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森ビルの考える都市のこれから。「想像力」と「文化」が、都市をアップデートする

イノベーション , オープンイノベーション , 事業推進 , 地域活性 , 新規事業

文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

国連によれば、都市部に暮らす人々の数は、2018年の55%から、2050年には68%にまで達すると予測されている。1950年は30%にしか過ぎなかった都市人口は、今後ますます増えていく。人が増えていくということは、そこにビジネスも生まれるということ。今後の都市のあり方は、私たちのビジネスやライフスタイルにとって多大な影響を及ぼす。だからこそ、今、都市を改めて見つめ直し、そのあり方を再構築することが必要だ。

「多様な価値観の人々が都市に集うことで、イノベーションの好循環を起こせる」

こう語るのは、森ビル株式会社でタウンマネジメントを担当する田中亜矢子氏だ。同社が発行する、都市生活を楽しむためのアイデアを提案してゆくメディア『HILLS LIFE』の紙版・ウェブ版の編集や、世界のさまざまな都市を調査・研究してきた彼女から、現代の都市の課題や役割を聞く。

都市の価値は、多様な人々が生むイノベーションの連鎖

森ビルは、1959年から東京都港区を中心に六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズなどの都市再開発事業を展開してきた。半世紀以上、東京という都市とそこに集う人々を見つめてきた森ビルは、都市が生み出す価値の変遷も目の当たりにしてきた。

「さまざまな人々がリアルに集える場であることに、今の都市の価値があります。なぜなら、多様な価値観を持つ人々と会ったり、自分が知らなかった事象を知ることで、新しいイノベーションやインスピレーションが生まれるから。かつては、都市とは『労働の場所』でした。多くの人々は、都市以外の場所に住み、仕事のために都市に通っていたからです。しかし近年では、働く場所と住む場所の境が曖昧になってきているのです」

テクノロジーの進化や働き方の変化に伴い、リモートワーク等で働く場所は自由化が進んでいる。今でも都市を労働の場所としている人も多いが、住み、働く人も増えてきており、労働以外の目的で都市に人が集まる時代へと変化しているというのだ。

田中 亜矢子さん

「都市は労働のためだけでなく、人の生活に必要なありとあらゆる要素を持つようになってきました。例えば、六本木ヒルズには、ビジネスパーソン、住民、買い物客、観光客と多様な人々が集まります。彼らは、アートも見られるし、買い物もできる。仕事もできるし、泊まることもできる。

さまざまな目的を持った人が集まる都市に来れば、自分が知らなかったことに出会い、インスピレーションが生まれます。そのインスピレーションを求めて、さらに多様な人々が集まり、新しいアイデアが生まれ、人によっては挑戦がはじまる。都市ではこんな好循環を起こすことができるのです」

しかし、多様な価値観が集まる都市では、課題も生じている。多様性を受け入れるには、ハード・ソフト共にアップデートが必要だ。

「これからの都市を考えていくためには、想像力が必要です。グローバル化が進む現代では、文化も常識も異なる人々が集まります。それは日常の所作から生き方に至るまで、さまざまでしょう。多くの人がただ集まっているだけの状態で、ダイバーシティを醸成していなければ、衝突が起きてしまう。人々の心だけでなく、建物やインフラにも多様性を受け入れるフレキシブルさが求められていくのではないでしょうか。

都市の役割もどんどん拡大し、変化していきます。当然に思われていたような常識も変わっていくなかで、都市は何を提供できるのか。未来の都市の姿は誰にも見えませんが、だからこそその姿を見ようとし、切り拓く姿勢が必要です。担当している『MITメディアラボ』との共同研究では、AIやバイオといった先端技術や様々な新しい概念を学びながら、都市の未来、東京の未来について議論しています」

東京に足りないものは、文化

フレキシブルさを高めていくには、変化に対応するための総合力が必要だ。森ビルはそれを考える上でヒントになる指標を持っている。森ビルのシンクタンクである、森記念財団都市戦略研究所による「世界の都市総合力ランキング」だ。人や企業を惹きつける磁力は、その都市が有する総合的な力によって生み出されるという考えに基づき、世界の44都市の経済、研究・開発、文化・交流、居住、環境、交通・アクセスの6分野を評価し、順位付けしている。

2018年の最新総合ランキングは1位から順にロンドン、ニューヨーク、東京、パリ、シンガポールが並んだ。

田中 亜矢子さん

「2008年の調査開始時、ニューヨークが1位、ロンドンは2位でした。順位が変わったきっかけは2012年のロンドンオリンピックです。この時、ロンドンは文化・交流に関する点数を大きく上げました。なぜなら、オリンピック開催に向けた都市づくりプロジェクトの一環として、オリンピック後を見据えて、文化事業に国として力を入れたからです」

