテインメント!」創刊。その後、同誌発行人等を経て、2013年から現職。日経MJ「ヒットの現象学」、日本経済新聞「ためになるエンタメ」連載。デジタルハリウッド大学大学院客員教授等、テレビ・ラジオ・講演にも取り組む。著書に『ヒットを読む』(日経文庫)。

岩下直司(いわした・なおじ)

リクルートホールディングス リクルート経営コンピタンス研究所 コンピタンスマネジメント推進部 兼 R&D 次世代事業開発室

1987年リクルートに入社。通信事業で様々な職種を経験した後、自動車領域、旅行領域のプロダクト企画、事業企画を担当。通販ユニット長を経て、07年コンピタンスマネジメント支援室(現リクルート経営コンピタンス研究所)に異動。現在はFORUMや、メディアの学校の企画・運営など、グループ各社の事業支援と人材育成に関わる。

中村太郎(なかむら・たろう)

リクルートホールディングス 広報部 社外広報グループ

新卒で化粧品メーカーに入社し、販売企画や流通営業担当を経て、広報グループマネージャーを長く務めた後、2014年にリクルートホールディングスに中途入社。現在は、トレンド予測発表会の企画・運営やリクルートホールディングスが運営する2つのギャラリー、地方創生の取組みなどの広報活動を担当。

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