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『池袋ウエストゲートパーク』から『逃げ恥』まで。平成ドラマの仕掛け人が振り返る『平成31年史』ーーTBS磯山晶

ビジネススキル , メディア , 多様性 , 新元号

文:紺谷 宏之 写真:佐坂 和也

「時代を映す鏡」といわれるテレビ。平成を代表する話題作を数多く手がけてきたTBS磯山晶氏が考える平成的思考を探っていく

新元号『令和』が発表され、平成という時代の終わりを目前にひかえた今、私たちは何を思い、考えるべきか――。デジタルテクノロジーの劇的な進展、経済の低迷や大規模災害など、変転著しい31年が私たちにもたらしたものを振り返るとき、そこにはさまざまな思考のタネや次代へのアイデアが見つかるに違いない。

平成の総括と「ポスト平成の展望」について、TBSテレビ編成局・ドラマ統括の磯山晶さんに話を伺った。「テレビは時代を映す鏡」といわれる。『池袋ウエストゲートパーク』『タイガー&ドラゴン』『逃げるは恥だが役に立つ』など、ドラマ畑を歩んで30年。数々の話題作を手がけてきた平成を代表するドラマ・プロデューサーが「激動の時代」を語る。

「共感」から「好みが細分化していく時代」へ

― 磯山さんにとって、平成とはどのような時代でしたか?

少し抽象的に表現するなら、段々と「一人ひとりの好き」が鮮明になっていった時代だったと思います。好きなものを判断するモノサシが増え、「日本人の好みが細分化されていった時代」と言ったほうがイメージしやすいかもしれません。

― 歴史を追って、詳しくお話を聞かせてください。入社当時のドラマ制作の現場はどのような感じだったのでしょうか?

私がTBSに入社した1990年当時は、フジテレビ「月9」全盛の時代です。『東京ラブストーリー』や『101回目のプロポーズ』(ともに91年)などの純愛路線が大ヒットし、高視聴率ドラマが毎年のように社会現象を起こしていました。90年代は「ドラマ黄金期」だったんです。

ただ、当時はテレビをはじめ情報の送り手側の力が強い時代。視聴者の意見や反応を今ほど重視していなかったように思います。

各局、独自のカラーを打ち出し、話題性のある作品を生み出してはいたものの、当時は、皆が同じ方向を向くのが当たり前の時代。フジテレビが作り出す社会現象が強い時代でした。

― その潮目は、いつ頃から変化していくのでしょうか?

90年代後半頃からでしょうか。そのころから、2000年代につながる「新たな潮流」が生まれてきます。97年頃から急速にパソコンが普及したことで、インターネットを使い能動的に情報が入手できるようになりました。同じ時期には、携帯電話の普及も進み、2000年代に差し掛かる頃にはデジタルデバイスが一般化。

好きなものを見つけるモノサシが増えたことで、コンテンツ消費のスタイルが多様化し、テレビ視聴する時も「みんなが見ているから」ではなく「自分が見たいから」に変わっていったように思います。冒頭お話しした「日本人の好みが細分化されていく時代」の始まりです。

磯山 晶さん

― その社会の変化に対し、テレビ業界ではどのようなことが起こりましたか?

脚本家の宮藤(官九郎)さんが書いた『池袋ウエストゲートパーク』(00年)、『木更津キャッツアイ』(02年)という二作品が生まれました。どちらも視聴率はそれほど高くなかったのですが、熱狂的なファンを生んだことでテレビ放送終了後も反響が止まず、カルチャー誌で特集が組まれるほどの話題作に成長しました。

熱狂的ファンを育んだ、話題を呼ぶコンテンツづくり

― 『池袋ウエストゲートパーク』と『木更津キャッツアイ』は磯山さんが手がけた作品です。なぜ、熱狂的なファンを生んだと思われますか?

なによりも、宮藤さんの脚本の力。これがいちばん大きいと思います。純粋に面白い。彼はすべてのキャラクターに愛情を込めて書く作家で、いわゆる悪役が登場しません。それぞれ、自分の中に正義を持ちながら生きていて、その生き方のいびつでおかしいところが、実はチャームポイントだと信じているんだと思います。だからこの二作に限らず、どのドラマを見ても無理がないし、味わい深い作品になっていると思います。

また、「サブカルチャー」と「大衆文化」を自在に行き来する世界観も受け入れられた背景にはあると思います。2000年代はドラマに限らず、アニメもゲームも音楽も成熟しながら細分化していく時代でした。「メジャー」も「インディーズ」も消費者から見れば、その価値は同等。地上波の民放なのでマス視点ではあるのですが、熱狂的なファンが生まれたのは、当時の若い世代のニーズを肌感覚で捉えられたからかな、と思っています。

磯山 晶さん

― 熱狂的なファンを生み出したことは、ビジネス的な成功にも結びついたのでしょうか?

この頃はまだ、コンテンツビジネスの黎明期。ドラマが人気になれば、DVD、映画と拡大する戦略が徐々に広がっていく頃でした。『木更津キャッツアイ』はその方法でうまく拡大できた好例でしたね。

― 2000年代の代表作を『池袋ウエストゲートパーク』と『木更津キャッツアイ』とするなら、2010年代はどの作品がとくに印象深いですか?

