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北欧と日本を行き来する家具店主から学ぶ、日本人の「綿密さ」との向き合い方

ものづくり , アイデア , グローバル , グローバル人材 , サステナビリティ , デザイン , ビジネススキル , マネジメント , マーケティング , 人材活用 , 伝統 , 働き方 , 多様性 , 海外から見た日本

文:葛原 信太郎

シンプルなデザインと、リペアしながら長く使い続けられる北欧家具に魅了され、ビンテージ家具ショップtaloを始めた山口さんに聞く、フィンランドから見た日本。

フィンランドとデンマークを中心に北欧で日常的に使われているビンテージ家具を買いつけ、日本で販売する「北欧家具talo」。神奈川県伊勢原市にある倉庫型の店舗には、ソファ、テーブル、イスをはじめとする北欧家具がずらりと並ぶ。買い付け時には、傷んでいたり壊れていたりするものもあるが、日本に運ばれてからtaloのスタッフにより丁寧にリペアされ、再び人々の手に渡る。

代表の山口太郎さんは、taloをはじめた20代のころから1年の半分を北欧で過ごし、現地の価値観をその身で理解してきた。今回は、talo創業のきっかけとなり、最も多く通ってきたフィンランドの視点から見えた日本について話を聞いた。

自分の情熱を傾けるべきものに出会えた

――はじめに、ビンテージ家具の輸入業をはじめたきっかけを教えてください。

最初は、家具というより輸入業をやってみたかったんです。「海外に行けば、何かおもしろいことが起こる」「人生が豊かになる」、という根拠のない期待を持っていて、海外に訪れたり、海外と仕事をしたりする輸入業に憧れていました。僕は1973年生まれなのですが、同世代を見ると海外志向が強い人が多く、時代的なものもあったのかもしれません。

ただ、インターネットがない当時、買い付けるべき先や方法を知ろうとしても、情報を得るには実際に訪れるメディアから知ることしかできません。最初は、偶然知った情報からいろんなものを買い付けに訪れ、失敗するといったことを繰り返していました。訪れる国も買い付けるモノもバラバラでしたね。

北欧との出会いもたまたまでした。建築を学ぶ友人がフィンランドにいて、気晴らしのつもりで遊びに訪れたのが最初です。建築についていろいろ教えてもらっているうちに「北欧の家具っていいな」と感じ、とりあえずいくつか家具を買い付けて帰国しました。

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talo代表の山口太郎さん。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、取材はオンラインで対応いただいた。

――実際、買い付けてきた北欧家具は、商材としてもよかったのでしょうか?

いえ、正直手応えがあったというより「自分の情熱を傾けられるものに、出会えたかもしれない」と思えたのが大きかったと思います。今思うと、若さゆえの妄想に近い熱意でしたが、「これでいこう」と確信していましたね。

――どのような点に、魅力を感じたのでしょうか。

自分たちの持つ価値観とは、真逆の雰囲気に強く惹かれたんです。僕は、バブルの雰囲気が残る時代に青春を過ごしました。おしゃれな家具といえば、レザーや金属を積極的に使った華美なものでした。一方、北欧家具はシンプルであることをよしとします。しかも、シンプルと一口に言っても、北欧家具は「余計なものをつけない」ことで実現しているわけではない。彼らは機能や装飾を足してから「削ぎ落とす」ことでシンプルにしている。

必要な要素を考え抜き、それ以外を削ぎ落としきった末に生まれるのが北欧家具のシンプルさ。その美学に感銘を受けました。

フィンランドと日本の違いは、住まいの"内側"への意識

――山口さんはtaloを立ち上げて以来、日本とフィンランドを往来し続けていると伺っています。その中で見えてきた、二つの国の違いについて教えてください。

僕の視点から気づくのは、やはり「住環境」に対する意識でしょうか。どんな国でも、人の生活に衣食住は欠かせません。日本は、オシャレな「衣」を生み出せるし、「食」も素晴らしい。それぞれ多様さと高い品質を持ち合わせています。しかし「住」は、他の二つに比べて弱いと感じます。

