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組織が多様化する現代のリーダー像とは――ミネルバとリクルートが語るリーダー育成論

Recruit , アイデア , オープンイノベーション , グローバル , グローバル人材 , マネジメント , リーダーシップ , 人材育成 , 働き方 , 多様性 , 教育 , 新規事業

文:森田大理 写真:須古恵 通訳:小林理沙子

不確実性の高い時代。これからのリーダーは、どんな力を発揮すれば良いのだろうか。先進的な人材育成を研究・実践する組織に聞く。

グローバル化やテクノロジーの進化が急速に進む現代は、将来予測が困難な「VUCA」とも呼ばれ、目まぐるしく社会の在り様が変化している。そんな中で、改めて注目されている力が「リーダーシップ」だ。

過去の経験が通用しない事象が多いからこそリーダーシップの重要性を説く人もいれば、最近話題を集めている「ティール組織」や「ホラクラシー」といった新しいマネジメントスタイルでは、今までリーダーシップを求められていた上司(管理職)ではなく、従業員全員がそれぞれリーダーシップを発揮して問題解決にあたる、という組織が強いと説いている。誰もが知る言葉でありながら、定義や見解は実に様々だ。現代に求められるリーダーシップとは、どのような能力と定義づければよいのだろうか。

そこで今回は、革新的教育システムを実践し「次世代のグローバルリーダーを育成している」として世界中から注目を集める米国ミネルバ大学を設立した「Minerva Project(ミネルバプロジェクト)」のKenn Ross氏と、リクルートが人と組織の新しい繋がり方を創り出すために立ち上げた実験組織「hitoLab(ヒトラボ)」の今村健一に、それぞれが考えるリーダーシップ像や、その身につけ方を聞いた。

既存の教育手法にとらわれない、新たな人材育成システムの必要性

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ミネルバプロジェクト Managing Director of Strategic Partnerships / Kenn Ross

----はじめに、ミネルバとヒトラボ、それぞれどのような機関か教えてください。

Kenn ミネルバ大学は、プロフェッショナルが考えた理想の高等教育機関です。伝統的な大学で行われている講義のようなパッシブ(受動的)な学びではなく、Critical Wisdom(世界をより良くしていくために必要な智恵や能力)の習得を重視し、リーダーやイノベーターを養成するために、What・How・Whereの3つの観点で学びを再構築しています。

まず、What(学生に身につけてほしいもの)は、「Transferable Skills」。どんな仕事においても必要で普遍的な"課題を設定し、それを解決する"というスキルを指します。
How(学び方)は、脳科学に基づいた完全アクティブラーニング。HC(Habits of Mind and Foundational Concepts:思考習慣と基礎概念)というミネルバが習得すべきと定義する80以上の思考を土台にカリキュラムを組み、80以上の観点で細かく評価をしていくのも大きな特徴です。

Whereは、特定のキャンパスを持たず、4年間で世界7都市を巡る、というミネルバ大学の特色にも現れる、学ぶ場所の重視です。理由は大きく二つあります。一つはグローバル人材を育成していくため。もう一つは、学んだ知識や身につけたスキルを、異なる歴史や文化的背景を持つ都市の中で実践してほしいからです。学問は、ただ学んでも使うことができません。多様なコンテクストの中に当てはめ、応用することで大きな学びを得ることができるのです。

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株式会社リクルート ヒトラボ ラボ長 / 今村 健一

今村 ヒトラボは、2019年4月にリクルートの中で立ち上がった、「人と組織の未来の繋がり方」を研究する実験組織です。人と組織とは、"社員と企業"という関係だけでなく、"学生と学校"、"市民と地域・自治体"など。複数の人が集まって成り立つあらゆる場が対象。よりよい関係性や新たな在り方を考え、実践しながら今よりもっと楽しい世の中にしていくことがヒトラボの目指す世界観で、10年くらい先の未来を見据えていろんな手法を実験・開発していこうとしています。

特徴は、デザイナー・教育機関・行政など、リクルートの社外の人たちとのコラボレーションを前提とすること。社内もしくは人事の世界に閉じた活動では、これまでの延長線上にあるアイデアに頼ってしまいがちです。リクルートが60年の事業活動のなかで培ってきた知見や経験にはない観点を取り入れ、社外のみなさんと様々な試みをアジャイル型で実践していきます。
2020年1月に発表した、ヒトラボとミネルバプロジェクトの提携は、その取り組みの第一弾。ミネルバの革新的な教育システムを取り入れ、新たな人材育成の在り方や学び方そのものを模索していきます。

時代を越えたリーダーシップの普遍性と、現代のリーダーに求められるもの

----では、ここから、リーダーシップについてお伺いします。そもそもリーダーシップとはどのような力(能力)だとお考えでしょうか。

Kenn 曖昧なまま乱用されてきた言葉でもあり、はっきりと定義するのは簡単ではありません。ただ、あえてひとことで表すなら、「人の旅路を導く力」つまり、ある目標に到達できるように組織や集団を先導する力だと私は捉えています。

今村 社会全体の複雑さが増し、変化のスピードも激しくなっている現代では、リーダー像も変わってきているように感じます。僕もKennに近い認識で、現代のリーダーは、これまで以上に組織やプロジェクトが存在するPurpose(目的)を示す役割が求められていると感じています。リーダーには、その目的を実現する意義を掲げ、それを説き組織をより良い状態に導くスキルやマインドが大事な時代ではないでしょうか。

