Menu

シェアする

保存する

超大規模でも円滑にマネジメント!ロケット打ち上げプロジェクトに見るJAXAの仕事術

テクノロジー , マネジメント , リーダーシップ , 人材活用 , 人材育成 , 新規事業

文:葛原 信太郎  写真:石塚 元太良

難解かつ複雑で大規模な宇宙開発をいくつも抱えるJAXA。その仕事術はあなたのプロジェクトにも活かせる仕事の極意の宝庫だ。

人々の夢を一身に背負い、たくさんの人が関わるロケットの打ち上げ。宇宙を舞台とする大規模プロジェクトに挑むJAXAのプロジェクトマネジメントには、私たちの日々の仕事にも活かせることが多くあった。長年JAXAのロケット開発に従事し、現在はプロジェクトマネージャーとして活躍されている井元隆行さんに大規模プロジェクトでの仕事術を伺う。

大規模なプロジェクト。効率的に進めるために必要なこととは。

井元さんが従事しているのは組立・点検などの運用を効率化することにより、運用コストの低減を実現した次世代ロケット「イプシロンロケット」の打ち上げプロジェクトだ。関係者や協同する企業の数から、プロジェクトの規模感を伺った。

イプシロンプロジェクトにはJAXA内での専任者で20人弱。併任者を合わせると計40人弱が関わる。加えて、様々なメーカー、企業も大切なパートナーだ。ロケット開発に直接関わるので10社程度、地上施設や設備なども加えると60社にものぼってくる。各企業から数十から数百人ほどが関わることを加味するとプロジェクトに関わる人数はどんどん膨れ上がっていく。

井元 隆行(以下、井元) 「正確な数を出すのは難しいですが、イプシロンは何万人、もしかすると十数万人という人が関わるプロジェクトです。企業やJAXA内のメンバーには軌道力学、材料力学、流体力学、熱力学、制御工学、電子工学、土木工学など各分野に精通した信頼できる専門家も多く関わっていただいています。規模と専門性を兼ね備えた、ある意味ドリームチームなのです」

十数万人規模のプロジェクトとなると、情報の伝達や共有も容易ではない。ルールもなく各々が勝手に情報のやりとりをしてしまっては収集がつかなくなってしまうだろう。井元さんの元には日々100件ほどのメールが届くが、それはプロジェクトの規模から考えると思いの外少ない。しかも、そのほとんどは井元さんが意思決定を下さずとも良い状態にしているという。

井元 「たくさんの情報を処理しようとすると意思決定は遅れます。ですから、メールも選別して送ってもらうようにしました。メンバーもその点は理解してくれており、各自の判断で問題ないもの、私の判断が必要なものを取捨選択した上で、私に判断を仰いでくれています。膨大な判断を全てトップダウンで落とすのは無理が出てくる。メンバーを信頼し、現場判断でも問題ない状態を日頃から作っておくことも私のミッションの1つです」

各自が判断をするためには、メンバー間での適切な情報共有が肝となる。情報共有の指針を伝え、実践してもらうことでお互いがスマートに仕事をすすめることができる。では齟齬が起きやすい、部署や企業を跨いだコミュニケーションの方法はどのようにしているのだろう。

イプシロンロケット3号機打ち上げの瞬間
(Image Credit:JAXA)

井元  「他部署や企業へ依頼をするときは必ず資料化し、システムを使い共有します。大切なのは、言った・言っていないの問題にならないよう、ファクトを残すこと。我々の場合文章に立ち返り、書いてある・書いていない、を基準にしています。また、決定や変更は結論だけでなく、根拠や過程を残すことも徹底しています。必要なことは答えよりも根拠や過程にある場合が多い。技術資料や引き継ぎ資料などでも同様ですよね」

適切なコミュニケーションが求められるのは、膨大な人数が関わるからだけではない。関わるのは膨大な『部品』もしかりだ。ロケットを構成する大量の部品は、全て仕様どおりに動くかチェックしなければならない。さらに、部品は単体だけでなく、組み合わせてうまく挙動するかが鍵になる。

井元  「ロケットは外から見ればツルッとした円筒ですが、その中には何十万点もの部品があり、その1つでも壊れれば打ち上げが失敗するかもしれない。しかし、そのすべてを組み上げてテストすることはできません。それは本番。一発勝負です。ロケット打ち上げの現場では『Test Like You Fly, Fly Like You Test.』という言葉があります。飛ばすことを想像しながら地上でテストをし、地上でテストをしたように飛ばしなさいという意味で、開発関係者に対しいかにテストが大切かを伝えるワードとして使われています」

いつでも本番を想像し、他部署、他部品との連動を前提に作業を進めていくことで組み上げた際のリスクを極力低くすることができる。十数万人規模のプロジェクトを進めていたのは、そういったノウハウの積み重ねであり、全員が持たなければならないマインドセットがその根底を支えている。

プロジェクトマネージャーは共感できるビジョンを作り、浸透するまで発信していくポジション

イプシロンロケット打ち上げには、プロジェクトごとに達成すべき技術的観点などが定められたミッション要求というものがある。さらに、それをクリアするために『「良い(E)ロケット」にする』というビジョンを井元さんは定めた。

