Menu

シェアする

保存する

【後編】パラリンピックを目指す社員の想いが生んだ支援制度 リクルート村上慶太・榎本智幸

Recruit , イノベーション , マネジメント , 人材活用 , 人材育成 , 働き方

文:東美希 写真:須古恵 (写真は左から、村上、榎本)

社員の熱意ある要望を仕組みに落とし込み、「個の尊重」をしながらも社会に貢献していく。関わる全ての人々にプラスとなるイノベーションを起こすには、どのような考え方が必要なのだろうか。

ダイバーシティ──多様性が組織の発展に必要と叫ばれている現代。個人を尊重し、様々なライフスタイルに合った働き方を選べるようシステムを柔軟に変化させることが社員の力を引き出し、企業の成長を持続させるためには欠かせない。

障がい者雇用に積極的に取り組むリクルートグループの特例子会社、リクルートオフィスサポートはたった一人の社員の声から「アスリート支援制度」を発足させた。パラリンピック出場を目指す車いすバスケットボール選手、村上慶太の提案から始まった同制度は、制度化へと歩を進める中で思いがけない課題にも直面したという。しかしその都度、フレキシブルに対応できたのは同社の基盤ともなっている、ある哲学だった。前編につづき、村上と同社コーポレート部門の榎本智幸に語ってもらった。

村上慶太さん

障がい者アスリートが長く働き続けられる環境づくりこそ重要

村上の「アスリートと会社員、どちらのキャリアをとるべきか」という迷いがきっかけとなったアスリート支援制度。リクルートオフィスサポートは、その迷いを少しでも減らすためにアスリートの「会社員としてのキャリア」を支え、パラリンピック出場に貢献する。この想いがあったからこそ、様々なアスリート社員をフレキシブルに支援できたという。

榎本 制度が始まってみたら「あれ、こんな問題も出てくるんだ」ということがちらほら見つかったんです。まずはコスト面。例えば後に入社したテニス選手は海外遠征が多く、年間の遠征費用もかなりかかります。当時の制度では会社は負担できず悩みましたが、その後リクルートとも個別契約を結んでもらい解決しました。また、制度ができたことで、従業員の中から、アスリート制度の利用希望者が複数でてきました。

榎本智幸さん

村上 障がい者アスリートの間でも、「あの会社はこういう支援を行っている」と企業の支援制度について話が回るんですよ。しかも「50%制度」はめずらしい。話を聞いた人がリクルートオフィスサポートに入社を希望して、面接に来ていたんですよね。

榎本 そうなんです。コーチの方の入社もありました。アスリートとしてプレイはしていないけれども通常の社員採用基準を満たしている事を前提に採用しました。なぜかというと、私たちにとってアスリート支援制度は「従業員支援」という意味合いが強いんです。立て付け上は、コーチに入社してもらっても支援ができる。それができるのは、根底にある支援の目的が「アスリートとして活躍できるように」というよりも、「アスリートである社員も長く働けるように」というところにあるからです。

アスリートにも「フェア」&「ケア」を

リクルートオフィスサポートで大切にされている「フェア」&「ケア」というキーワード。これは「障がいがあっても、ケアすればフェアに戦える」という考え方だ。この考え方で、障がいのある社員だけでなく、働く時間が限られているアスリートにも「ケア」を行う。

村上 そうやって会社側が制度を前向きに変え、様々な人を受け入れてくれているのを見て、「この会社でずっと頑張っていきたい」という気持ちが生まれました。そもそも僕は制度作りに携わりましたが、これはとてもめずらしいことなんです。アスリート雇用がある企業に転職する人も多いし、正直、そのほうが手っ取り早いという考え方もある。でも僕は、リクルートオフィスサポートの仕事を通じて、イノベーションを提案することにやりがいを持てていた。だから、自分のこともまずは提案してみようと思えたんですよ。あのとき、転職という選択をせずに奮起してよかったと思います。

村上慶太さん

榎本 誰にでも、出来ないことや不得意なことはありますよね。障がいもそれと変わらないのではないかと考えています。障がいをケアすれば、ちゃんとビジネスの場で活躍できる。それって、アスリートも同じなんです。アスリートは働く上で時間的なハンデがありますが、それをケアすればパフォーマンスは発揮できるだろうと。この「フェア」と「ケア」の意識があったからこそ柔軟に対応していけた部分はありますね。

