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不安を抱えながら生きてもいいんじゃない?――竹中直人の人生100年時代

サステナビリティ , 働き方 , 多様性 , 人生100年時代

文:森田 大理 写真:斎藤 隆悟

2017年、政府主導の一億総活躍社会実現へ向けた「人生100年時代構想推進室」が発足。本格的な「人生100年時代」を我々はどう生きるべきか。

「人生100年時代」の生き方を説く「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット著/東洋経済新報社)出版以来、多くの人たちが「人生100年時代」というキーワードを意識するようになった。一方で「そうはいっても...」と、戸惑いを隠せない人も多いだろう。

そこで今回は、俳優の竹中直人さんにインタビューを実施した。学生時代に俳優を志し36年あまりを第一線で活躍する竹中氏だが、一躍注目を浴びたのはテレビのオーディション番組で披露したモノマネ芸がきっかけ。

俳優業の他にも映画監督・音楽などマルチな活動を続ける生き方は、長寿命化やテクノロジーの進化によって私たちが直面する「様々な変化を繰り返す」ことにも重なる。竹中氏の人生観を紐解きながら、人生100年時代のヒントを探った。

何歳まで生きるとしても、僕は"今日一日"を積み重ねるだけ

― 竹中さんは、100歳まで生きることが当たり前の時代の到来をどう感じていますか?

どうだろうなあ。僕はあんまりものごとを大きく捉えないで生きてきたので、ピンと来ないのが正直なところです。昔より長生きする人は増えたとしても、自分がいつ死ぬかは誰にも分からないじゃないですか。だから、自分の生き方は変わらないと思うんです。今日一日をただ生きてきただけ。将来を見据えてどう生きようなんて、あんまり考えてこなかったですね。

― その考え方は、昔から一貫しているんですか?

もちろん、子どもの頃は漠然と将来を考えていましたよ。手塚治虫さんの漫画に熱中して「漫画家になりたいなあ」とかね。多摩美(多摩美術大学)の1年生のとき、8ミリ映画のクラブに入ったのをきっかけに役者の道へ進もうと決めたときは、さすがに自分の将来を考えました。でも、卒業後に芝居をやるために劇団青年座を選んだ理由は、当時"洋物"の演劇を上演していなかったから。シェイクスピアとか、日本人が外国人の役を演じるの、照れくさいじゃないですか(笑)。だから、なにかしっかりした計画にもとづいて道を選んだわけじゃないんですよね。約束されたものなんてひとつもないのが役者の世界ですから、将来を真剣に考えすぎると気が滅入ることもあり考えようとしなかったのかもしれません。

― では、俳優としてこれほど長いキャリアを築けたのはなぜだと思いますか?

60歳を過ぎてもまだこの仕事を続けていられるなんてまったく想像もしていなかったですよ。これはもう運が良かったとしか言いようがない。いただいた仕事や出会った人たちに恵まれていたんだと思います。

― 時代とともに活動する場も変化されていますよね。竹中さんはAmazon Prime videoやNetflixのオリジナル作品にも出演されるなど、新たな分野にも積極的に挑戦されている印象です。

時代の変化に合わせよう----という意識は全くありませんね。僕のなかではインターネットやスマホの作品が新しいとか、そんな風に考えたことはありません。企画や台本を読んでから出演を決めるなんてこともいっさいないですね。

僕の思いは決して、仕事を選ばない、というのがあるんですよ。若い頃、売れない時代はどんな役でも声がかかること自体がとにかく嬉しかった。その気持ちがずっとあります。だから「呼ばれたら行く」と常にそう思ってます。だから結果的に、インターネット配信の作品にも出演しているんじゃないかな。フィーチャーフォンの時代には携帯ドラマにも出ましたよ。

時代の変化には抵抗も迎合もせず、ありのままを受け入れる

― エンターテイメントの世界でネット配信作品が急拡大しているように、人生100年時代は生きている間に大きな変化を何度も経験する時代とも言われています。竹中さんは昨今の変化をどう感じていますか?

本当に、デジタル化の波は物凄く感じますね。35ミリフィルムで映画を撮影していた時代には考えられなかったことが次々と起こり、最近はもうすべてが僕の想像の域を越えています。

もう10年以上前の話ですが、映画監督の押井守さんと仕事をしたときに「次は顔だけ貸してください」って言われたのを覚えています。「あとは全部CGでつくれるから」って。実際、役者はブルーバックで演じてあとは全部CGで...という時代になってきています。技術の進歩がめまぐるしい。まさしく手塚治虫さんが描いたような未来ですよね。そこまで来ているのかと驚きました。

作り手だけでなく、見る側の変化も大きいですよね。今の若い人たちはなんでもスマホで観るのが当たり前。だから、リアルな舞台や大きな画面で芝居の間や余韻を味わうというよりは、あっと驚く展開やスピード感を楽しむようなエンターテインメント性の高いものが好まれるのは分かる気がします。

― そのような激しい変化にどう向き合えば良いと思いますか?

