Menu

シェアする

保存する

抱き枕、腹巻き、こたつ...軸をぶらさず新しいことへ。400年の歴史を持つ「養命酒製造」の挑戦

アイデア , イノベーション , 事業推進 , 事業立案

文:土屋 智弘  写真:斉藤 有美

「薬用養命酒」を一枚看板として走り続けてきた養命酒製造。しかし近年は大胆な新商品や販促で経営の舵を大きく切っている。老舗ゆえに抱える問題を打ち破ったその手法は多くの示唆に富むものだった。

400年前、信州伊那の谷で産声を上げた「薬用養命酒」。日本を代表する薬用酒として昭和・平成の初期までは常備薬のようにどの家庭でも重宝されたという。しかし時代の流れと、ユーザーとともに年を重ねたゆえに「古くさい」というイメージを少なからずまとっていた。

そんな状況を打破すべく、プロダクトの方向転換やマーケティング施策の転換などを実施。新たなターゲット層の獲得に成功をおさめはじめている。400年の歴史を背負いながら、新たな挑戦に向き合えた原動力はどこにあるのだろうか。養命酒製造株式会社マーケティング部の相原健市氏、鳥山敦志氏のおふたりに話を伺った。

みんなが知ってる「養命酒」だけでは通用しない時代

左:マーケティング部お客様コミュニケーショングループ専門課長 鳥山敦志氏
右:マーケティング部広告宣伝グループリーダー 相原健市氏

ー はじめに、養命酒の歴史について教えてください。

相原 健市(以下、相原) 「薬用養命酒(以下・養命酒)」は創始者である塩澤家に400年にわたり伝わってきたものです。企業としては大正12年に創業し、養命酒を中心に「生活者の信頼に応え、豊かな健康生活に貢献する」という社是のもと、お客さまの信頼を得てきました。

元々、養命酒は信州で伝わっていたものです。近郷近在で評判が良かったのですが、全国展開では当初苦戦を強いられたと聞いています。それを打開したのは、新聞やTVの広告でした。当時適切なプロモーションを行うことで全国的な認知を得るとともに、品質も評価いただき、今日の規模に発展することができました。

ー ここ10年ほどで、新商品を続々と出されていますが、ラインナップ拡充に踏み切ったのはなぜなのかを聞かせてください。

相原 狙いは、経営基盤の安定化と企業ブランドの価値向上にありました。今でも養命酒が会社の売上げの大部分を占めていますが、一番売れていた時代から比べると減少しています。昔は健康食品的な競合があまりなく、健康にいいものといえば、養命酒だったんです。ただ、現在は健康食品やサプリ・特保などさまざまある。我々も、養命酒一本の単品経営ではなく、多角的なアプローチが必要だろうと考えました。新商品の開発だけでなく、新規事業や、CSR活動にも力をそそいでおります。

市場の動きは目まぐるしいですから、気がついた時には対応できないという状態にもなりかねません。先手先手で動きたいという想いから、まずは試しにやってみようという背景もありました。特に養命酒は、若い方々にとっては、取っ付きにくい。次世代を考え次なる柱となる商品が必要でした。

ー ひとつの商品で上手くいっていただけに、変革するのは難しかったのではないでしょうか。

相原 もちろん、「養命酒さえしっかりやっておけば大丈夫」という意見もありました。売上が安定し利益が出ていれば、あえて冒険をしなくてもよいかもしれません。

ただ競合商品が増え、生活者のライフスタイルも変化し、売上が伸び悩んできた。危機感がチャレンジへの原動力となりました。

鳥山 敦志(以下・鳥山) 新たな柱を模索する動きは、トップダウンで生まれたものではなく、「自分たちでなにかをしなくては」という社内の機運の高まりが生んだものでした。当社は社員270名ほどと、業界内でも決して多い訳ではありません。その分普段から、社員一人ひとりが職種の枠を越えて多様な仕事にチャレンジしていることも大きかったと思います。

"養命酒らしさ"を活かした、新しさ

左:2010年発売の「ハーブの恵み」。雰囲気は大きく異なるが、ボトルの形は養命酒と全く同じ。

ー 新商品の開発において特に議論を生んだポイントはどこにありましたか?

相原 養命酒を基準にするか否かの議論は大きな分岐点だったと思います。養命酒は医薬品なので、開発にあたりその基準を踏襲したものにするか、離れたものにするかの議論がありました。

近づけると新しいターゲットには根付かないかもしれない。逆に離しすぎるとブランド力が活かせず、数多ある他の会社の商品と差別化ができない。

鳥山 最終的にたどり着いたのが、長年の研究成果や各部署の知識やノウハウを結集させた、「ハーブの恵み」(2010年発売)でした。容器のボトル形状は踏襲し、養命酒の技術である生薬やハーブをお酒に漬け込み成分を引き出しています。

ー 基本を忠実に守りつつも、発展させていくイメージでしょうか。

鳥山 一貫したメッセージを据えることにしたんです。それは"健康生活に貢献する"という想い。品質にこだわり安心安全な養命酒の作り方が出発点です。最近は消費者の意識が変わり、お酒でも健康にいいものを飲みたいという方が増えてきている。養命酒製造が出すものは「体にいい」ということをブレずに追求する。生薬を使ったものが、基本であり技術の強みですので、そこから派生して、生活者の視点に立ってどう発展させていくかが常に頭の中にあります。

「養命酒らしさ」を体現した、抱き枕、腹巻き、こたつ...とは

ー ラインナップを拡充された結果、市場やお客さまからはどのような反響がありましたか?

