技術とマーケティングの融合で市場創造を支援 川上智子さんのリクルート考

技術とマーケティングの融合で市場創造を支援 川上智子さんのリクルート考

問題の本質は、共通言語がないこと 未来志向、グローバル視点が融合への道

リクルートグループは社会からどう見えているのか。私たちへの期待や要望をありのままに語っていただきました。

リクルートグループ報『かもめ』2018年12月号からの転載記事です

サービス人に感じるDNA 常識にとらわれず挑戦する力

リクルートとの最初の接点は、『ゼクシィ』さんから取材を受けたことです。当時、出産退職後、子育てをしながらMBA取得のために大学院に通っていました。ITを使った時短術などのブログを書いていたのを編集のご担当が見つけてくださって取材してくれたそうです。とても面白い経験でした。

大学で教鞭をとるようになってからもたくさんのリクルートOB・OGの方や現役の方々と知り合いましたが、深くリクルートの事業について知ったのは、早稲田大学ブルー・オーシャン戦略研究所として、『スタディサプリ』をテーマにケーススタディを執筆させていただいた時でした。リクルートは徹底的な顧客接点とカスタマー接点を活かして、新たなサービス開発をたくさん仕掛けている企業だと思います。

イノベーションは覚悟がないと起こせない。自分がやらなきゃ誰もやらないといった徹底的なオーナーシップがあるからこそ、その強烈な志に人も集まるし、困難を乗り越え成功できる。リクルートのサービスにも人にも、共通のDNAを感じます。それは、個性を尊重する、常識にとらわれずに常に新しい世界を開拓していくことだと感じます。

先端技術の売り込み先は探すのではなく、市場創造型で

私は文系出身ですが、新卒で入社したミノルタ(現コニカミノルタ)では、思いもかけず研究所に配属されました。技術者に囲まれ完全アウェイの私のミッションは「技術をマーケティングすること」でした。

当初は、会議に出ても専門用語ばかりで何を話しているかさっぱり分からず、海外にひとり放り込まれたようでした。そんななか、マーケティング担当として先端技術を売り込める先を必死で探していましたが、全然うまくいかない。そして気付いたんです。先端技術の市場は探すのではなく「創る」のだと。顧客を作り市場を創るという発想に切り替えると、商品開発にもつながり道が開けてきました。

エンジニアとマーケターの共通言語を持つ

もうひとつ気付いたのは、技術とマーケティングの分断を引き起こす本質的な原因についてです。それは、時間軸と共通言語のズレです。マーケターは日々の生活者が困っていることを強烈に印象に残し、ストーリーで語りがち。一方、開発とは常に未来を見据え、ストーリーではなく具体的に、段階別に何がどの程度異なるかなど、正確な事象と数値が共通言語となっています。

マーケターと技術者が共通言語を持てれば、イノベーションを起こせる確率が上がる。もともと日本は、ローテーション人事や横断プロジェクトなどで互いの部署や仕事を理解し合えるハイコンテクストな組織を作り上げてきました。

最近リクルートでもエンジニアとペアでイノベーションを起こした案件が増えていると聞いています。もともとコミュニケーションに長けた集団ですから、さらにその動きが加速するかもしれません。

グローバル視点とエンゲージがますます大切に

先ほどお話した未来志向に加えて、グローバルの視点もイノベーションには重要です。例えばパイロットの『フリクションボール』は、最初にフランスの小学生に大ヒットした。学校でボールペンを使うからです。そこから逆流させて日本でも大ヒットとなりました。新商品チームはとかく組織内で隔離されがちですが、その商品を大きく育てていくには、グローバルも含めた組織全体のなかでエンゲージさせることが重要です。

前職で感じたのは、「技術に思い入れがありすぎる」と組織内での立ち位置や市場全体を見失い商機を逃すということ。この技術なら通用しないわけがないといった思い込みが目を曇らせます。

日本国内で成功している多くの企業がグローバルで苦戦するのは、技術だけでなくサービスや商品に思い入れがありすぎるからこそなのかもしません。一度その思い込みをはずすと、新しい使い方や売り方、グローバルに広がる組織全体の視野から新たな市場が見出せるかもしれません。短期間でグローバル企業への歩みを進めてきたリクルートなら、きっとさらに新しい飛躍ができると期待しています。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

川上智子(かわかみ・ともこ)
早稲田大学ビジネススクール(大学院経営管理研究科)教務主任(Associate Dean)
早稲田大学ブルー・オーシャン戦略研究所 副所長
2019年度より早稲田大学スマート社会技術融合研究機構 国際マーケティング研究所 所長

大阪大学文学部卒業後、ミノルタカメラ株式会社(現コニカミノルタ)に入社し、基礎研究所で新製品開発・マーケティングに従事。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。博士(商学)。関西大学教授等を務めた後、2015年4月より現職。INSEADブルー・オーシャン戦略研究所客員研究員、ワシントン大学ビジネススクール客員研究員(フルブライト研究員)、ナンヤン理工大学アジア消費者インサイト研究所リサーチフェローを歴任。著書は、日本商業学会賞と日本経営学会賞を受賞した『顧客志向の新製品開発:マーケティングと技術のインタフェイス』、チャン・キム著『ブルー・オーシャン・シフト』では日本のケーススタディを執筆。3度にわたる海外留学を重ねながら子育てをしてきた。現在、東京で就職した娘とふたり暮らしをしながら、夫のいる関西を往復している。

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