多分、これからも更に想像を絶する進化がやってくるだろうし、頑なに抵抗したところで時代は変わっていきますから、受け入れるしかないと思いますね。たとえば、僕は昭和の時代を生きてきて、"モノラル"や"アナログ"なことを知っている世代ですから、個人的な好みで言えば、下北沢の本多劇場のような小劇場でやる演劇がほっとします。生身の人と接して作品をつくっていきたいという気持ちは強いですよ。

でも一方で、昔を懐かしんでいるだけでは仕方ないとも思っています。音楽がまさに象徴的で、レコードやカセットテープで聴く味わいがあるのも知っているけれど、スマホがあればいつでもどこでもこんなに沢山の楽曲が自由に聴けるなんて、それはそれで画期的じゃないですか。

― 変化に怯えてもしょうがないし、昔のやり方に固執しすぎも良くないと。

そう、やっぱり先のことを考えたら不安になりますよね。突然大きな病気にかかるかもしれないし、役者に求められるものがこれまでとガラッと変わってしまうかもしれないし、はたまたいつ東京に大地震がきてもおかしくないし...でも、そう考えだすと怖いじゃないですか。「電気や水道が止まってウォシュレットが使えなくなったら嫌だな」とか、いつも不安だらけになっちゃう(笑)。だから何がどう変わろうが今を受け入れるようにしていますね。

スマホの画面ばかり観ている若い子たちを寂しく思う気持ちもあるけど、たしかにスマホは便利ですから。僕もこの間、映画のキャンペーンでロサンゼルスに行ったらジェイク・ギレンホールと会えて、興奮してスマホで"自撮り"しちゃいましたもん。

不安になることは、決して悪いことではない

― 10月8日より、舞台NODA・MAP『Q』:『A Night At The Kabuki(作・演出:野田秀樹 / 音楽:QUEEN)』の上演が始まります。野田さんが率いる主宰されているNODA・MAP初参加だそうですが、竹中さんにとってはどんな挑戦でしたか?

脚本ができる前の「創作ワークショップ」に参加するのはこれが初めてだったんです。ワークショップを通じて、今回の舞台の世界観や演技をつくっていくというのが野田さんのスタイル。脚本なしの状態かつ初対面の役者さんもいるなかで、一緒に即興で何かをつくっていくというのは、人見知りの僕にはかなり照れくさかったですが、その難しさも含めて楽しんできました。

加えて、野田さんの演劇の世界は、僕がこれまで一緒に仕事をしてきた岩松了さんや倉持裕さんがつくるものとは全く違うものです。自分がどこまでできるかという不安はどうしてもありますね。

― 竹中さんほどのキャリアでも、演じることに対して不安になるんですね。

自分をベテランなんて思ったことはないし、いつも不安ですよ。舞台初日の前夜やドラマや映画のクランクイン前日は、いろいろなことが気になってしまってぜんぜん眠れない。でも、不安になるのもそんなに悪いことではないと思います。

不安がない状態って、裏返すと冒険も挑戦もないってことだし、つまらないとも言えますよね。先々のことを不安になり過ぎる必要はないけれど、いい具合に不安だからこそ面白いんじゃないかな。

― 竹中さん流の不安との付き合い方はありますか?

僕たちの仕事は、数字(視聴率や動員数など)や観客の意見で評価されることは避けられないけれど、僕自身はあまり気にし過ぎないようにしています。

昔、仲良くさせてもらっていた中島らもさんが、生前に「100人いればその中のたった3人に爆笑されてりゃいいんだよ」って仰っていたけど、全員に好かれる必要ないんだなと思います。今の時代で言うなら、SNSの「いいね」の数を心配しすぎるのはあまり意味がないってことですよね。

― 逆に、不安から解消される瞬間はあるんですか?

昔から、コム・デ・ギャルソンの服を着ることが最大の楽しみで、これは今でもそうです。あとは「大丈夫」って言ってくれる友だちと一緒にすごすこと。そして、お酒を飲んでいるときですかね。川久保玲さんの作った服に包まれている自分、ひとりじゃない自分、少し酔っている自分、みたいな状態を作っているのかもしれない。そうすることで「不安な自分」とちょうどよい距離を置いている、という感じかな。あ、あと、おいしいチョコレートを食べているときは不安から解消されているかも(笑)。

僕は、47歳までお酒はほとんど飲めなかったんだけど、当時映画の企画が2本立て続けにダメになって落ち込んでいたときに、大貫妙子さんや東京スカパラダイスオーケストラの谷中敦くんが飲みに誘ってくれてね。段々と酔うって楽しいなあって思うようになったんです。

繰り返しになっちゃうけど、不安になるのは、悪いことじゃない。何か一つでいいから、ほっとできる瞬間や場所を見つけられると、不安とも上手く付き合っていけるんじゃないですかね...。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

竹中直人(たけなか・なおと)

1956年神奈川県横浜市生まれ。1983年、テレビ朝日系『ザ・テレビ演芸』で芸能界入り。俳優、コメディアン、映画監督、歌手と各方面で多才ぶりを発揮するほか、2006年からは出身大学である多摩美術大学の客員教授も務めている。1996年のNHK大河ドラマ『秀吉』では豊臣秀吉を熱演。映画作品では『シコふんじゃった。』『EAST MEETS WEST』『Shall weダンス?』で日本アカデミー賞最優秀助演男優賞3度受賞。監督作品に『無能の人』『119』『東京日和』『連弾』『山形スクリーム』『サヨナラ COLOR』がある。2019年10月より舞台『Q』:A Night At The Kabuki(作・演出:野田秀樹 / 音楽:QUEEN)へ出演。12月には出演映画『カツベン!(監督:周防正行)」が公開予定。

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