特に日本では、戦後の復興から高度経済成長期にかけては非常にシンプルな時代でした。国も会社も個人も、頑張った分だけ右肩上がりに豊かになれたから、目標を示すのが簡単だったとも言えます。ですが今はもう、そういう時代ではない。昔に比べてリーダーの意思決定の重要度も上がっているように感じています。

----お二人とも、"目的を提示し、導く力"がリーダーシップには欠かせないと。

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Kenn この力を発揮するのに、ミネルバではリーダに求められる「4つのコアスキル」を学生にも教えています。問題の本質を正しく把握するための「クリティカルシンキング」、問題解決のために様々なアイデアを発想できる「クリエイティブシンキング」、自分の考えを他者へ伝えるための「コミュニケーション力」、他者の協力を得るために不可欠な「コラボレーション力」。先ほどの80のHCはこれらの力の主な構成要素であり、それらを身につけるための鍵となるものです。

過去を振り返ってみても、この4つの力が非常に高い人が、その時代のリーダーとして歴史に名を刻んでいると思います。ですが、歴史上の偉人と現代のリーダーとの違いは、あまりにも技術革新が進み、ものごとが複雑になっていること。リーダーが目的を示す難易度が増している時代だと言えます。

体系的な学び→実践→フィードバックのサイクルをいかに早くまわせるか

----では、この難しい時代に求められるリーダーシップは、どのように身につければいいのでしょうか。

今村 リーダーシップは特別な人だけのものではなく、誰でも・いつからでも学べるものだと僕は思います。いま悩んでいる人は、リーダーシップを漠然と捉えすぎて理解していないだけ。だからまずはStructure(体系)を理解することが大切ではないでしょうか。

子どもが算数を学ぶのと同じです。1+1が2になるという足し算の概念を知った子どもは、身の回りの色んなものを数えはじめますよね。人は体系を使いたくなる。リーダーシップも同じで、なんとなく知っている状態でやみくもに実践するのと、体系的に学んだ上で実践するのでは行動が変わります。Structureを知っているからこそ、自分の取った行動が良かったか悪かったかのレビューもできるはずです。

----リーダーシップを構造的に捉え、基礎から順々に実践を通して学んでいくんですね。

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Kenn そうですね。80歳の老人が豊富な人生経験から沢山の学びを得ているように、時間をかければそういうスキルが身につくのは当たり前です。ただ、若いうちから優れたリーダーになるには「効率よく、早く」学ばなければなりません。とはいえ、一人で丸腰のまま学ぼうとするのはさすがに難しい。効率的に学べる環境やプログラムを探す必要があります。ミネルバがおこなっているのは、まさしくこうした場の提供です。

リーダーシップのコアとなるスキルを学習すること。学習した能力を実践し、成功だけでなく失敗からも学びを得ること。そして、実践したプロセスや結果についてフィードバックを受けること。ミネルバのカリキュラムは、このサイクルを素早く・適切にまわすことで、学びを深められるように設計されているんです。

ー とはいえ、先ほどのお話に出てきたPurposeを示す観点で言えば、スキルの取得だけで今の時代良いリーダーになるのは難しいのではないでしょうか。

今村 おっしゃるとおりだと思います。同じ能力を持っていても、個人のポテンシャルや掲げる信念・ビジョンによって、組織を導く方向は変わってくるはず。良いリーダーとは、「能力の高さ×想いの強さ」の掛け合わせで決まる気がしますね。

Kenn そうですね、個々の持つ個性によって方向性は変わってくる。むしろ、みんながみんな同じようなリーダーになる必要もありません。グローバル社会の一員として世の中をどう良くしていくべきかという考えを持っているのであれば、多様な考え方を持つリーダーが、多様なアプローチで試行錯誤していく方が良いのではないかと。

今村 ですから、なおさらリーダーの掲げるPurposeが組織を左右するのだと言えるでしょう。これからの時代のリーダーに問われるのは、「どれだけの大きさ・クオリティのPurposeを示せるか」。そのために必要なスキルを分解すると、ミネルバが定義する4つのコアスキルのような、普遍的なものになるのではないでしょうか。

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プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

今村 健一(いまむら・けんいち)

株式会社リクルート ヒトラボ ラボ長

1976年、福岡県生まれ。1999年に、東京大学工学部船舶海洋工学科を卒業後、株式会社リクルート(現:株式会社リクルートホールディングス)に入社。『じゃらん』の営業職を務める。2003年、経営企画室に異動し、経営企画と人事に携わる。2007年から『タウンワーク』などの事業企画部に所属。2012年に経営企画室長となり、翌年からグループの人事統括室室長も兼務。2016年4月から、米国Indeed, Inc.のHRシニアディレクターとして米国に赴任。その後、オランダEndouble社のCEOを経て、2019年1月より現職。

Kenn Ross(ケン・ロス)

ミネルバプロジェクト Managing Director of Strategic Partnerships

米国生まれ。20年以上アジアを拠点に活動しており、高等教育や革新的な教育をテーマに取り組んできたことで知られる。ミネルバプロジェクトでの活動の他、非営利団体である「the International Foundation for the Promotion of Academic Soft Skills(IFPASS)」の創設者でもあり、TEDxなどでも定期的に講演している。

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