家や建物のデザインも外側に重点が置かれ、人が生活をする建物の「内側」や家や建物の「居心地」は置いてきぼりにされる時代がながかったように感じます。ただ、最近は欧米では当たり前のリノベーションが広がりはじめるなど、徐々に日本でも「住の内側」に対して意識する人が増えてきているように思いますね。

――一方、フィンランドでは「住」をどのように捉えられているのでしょうか。

フィンランドでは、家の中での過ごし方をどう良くするかを重要なことだと考えています。家の温度や湿度の快適さはもちろん、家具や雑貨など家の中に置くものも丁寧に、こだわりを持って選ぶ人が多い印象です。

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「北欧家具talo」の店内(写真:北欧家具talo提供)

こういった特徴は、家に人をよく招く文化に起因するかもしれません。フィンランドの人は、誰かを家に招いたり、招かれたりして、一緒に食事をしながらゆっくりとした時間を過ごすのが好きなんです。招かれて出かけてみると「知り合いの知り合い」という、誰だかよくわからない人もいたりと、本当にいろんな人を呼んで家に集まっている。

そして文字通り、"一日中" 話をしているんです。なぜかというと、フィンランドには出かけて楽しめるような場所が多くないから(笑)。多く人が家での時間を楽しみます。

時間に余裕があるので、家の中で楽しめる一つひとつの活動には時間をしっかりと使います。例えば、クリスマスにリースを飾りたいと思ったとき、日本では基本は買ってきますよね。こだわりのある人であれば、キットを買って作るかもしれません。しかし、フィンランドの場合はイチから作る人も多いんです。

森に行って、材料になる枝やツルを採取し、1日かけて手作りする。他にも、誕生日や記念日、季節の行事では、家族と一緒に何日もかけて準備をし、家の中で楽しんでいるが多いと感じます。このように、家での過ごし方・楽しみ方を心得ているんです。パンデミックなどで外出制限がかかっても、極端に行動は変化していかもしれません。

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フィンランドの友人と過ごしている様子

長く使い続け、引き継ぐ文化を再び日本へ

――日本人が重視する「住の外側」は、フィンランドの人はあまり重視しませんか?

外側を気にするのは、最後ですね。建物が古くても新しくても、どっちでもいいという人が多いように感じます。気候や地震といった観点の差もあると思いますが、日本のように建物を壊すこともめったにありません。また、家具や雑貨を捨てたり、買い換えることも珍しいですね。良いものを買って、長い期間使い続けたり、引き継いだりするのが当たり前です。

日本もかつては、長く使ったり引き継いていくことが当たり前でした。大正時代に柳宗悦らが提唱した「民藝」と呼ばれる無名の職人がつくった美しい日常の生活道具は、自分の両親から引き継いだり、子どもたちへ引き継がれていたといいます。

しかし、最近の日本では「引っ越すときに捨てればいいや」「結婚したら買い替えなければ」など、買うと捨てるをセットに考えていると思います。少なくとも、この家具や雑貨を「一生使い続けるぞ」と買う人は少数派でしょう。

――確かに、日本には安価で買いやすい家具屋さんが多いような印象もあります。

もちろん、フィンランドでも安価な家具屋さんはあります。それこそIKEAも北欧・スウェーデンの会社です。ただ、フィンランドの人を見ていると、長く使うモノと短くても仕方ないモノを使い分けている印象があります。

その観点で言うと、日本はより短期的に買い換える意識が強いように感じます。この価値観が強まったのは、この50〜60年だと思います。高度経済成長を境に、使い続けるのではなく常に新しいものを追い求める姿勢に変わっていきました。その揺り戻しが、いま徐々に起こりはじめているように感じます。

