相談が絶えない精神科医 ゆうきゆうが語る「人生100年時代」の処方箋

相談が絶えない精神科医 ゆうきゆうが語る「人生100年時代」の処方箋

文:浅原 聡 写真:佐坂 和也

2018年、政府主導の一億総活躍社会実現へ向けた「人生100年時代構想推進室」が発足。本格的な「人生100年時代」を我々はどう生きるべきか。

「人生100年時代」の生き方を説く「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社)出版以来、多くの人たちが「人生100年時代」というキーワードを意識するようになった。一方で「そうは言っても...」と、戸惑いを隠せない人も多いだろう。

そこで今回は、大ヒットシリーズ『マンガで分かる心療内科』をはじめ、漫画や書籍など、100冊以上の著書を通し現代人の悩みに寄り添ってきた、精神科医のゆうきゆう氏にインタビュー。「人生100年時代」を生きるための、処方箋をもらった。

先のことより「今」を考え、日頃から変化(=レベルアップ)を楽しむことが大切

― ここ数年、「人生100年時代」という言葉をよく耳にするようになりました。精神科医として、ゆうきさんはこの言葉の影響力をどのように感じていますか?

とても想像が難しい課題を突きつけられているように思いますね。基本的に人間は今の延長でしか未来を想像できません。今が充実していない人にとっては「この辛さが100歳まで続くのか......」と憂鬱になってしまうかもしれませんし、若い世代の方々には遠い未来である「100歳の自分」をリアルに想像するのは難しい。けれどそれは当然のことなんじゃないかと思います。

私自身、医学生時代は卒業後に精神科医になることも、書籍や漫画を手がけることも、メンタルクリニックを開業することも思い描いていませんでした。つくづく、人生は自分の想像を超えて大きく変化するものだと実感しています。まして、テクノロジーの進化などによって各業界が激動の時代を迎えている昨今は、なおさら先が読めなくなっていますよね。

― では、先行きが見通せない中、我々はどうこの100年時代と向き合っていけば良いのでしょうか?

先を考えるよりも、今ここをどう過ごすかの"心構え"が重要です。私はそれを、「積極的に"変化"を楽しむこと」だと考えています。

もともと私は、新しい技術を取り入れて、生活を変えていくことを趣味にしています。例えば、数年前に糖質制限や湯シャン(シャンプーや石鹸を使わずに行う洗髪)を取り入れたことで、以前よりも体調が良くなりました。同様に、あらためて心理学を学び自分の思考回路を変えたことで、若い頃よりも精神的に落ち込むことが少なくなったように思います。

それこそRPGゲームで新しい魔法を覚えると有利になるように、小さなことでも変化(= レベルアップ)を継続していく。それを習慣にしていれば、どんな社会になっても、どんな状況に置かれても、柔軟に楽しみを見つけていける人間になれるのではないでしょうか。

― 常に変わり続ける意識を持たなければいけない、と。

裏を返せば、単に長生きをしているだけで、ある日突然人生が劇的に好転することはあり得ないともいえます。100歳になっても元気に歩いていたいなら、1日だけ100%の力で筋トレを頑張っても効果はないのと同様です。健康面だけではなく、仕事においても、0.1%のエネルギーでもいいから、毎日コツコツと、新たな試みを積み重ねていく。それができれば未来の大きな流れを変えていけるのではないでしょうか。

ゆうき ゆうさん

幅広いコミュニティを持つことが、心の処方箋となる

― もともと日本は「人生100年」を実現しやすい長寿の国です。一方で2019年3月20日に国連が発表した「幸福度」のランキングは世界58位でした。幸せではないのに長生きを求められるのはとても苦しいものです。精神的に満たされない人が多い理由はどこにあると思いますか?

ひとつ考えられるのは、そもそも日本人は"幸せ"に対する基準が高いことです。例えば、毎日きちんとご飯が食べられたり、安全に過ごせたりするだけで満足感を得られる国もあります。一方で日本人はそれを当たり前に感じやすく、より高次元の幸せを求める傾向があるのではないでしょうか。

心理学には「マズローの欲求5段階説」という有名な考え方があります。食事や睡眠などの生理的な欲求や身の安全に対する欲求が満たされると、人間はより高次元の欲求である他者との繋がりや仕事での成功、自己実現を目指していくと言われています。

高次元の欲求が満たされると、「自分は世の中で役に立つ存在だ」という感情が湧き、幸福度も上がる。逆に満たされないと、焦りや劣等感、無力感などの感情が現れてしまいます。それを左右するのは他者との関わり方なのです。職場や家庭での人間関係がうまくっていない場合はやはり幸せを実感しにくくなってしまう。

幸せに対する基準が上がっているからこそ、幸せを感じにくく、逆に不満やストレスを抱えてしまいがちな部分もあると思っています。

― 実際、ゆうきさんの専門でもあるメンタルクリニックに訪れる人は増えているのでしょうか。

5人に1人が心療内科や精神科にかかって病気であると診断されたというデータがあり、事実、私のクリニックにも幅広い世代の方々が訪れます。特に、人間関係に起因する悩みを抱えている人が多いです。仕事における人間関係のストレスや、家庭でのコミュニケーション不足による孤独感が積み重なり、うつ状態に陥るなども珍しくありません。