『空飛ぶ広報室』(13年)ですね。物語の舞台は2010年、東日本大震災以前の航空自衛隊の広報室。航空自衛隊が舞台となる初の連続ドラマでした。

本作では、登場人物たちの震災前の日常、震災当日、震災後の姿を描きました。体験した人の数だけ、3.11の記憶はあります。事前取材を通してその事実の重みを感じるにつけ、作品にどんなメッセージを込めるべきか、作り手として逃げてはいけない、と考えながら制作しました。

ドラマづくりはストーリーの起承転結を考えながら、「ここで泣いてほしい」とか「ここで怒ってほしい」とか、人の喜怒哀楽を意図的に操作する仕事です。とくに「怒」と「哀」の操作は、良くも悪くも感情を増幅させる可能性がある。描く際にその表現方法は適切か、チーム内では何度も議論を重ねます。このドラマづくりを通して、東日本大震災の描き方、人の喜怒哀楽を操作する仕事の難しさを改めて実感しました。

ポスト平成は予測不能の時代。新しい時代に向けて

― ここまで、作品を通して平成を振り返っていただきました。他方で、平成が間もなく終わるいま、視聴スタイルの多様化が急速に進んでいます。コンテンツビジネスに携わるテレビ局としては、今後をどのように見据えているのでしょうか。

ご存じのとおり、生活者のライフスタイルの変化やテクノロジー、デジタルインフラの進化により、各メディアサービスは激しい可処分時間の奪い合いをおこなっています。この事実は、テレビ局を取り巻く環境が厳しい局面を迎えていることを意味します。

コンテンツビジネスのあり方も変化しています。例えば先ほどお話ししたDVD、映画という流れも、コンテンツ消費の情報流通が多様化し、動画配信サービスやデジタルビデオ配信サービスなど新たな流通媒体が存在感を示し始めたことで、同じ方法論では乗り切れません。いま私たちは、次の一手を考えている最中にあります。

― 次の戦い方を考えなければいけないフェーズにあると。

ただ、別の視点で見るといまは昔に比べて「フェアな時代」とも言えます。さまざまな価値観を持った人たちの集合知で正当にコンテンツが評価されるし、面白い作品はどの局が放送していても「面白い!」と話題になる。ドラマ黄金期だった90年代「月9」の時代は、「みんなが見ているから見る」という風潮が強く、「月9だったら何でもいいの?」と思ったこともありました(笑)。

「Twitter」や「Yahoo!テレビ みんなの感想」のような視聴者の声を知れる場があるお陰で、いつでもどこでも、いろんな人の意見や想いを知れますし、「TVer」の見逃し配信などを使えば、見逃してしまった話題の番組もチェックできます。面白ければ新たに見始めればいいし、つまらなければ見なければいい。作り手としては本当に面白いものを生み出す必要があるので負荷はかかりますが、そこはプロ魂が改めて試されているのだと思っていますね。

磯山 晶さん

― 磯山さんが考える「ポスト平成」の展望とはどのようなものでしょうか?

正直にお話しすると、あまりにも混沌としすぎて、分からないというのが本音です。

動画配信サービスも増え、他のコンテンツも存在感を増しています。技術面を見れば、2020年に向けて5G(第5世代移動通信システム)実用化への取り組みが進められ、2時間の映画を3秒でダウンロードできるような、高速・超低遅延の通信がどこでも楽しめるようになります。今後、格段に快適な視聴体験が生まれてくるでしょう。

通信技術の進歩により、放送局の役割も変容していくはずです。放送と通信を連携させ、インターネットを活用した新しいテレビ体験もどんどん実現されていくと思います。このあたりは我々ともしても模索している段階。若手の局員を中心に「新しいテレビ体験」をテーマに、さまざまな取り組みの最中です。

― では、環境が劇的に変化する中、磯山さんはドラマづくりを通して、新たな時代を生きる私たちにどのようなことを伝えていきたいとお考えでしょうか?

自分の仕事は普遍的なことをやるしかないと思っています。どんなにメディアが多様化しても、テレビドラマは誰でもいちばん手軽に見られるコンテンツであってほしい。3ヵ月間、夢中で連ドラを見ていて終わると「ロス」とか言っていたのに、次のドラマが始まると、すっかりそのことを忘れちゃう。そんなゆるさが、平成31年間ずっと変わらなかったテレビの魅力だと思っています。

シェイクスピアの時代から、「物語」の基本はラブストーリーや家族の物語といった、人と人の絆に触れるものです。時代は変わってもやっている内容はそんなに変わらない。私はその中で、見終わった時に前向きな気持ちになってほしいと願い、作品と向き合い続けていきます。

磯山 晶さん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

磯山晶(いそやま・あき)

TBSテレビ
編成部 編成部 担当部長
1967年生まれ、東京都出身。上智大学文学部新聞学科卒業。1990年、TBSテレビ入社後、ドラマ・プロデューサーとして『Campus Note』(96年)を皮切りに、97年には自作漫画『プロデューサーになりたい』を自らプロデュースし、ギャラクシー賞を受賞。以降も『池袋ウエストゲートパーク』(00年)、『木更津キャッツアイ』(02年)、『タイガー&ドラゴン』(05年)、『空飛ぶ広報室』(13年)、『ごめんね青春!』(14年)、編成部ドラマ統括として『逃げるは恥だが役に立つ』(16年)、『あなたのことはそれほど』(17年)、『大恋愛』(18年)など、数多くの話題作を手がける。「放送ウーマン賞2005」受賞。

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平成から新元号時代へ。移り変わる今を生きる私たちは、何を思い、何を考えるべきか――。デジタルテクノロジーの劇的な進展、経済の低迷や大規模災害など、変転著しい30年が私たちにもたらしたものを振り返るとき、そこにはさまざまな思考のタネや次代へのアイデアが見つかるに違いない。“平成的思考“から脱却し、新時代を生き抜くための来たるべき未来を予測していく。

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