鳥山 徐々にではありますが、我々の狙いが着実に成果につながりつつあると感じています。たとえば、2013年に発売した「フルーツとハーブのお酒」は、養命酒とかなり離れたイメージの商品です。ターゲティングとしてはかなり若い方を意識しました。結果、「すごく温まるし美味しいね」「かわいい養命酒」といった意見がSNS上で広まりました。養命酒の持っている健康感と、新しいお酒のジャンルが結びつきを感じられる事例となりました。

フルーツとハーブのお酒

ー SNSのお話が出ましたが、商品のラインナップ以外にも、広報やマーケティングなどの戦略も変えられたのでしょうか?

相原 おっしゃるとおり、新商品の投入と時期を同じくして広報戦略も組み替えました。主力商品の養命酒自体もリブランディングし、若い人を含むあらゆる年代に向けプロモーションしていく方向にシフト。子育て世代の母親や、ハードワークのサラリーマンなど、むしろ健康に気をつけなければいけない現役世代にこそ飲んでもらいたいという願いを込めています。

鳥山 なかでもWebメディアは今後無視できないと考え、その活用を一つのキーにしました。若者を中心としたネットユーザーは、すぐのお客さまではないかも知れませんが、未来の可能性も含めて接して行こうと思ったのです。

ー 具体的には、どのようなWebでの施策を展開されたのですか?

鳥山 養命酒、ちょっと変わったぞ!と思わせる施策を派手に行ったんです。わかりやすいもので言えば、一風変わった、そして目を引く大胆なノベルティですね。第一弾は「養命酒ジャンボ抱きまくら」でした。あくまで冷えを訴求するために「温かく眠れるよ」というイメージで枕をつくりました。続けて「養命酒コップのフチ子 温もりのお着替えセット」「ゴルゴ13の養命酒が入ったアタッシュケース」といったキャラクターコラボも展開しています。

Web上では、奇抜な情報や仕掛けを置いておくと、予想もしない方から広げていただけることが多々あります。効率的に認知を広げていくには、何かしら面白がってもらうことが必要だと思い、短期的には販促につながらないとしても、長期的な認知を得るために今は施策を打とうと尽力してきました。

ただ養命酒が何にいいのか、コンセプトは外さず「冷えにいい」「温める」ことを訴求し、どうしてこのキャンペーンなのかという軸はぶらさないように考えています。

ー かなり思い切った挑戦だったのでは?

鳥山 正直、かなりの冒険でしたね(笑)。しかし挑戦する姿勢をとにかく見せたかった。おかげさまで懸念していた「養命酒なのに何やっているんだ」という顧客からのネガティブな反応がなく、新たな人たちに楽しんでもらえることが、当初より掴めました。

養命酒は元々もつイメージが強いので、変わったことをしてもコントラストで面白く見えるのだと思います。養命酒の持つ「古くさい」というイメージを解決するのに、企業側から「僕ら古くさくないよ」と言うのでは意味がありません。

相原 「見る前に跳べ」といいますか、効率や、ユーザーの反応ばかりを気にしすぎていては、新しいことへの挑戦は難しい。まずは実行してしまい、その結果からコミュニケーションを取るという方法が上手くいったと思いますね。ただこれはあくまで幅広い世代の方に"養命酒、自分にもいいかも"と思ってもらう施策のひとつ。健康セミナーや各種イベントなど、CSR活動なども含め、活動全体を通じて、"薬用養命酒の自分ゴト化""養命酒製造のブランド価値向上"を目指しております。

「温める」をテーマに様々なノベルティを展開。ボトルのラベルをイメージした腹巻き(左)は、ニットでありながら文字がすべてきれいに読めるレベルで再現されている。

軸は大事にしつつ、丁寧に挑戦し続ける

ー 既存の枠組みにとらわれず、さまざまな取り組みを行うことで養命酒は躍進されたと感じています。同じような既存の強い枠組みがある方に向けてアドバイスをお願いします。

相原 大事なのは、軸をぶらさず挑戦することではないでしょうか。養命酒の大元に「健康になってもらいたい」という願いと商品や品質にこだわる「丁寧なものづくり」があります。その軸を大切にして、商品展開を考えたり、プロモーションを展開する。プロモーションも、商品が売れたら終わりではなく、その奥のメッセージまでフォローする、そうしたコミュニケーションが必要なのだと思います。

鳥山 たとえばプレゼントキャンペーンでも、当選された方が喜んでもらえるようチープなものはやらないという姿勢で、クオリティには手を抜きません。「抱き枕」などの景品も安い物を量産するのではなくこだわって質の高いものにする。おかげで話題となることができました。

相原 一連のキャンペーンも、新商品も我々が大切にしている軸を伝えることを第一におきました。確かなもの作りの風土は、自然とあらゆる活動のコアになっていると思います。その風土のもと、より健康的な日々を送りたいと願っている方々すべてに我々の商品を伝えていければと思っています。

左から一社員として活躍中の養命酒のビンくん、鳥山氏 相原氏。ノベルティのこたつ、抱き枕とともに。

プロフィール/敬称略

相原 健市(あいはら・けんいち)

マーケティング部広告宣伝グループ
グループリーダー


鳥山 敦志(とりやま・あつし)

マーケティング部お客様コミュニケーショングループ
専門課長


関連リンク

この記事に興味を持つ方は、他にもこんな記事を読んでいます

最新記事