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【第2回】やさしいお店がいいお店 ―小さなお店の経営学―

Recruit , アイデア , マネジメント , 事業推進 , 事業立案 , 人材活用 , 人材育成

写真:石山慎治(写真は左から宇佐川、三宅准教授)

小規模サービス業のだからこそのチャンス 後編

日本の企業の99.7%は中小企業である。ところが、世の中の経営書、経営学の多くは大企業に視線が向けられているものが多く、競合にマネできない差別化戦略、大きな組織を効率的に回すための組織論などが書かれている。しかし、中小企業の経営に必要なものは本当に大企業と同じものなのだろうか?

そんな問いの答えを探すため、専修大学経営学部 三宅秀道准教授をガイドにお招きし、様々な小規模サービス業の経営に関わる方々とお話しの中で中小企業の経営学を考えていく。

小さくてもお客様に愛され続ける経営には「やさしさ」がある。第1回では、成長を前提とする大企業と、伝統の継承、地域への貢献、家族や従業員の幸せなど前提が様々な中小企業の経営のあり方が議論された。後編では、なぜ「やさしさ」が中小企業の経営にとって大事なのか、その「やさしさ」を作るのに経営は何をするかを考えていく。

今の人手不足って

宇佐川 サービス業は人手不足だとよく言われているんですけど、なんで人手不足になるんだろうととても不思議に思っています。その理由の一つとして考えられるのは、365日24時間、いつでもどこでも何でも手に入る、というスタイルを全国津々浦々で展開し続けた。つまり、いつでもどこにでもスタッフを配置したんです。その結果、人手不足になった。

でも私たちがサービス業を分析してみると、売上が上がる時間帯と上がらない時間帯があるんですよ。それなのに、8時間フルタイムで働いてくれる人たちを組み合わせようとします。でも、お客様が来てくださる時間帯って山谷がある。一日の山谷、一週間の山谷、一カ月の山谷、シーズンでの山谷などが急激に起きるのに、なぜスタッフの数がほとんど同じなんでしょうか。

山谷があるのに24時間オープンして、スタッフみんなが疲弊するような状況になっているので、そこをどうやって上手に繁閑に合わせてメリハリつけるかっていうのが大事だなと思います。ただそれを実践するときのひとつめの壁が、シフト管理の面倒くささです。

それともうひとつ、忙しくないんだからスタッフを配置しなくてもと言っても、急にお客様がいらした時サービスレベルが落ちることを心配しすぎる。おもてなしのレベルを下げたくない。そのために常にもっとも良い人材を集めようとしてしまう。

三宅 そういうことは、外資系の超高級ホテルが言うならわかりますけどね(笑)。それは経営学を出すまでもなく、昔の兵法でも「至るところ守らんとすれば、至るところ弱し」という。全部を良くしようと思ったら全部が危うくなります。

できることには限りがあるんだから、自分たちはここを狙う、この時この場所のこれが目的のお客さんを大事にする、というターゲットを絞らないと、結局みんなにいい顔をしたくなる。だけどそれは中途半端で、買う側も売る側も誰もハッピーになれない。では狙いを絞るためには、なにが自分たちの得意技で、それがどういうお客さんにどういう価値になるのか、しっかり考えないといけません。

宇佐川 その通りだと思います。私自身、営業部に入ったばかりの時、先輩にいいことを教えられました。バブル崩壊後に入社したので、当然売上も上がらない。そのとき言われたのが、「売上が上がらないというのはゼロではない。赤字なんだからな」と。なるほどと思って。忙しくもないときに会社にいくと、光熱費使っているし、あまり使えもしないパソコンもリース代がかかる。なんとか効率よくすることを考えないと、と思うようになりました。

だからターゲットをちゃんと見据えて、それに人やモノの最適配置をしていかに絞るかっていうのがすごく大事だなということを学んだんです。そうすれば、フルタイム勤務じゃなくても、短時間だけ勤務してくれる人がいれば全体的に効率がよくなり、みんなが嬉しい。私が知っている鳥羽の旅館では、短時間勤務の海女さんがいました。