その場合、基本的な対処法として、ストレスの原因になっている人に対して自分から話しかけることをすすめています。心理学では、苦手な人を遠ざけるよりも、自分から積極的に話しかけると人間関係が良くなると考えられています。「ありがとうございました」や「おつかれさまです」などの簡単な言葉で構いません。1日1回でいいので、何か話しかけてみる。先ほどお話したように、長い人生で"一発逆転"は期待できません。人間関係も、毎日の小さな積み重ねで、未来が好転していくのです。

ゆうき ゆうさん

― もし自分から歩み寄っても関係が改善されない場合には、他にどんな選択肢がありますか?

その人の精神状態や職場環境が明らかに危険な場合は、転職や休職などの選択肢をお話しすることもあります。ただ、人間はうつ状態になってしまうと、正当な判断が難しくなる。「こんな会社は辞めたほうがいい」と思っても、「俺には責任があるから」と考えてストレスフルな状況から抜け出せなくなってしまう場合もあります。そうならないために、本来は誰もが「悩みを打ち明けられる人」を作っておくべきなのですが、どうも現代はそれが苦手な人が多い印象です。

SNSを使えば気軽に他者と繋がれますが、どうしても広く浅い関係になり、親身に相談できるほど深い関係を築くのが難しくなっています。また、一人暮らしの人など、家に帰っても会話をする相手がいないケースも少なくありません。そうなると孤独感に拍車がかかり、狭い世界の中で苦しみ続けることになってしまいます。

― 確かに、広く浅い関係値ばかりが増えやすくなったように思います。

だからこそ、私たち現代人は、できるだけリアルな世界で幅広いコミュニティを持っておくことが大切です。会社の同僚や家族といった知り合いがいない趣味のサークルに参加するだけでも、仕事や家庭の不満を気兼ねなく話せるようになるかもしれない。そこで共感してもらったり、他者の意見を聞けたりするだけでも、視野が広がり気持ちが晴れることもあります。

人間が抱えているほとんどの悩みは、自分の世界を広げることで解決策が見えてくると私は考えています。働き方にしろ、恋愛にしろ、価値観が多様化している時代だからこそ、私たちは「井の中の蛙」ではいられないのです。

ゆうき ゆうさん

現代人にとって、幸せの鍵は「他者からの感謝」

― 職場や仕事での自己実現が幸せには欠かせない一方、働き方の多様化がここ数年進んでいます。人生100年時代、私たちはどのような幸せを追求していくべきでしょうか?

アドラー心理学やアランの幸福論といった心理学の名著では、人は「誰かの役に立つこと」で最高の充実感を得られると考えてられています。ですから、まずは職場で顧客の喜びを可視化する工夫をしたり、社員同士で褒め合ったりするような仕組みを作ることが大切だと思います。

極端な話、年収や地位を追い求めるよりも、誰かの役に立っていることを実感できる環境を作ることが幸せへの近道かもしれません。それが叶わないのであれば職場を変えたり、副業を始めてみたりするのもひとつの手段でしょう。

また、長い人生を過ごしていく中で、いつまでも人から感謝されやすい状況に身を置きたいところです。仕事以外でも、例えば特技や趣味を生かせるボランティアに参加すれば生きがいを実感できます。使わなくなった洋服や手作りのクラフト作品を売るだけでも、他者からの感謝は得られます。積極的に人と接していく機会を作る。それが充実感につながっていくはずです。

― 元号が切り替わったいま、自分の生き方を見つめ直すにはピッタリのタイミングだと思います。とはいえ、誰しも、これまでの自分を変えるのは勇気が必要です。失敗を恐れてなかなか行動できない人に向けてアドバイスをお願いします。

著作『マンガで分かる心療内科』でも紹介しましたが、心理学では「人は何かの選択をしたとき『必ず後悔する』ようにできている」と言われています。転職や結婚など、人生を左右するような決断をしたとき、どちらを選んでも後悔する瞬間は訪れるし、それはみんな同じです。

どうせ後悔するのなら、何もしないでいるよりも、とにかく『自分で決めてその方向に進む』方がよっぽどいいと私は思います。自分の行動によって、さらなる喜びを掘り起こしていく。そうすれば、たとえ何年生きるにしても、確実に人生の感動は増えていくはずです。

ゆうき ゆうさん

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

ゆうきゆう

精神科医・漫画原作者。東京大学医学部医学科を卒業後、2008年に「ゆうメンタルクリニック」を開院。2014年には皮膚科・美容皮膚科の「ゆうスキンクリニック」も開院する。医師業のかたわら漫画原作者としても活躍。ベストセラーとなった『マンガで分かる心療内科』(少年画報社)などのマンガ作品のほか、100冊以上の書籍を刊行。

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