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テクノロジーが切り開く新しい教育のカタチ〜教員の働き方改革で「新しい価値創出」へ〜

Recruit , テクノロジー , 事業推進 , 働き方 , 教育

写真は左から小宮山、五十嵐さん、松田さん

*本記事は2019年3月20日に東洋経済オンラインに掲載された記事広告からの転載です。
*肩書は取材当時。『リクルート次世代教育研究院』は2019年5月より『スタディサプリ教育AI研究所』へ名称変更しました。

働き方改革の本質とは何なのか。そして、そのような改革はどうすれば実現可能なのか。リクルートグループの先進的な事例を基に、答えをひもといていく連載(全3回)の最終回となる今回は、リクルート次世代教育研究院や東京学芸大学などが、茨城県つくば市の協力を得てスタートさせた「EDUAI教員の働き方改革プロジェクト」について。「EDUAI」は「EDUCATION×AI」を示す造語。はたしてAIをはじめとする新たなテクノロジーは、教育現場にどのような変革をもたらすのか。つくば市の五十嵐立青市長、東京学芸大学の松田恵示副学長、リクルート次世代教育研究院の小宮山利恵子院長に大いに語り合ってもらった。

― 今回のプロジェクトが始まった背景を教えてください。

小宮山 利恵子さん

小宮山 利恵子
リクルート次世代教育研究院長

小宮山 リクルート次世代教育研究院は、2016年10月、東京学芸大学とともに、AI時代に求められる学びや教員養成について共同研究するプロジェクトを立ち上げました。その中で浮上してきたのが、教員の過重労働という問題です。労働者の時間外労働は月45時間以内が原則です。ところが、文部科学省の「2016年度教員勤務実態調査」によると、小学校の約8割、中学校の約9割の教員がこの上限を超過しています。

2020年には小学校でプログラミングや道徳、英語が必修になります。教員に余裕がないところにさらに新しいものが追加されると、子どもたちにも影響が出てくるおそれがあります。そこで教員の働きやすい環境の整備を目指して、2018年11月から「EDUAI教員の働き方改革プロジェクト」をスタートさせました。

松田 恵示さん

松田 恵示氏
東京学芸大学副学長

松田 東京学芸大学では、この4月に「教育AI研究プログラム」を有するまったく新しい大学院を立ち上げます。そのような中で、1つの取り組みとして、技術革新と教員の働き方改革の問題について関心を高く持っていたということがあります。教員が期待されている仕事には、子どもたちの人格形成、基礎・基本の学力をつけること、そして時代の変化に応じた個性的な力を身に付けることの3つがあります。しかし、近年、友人関係、保護者からの要望、いじめや不登校への対応など、人格形成の仕事の幅が広がり、量が増しているため、個性的な力を養うところまで手が回らないのが実情です。

小宮山 この分野は先行調査がいろいろ行われてきました。ただ、具体的な改善策の提案にまで至っていません。課題を解決するためには、現状を把握したうえで改善策を導き、実証する必要があります。そこで、研究学園都市として先進的な取り組みをしているつくば市さんにお声がけして、ご協力いただくことになりました。

五十嵐 立青さん

五十嵐 立青氏
つくば市長

五十嵐 教育環境を整えるのは私たち行政の役割です。では、望ましい教育環境とは何か。それは、教員が日々、子どもたち一人ひとりと丁寧に向き合っている状態です。逆に、教員がさまざまな業務に追われて消耗していたら、子どもたちにとって望ましい環境とは言えない。教員の働き方改革は、市として早急に取り組む課題です。

同時に、つくば市は科学のまちです。改革の具体策は政治家の思いつきであってはいけません。データを取り、仮説を検証して、エビデンスに基づきながら進めていく必要があります。その意味で、今回の共同研究の機会はとてもありがたいことです。

