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ワークとライフはバランスよりブレンドでととのう?サウナー社員の掛け算キャリア

アイデア , イノベーション , ビジネススキル , マネジメント , リモートワーク , リーダーシップ , 事業推進 , 事業立案 , 人材育成 , 働き方 , 多様性 , 新規事業 , 生産性

文:森田 大理 写真:須古 恵

異なる環境で身につけたスキルを組みあわせれば、簡単には真似できない自分だけの強みが見つかる。稀有な立ち位置を確立した、掛け算キャリアの体現者に迫る

異動、転職、副業、趣味の活動、ボランティア...。望む望まざるに関わらず、現代は同じ環境、同じ仕事を続ける以外にも選択肢が豊富な時代だ。それは、一つの環境では得られないスキルや知識を習得できるチャンスでもある。一つの道を究める専門家だけでなく、誰もがスペシャリストになれる可能性が高まっている時代なのかもしれない。

そうした考え方を体現する一人が、コクヨ株式会社の川田直樹さんだ。川田さんは、もともとオフィスなどの空間構築事業において、建築士のスキルを活かしキャリアを歩んできた人物。
その一方で、サウナ好きが高じて日本初のサウナとコワーキングスペースの融合施設をつくるなど、「本業」と「サウナ」を上手く掛け合わせた独自の仕事も実現している。

川田さんはなぜ、仕事は仕事、趣味は趣味だと割り切るのではなく、二つを融合させられるのだろう。"掛け算キャリア"の秘訣を訊いた。

※本記事は、緊急事態宣言発令前の2020年3月初旬にインタビューを実施。2020年8月にオンラインで追加インタビューを行い構成している。

管理職になって初めてぶつかった壁を、サウナが解決してくれた

はじめに川田さんのこれまでのキャリアを紹介しておこう。大阪府立大学工業高等専門学校、いわゆる高専で建築を5年学んだ川田さんは、20歳でコクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社に新卒入社する。同社はコクヨの空間構築事業を担ってきた会社で、川田さんはオフィス空間の営業・設計・施工管理をワンストップサービスを行う部署を担当してきた。

大阪で6年勤務した後、グループ会社のオフィス家具メーカー、コクヨファニチャー株式会社に出向。東京での複合工事監理職、企画・マーケティング職を経て、29歳で出向から戻り、当時最年少で課長に昇進。その後副部長、部長と猛スピードで駆け上がり、現在はコクヨ本体の取締役室で経営の意思決定を支える役割を務めている。

このように、客観的には順風満帆なキャリアを歩んできたように見える川田さんだが、実は課長を任された29歳のときにマネジメントの難しさにぶつかった。それがプライベートで好きだったサウナを仕事に持ち込むきっかけだという。

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「僕は幼稚園の時から空手をやってきたおかげか、昔から努力を積み重ねて結果を出すことは得意だったんです。男三兄弟の我が家では"文武両道"が家訓。子どもの頃は体力づくりのため早朝からマラソンだと叩き起こされ、兄との組手の稽古中に鼻血が出てもティッシュを詰めて学校へ行っていた。そんな少年時代を過ごしたら、誰だって根性がつきますよね(笑)。社会人になってからも常に上を目指して努力を続けてきました。

でも、それが通用したのは"個人競技"をしている間だけ。課長になって部下ができたら自分の仕事は"チーム競技"になった。一人だけならいくらでもストイックになれるんですけど、ただ『どんどんやってみろ!』『頑張れ!』というだけで部下はついてこない。チームビルディングに悩んだ時期がありました」

川田さんがマネジメントの壁にぶつかったのは、時代背景も理由にあった。実は川田さん、社内では"宴会部長"としても有名。名前を知らない人同士でもお酒を飲みかわすことで仲良くなれる飲み会はビジネスにも役立つと、一時期は年間100回もの飲み会を主催していたという。そうやって広がった人脈を駆使し、様々な人の仕事上の悩みを解決してきた。

しかし、川田さんが課長になった頃は、ちょうど若者の飲み会離れが話題になりはじめた時期。組織を活性化するために部下と腹を割って話したいが、飲みの場に誘うことは逆効果になるのではないかと、心理的なブレーキがかかっていたという。

「ちょうど、仕事に悩んでいそうなメンバーが一人いたんです。自己肯定感も低めで、なんとなく仕事がつまらなそう。本質的な課題を探るため彼と本音で話すにはどうしたものかと考えていたときに、居酒屋の代わりに誘った場所がサウナでした。