井元  「イプシロンとは、ギリシャ文字のEに相当し、公式には『Evolution & Excellence(技術の革新・発展)』『Exploration(宇宙の開拓)』『Education(技術者の育成)』に由来するとしていますが、私の中では『良い(E)ロケット』ということにしています」

井元さんは「良い(E)ロケット」に関して、3つの観点を持っている。

井元  「ロケットは、国費で開発しているものですから、最終的には国民のみなさんのロケットであると私たちは考えています。まずは国民のみなさんにとって良いロケットであること。打ち上げに向けてワクワクしてもらい、国民のみなさんの役に立つことを大事にするということです。

さらにはお客さんにとって良いロケットであること。ロケットは簡単に言うとタクシーと同じような役割を持っています。宇宙空間に運びたいものを載せて、軌道上に打ち上げるために存在します。ロケットの場合のお客さんとは、人工衛星や宇宙探査機のこと。お客さんが安全に宇宙に行けるように、安全性や乗り心地などの向上が必要です。

そして最後にプロジェクトチームみんなにとって良いロケットであること。プロジェクトメンバーをはじめとした開発者には、このロケットに関わって良かった、と思ってもらいたいです」

国民・お客さん・開発者の、それぞれにとって「良いロケット」にしたい。井元さんは、3つの観点からなる「良い(E)ロケット」というビジョンを常に周りに発信している。

井元  「開発には多くの困難が待ち受けています。毎日がチャレンジで、乗り越えなければいけない壁がたくさんある。それらをクリアしていくためには、みんなが共感できるようなゴールとビジョンの設定が大事です。共感できるゴールとビジョンがあれば、自然とみんながチャレンジする。メンバーにとって誰しもが納得でき、目指したいと思える目標を置くことが私の最大の仕事かもしれません」

共感できるビジョンが浸透していると漫然とタスクをこなすのではなく、完成形とプロジェクトの価値を実感しながら仕事を進めることができる。誰だって、自分の仕事は尊いものだ、世の中に役立つものだ、と言われたらうれしい。困難に立ち向かう活力になるはずだ。

井元  「ビジョンとゴールに向かう方法を考える段階では、できるだけ自分たちの意見を反映してほしいとお願いしています。当事者意識を持つことで、情熱やチャレンジ、困難を乗り越える力になります。プロジェクトメンバーにはできるだけ言いたいことを言ってもらって、その上で、意見が違うところは話し合う、きちんとコミュニケーションを取るのが重要です」

忠実に、着実に、そして丁寧に、メンバーをモチベートする。最後に背中を押すのは人々の声援

自分ごと化はプロジェクトにポジティブに働く。だが、自分ごとであればあるほど、本番に向けてプレッシャーは大きくなる。想像できないようなプレッシャーを背負う井元さんは、どのようにプレッシャーと戦っているのだろうか。

井元  「当然ですが、打ち上げを成功させたいという思いは誰もが持っています。他のプロジェクトだってそうです。けれど、失敗するロケットもある。トイレでも、お風呂でも、つねに仕事のことを考えていますし、寝る前にもやらなきゃいけないことが思い浮かんでしまいます。

大きなプレッシャーを感じるときは、応援してくれている人たちを思い出します。過去に関わった打ち上げのときには、地元の方から千羽鶴をいただきました。そういった応援で、ふと心が軽くなるんです。今までやってきたことに自信を持って、とにかく打ち上げに集中する。そういう気持ちになることができました」

大きなプレッシャーを抱えているときは、応援してくれている人を思い出す。一人で戦っているのではないという勇気を与えてくれるはずだ。

井元  「無事、打ち上げが終わったら、軽いパーティーをして、そのあとはカラオケに行ったりします。ただ、打ち上げの成功自体が、非常に大きな達成感と喜びがあって、その場で自然とお互いの苦労をねぎらう場になります。ロケットの打ち上げ自体が、最高の"打ち上げ"なんです」

メンバーをモチベートし、結果を出していくのが、プロジェクトマネージャーの最大の役割だ。大きなプロジェクトであるからこそ、基本に忠実に、着実に、そして丁寧にプロジェクトメンバーが仕事を重ねている様子をうかがい知ることができる。

規模の大小はあれど、他のプロジェクトにも応用できるだろう。宇宙に向かうロケットのように、みなさんのプロジェクトがグイグイと推進するヒントになればうれしい。

筑波宇宙センターロケット広場(Image Credit:JAXA)

プロフィール/敬称略

井元 隆行(いもと・たかゆき)

九州大学大学院工学研究科応用力学専攻修了。1989年、宇宙開発事業団(現JAXA)に入社し、H-IIロケットのエンジン・推進系の開発に従事。H-IIAロケットの開発取りまとめを担当した後、イプシロンロケットのプロジェクトチームへ。イプシロンの研究開始当初から開発の取りまとめを担当。

この記事に興味を持つ方は、他にもこんな記事を読んでいます

最新記事