村上 「ケア」をしてもらえて、ぐんとバスケットボールに集中できるようになりました。アスリート支援制度を使う社員は全員広報部の所属になるのですが、広報の仕事と兼務で、他部署でパートタイムでも折り合う仕事をしています。細切れの時間で出来るということが前提ですので、2.5日をオフィスでの仕事に費やし、誰にも迷惑をかけることなく2.5日を練習に使えます。「練習があるので帰ります」と言えることは、精神衛生上もとてもありがたいですし、トラブルもありません。

榎本 今までの業務で「2.5日出社でも出来る仕事」はあまりありませんでした。ですのでこの制度をきっかけに、いろいろな部署に2.5日で出来る業務を探してもらえるようお願いしました。結果、短時間で成果を出せるような「新しい働き方の形」を作ることができたんです。アスリート支援制度に限らず、障がいや育児、介護などと平行して働く社員のために新しい制度や働き方を考えなければいけない時代です。それを考えると、従来型のフルタイム勤務以外の働き方を取り入れた良い事例になったと思っています。

村上 アスリートとしての活動が濃くなったことが、仕事にも役立っていると感じています。「限られた時間の中で成果を出す」ということは、アスリートで最も求められる資質のひとつ。例えば試合に5分しか使われなかったとき、そこで成果を出さなければ次の出場時間はもっと短くなってしまいますからね。「成果」についてのこだわりは強くなりました。その気持ちは、そのまま仕事にも活かされています。2.5日の中で、どれだけ成果を出せるかという気持ちで働けていて、いい循環が出来ています。

それぞれの立場で「イノベーションまでの過程」を考える

村上慶太さん、榎本智幸さん

村上の個人として会社の改革を求める立場、そして榎本のマネジメント側としてそれを成立させる立場。それぞれの観点での、新しい制度を作り、イノベーションを起こすために必要なものとは。

榎本 マネジメントをする立場で、村上のように現状に「不」を感じて変えていきたいと考える社員がいたとき、その社員個人だけを見ると考えが狭くなってしまうんです。同じような「不」を抱えている人たちや、その他の一見関係ない課題まで、広く見渡してみる。それらを束ねてなにか変革できないかと考えてみたら、一歩進んだいいアイデアが出てくるかもしれません。

村上 僕の想いを榎本さんが汲んでくれて、実現の道筋を作ってくれました。僕はきっかけづくりをしたにすぎませんが、それはきっと大きな一歩でした。僕のように「何かを変えたい」と思っている社員に必要なことは、まずは前に立つ勇気です。きっかけがなければ、制度は変わりません。批判されるかもしれない、叶わないかもしれないということを恐れない。その恐れを拭う方法は、どうやったら実現するかを常に考えることだと思います「やりたい!」という気持ちからスタートし、自分なりにどうすれば実現するかを考え、説得に必要な情報を集める。自分にできることは100%やり、会社側に伝えていく。そうやって熱意を裏打ちする行動を起こせば、想いは伝わるんだと実感しました。

榎本 そうですね。村上が、制度づくりのためにあらゆる資料を揃えて持ってきたときに、立派な熱意を感じた。競技に対して真摯で、説得力がありました。そんなふうに頑張っている個を尊重したいと思える。利益を追求していくことが企業のあり方とはいえ、社員の熱意や要望に応えていくことも企業としての使命です。2020年まで、ということになっていたアスリート支援制度ですが気づけば様々な種目の選手が社員にいます。スタート当初からふりかえると完全に予想を超えた広がりをみせている。経営判断もありますのではっきりとは言えませんが(笑)、これからも、柔軟に対応しながら続けて行きたいと考えています。

パラリンピックを目指す社員の想いが生んだ支援制度 リクルート村上慶太・榎本智幸

  1. 前編
  2. 後編

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

村上慶太(むらかみ・けいた)

リクルートオフィスサポート
経営企画室 広報グループ
19歳の頃、交通事故での怪我により車いすに。車いすバスケットボールを始める。訓練校に通い、2008年に特例子会社リクルートオフィスサポートに入社。現在は広報の仕事と兼務で応援派遣として人手の足りていない部署へ行き、要請された業務をパートタイムで行っている。現在は車いすバスケットボールチーム・千葉ホークスに所属。ポジションはガード。

榎本智幸(えのもと・ともゆき)

リクルートオフィスサポート
経営企画室 室長
1982年リクルート入社。2002年にリクルートオフィスサポートへ転籍。事業推進室、在宅雇用開発室などを経て、現在は経営企画室を担当。

あなたにおすすめの記事

最新記事