エコシステムをつくり、スター選手を育成する。CyberZが広げるeスポーツの未来

エコシステムをつくり、スター選手を育成する。CyberZが広げるeスポーツの未来

文:葛原信太郎 写真:須古恵

eスポーツは、ゲームでありながらスポーツでもある。そこが難しく、面白い――。

ゲームを用いた競技を指す「eスポーツ」。マスメディアで紹介されることも増え、国内でも認知が高まってきた。日本には、任天堂やソニー、コナミなど、世界のゲームシーンを初期から支える企業がいくつも存在し、今後、eスポーツ市場も成長が見込まれている。

今回は、eスポーツに参入してまだ3年ほどながら、活発な動きを見せる株式会社CyberZの取締役でeSports事業管轄の青村陽介氏に、eスポーツの魅力や可能性について話を聞いた。

「eスポーツ」という言葉が、メディアに度々登場するようになったのは、ここ1〜2年ほどのことだ。eスポーツとは、エレクトロニック・スポーツの略。ゲームを競技と捉え従来のスポーツのようにプレイおよび観戦をする際の名称だ。

CyberZが2018年に行った調査によれば、国内のeスポーツの認知率は49.8%で、10代・20代男性は約8割が認知している。2017年の調査では認知度約26%。1年間で認知度が倍になった。 ゲームにはパズルゲームやカードゲームなど戦略性の高いものから、格闘ゲームやレースゲームなど反射神経を要するものなど多様な種類がある。得点やタイムを競い合い、勝敗を決める。集中力やスキルを極限まで高めたハイレベルなゲームは、メジャースポーツに負けない興奮を提供する。

現在、世界各国でeスポーツの大会が開催され、海外には優勝賞金が1億円を超えるような大会も存在する。国際的な市場規模は2018年には約970億円で、2016年と比較すると約2倍に成長。2021年には約1,700億円になると予想されているという。(総務省による『 eスポーツ産業に関する調査研究(平成30年3月)』より)

「eスポーツは、様々なゲームの集合体。国や地域によって多様な楽しみ方があり、ゲームによってプレイする人もカルチャーも全く異なる。それらを横断するeスポーツのブランドを築きたいと考えています」

こう語るのは、CyberZの取締役でeSports事業管轄の青村陽介氏だ。同社はサイバーエージェントグループで、スマートフォン広告マーケティング事業に取り組む事業会社。クライアントにゲーム会社が多く、コミュニケーションの中でeスポーツに大きな可能性を感じ、2015年から本格的に参入した。

CyberZでは、ゲーム大会やゲームプレイ中継の配信、大会の主催、プロリーグの運営など、eスポーツに包括的に取り組み、それぞれが国内最大規模を誇る。サイバーエージェントグループとして考えると、ゲームの作り手ともいえるだろう。eスポーツにこれだけ包括的に取り組んでいる企業は、国際的に見ても他に類を見ないそうだ。

多様なビジネスの可能性が眠る、eスポーツ

CyberZが主宰するeスポーツの大会「RAGE」の様子(提供:RAGE)

eスポーツには様々な事業の可能性が眠っている。現状CyberZが取り組んでいるのは、大会の主催と配信サービスが主だ。

「大会の主催は、従来からある事業モデルであり、興行ビジネスです。放映権の販売、大会での広告展開、スポンサー、チケット販売、グッズ販売などの収益ポイントがあります」

同社が主催する大会「RAGE」は、都市型野外フェス「ULTRA JAPAN」を主催するエイベックス・ライヴ・クリエイティヴと協業。2018年6月に開催された「RAGE 2018 Summer 」では、国内にはなかった演出や規模感の大会となり、会場には全日程累計で3.5万人が訪れたという。

一方、配信は大きく2つの種類がある。1つは大会等の配信。これも従来の興行を映像配信するのと同じロジックだ。もう1つは、ゲームをプレイしている姿を中継するというもの。公式に大会が行われているわけではないものの、プレイする様子を見て、観客も盛り上がる。大会参加者という限られた人だけではない裾野を広げる意味で、役割を果たしている。

「配信では2つのキャッシュポイントがあります。ひとつはBtoCでのユーザー(視聴者)課金。もうひとつはBtoBでメディアへの広告出稿です」

前者は、その手法が多様化し可能性が大きく広がっている。

「配信サービスにおいて大切にしているのは、選手やプレイする人の良さを引き出すことと、応援するファンたちとの円滑なコミュニケーションの設計です。大会の配信では、優勝者への投げ銭(視聴者からの寄付)が一夜で100万円を超えることも珍しくない。ゲームをプレイし中継する人たちも、トップレベルは月収100万円を超えます」

CyberZが主宰するeスポーツの大会「RAGE」の選手入場の様子(提供:RAGE)

一方BtoBの成長余地も見逃せない。デジタルコンテンツは様々な場所に枠をつくることができる。ユーザーの不快にならないように枠をつくり、ユーザーのプラスになる広告を配信できれば、広告だけでも大きな成長が期待できる。

「テクノロジーの進化により、視聴環境は多様になっています。ゲーム内の世界を探検するゲームであれば、ゲーム内での屋外広告のような展開もできる。今後は、VR等によって、大きなゲーム世界の中に入り視聴するといった体験も実用化されていくでしょう。視聴者がより深く楽しめる余地を開拓すれば、そこでの事業はより広がる可能性があるはずです」

スター選手の誕生が、国内マーケットの起爆剤

CyberZがオープンした、国内最大級のeスポーツスタジオ「OPENREC STUDIO」(提供:株式会社CyberZ)

