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クリス・ペプラーが語るヒットチャートと平成。外見重視から本質を追求する社会へ

テクノロジー , メディア , 多様性

文:葛原信太郎  写真:須古恵

新しい元号が現在を相対化するとき“平成的思考”が見えてくる

平成という時代の終わりを目前にひかえた今、私たちは何を思い、考えるべきかーー。デジタルテクノロジーの劇的な進展、経済の低迷や大規模災害など、変転著しい30年が私たちにもたらしたものを振り返るとき、そこにはさまざまな思考のタネや次代へのアイデアが見つかるに違いない。"平成的思考"から脱却し、新時代を生き抜くための来たるべき未来を予測していく。

平成の始まりと時を同じく誕生した J-WAVE。開局日から今なお続く看板番組に「TOKIO HOT 100」がある。30年間、毎週日曜日に、音楽を通じてメッセージを伝え続けてきたナビゲーターのクリス・ペプラーさんに、ヒットチャートと社会の関連、そして平成の変容を聞く。

洋楽から邦楽志向へ――ヒットチャートに見る平成という時代のにおい

― 開局当初から30年間「TOKIO HOT 100」のナビゲーターを続ける中で、クリスさんは平成の変化をどのように捉えてきましたか?

ヒットチャートと世の中の変化は常に連動してきているように思います。ヒットチャートというのは、アーティストがその時に届けたい音楽と、人々がそのときに聞きたい音楽の掛け合わせなんですよ。たとえば、平成の初期は海外への憧れが強く、洋楽も人気でした。ただそれがバブル崩壊後、より身近なものや場所に愛着を持つようになり、邦楽が支持を集めるように変化していきます。ほかにも、9.11や3.11、テクノロジーの進化などが生み出した変化は、都度ヒットチャートや音楽の流行に影響を与えてきたと思いますよ。

― 実際に、どのような変化があったのでしょうか?

平成のスタートは、日本全体が「これからもっと上がっていこうぜ」という高いモチベーションに包まれていました。新卒の初任給も高かったし、破格の値段でアートが売れた。日本の資本が世界に広がり、さまざまなものを高騰化させていく時代です。東京をインターナショナルな街にしよう、自分たちもコスモポリタンであろう、という機運も高く、J-WAVEの設立にもその空気は反映されていました。音楽も洋楽志向で、より洗練されたものや、高級感を求めていたのでしょう。

しかし、バブル崩壊で一気に萎縮しましたよね。拡張よりも立て直し。世界の遠くにあるものや、自分にとって身近じゃないものに対する憧れは、経済の崩壊により、身近なものに対する愛着に変わった。これまではフランス料理やイタリア料理を外食していたのに、急にもつ鍋に変わったという感覚ですね。「日本っていいよね」という心の変化にもつながったと思います。

TOKIO HOT 100のチャートも変わりました。開局当時の邦楽の割合は、100曲中10曲未満ぐらいでしたが、1990年代後半から徐々に変化していき、多いときには、半分以上を邦楽が占めるようになりました。

― 世界情勢に目を向けると、2000年代に入り9.11が起こり、アフガニスタン戦争が勃発するなど、混沌とした時代に突入します。その頃からの空気をどのように感じていましたか?

9.11は本当に衝撃的な出来事でした。世界でテロリズムや移民の問題が深刻化し、ひとつの時代が終わったような感覚にも陥りました。アメリカやヨーロッパなどと比べると日本の危機感は低かったと思いますが、それでも未来があまりにも見渡せない。立ち止まらざるを得ないタイミングだったと思います。「ちょっと腰掛けて、考えようよ、止まろうよ」、そんな気分だったなと。音楽も新しいものを求めるよりも、これまで支持されてきた音楽の傾向を踏襲していたように感じます。実際に、チャートの傾向も大きく変化していません。

その後の大きな変化は、2011年の東日本大震災です。平成において一番の大きな変化だったかもしれません。僕たちも、人間の気持ちが、傷つき、病んでいるときに、どんなことを伝えるのか、迷いの大きい時期でした。チャートには、家族や友情、絆に関する音楽が並び、風刺が効いたものは影を潜めました。

ハードロックよりもバラードが支持され、「FUNKY MONKEY BABYS」や「いきものかがり」といったほっとするようなテイストのサウンドが受け入れられていました。月日が流れ、2013、14年ごろから、少しずついろんなタイプの曲がかけられるようになってきて、日本が抱えている痛みを乗り越えはじめてきたのかなと感じました。

― 平成は社会の変化もさることながら、音楽メディアの変化も激しい時期でした。レコードやカセットからCD、そして配信と変わっていく音楽を取り巻くテクノロジーは、ヒットチャートにどのような変化を起こしてきたと思われますか?

初期の頃はより顕著ですが、デジタルデータによる音楽は、ウッドベースやピアノのようなアコースティックサウンドを立体的に表現することが苦手です。その環境を活かせるのは、コンピューターでつくられている音楽。近年のEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)の台頭は、音楽のデータ化による音の再現能力にも関係していると思います。

また、メディアという観点でいうと、ここ数年のサブスクリプションによる音楽視聴モデルの台頭は、人々の「ものを所有すること」の概念を変えていると思います。ショップでアルバムを買って「所有」するのではなく、音楽は「利用する」ものに変化している。アロマやアクセサリーのように身につけるものに近いのかもしれません。

やってきたことを分解し、必要なことを仕分けて、新元号時代へ持っていく

― 平成の30年間を思い返してみて、"平成のにおい"とは、どのようなものだとお考えですか?