旅館が忙しくなる期間、午後は海に潜る海女さんに午前中だけ働いてもらうとか。漁もすごく獲れる時と獲れない時の繁閑がある。漁をしていないときには時間の余裕があるので、あいているときにちょっと来てもらって片付けやごはんだしといった仲居さんみたいなことをしてもらう。毎年来てもらっていると、短い時間でも上達するから安定した人材になっているんですよね。

三宅 言ってみれば、その旅館の強みが旅館単体ではなく地域社会込みで見てはじめて発揮されるということですよね。海女さんの仕事と仲居さんの仕事の山谷にはズレがあるから、そこを調整すれば閑散期にずっと仲居さんを雇うよりいいですよね。それでも長年のつきあいだと、ちゃんとサービスの質も実現できる。

こういう、需要に応じた資源配分のやりかたって、製造業の方では非常に理論化が進んでいて、工場でも取り入れられていることが多いのですが、サービス業にはまだまだ伸びしろがあるのではないかな。

そこは、自分の会社だけではなくて、地域の実情も未利用の資源として考えることが大切なんですね。フルタイムで働ける人材だけじゃなくて、一見細切れの時間での働き方でも、その人のキャパシティが活きる場を作れれば、よい関係が成り立ちます。いまならそれをITが前よりやりやすくしていますよね。

ITはできる人にまかせる

宇佐川 最も価値を出すところに仕事を集中させる方法として、現場でのお客様接点以外の業務をいろんなITツールで効率化できるようになってきています。スマホを使ったアプリケーション、リクルートの『Air レジ』もそうですし。ただ、使いはじめると便利でも、ITツール導入にあたって苦手意識や抵抗感を感じられる経営者も少なくありません。『Airレジ』でも、どうすればITが苦手な方に手間や不安を感じさせず使いこなして頂けるかを考えてつくっています。『Airレジ』導入の経緯をヒアリングすると、入ったばかりの新卒社員やアルバイトの若手スタッフがきっかけとなったという声があったんです。

いざ導入したら、これまで人事の面倒を見ていた店長とか、ある程度年齢の高い人、あまりそういうツールに馴染んでない人が使いにくい、思ったより作業効率が上がらないとか言っちゃうわけですよ。だけど、そういうものこそ、入社したばかりの新入社員に使わせればあっという間ですよ。つまり使う人を変えた方がいいんですよ。

三宅 現場の若い人の方が使いこなせるんだから、任せちゃえ、っていうことですね。それは大きな可能性がありますよ。学生を見ていたってあの年代は、レポートだってスマホで書いた方が早いんじゃないか。バイトシフトを調整するアプリとか、もう本能的に使いこなすでしょう。

宇佐川 ある中小企業さんで、大卒の新入社員が入ってきたのに、その彼がほとんど仕事ができない。中小企業ってある程度自分で動かないと評価されないのに、その新入社員は奥手で自分から動けなかった。それでテキパキと働く先輩の女性社員に、手際が悪いと思われて全然活躍できなかったんです。ところが、会計ソフトを入れたときに、その新入社員が平気で使いこなせて、しかもExcelでこういう風にするといいですよと言いながら先輩女性社員の代わりに入力してあげてヒーローになったんです。

いろんなITシステムを使える人はどんどん増える。初めてでも使うことに抵抗感のない人がどんどん増えていく。経営者や参謀役だけで解決しようとせず、そういうことこそ慣れている若いスタッフにやってもらう。

人事は店長がやらなきゃいけないというのを、考えを切り替えて現場の若いスタッフにシステムを使ってもらった方がコストパフォーマンスは絶対良いと思います。

三宅 その奥手の学生さんの話は、とてもいい話ですよ。その人も職場で自分の得意技を発揮できて嬉しかったでしょうし、周りの先輩たちも助かるし、それはほんといいですね。
システムが入ることで、かつては経営者や管理職の仕事と思われていた業務も他の人たちにも任せられるようになった。そうなると、トップはうちの会社はどうあるべきか、どんな価値を社会に届けるか、社員とどう信頼関係を結ぶか、より高次の問題に取り組むべきですよね。

