「イクボス」提唱者 兼 実践者 安藤哲也さんのリクルート考

「イクボス」提唱者 兼 実践者 安藤哲也さんのリクルート考

リクルートグループは社会からどう見えているのか。
私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2017年12月号からの転載記事です

錆びついた常識を揺さぶり新しい価値観や文化を発信する企業であれ

僕はこれまでいろいろな事業を立ち上げてきて、転職も9回しているのですが、リクルートさんとは要所要所で接点があります。

最初は、僕が千駄木で書店を経営していた頃。当時『ダヴィンチ』の編集長だった大野誠一さん(リクルートOB)が、誌上でブックレビューのコーナーをくださって。メディアファクトリーに移った後も、ずっと書かせてもらっていました。大野さんは、最近立ち上げた新会社「ライフシフト・ジャパン」の経営メンバーでもあります。

10年前にファザーリング・ジャパン(以下FJ)を立ち上げ、2014年には「イクボスプロジェクト」を立ち上げてからは、そこでの接点が多いですね。男性の育休をテーマにした講演会を一緒にやらせてもらいましたし、2016年には『iction!』のフォーラムで登壇し、子育てと仕事の両立の鍵は、夫がイクメンになること、上司がイクボスになることが大事だと伝えました。

イクメンという言葉はもう一般用語になっていますけど、僕がFJを立ち上げた2006年当時は、全くそんな雰囲気ではありませんでした。当時僕は、楽天の事業部長を務めていて、子どもが生まれたのをきっかけにFJの構想を考え始めていました。

「日本のパパも欧米のパパたちのように家事や育児に積極的に関わろうよ」という話をすると、周囲からは否定の嵐でしたよ(笑)。「余計なことするな」とか「そんなの絶対無理だ。父親が育児するわけない」って。でも、僕は絶対にそういう社会がくると思っていたし、勝つための戦略も自分のなかにあったので、「今に見てろよ」という感じでしたよね。人やお金などさまざまなリソースも必要だったので、そこは汗をかいて集めました。「パパ検定」という検定試験の運用である程度のお金が必要になると、妻に内緒で自宅のマンションを担保に入れて銀行から借りました。5年で完済したその日に、妻には報告しましたけど(笑)。最終的に会社を辞めてFJの活動に専念しようと決めたのが、44歳の時。振り返ると、退路を断ってまでやったことが功を奏したように思います。

僕は負ける戦に根性論だけで臨むのは一番かっこ悪いと思うタイプだから、勝つための戦略はしつこく考えました。戦略だけでなくて、どうしてここまで本気になれたのかというと、子どもたちがちゃんと未来に希望を持っていける社会を作るのが、全ての大人の責任だと本気で思ったからなんですよね。自分の子どもだけが幸せな社会はないと思ったから、小学校のPTA会長も引き受けたし、児童養護施設の子どもたちを支援するNPOの代表理事も務めています。

直観的に突っ走り、走りながら考える一方で、それを客観的に見る自分もいるんです。これまでの経験から見えた社会の歪みや課題に対して、自分はどんなソリューションを提供できるのか、日本社会にどんなインパクトを与えられるのか、それによって誰が笑顔になるのか、日本以外の国の事情はどうなのか等、そんなことをぐるぐる考え、多様な人の意見を聞きながら確信の度合を高めていかないと、突破力や、やりきる力は出てこないですよね。

僕が出会ったリクルートで働く人たちも自分と似た思考を持っていると感じました。起業家精神が旺盛で会社にぶら下がるのではなく、自ら主体性を持って働いている。成長意欲が高かった20代の頃はリクルートさんが発信する斬新で面白いメッセージやクリエイティビティによく思考を揺さぶられていました。僕にとってリクルートは、日本の新しい価値観や文化を創ってきた企業です。世の中で常識と言われていることがどうも錆びついてきたりするのを感じると、僕の出番かなと思うんですけど、同じようにリクルートさんにも社会の変革装置であり続けて欲しいという期待はありますよね。

今日本全体で働き方改革に取り組んでいますけど、僕個人は生き方改革だと思っていて。うまく働き方を変えられる人は、本業以外のサードプレイスを持っているんですよね。これから老若男女問わずいろいろなシフトが起こると思います。男性が育休を取ることから始めるのもいいと思うし、小さくとも変化を起こそうとしている人たちの後押しをしたくて、新しい会社を作りました。リスクを取るのが怖いと思う人でも一歩踏み出す勇気が持てるように、正しい情報や笑って生きているロールモデルをどんどん発信していく予定です。そして、自分の直感やアイデアを信じて動き出せる人を少しでも増やしたいですね。「100年人生」に向けて、リクルートさんがこれから社会に対してどんな新しい価値観や文化を創っていくのか、楽しみにしています。

プロフィール/敬称略

安藤哲也

NPO法人ファザーリング・ジャパン ファウンダー
ライフシフト・ジャパン株式会社 代表取締役社長
1962年生まれ。出版社やIT企業など9回の転職を経て、2006年に父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパンを設立。「笑っている父親を増やしたい」と講演や企業向けセミナー、絵本の読み聞かせなどで全国を歩く。最近は、管理職養成事業の「イクボス」で企業・自治体での研修も多い。児童養護施設の支援を行うNPO法人タイガーマスク基金代表をはじめ、厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」顧問、にっぽん子育て応援団 共同代表等も務める。著書に『パパの極意〜仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『できるリーダーはなぜメールが短いのか』(青春出版社)など多数。2男1女の父親。

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