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ヨシダナギに学ぶ、肩書きにこだわらない「地球の歩き方」

アフリカ , グローバル , グローバル人材 , 多様性 , 海外から見た日本

文:紺谷 宏之

舞台はグローバル。あと一歩踏み出すために必要なことを聞く

さまざまなビジネスが世界とつながる今日、組織にも個人にも、多様性を受容する態度が求められはじめている。グローバル化は今後も進み、多様な環境に踏み込んでいけるグローバル人材へのニーズも高まるばかりだ。

ヨシダナギさんが踏み込んだのはアフリカ大陸。僻地へ単身赴き、これまで44ヵ国、200を超える少数民族と交流してきた。「アフリカ人からフォトグラファーという職業をもらいました」。写真展やメディアでの活躍を知るにつけ、好きなことを仕事にしている印象を受けるが、「肩書きがなくなっても何も変わりません。昔に戻るだけですね」と、気負いなく話す。

アフリカの少数民族に魅せられ、彼ら彼女たちに熱視線を注ぐわけとは? ヨシダさんがたどり着いたグローバルな生き方に迫る。

「ヨシダナギ」という生き方

アフリカへの初渡航は2009年。ヨシダナギさん、23歳の時だった。これまで200を超える少数民族のもとを訪ね、伝統の暮らしを守る彼ら彼女たちの姿を写真に収めてきた。

ヨシダナギさん

広く知られるきっかけは紀行バラエティ番組『クレイジージャーニー』(TBS)。2015年9月、OAされたテレビ画面には少数民族と食卓を囲む姿、心と心を近づけるために同じ格好になる姿が映し出され、驚きとともに共感の連鎖を生んだ。

「アフリカに憧れたのは5歳、テレビで観たマサイ族の格好よさに衝撃を受けた時からです。男の子が仮面ライダーに憧れるのと同じような感覚です。いつかアフリカ人になれると思っていました。その夢は叶わなかったけれど、20歳になっても想いは変わらず、憧れは募るばかりでした」

当時、少数民族が暮らす僻地に行きたいという話をするたびに、周囲はみな、「アフリカは危険。やめたほうがいい」と聞く耳を持たず、止めたそう。

「何が起きるか分からないし、コミュニケーションの肝になる言葉も話せないのに、ひとりで少数民族に会いに行きたいと言うんだから、心配する気持ちはわかります。そう思う反面、最悪なことしか起こらず、アフリカのことを嫌いになってもいいとも思っていました。たとえ失敗しても、その失敗は何かしらの結果や経験につながるし、何よりも自信になる。人生を前に進めるためにはアフリカに行くという選択肢しか考えられず、どう転んでも悪いようにはならないと思っていました」

どっちに転んでも勝ち。23歳でアフリカの大地を踏んだヨシダさんは、英語も話せず、現地の公用語も分からなかったが、不安になることはなく、なぜか懐かしさを感じたという。滞在期間は1ヵ月。国や文化は違っても、人は環境に順応できることを身をもって知り、自信を得た。

「アフリカに行き、自分の性格を肯定してもらえた気がしました。日本人は先のことを考えすぎて、まだ分かりもしない先のことで悩んでしまうことが多いけれど、彼らの場合はすごくシンプル。将来のことを尋ねても質問の意味は理解できず、明日や明後日の返事がくるんです。死がとなり合わせの人たちなので、怯えているようにも感じる反面、毎日、同じようなペースで幸せに生きているんです」

暗い顔をしている人に幸せは訪れない。異なる文化や信条をもつ人と向き合い、彼らの気持ちを想像しながら接する中で、こんな感覚の大切さに気づいていった。

「彼らと出会い、もっとラクに生きようと思うようになりました。今を楽しく過ごせるように心がけ、苦なく生きる。良いことがたくさんあってハッピーである必要はなくて、いかに苦を減らしていくかを常に考えるようになりました」

多様な環境を楽しみ、予測不能な出来事も「面白い!」と話すヨシダさんのモチベーション維持の秘訣は、仕事のスタンスからも垣間見える。

「好きなことを仕事にしたらそのうち苦しくなってしまうので、カメラが好きで写真を始めたわけでも、写真に特別興味があったわけでもないんです。写真はアフリカ人の格好よさを伝えるための手段のひとつ。アフリカ人を趣味で追っていたら、後から肩書きがついてきたと思っています。だから、写真が下手と言われても悔しくないんです。好きでも嫌いでもないぐらいが丁度いい(笑)」

アフリカでの日々、アフリカ人に学んだこと

「ボロロの襲来」撮影:ヨシダナギ

「ボロロの襲来」 撮影:ヨシダナギ

アフリカの僻地へ単身赴き、さまざまな少数民族の姿をスタイリッシュに切り撮ってきたヨシダさん。「色彩や作品の世界観がちょっと珍しくてたまたま運よく世間様に受け入れられているだけです」と本人は謙遜するが、日本に居る時は展覧会や写真集の刊行など、精力的に活動を続けている。

「私のようないい加減な人間でもフォトグラファーとして活動できるのは、自分だけのモデルを見つけ、その人物の力強く生きる姿を撮り、多くの人に伝えたいと思っているからでしょうね。『アフリカの人って格好いいでしょ?』っていう気持ちと、彼らに恩返したいという想いが原動力です」