この中で、CyberZが目指すのは、成長過程のマーケットを包括的に取り組むことだ。エコシステムをつくる可能性に期待を寄せているという。

「まず、多様なチャネルで、包括的にeスポーツの魅力を届ける仕組みをつくる。次に、そこで活躍する選手の人気が上がり、収入を得る。そして、その収入でゲームのスキルを上げ、スター選手が誕生する。最後に、スター選手の登場で大会や配信が更に盛り上がる。これらが循環するeスポーツのエコシステムをつくれれば、さらにマーケットは盛り上がる可能性があるんです」

eスポーツを取り巻くエコシステムの中でも、同社が特に注力するのは、スター選手の育成だ。

「スター選手の誕生は、国内市場を押し広げるためのキーポイントだと考えています。水泳なら北島康介選手、フィギュアスケートなら羽生結弦選手、ラグビーなら五郎丸歩選手のように、スター選手が出てくると、そのスポーツへの注目度は一気に高まり、お茶の間レベルで親しまれるようになります」

同社では、主宰するRAGEシャドウバースプロリーグに所属する選手の最低収入を保障している。大会の優勝賞金も国内の大会としては高額だ。これらには、eスポーツに取り組む選手たちを経済的に下支えしたいという思いがある。

「現在、eスポーツの選手はバイトの掛け持ちなど、eスポーツだけでは生活できない人も少なくありません。選手がゲームに使える時間が増えれば、ゲームのスキルは向上し、大会も白熱する。スター選手の誕生の可能性も広がるでしょう。選手のゲームにおける収入アップは非常に重要な課題と捉えています」

なぜゲームプレイがそこまで盛り上がると思えるのか----と疑問に思うかも知れない。しかし、彼らはアスリートと何ら変わらない努力を、違う形でしているに過ぎない。

「eスポーツの選手たちは皆1日の長い時間をプレイに費やします。野球やサッカーのプロ選手と何ら変わらないプライドを持ち、それにふさわしい努力を重ねている。応援するファンの熱量が高いのも当然です」

同社では、グローバル展開も視野に入れている。具体的な動きは表面化してはいないが、青村氏は月に1度ほどは海外視察に出ているそうだ。グローバル展開のタイミングを虎視眈々と狙っている。

「国際的な動向として、プロスポーツチームのアスリートやオーナーたちが積極的に投資しています。最近もマイケル・ジョーダンがeスポーツに出資したことが報道されていました」

国内でも、横浜F・マリノスがJリーグとして初めてプロeスポーツリーグに参戦したことが話題となった。今後、様々なスポーツからの参入が起こるかもしれない。

eスポーツに参入するには、ゲームシーンの理解が必要不可欠

事業的に可能性はある。では、今後eスポーツ市場を広げていくためには何が必要か。青村氏はまず「eスポーツ」という言葉を多くの人に知ってもらうことが大事だと語る。

「言葉を広げるには、とにかく膨大な予算がかかります。一社ではとても太刀打ちできない。eスポーツを知ってもらう、そして見てもらう。まずはそこから始まると考えています」

結局、eスポーツは儲からないんじゃないか?----最近、業界の中ではそんな話題が持ち上がることも少なくないそうだ。CyberZもまだ投資フェーズ。結論を出すには早すぎる。「様々な企業が参入してもらい、一緒にeスポーツを盛り上げていきたい」と青村氏は語る。eスポーツに参入するにあたって、企業は何を大切にしたら良いだろうか。

「eスポーツは、ゲームでもありスポーツでもあるんです。プロの格闘ゲーム選手は、格闘ゲームが好きだからプロになるほどのレベルに到達します。大会の来場者や配信の視聴者は、格闘ゲームが好きで見ている。ゲームとしての歴史やカルチャーを無視してビジネス面やスポーツらしさだけ切り取ると、ゲームファンにすぐにバレてしまいます。チャットで、SNSで、すぐにリアクションがあるからこそ、ゲームシーンに対してのリスペクトがなければ信頼は勝ち得ません」

視聴率重視で配信に人気のある芸能人をキャスティングしても、その芸能人が本当にゲームを好きかどうかは視聴者にはすぐに分かってしまう。逆にゲームをちゃんと理解している芸能人が出れば、視聴者からは「自分たちと同じだ」と、共感を得られる。eスポーツに携わるならば、ゲームにもスポーツにも本気で関わる意思が求められる。

青村氏は、ゲームメーカーに赴き、メーカーのマーケティングプランとプレイする人への思いを確認することを大切にしている。主催に限らず、大会にもよく顔を出し、選手と会う。自分でもゲームを楽しみ、カルチャーや最近の傾向を常に追っているそうだ。

対象の歴史や背景を理解することで、既存のステークホルダーとの摩擦を抑え、市場を共に大きくする仲間として参加できる。これまでシーンを作り上げてきた人たちへのリスペクトは、既存のステークホルダーやコミュニティへの通行手形と言えるかもしれない。

これまでスポーツとしての認知がなかったものがスポーツとなり、元からあった大きな市場を更に押し広げる。eスポーツは、歴史的に見てもこれまでにない新しい可能性を感じさせてくれる。

日本は、マリオシリーズやストリートファイターシリーズ、ポケモンなど、世界中で愛されているゲームコンテンツを生み出してきた。すでにスタンバイはできている。様々なステークホルダーが揃ってスタートボタンを押せば、多くの国民がeスポーツに熱狂するシーンが始まるかもしれない。

プロフィール/敬称略

青村陽介(あおむら・ようすけ)

株式会社CyberZ 取締役
2009年、株式会社サイバーエージェント新卒入社。株式会社CAテクノロジー出向。2010年、株式会社CyberZ出向し、コンサルティング事業部マネージャーを経てスマートフォン広告代理事業の営業局長に。2013年、同社 スマートフォン広告代理事業管轄 取締役就任。2016年、同社 メディア事業(OPENREC)・eSports事業管轄 取締役(現任)。

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