― つくば市の小学校に勤務する教員に、インタビューとアンケート調査を行ったそうですね。

小宮山 現場の声として大きかったのは2つです。まず教員数の不足。少子化で子どもは減っていますが、生徒の多様性が広がり、一人ひとりにかける時間は増えています。また、1人の生徒の後ろには親や祖父母といった保護者がいます。そのため、クラスを受け持つ教員は1人で100人ぐらいと向き合っている感覚になっていて、負担に感じています。

もう1つは、校務に関する事務作業の負担です。「教員はここまでやればいいというガイドラインがあると助かる」という声が多かったです。

五十嵐 私が市長に就任した直後に、教育長に就任した「社会力」の提唱者である門脇教育長も、長時間労働の要因に「児童生徒数40名で1学級」の基準があると考えています。1人の教員で担当する人数が多ければ、必然的に一人ひとりの子どもと向き合う時間は減り、逆に事務作業が増えてしまうので改善が必要です。

松田 インタビュー調査では、教員から「子どもたちのためにやらなければ」というフレーズがよく出てきました。例えば、慣例的なものになっていて過重負担になっている行事などがあっても、その年の子どもたちだけにその行事がないということはやはりよくない、といった場合です。どこまでやるべきかの判断は難しく、教員は「子どもたちのために」と言って、果てしなく仕事を抱えてしまいます。このフレーズが、ある種の「呪縛」の言葉になっている印象です。

ICTやAIの導入で変わる「教育現場」

― 過重労働解消の武器として、ICTやAIの活用が叫ばれています。

五十嵐 つくば市は、校務支援システムを一部の学校で試験的に導入しています。従来、出欠管理1つとっても、毎日手書きでつけて定期的に書き写すという手間のかかることをやっていました。しかし、単純作業で自動化できるものはどんどんやったほうがいい。市役所では昨年、全国に先駆けてRPAを試験導入して、業務によっては8割の時間を削減できました。学校でも同じアプローチは可能でしょう。

子どもが個別習熟度別に学習できる環境とは?

小宮山 利恵子さん

小宮山 東京・渋谷区では、リクルートが提供するWEB学習サービス「スタディサプリ」を公立の小中学校すべてに導入しています。かつて、子どもたちの学力の分布を1つの教室で考えてみると「ひとこぶラクダ」で、真ん中の層が最も多かった。しかし、近年は「ふたこぶラクダ」になっています。そうなると、教員はどこに焦点を当てた授業をすればいいのかわからない。このような状況においては、デバイスを使って個別習熟度別に学習ができる環境を整えることは、教員の助けになるはずです。

スタディサプリは効率化にも役立ちます。例えば、丸つけはボタン1つ押して1秒で終わります。活用を進めることで、教員の負担をかなり軽減できるようになるのではないでしょうか。そうなれば、教育の質も上がる、つまり、子どもの学力向上と教員の働き方改革は密接な関係があるということです。

ただ、今回の調査で、教員の世代によってAIやICTに対するリテラシーに、ギャップがあるということがわかりました。教育現場で普及させるためには、使い慣れていない教員に、いかに受け入れてもらうのかという点がカギになるでしょう。

松田 恵示さん

松田 校務や学習への活用は進みつつありますが、今回の調査では、子どもの人格形成や地域との関わりなどの面では「AIやICTは有効に機能しない」と考える教員が多いようでした。しかし、技術的には可能なんだと思います。教員がICTやAIの潜在的な可能性に気づくことができるような斬新なAI利活用モデルを、ぜひつくば市で作って、ブレークスルーにつなげたいです。

一方で、そもそも教員に課せられた仕事や役割が大きすぎるという議論もあります。そこはAIやICTというより、全体の土俵の問題です。どこかで線引きしないといけないでしょう。

五十嵐 員個人が判断で悩まないようにするために、全体の線引きは必要ですね。例えば、つくば市教育委員会が夏季および冬季に開催してきた「つくば市近隣中学校球技大会」を廃止しました。このような大会は各校調整など労力もかかります。各校で集まってやりたいという声もありましたが、要望に応えてすべて継続していたら、総論は賛成でも各論は反対ばかりになり、結局何も変えられなくなります。運動部活動についても、朝練禁止、週2日休み、平日は2時間までというルールを作りました。県が示した基準よりも厳しくし、大会前でも例外なく、教員や子どもたちには、しっかりと休みを取ってもらいます。