未知の大地への興味なのか、トークショーではアフリカ滞在中の食べ物の質問が多いそう。テレビ画面に映るヨシダさんは躊躇なく、ヤギの頭や牛の血を食べる。

「感情の起伏が少ないほうなので内心ドキドキしていても顔に出ないのが本当のところですが、躊躇なく何でも口に入れられるほうではあると思います。本当に苦手なものでも、できるだけ眉間に皺を寄せないように心がけているのは、現地の人への敬意で、食べる前から嫌そうな顔をするよりも食べた後で『気持ち悪いねぇ、これ』と、笑顔で対応したほうが圧倒的に受け入れてもらえるからなんです」

「数少ない」と分析する自分の強みに対して弱みを見せることを良しとせず、自分のフィールドでは「誰にも負けたくたい」と腹を括っているのが本当のところだ。

「自分にできることは限られています。だからこそ、意地を張るべき場面ではとことん張っていないとダメだと思っています。アフリカ人にも負けたくない(笑)」

自ら決めたコミュニケーションのルールは他にもある。

「いちばん大切なのは、文化や歴史を理解しようと心がけ、敬意を払うこと。それから笑顔。先手を打って笑いかけると、次第に心を開いてくれるものです。撮影中、モデルをお願いした人たちにポーズや表情の指示を出す時は、日本語で話しかけているけれど、不思議とコミュニケーションはとれますね。言葉が通じなくても大丈夫みたいです(笑)。

相手がコンプレックスに感じているかもしれないことを察し、自ら寄り添っていければとも思っていて、例えば日焼けクリームは一切使用しません。アフリカの大多数の人は黒い肌を誇りに思っている一方で、黒い肌というだけで理不尽な目に遭遇してきた歴史があります。そんな彼らが日焼け対策をしている外国人の姿を見たら、どう感じてしまうか。『同じ肌の色になりたくないから塗っているんだ』と思ってほしくないので、日焼けクリームは塗りません」

この手の相手への配慮は尽きず、前述した「何でも食べる」精神もヨシダさんならではのルールだ。伝統文化や風習を頑なに守る彼らと、どうすれば仲良くなれて信用してもらえるようになるか。ヨシダさんには覚悟がある。

「例えば、彼らと同じ恰好になるのは、そうすることで『やれやれ、よそ者が来た』みたいな重い空気を変えることができるからです。とくに女性の場合、万国共通でよそ者に対して心を開いてもらうのは難しく、写真撮影なんてもってのほか。心底気に入ってもらえないと協力してもらえません」

アフリカ人に対するイメージができる限り美しいものになってほしいと願うヨシダさんは、彼ら彼女たちがいちばん輝いている瞬間を写真で切り撮るというポリシーを持ち合わせているのだ。そのためなら、同じ姿になることも厭わない。

「多くの人にアフリカに興味をもってもらいたいんです」

ヨシダナギさん

自分らしいスピードで「グローバルに生きる」

ヨシダさんの舞台はアフリカ大陸。本人は「私はグローバル人材ではないです」と笑みをこぼすが、これまでの活動を知るにつけ、異文化コミュニケーションの先人であることに異論を挟む人はいないだろう。

多様な環境に踏み込んでいくにはどんな心構えを持つべきなのか。

「何事に対しても先入観を持たないほうが良いと思いますね。自分の価値観だけで『違う』と思ってしまうと、人ってどうしても自分の常識に当てはめようとしたり、悲観的に考えてしまいがちです。先入観を持ち、コミュニケーションしてしまうと、結局どちらにしてもいい風向きにはならないと思うので、相手との共通項があったらそれに対して喜び、違うことがあったら深く考えずに『それはそうだよね』ぐらいの気持ちで流したほうがいいと思うんです」

あと一歩踏み出すには勇気が必要だ。トークショーの時に「ナギさんにように一歩踏み出すにはどうすれば?」と、アドバイスを求められることも少なくないという。

「興味を持ったらやるだけやってみる。やってもいないことに対して『できなかったらどうしよう』と思わない。『仕事にならなかったらどうしよう』と思ったり、何らかの形にならないとダメだと考えてしまうと、そのためには勉強が必要だとか、もっと準備しないといけないということになってしまいます。私の場合、考える前にとにかくやってみます。それで失敗したら気持ちを切り替え、別の楽しい道に進んでいったほうがいいと思いませんか?」

写真展やメディアでの活躍を知るにつけ、好きなことを仕事にしている印象だが、「肩書きがなくなっても何も変わりません。昔に戻るだけですね」と付け加える。

「これだけは『やりたくない』ということを決めておけば、あとは自然にやれることに行き着けると思っています。自分の『やりたくない』は、ほかの人にとっての『やりたい』ことかもしれないので。そうやって行き着いたのが、今の私です。やりたいことがある人は行動に移したほうがいいですが、そうでない人は『これだ』と決めつけて動く必要はないと思いますね。肩書きに捉われると、自由に動けなくなってしまいますから。私も3年後、何をしているのか分かりません(笑)」

ヨシダナギさん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

ヨシダナギ

1986 年生まれ フォトグラファー
独学で写真を学び、2009年より単身アフリカへ。以来、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。唯一無二の色彩と直感的な生き方が評価され、2017年には日経ビジネス誌で「次代を創る100人」に選出。また同年には、講談社出版文化賞 写真賞を受賞。写真集に『SURI COLLECTION』(いろは出版)、BEST作品集『HEROES(ライツ社)、著書に『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)、『ヨシダナギの拾われる力』(CCCメディアハウス)がある。

シリーズ「海外から見た日本」

「グローバル人材」の必要性が日本国内で叫ばれているが、グローバルに働くというのは具体的にどのような働き方、姿勢を指すのだろう。個別例を見ていくと、その在り方は実にさまざまで、パーソナルなものだ。現代社会の中で、市場や職場において日本に縛られることなくグローバルな視点をもって仕事をしている人々を紹介していく。

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