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350年以上続く茶道宗徧流家元に聞く、人生100年時代に必要な学びと生きる術

ビジネススキル , 働き方 , 多様性 , 生産性

文:富岡麻美  写真:斉藤有美

昨年、政府主導の一億総活躍社会実現へ向けた「人生100年時代構想推進室」が発足。本格的な「人生100年時代」を我々はどう生きるべきか。

「人生100年時代」の生き方を説く「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社)出版以来、多くの人たちが「人生100年時代」というキーワードを意識するようになった。一方で「そうは言っても・・・」と、戸惑いを隠せない人も多いだろう。第三回となる今回は、茶道山田宗徧流不審庵 第11代家元である幽々斎 山田宗徧さんに、今、必要な学びや人生の捉え方についてお話を伺った。

いくつになっても学び続けること

― 350年以上続く茶道のお家元として、「人生100年時代」についてどう捉えていらっしゃいますか。

お茶の世界には定年がないので、60年の会社人生という感覚がそもそもありません。実際に、ご高齢の先生がたくさんいらっしゃいますが、皆さん本当にイキイキとしています。

例えば、「お茶会」のために着物を着て色々な場所へ行きますし、お点前は身体を動かします。手先を使いますから脳にも良いようです。私のところにいらっしゃる92歳の方は札幌で一人暮らしをしていますが、冬場はご自分で雪かきをし、飛行機に乗って鎌倉へ来て、稽古をして帰るという生活をされています。しかも「弟子がいるから、私はまだまだ頑張る」と。他にも、秋田から来ている方も90歳近いのですが、やはり「弟子がいるから勉強をしないといけない」とおっしゃいます。このお二人を始め、高齢になっても、いつまでも学ぶ姿勢を貫いている方は多いです。「100年時代」の話は、そういう方たちに聞いたほうが良いかもしれませんね(笑)。

― つまり、いくつになっても学び続けるということは、若さの秘訣でもあり、生きるうえでとても重要だということですね。

歳を重ねてもイキイキして学び続けている人というのは、若い時代に基礎をしっかりと身につけている方が多いのだと思います。その頃に深く学んだり、人間的素養があった人は、高齢になったときに全然違う。本人がそこまで意識しなくても、親が教えてくれたとか、良い師匠に出会ったというケースが多い。年長者や良い師が、型を教えると同時に、人生も教えてくれたんですね。

家制度や家族制度がしっかりと機能して、何世代もの大家族で暮らしていた時代はそういった循環がありましたが、核家族化が進んだ現代では、年長者から何かを学ぶということは難しくなりました。
そういう意味でも「習い事」というシステムはとても重要です。現在、習い事をする人は減ったように感じていますが、本来なら習い事を通して、自分の世界を持つ年配の人たちと出会い、甘えて悩みを相談したり、人生について教わるのが良いんです。ネットではなくて、リアルに。

歴史を学ぶことから見えてくる、100年時代の人生観

― 今後、我々はどんなことを学ぶ必要があるとお考えですか。

過去・現在・未来があるなかで、人間はどう生きているのか、100年生きるという人生観で見つめ直すことです。例えば、読書を通じて過去のことつまり歴史を学び、人がどう生きてきたか、色々なパターンがあることを知っておく必要がありますよね。すると生きるうえで、自分のなかの時間軸をしっかり持つことができる。そのための歴史の勉強ですし、同時に他の国についても知った方が良いということです。
具体的には文明論を読んだ方が良いですね。これらの知識を持つことで、外国の方と話すときに自分の中での基軸ができる。

― 家元は海外の方や他業種の方との交流もおありだと思うのですが、何か印象に残っているエピソードはございますか。

私は28歳のとき、お茶会をするためにロンドンへ行きましたが、そこで金融業界で働く若い人たちと出会いました。彼らは皆「30代で引退し、その後は田園で庭いじりをしながら過ごすのが理想的だと」話していて驚きました。10代で証券や金融の世界に入り、しっかりとした専門性を持っている彼らが、働くことが第一ではなく、家族といかに幸せに暮らすかということに重きを置いているんです。

一方国内に目を向けても、最近、政財界で活躍する仲間たちのあいだでは、終末期をどう考えるかというテーマで盛り上がっています。家族が病院で亡くなっていく、看取りはどうするか、などが話題になっているんです。20代の頃には自分の両親が死ぬことなんて考えられない。けれどもそれは必ず現実に起こる。支えてくれる人がどれだけいるのかとか、一生付き合える友だちをどう作るかといった、人とのつながりを大事にする必要があるのです。

― 歴史を学び、他国を知っているからこそ、はじめて自分の位置が定まる。そして最終的には、家族や人とのつながりが一番重要となる、ということでしょうか。

最後に生き残るのは人間関係ですから、お金があっても孤独では意味がないと思います。脳科学的には、人とつながることが人間の最大の幸福なのだという説もあるそうです。さらに人が人間関係を持てるのは最大100人程度。それくらいしか維持できないのだとか。ですから自分にとって大事な人を見極めて、そのつながりをどうするかをしっかり決める必要がありますね。