平成の前、昭和はとてもシンプルな時代でした。「なんでこうなの?」と問うと「そういうもんなんだよ」が答えになる。また、パッケージや外見が重視されていた時代で、それがホスピタリティでもありました。

僕も、開局当時、つまり平成初頭の頃は番組の中で英語を多用していました。バイリンガルであるということを全面に出して、飾りとしての英語表現を敢えて使っていたんです。企業や商品のキャッチコピーなんかも英語が多かったですよね。しかし時代が進むにつれて、J-POPがヒットチャートに増えはじめ、デザインや価値観においても日本の要素が評価されるになりました。

今では番組の進行に必要な英語しか使っていません。外国や英語への憧れは、敗戦によるコンプレックスも大きかったのでないでしょうか。戦後、アメリカの文化が入ってきて、アメリカに憧れていた日本人が、コンプレックスから脱却して「アイデンティティとは何だろう」と考え始めたのだろうと思います。

― 「そういうもんなんだよ」で片づけられていた常識を見直し始めた、ということでしょうか?

そうですね。平成は、外見よりも中身や本質が重視されるようになったと感じます。「なんでこれを続けてきたの?」「ずっとやってきたからだよ」「なぜ?」「ずっとやってるから」「え、それはちょっとまずいよね」という具合で、なぜに回答できないことは危険信号。なにが?なぜか?と、様々な自問自答が必要になりました。

今までやってきたことを壊す、辞めるのではなくて、ちょっと分解してみるイメージですね。ガバっと開いてみて「ここがホコリだらけ」「このパーツは交換しないとね」「この機能は要らないんじゃない?」と、仕分ける作業が求められています。僕も番組の仕組みや内容をアップデートするべく、いろいろ分解しているところです。

こういった傾向は、インターネットによって調べることにかかる時間が短縮されたことに起因していると思います。昔は図書館に行く、関連書物を探す、読む...というように、調べることに膨大な時間がかかりました。でも今では、スマホがあればその場ですぐに調べられるから、その分「考えるための時間」が作れる。一般論やネット上の意見に対する、自分の考え方や意見にウェイトが置かれるようになったのでしょう。

すべてがオープンになっていく新元号時代。日本は正直で愛される国になってほしい

― 外見より本質にウェイトが置かれるようになった平成の時代が、来年で終わります。新しい元号の時代はどのようになっていくと思われますか?

21世紀になって18年が経ち、自動運転やAI、IoTなど、21世紀の輪郭と言えるようなものが少しずつ身近になり、私たちの生活を変えていくようになりました。テクノロジーは私たちに考える時間や便利な生活を与えてくれます。その一方で、私たちが直面してこなかった新たな問題提起も起こしていくでしょう。

例を挙げるとすれば、プライバシーに対する考え方が変化していくと思います。おそらく、プライバシーは今後消えていくのではないでしょうか。防犯カメラはいたるところにあり、SNSには個人情報がどんどん掲載されていく。YouTubeやInstagramなどでみんなが「自分のこと」を発信することに抵抗がなくなってきているように感じています。プライベートなことや生活のあらゆるシーンを含む、さまざまなことがオープンにだれでも知れるようになっていく。そんな時代になっていくんじゃないかと。すぐにバレてしまうから、ウソもつけなくなっていきますね。浮気だって無くなるかもしれません。本当はウソをつきたいんだけど、ウソをつけないから、正直に言うしかない(笑)。

― これからの新たな時代を生きる私たちに、どんなことを伝えていきたいとお考えでしょうか?

そうですね...明治・大正・昭和と、国家間の競争関係を経て、平成が終わろうとする今、大事だと思うのは、日本はみんなから愛される国であろうよ、ということでしょうか。せっかく2020年にはオリンピックがあるわけですから、それを機に「日本がやるなら協力しよう」というような国になれればいいのかなと。

平成の間に、9.11と3.11という、信じられないようなことがあった。でも、今後は、もう少し良い時代が来るような気がします。今は、その前の混沌とした時期なのかもしれませんね。

新しい元号の時代がきても、日曜日は変わりません。おそらくこれからも、僕は日曜日にみなさんにヒットチャートを伝えていきます。気楽に、肩の力を抜いて、カジュアルに、ちゃんと休息をとってもらって、インターネットを通じて、物理的な距離を越えて、価値観を知り、繋がっていく。人類みな兄弟ですから。

プロフィール/敬称略

CHRIS PEPPLER(クリス・ペプラー)

TV・ラジオ、パーソナリティー。FMラジオ局J-WAVEが1988年に開局すると同時に、ナビゲーターとして抜擢され、30年間に渡り「TOKIO HOT 100」のナビゲーターを務めている。 日本のミュージックマスターとして知られ、音楽、映画やスポーツなどエンターテイメントを中心にTV番組、CM出演、ドラマ出演、ビッグセレブの来日記者会見やインタビュー、イベントMCなど幅広く活躍中。

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