宇佐川 中小企業の方と人手不足の話をしていると、いつも問題だなと思うのが、高次の職位の人が現場の仕事をしちゃうんですよ。日本人の美徳でもあるんだけど、納期が大変で危機の時はみんなで現場の仕事をやるんだって盛り上がりますよね。工場長も本社の経理の人も一緒にやっちゃう。現場は現場で助けてくれてありがとうって。

でも本来、高位の人は、現場のスタッフたちが大変だから、いかに負荷を下げるか、ハード面で何かできないか、スタッフを増員できないか、育成をどうするか、マーケティングをきちんと行って最も売上が上がるところはどこかといったことを考えないといけない。ただ注文をなんでもかんでも受けて納品に追われるから、本当にやらなくてはならないことができなくなってしまう。

三宅 そういう時の、「いざとなれば社長も重役ももっこを担ぐ」っていうの、職場が一体になった気がしてその時は嬉しいんだけれども(笑)、でも本来はそうならないために、経営者がしなくてはならないことはそっちですよね。

余裕が優しさを作る。優しさが人をクリエイティブにする。

三宅 そこでとうとう大事なのは、いよいよ商品開発ですよ。何が社会に提供するべき価値で、それがうちの売りで、何がお客様が喜んでくれるのっていうのは、サービスでもモノでも同じですが、それが課題の真ん中にきます。

そこに行くためにはまず、それぞれの事業の現場が、まず働く人に優しくならなくてはならない。そしてそれでこそ、その人たちが本質的な課題にまともに取り組めて、結果として御客様にもありがたい、優しい事業体になると思うんです。人は余裕がなければ、他人に優しくすることが難しい。業務支援のIT自体は、売上を増やすものではありません。あくまで業務を効率化するもので、コストを減らす効果しかない。でもそれを導入して余裕を作ることができれば、働く人がもっとやさしい気持ちが持てるようになる。そのやさしさから新しいサービスが生まれるのです。

宇佐川 人間って誰かにありがとうと言われる機会が増えると、モチベーションも上がりますよね。

三宅 情が湧いたら、その人が困っていることも想像しやすくなります。

宇佐川 結局組織も円滑になりやすいし、お客様からのありがとうも、社内からのありがとうも増えると円滑になりますよね。

三宅 そして現場がクリエイティブになる。新しいことをやってみよう、こんなことも提供してみようと、人間が一番アイデアフルになるのはやさしくなれているときですよ。やさしい人ほどアイデアフル。それは相手に心地よく接する心のゆとりができたときですよね。それを作るのがこれからの小規模サービス業の経営の真ん中の課題なんです。

ということで、次回からはいよいよ、素敵な事例を探して取材してくることになります。今後ともどうかよろしくお願いいたしますね。

やさしいお店がいいお店 ―小さなお店の経営学―

プロフィール/敬称略

三宅秀道(みやけ・ひでみち)

専修大学経営学部准教授。1973年生まれ。神戸育ち。1996年早稲田大学商学部卒業。 都市文化研究所、東京都品川区産業振興課などを経て、2007年早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得退学。 東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センター特任研究員などを経て、2014年より現職。 専門は、製品開発論、中小・ベンチャー企業論。これまでに大小1000社近くの事業組織を取材・研究。 現在、企業・自治体・NPOとも共同で製品開発の調査、コンサルティングにも従事している。

<著書>
「新しい市場のつくりかた」(東洋経済新報社)2012
「なんにもないから知恵が出る:驚異の下町企業フットマーク社の挑戦」(新潮社)2015

宇佐川邦子(うさがわ・くにこ)

リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター長
リクルートグループ入社後、一貫して求人領域を担当。2014年4月より現職。
各々の業界の特色を踏まえ、求人・採用活動、人材育成・定着、さらに定着促進のための従業員満足のメカニズム等、「雇用に関する課題とその解決に向けた新たな取り組み」をテーマに講演・提言を行う。

<主な活動>
・公益社団法人全国求人情報協会常任委員
・厚生労働省「民間人材サービス事業者のノウハウを活用した女性の復職促進検討会」委員(2017年度、2018年度)
・東京商工会議所「多様な人材活躍委員会」委員(2016年11月~2019年10月)
・経済産業省中小企業庁「中小企業・小規模事業者の人手不足対応研究会」委員
(2016年10月~2017年3月)


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