連れていってみたら、ぽつりぽつりと彼がプライベートの悩みを打ち明けてくれたんです。会社では何をやっても開かなかった心の扉を、向こうから開いてくれた。サウナを経験するとスマホも持ちこめないし、裸の付き合いに上司も部下もないから、自分にも相手にも正直になれる効果があるんだなと気づきました」

ワークとライフはバランスするものじゃなく、ブレンドするもの

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もともと、子どもの頃から街の銭湯やサウナが好きだったという川田さん。空手の稽古でハードな毎日を過ごしていたからこそ、雑念をシャットアウトして一人になれるサウナ空間がお気に入りだったそう。加えて、サウナを通して部下との関係性が変わったことで、新たな交流の場にしようとひらめいた。

そこで、社内で有志を集めて「企業サウナ部」を創設。はじめはコクヨグループ内のローカルな活動だったが、「サウナ好き」という共通項で他社との交流へと広がっていく。今では、コクヨをはじめJAL、ADK、ドワンゴ、EY Japan、ヤマハ他、そうそうたる顔ぶれの企業にもサウナ部が結成され組成する、「JAPAN SAUNA-BU ALLIANCE(アライアンス)」の共同代表。各種イベントの開催、メディア出演等、現在のサウナブームを牽引する存在だ。

しかし、ここまではあくまでも「本業とは別の独立した活動」。部下を誘ったのも飲み会の代わりであり、その後の展開も業務外の「部活」だ。川田さんの特筆すべき点は、こうした活動に留まらず、本業の中にサウナを持ち込んだこと。

仕事として手掛けてきたオフィス空間の構築にも通じる、サウナとコワーキングスペースの融合を企画。2018年に『スカイスパYOKOHAMA』の「コワーキングサウナ・KOOWORK(クーワーク)」を手掛けた。このような仕事を実現できたのは、なぜだろう。

「きっかけは、僕自身がサウナにワークスペースを求めていたから。僕にとってのサウナは内省したり思考を深く堀り下げたりする時間なんですけど、せっかく良いアイデアを思いついても帰る頃には『何だったっけ?』と忘れていることが多くって(笑)だったら、サウナのすぐ隣にアイデアをアウトプットできるスペースがあれば良いなと思ったんです。当時すでにスカイスパの常連でしたから、ユーザーの声を届ける感覚で無邪気に企画を持ち込んだのがはじまりです。はじめからサウナを仕事にしてやろうなんて思ってなかったですよ。こういうのがあれば僕は嬉しいからと、ボランティアで企画したくらいのことだったんです」

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2020年3月のインタビューは『スカイスパYOKOHAMA』のコワーキングサウナで実施した

一級建築士でもある川田さんは、仕事の経験を活かしてコワーキングサウナ構想を企画書にまとめてプレゼン。しかし、一度目はスカイスパから「本当にニーズがあるのか分からない」と企画が立ち止まる。ところが、そこからの動きが川田さんならでは。ニーズが分からないならもっと分かりやすく見える化しようと、企業サウナ部の活動に全力を注ぎ、ビジネスパーソンにサウナブームを仕掛けていく。

やがて機は熟したと再度企画をプレゼンしたところ、「今ならいける」とスカイスパも了承。つまり、本業のスキルを活かしたアプローチとプライベートの活動を行ったり来たりしながら、コワーキングサウナを実現していったのだ。

「仕事とプライベートをきっちり分けようとは思わないです。僕にとってのワークとライフって、バランスするものじゃなくブレンドするものなんですよね」

あくまでボランティアでアイデアを提供するだけのスタンスだった川田さんだが、スカイスパ側から「ここまできた以上は、川田さんにやってもらいたい」と打診され、コクヨで企画・基本設計を受注することに。プライベートに仕事のスキルを持ち込んだことが、結果的に趣味を本業に活かす機会を呼び寄せたと言える。

パラレルに生きるには、人並み以上の責任感が必要

2年の構想期間を経て2018年、日本初のコワーキングサウナが誕生。これはコクヨの空間構築事業にとっても、ワークスタイルが多様化する時代の変化にあわせた、新たな価値提供の一つになった。