――taloで家具のリペアの様子を細かくbolgやSNSで伝えたり、家具のリペア作業のためにお客さんが自由に使える作業場があります。これには、長く使う文化を伝え広めていきたい、という思いがあるのでしょうか。

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リペアの様子(写真:北欧家具talo提供)

おっしゃるとおりですね。まず、家具は直せることを理解してもらいたい。「直しながら使う」のは、買い換えることに慣れてしまった今の日本人には、めんどうなことだと思います。でも、丁寧に作られた家具なら、直しながら100年使うことだってできる。日本は元々そういった細かな作業は得意ですし、丁寧に扱うこともできますから。モノが本来持つ"価値"をしっかり伝えられれば、長く愛用することは難しくないはずです。

僕も、20年くらい前に亡くなった父が使っていた家具や食器を、引き継いで使っています。父に引き継いでほしいと言われたわけではないのですが、たまたま長く使える良いものが残っていたので、今も使っているんです。

モノを引き継ぐと、それ自体の価値に思い出も加わり、自分の中では何倍もの価値を感じられる。このまま大切に使い続けて、自分の子どもたちが引き継いでくれたらすごくうれしい。そういった価値観も「直しながら使う」ことと同時に伝えていきたいですね。

対応力のフィンランド、緻密さの日本

――山口さんは、家具の買い付けを通じて、フィンランドとビジネスでもつながっています。ビジネスにおいても両国に違いを感じられる部分はありますか?

ええ、ビジネスにおいても違いは感じます。フィンランドの人は比較的細かいことは気にせず、とりあえずやってみようという考え方の人が多いと感じます。その分、彼らはハプニングが起きても、柔軟に対応できるし、偶発的な出来事への対応能力が高い。

一方、日本は緻密に仕事をします。問題が起きないように細かく確認をしながらすすめるのが当たり前。ですから、だいたいの場合は大きなトラブルもなくスムーズに物事が進む。ただし、思いがけないことが突然起きてしまうと、その対応に苦戦することが多い。少なくとも、フィンランドの人には及ばないと感じています。

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写真:北欧家具talo提供

僕は自分のことを大雑把な人間だと思っていますが、それでもフィンランドの人に言わせれば「細かすぎる」そうです(笑)。「確認が多くて細かい」とよく言われます。

こうした特性は、友人関係よりもビジネスとして関係性を持つようになってからの方が気づくようになりました。その方が、より濃くコミュニケーションを取るからでしょう。

――そこから、日本のビジネスパーソンが学べる点はありますか?

日本人的な細かさは、僕のビジネスにはとてもプラスに働いています。ただ、気をつけなければいけないのは、細かさを含めた日本人の考え方は、決して世界ではスタンダードではないこと。

僕はフィンランドだけでなく、北欧やヨーロッパの様々な国の人とやりとりをしていますが、国によって、人によって、仕事の仕方はさまざまです。仕事の仕方に優劣はありませんが、日本人の細かさは日本人特有のものだと肝に銘じたほうがいいですね。それを優秀と捉える人もいますが、大胆さや大雑把さが足らないとも言える。もう少し、バランス感覚は持てるといいだろうと思います。

大事なことは、お互いが異なる価値観や慣習を持つことを自覚し、丁寧にコミュニケーションをすること。特に、言葉の壁もある上ですから、すぐに理解し合うのは簡単ではありません。とにかく丁寧なコミュニケーション。そこからすべてが始まります。

私自身、現地にいる友達と、ダラダラとコミュニケーションを取る日々が、今の自分を作っていると思います。そんな日が早く帰ってくることを願っています。フィンランドが恋しいですよ(笑)。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

山口太郎(やまぐち・たろう)

北欧家具talo主宰。1973年生まれ。伊勢原市在住。27歳の時にフィンランド・ヘルシンキで初めて出会った北欧家具に携わり、今では買い付けのために、1年の約半分を北欧で過ごす。家具を通じて自然との共生、心の幸せを大切にする北欧のマインドを伝えている。

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