ロンドンでは、オリンピック終了後も文化が都市の魅力としてあり続けられるよう、都市再開発事業が進められた。競技施設はオリンピック後に文化施設に役割を変えられるように建設され、施設内で行われるイベントも、永続性を前提に企画されている。市民のモチベーションは高く、草の根のアート活動や文化イベントもオリンピック後のロンドンの文化的価値を上げる要因のひとつだ。オリンピックの先の未来の都市への想像力が重要だったといえるだろう。

「このランキングによれば、東京の課題はまさしく文化・交流です。ロンドンのケースをヒントとするならば、1年後に開かれる東京オリンピックは東京の課題を克服するチャンスともいえる。インフラの整備は急ピッチで進んでいますが、もっと文化事業にも取り組むべきです」

世界の都市総合力ランキングの東京の文化・交流をより詳細に見ていくと、世界的な文化イベントの開催件数、国際コンベンションの開催件数などの「交流・文化発信力」と、アーティストの創作環境などの「文化資源」の指標が低い。オリンピックの開催で、世界からの注目が集まる2020年を起点にこれらの底上げがされるべきだと田中氏は語る。

森ビルは、東京に生きる人々に、イノベーションを与える

ただ、「そもそも都市に文化が必要なのか」という疑問を持つ人もいるだろう。文化に力を入れることで、どんなメリットがあるのか。田中氏はオーストリアのリンツ市の事例を紹介してくれた。

約20万人が暮らすリンツ市では、メディアアートの祭典「アルスエレクトロニカ」を開催している。世界中の企業、研究者、アーティストが集い、世界最先端のメディアアートとテクノロジーを持ち寄る。近年のアルスエレクトロニカの活動により、リンツ市民はテクノロジーやアートへの理解度を深め、多くの起業家を生んでいる。

関連記事:アートが問いを導き、社会や企業の問題に挑む。アルスエレクトロニカフューチャーラボ

「アルスエレクトロニカの活動が素晴らしいのは、アートや最先端のテクノロジーを、ただ発信するだけではなく、住民が何かしらの気づきを得られるようにするにはどうしたらよいかを想像し、咀嚼して提案していることです。私も現地に行きましたが、住民が『アルスエレクトロニカのおかげで、考え方が柔軟になっている』と言っていたのが印象的でした。例えば、フェスティバルに参加した教会は、宗派を超えてコンテンツを提供していました。これは、アルスエレクトロニカに関わる人々との対話で、本来の教会の役割である『公』の原点に立ち戻ることができたからだそうです」

田中 亜矢子さん

森ビルは、都市づくりのテーマのひとつに「文化・芸術」を掲げている。具体的な取り組みは、六本木ヒルズ森タワーの最上階に現代アートのミュージアム「森美術館」をつくったことだけではない。六本木の街を舞台に一夜で70万人以上が集まる「六本木アートナイト」。2017年にオープンした「GINZA SIX」には日本文化を世界に向けて発信する「観世能楽堂」がある。お台場にはチームラボと共に10,000㎡という圧倒的な広さをもった「MORI Building DIGITAL ART MUSEUM: EPSON teamLab Borderless」をオープンした。そして街角には、人々が生活の中で日々身近に触れることができる「パブリックアート」があふれる。

「私たちは東京を舞台に、気軽に一流の文化や芸術に接することができる「環境」や、異なる価値観や背景を持つ人々が交流し、協働する「場」と「時間」をつくっていきたい。森ビルでは、街をつくる初期の段階から、地権者や地元住民と関係を築き、現在も一緒に夏祭りなどのイベントを開催しています。文化と人々が密接につながることのできる機会を作り続けることで、都市の磁力をさらに高めていくことができるはずです」

都市の役割は時代によって変わるが、都市がこれからも人々を集める吸引力を持ち続けるのであれば、人々が行き交う場となること自体に普遍的な価値がある。人々が多様な価値観やアイデアに触れることで、そこにイノベーションが生まれるからだ。

このことはメリットである一方、新たな課題も突きつける。多様な人々を受け入れるフレキシブルさを持てるかどうかは、これから都市の課題だ。オリンピックを来年に控えた今、日本の首都東京はさらに進化していけるだろうか。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

田中亜矢子(たなか・あやこ)

2008年森ビル入社。用地企画部を経て、タウンマネジメント事業部にてヒルズのブランディングやプロモーション、イベント企画・運営を担当。2014年からはMITメディアラボとの共同研究にも携わる。

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