ほかにも、これまで教員がかなりの時間をかけて行っていた、市役所から各小中学校への文書集配作業をアウトソーシングしたり、特別支援教育の支援員を大幅に増員したりと、ICTやAIに頼らない改善も積み上げています。

ティーチングからコーチングの時代に

― AIやICTの活用で教員の働き方が改善されると、教育はどう変わるのでしょうか。

小宮山 教員の役割として、「教える」という部分が小さくなっていくはずです。宿題は自動配信で、デバイスを見れば、子どもたちがどこでつまずいているかが瞬時にわかる。そのぶん子どもの潜在能力ややる気を引き出すことに時間を割けるようになります。教員も、そのような子ども一人ひとりにより深く向き合うことに比重を置きたいのではないでしょうか。

五十嵐 立青さん

五十嵐 私も、教員の仕事はティーチングからコーチングに移っていくとみています。昨年視察したオランダのイエナプラン教育では、教員はグループリーダーとしてティーチングとコーチングを明確に使い分け、知識をインプットする場面でも、一方的に教え込むということはなく、少人数のグループで対話をしながら子どもたちの学びを促していました。つくば市は、小中一貫教育を行っていて、9年間でこういう人になってほしいという理想があります。ただ、もっと大事なのは、1年生なら1年生、2年生なら2年生というように、その時点で本人が楽しいと思える学びができる環境を整えることです。教員が子どもたち一人ひとりと向き合って、コーチ的な役割を果たさなくてはいけない。教員の働き方改革で、そうした時間ができたらいいですね。

松田 そのような、教え方そのものが変わるほどの改革を進めていくためには、教員集団の中でイニシアチブを取って特殊な専門的知識を活用できる、企業の方などが「兼業教師」として連携、協働するような仕組みも有効ではないかと思っています。ゲストや支援員という程度の関わりでは厳しいと思います。大学ではすでに、民間企業の研究者に兼業してもらうクロスアポイントメント制度が取り入れられています。日本の小中学校ではハードルが高いかもしれませんが......。

小宮山 実際、フィンランドでは兼業の教員がいます。

五十嵐 子どもの未来と関わる仕事は、本当に価値があると思っていますし、教員の仕事はとても尊い。社会経験の豊富な人が教育現場に入ることで、より生きた学びにつながると思います。

小宮山 いま求められているのは、単なる知識にとどまらない「生きる力」です。子どもたちが生きた学びの機会を得られるように、今回のプロジェクトをはじめ、リクルートとして引き続き教育現場をサポートしていきたいですね。

「新しい価値創造」に必要不可欠な視点

「働き方改革の本質とは何か」。「そのような改革はどうすれば実現可能なのか」。この2つの問いに対する答えをひもとくため、リクルートグループの先進的な事例を3回にわたって掲載してきた本連載。すべての事例に共通するのは、コラボレーションがあるということ。それも、「ベテラン×若手」「人事×テクノロジー」「教育×テクノロジー」という、一見すると互いに遠い存在だとみられがちなものがうまくかみ合い、よい方向へと向かっているという点だ。決して簡単なことではない。ただ、働き方改革を、労働時間短縮や残業時間削減といった個々の施策を超えた「新しい価値創出」につなげるためには、必要不可欠な視点だ。そのような意味において、同グループの取り組みは、働き方改革を推進する企業にとって、参考になる部分もあったのではないだろうか。

誰もが知りたい「働き方改革の本質」とその先にあるもの

  1. 第1回
  2. 第2回
  3. 第3回

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

五十嵐立青(いがらし・たつお)

つくば市長

松田恵示(まつだ・けいじ)

東京学芸大学副学長

小宮山利恵子(こみやま・りえこ)

リクルート次世代教育研究院長
(『リクルート次世代教育研究院』は2019年5月より『スタディサプリ教育AI研究所』へ名称変更しました。)

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