今年、初釜をしたときにお孫さんを連れていらっしゃった方が何組かいました。その姿を見て、おばあちゃんと孫に共通の話題があるって素晴らしいことだなあと改めて感じました。お茶の良いなと思うところは、世代を超えられるという点なのです。

― 家元ご自身は世代を超えたつながりの大切さについて、いつ頃気付かれたのですか。

お茶の世界に入ってからですね。若くして家元になりましたので、年配の方々からとても可愛がってもらえたんです。実はその当時は「俺って偉いんだぜ」とか思っていたんですが(笑)今振り返ると非常にありがたかったなと思います。年上に可愛がられるのは大事な要素ですから。

― 習い事を超えたさらに一歩先に、大切にしたいつながりが生まれるんですね。

そうです。ですから、師となるような人を探したり、出会えるようにすると良いかもしれません。一方で、縁でつながり合うなどのアナログスキルと同時に、デジタルスキルが必要な時代であることも確かです。
私の娘は現在大学生で、ある企業でインターンをしていますが、社会人になる前でもパワーポイントやワード、エクセルが使えるのが当たり前だと言います。我々の時代ですと、会社に入ってから先輩に仕事のスキルを教えてもらうのが一般的でした。

今は自ら情報収集し、加工し、発信する。それがインターンの課題なんだそうです。現代の若者は我々よりも、より変わりゆく世界についての情報をキャッチして、進化していかないといけない世代ですから大変ですよね。

伝統も人生も「本質」を見極めることから。

― 茶道に限らず、伝統を継承するということは、想像以上のご苦労がおありかと思います。家元にとって「伝統」とはどんなものでしょうか。

「伝統」には2つの側面があるように思います。1つは、単に自分が受け継いできたものを「これを伝えなければいけない」ととらえ、漫然と踏襲し続けてしまっているものです。その多くは、受け継いできた人自身の立場を守るためだけにやっているんだと思えてしまう。

けれども実際には、伝えなければならない哲学とかコンセプトがあり、その哲学やコンセプトに技術や知識がつながってくる。ただなぞるのではなく根本をとらえることが、本質的な「伝統」のもう一方の側面だと思います。しかし、本質的なものの伝承をしっかりやりなさいと言える人は少ないですし、きちんと実践できている人は私たちの業界にもあまりいません。

私にとっての一番の課題は、前者の人たちを納得させ、「本質はこういうものだよね」と理解してもらい、やってみようと思わせることです。恐らく企業経営も同じだと思うんです。なんだかわからないけれど誰かが始めてしまったことを、何となく同じようにするものだ、と惰性で続けている...。こういう企業はきっと多いですよね。そうではなく、時代に合わせてアレンジしていくことも必要なのです。問題なのはアレンジもしないまま、昔から皆がやっていたからこうですよ、と何となくと続けているケースが多いということです。

― 読者の皆さんに向けて、人生100年時代を豊かに生きていくためのメッセージをいただけますか。

生活力を磨くことは大切ですね。昔からある生活の知恵を守って暮らしている人って、生活力が素晴らしいですし、応用が利きます。一方、現代人は携帯やパソコンに頼りきりで生きているので、何かあったときに応用が利かない。火をおこすとか、何かを縫うとか、生活するうえで当たり前のことができるって大切です。

あとは抹茶を飲んだ方が良い(笑)。抹茶は食物繊維が多く、一服飲めばサラダ一皿分の栄養素が取れるそうです。点てた方が美味しいですし吸収が良いですが、日常に取り入れるならばアイスクリームなどにちょっとふりかけるだけでも良いと思います。お茶の先生は長生きであるというデータもあるそうです。

お茶の世界ではよく「茶の湯は親切にいたすべきこと」と言います。目上は大切に下は大事に育てることや、礼儀や恩を返すといった人間として基本的なことを大事にしようという意味です。そして何かをするなら、突き詰めてとことんやることです。誰かに迷惑かけてしまったとしても、若ければきちんと謝ることで案外何とかなります。私自身もそうやってきましたし(笑)。本質を見極め、1度の人生だから好きなことをやれば良いんです。

プロフィール/敬称略

山田長光(やまだ・ながみつ)

茶道山田宗徧流不審庵 第11代家元 幽々斎 山田宗徧
鎌倉生まれ。21歳で、父親の死去に伴い11世になる。24歳で宗徧襲名。
桐島ローランドとの共著で「宗徧風」を発刊。茶道は、師匠、空間、道具、点前、許状で成り立ち、宗徧流茶道の魅力は「稽古」であり、稽古の魅力の核は「師匠」と考え、美しい身体の動かし方と茶道具という美術品の扱いが身につく「点前」の上達と知識の向上、師匠や同門との触れ合いの中での人間的成長をする宗徧流へと、稽古法の現代化を図っている。

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