とはいえ、そのきっかけをつくった川田さんが大のサウナ好きなのは社内で有名。「いくらなんでも公私混同ではないか?」と否定的な意見はなかったのだろうか。この疑問に対して川田さんは「会社がこの様な活動をあたたかく見守ってくれたこと、奇抜なアイデアでも柔軟に挑戦させてくれた組織風土、そして共感応援してくれた仲間のおかげ」と前置きしながら、ご自身が大切にしてきたことを教えてくれた。

「文武両道が我が家の教え。空手も勉強もどちらも手を抜くなと親から言われて育ってきました。だからこそ、僕は仕事かプライベートかどちらかを犠牲にするのが美徳という風潮には違和感があって。両方ともそもそも一つの人生を彩るひとつの要素であり、どちらも大切にすべきだし、公私混同自体が悪ではないと思うんです。

仕事にプライベートをもちこんではいけない、家庭に仕事をもちこんではいけない、ではなく、ブレンドすることでプライベートで生まれる仕事へのアイディアや、仕事中に気付く家族や友人の大切さ、みたいなものもあります。あるべき姿にとらわれすぎずに新たなスタイルに果敢にチャレンジし新たなメリットを生み出したい。そうすることで『限られた時間内でいかにパフォーマンスを出せるか』という意識が高くなって、働き方が変わって、結果として本業の質も上がったと思います。

でも、人によっては『好きなことばっかりやって良いよね』と感じてしまう気持ちも分かります。だからこそこれまで以上にミッションに対する成果の大きさや成果にこだわる必要がある。メリハリをきかせながら働くことで仕事もプライベートもWINWINの関係をつくりたいんです」

覚悟を持って、仕事とサウナのどちらにも全力投球をする川田さん。そこまでの想いで二つの活動を交差させているのは、何が原動力になっているのだろうか。

「僕にとっては本業もサウナもどちらも大好きで大切な活動ですが、それぞれの領域に閉じこもっていると、色んな可能性を見逃している気がするんです。でも、二つの活動をかけ合わせたかからこそ、これまでになかったサウナ施設をつくるという挑戦もできたし新たな仲間との出会いもあった。趣味の活動だと割り切っていたら実現しなかったことですよね。チャレンジする幅を増やしたいからこそ、僕は本業とサウナを割り切らないのだと思います。両方に責任を持ち、どちらもあきらめずにストイックに取り組む、究極の公私混同をめざしますよ」

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Withコロナのニューノーマルで活かされたワークライフブレンド

川田さんの価値観は、新型コロナウィルスのパンデミックにより生き方・働き方の急速な変化を経験している今の私たちにとって、これまでより身近なものになろうとしている。緊急事態宣言下では在宅勤務が一気に進むなど、ワークとライフの垣根が低くなった。この変化を川田さんはどう見ているのだろうか。2020年8月に再び話を伺ったところ、実に川田さんらしいやり方で新たな日常を過ごしていた。

「今は、オフィスに出社するのは週の半分。残りは在宅勤務です。ただ、僕の仕事は取締役室で経営陣と共に動き、経営まわりのディスカッションをすること。リアルな場で近くにいない状況で仕事が務まるのかと心配した面もありました。けれど、コクヨは社会に対して新たな働き方を提案している会社ですから、この機会をポジティブにとらえて、新しいモデルに挑戦しようとリモートワークやピークシフト通勤などを積極的に導入していますね。

こうした働き方のため、僕自身は以前よりも頻繁にオンとオフを行き来するようになりました。自宅にいる時間が増えた分、家にもスチームサウナをつくったりサウナ好きな人をつなぐためにコラムをかいたりと、新しいサウナの楽しみ方も模索中です。オンオフのスイッチを切り替えるのにもサウナは最適なんですよ。今はサウナ室に密集したり会話をするような行為は控えるのが大前提ですが、コロナが収束して新しい働き方が定着した未来では、サウナを仕事とプライベートの中間に置くような『ワーク×サウナ×ライフ』の楽しみ方がもっと広まるかもしれない。その日のために、チャリティの開催などを通して施設を支援し、サウナ文化を守る活動を続けています」

川田さんの変化への対応力は、本業以外の活動で社外の様々な人たちと接点を持ってきたからこそ磨かれたものに違いない。また、在宅勤務によってビジネススーツを着る機会が減ったことが、服を脱いで入るサウナとも似ているとも川田さんは語る。スーツというある種の戦闘服を脱げば肩書や立場が曖昧になり、これまで以上の自己表現が求められると感じるそう。だからこそ、"仕事一辺倒"ではないキャラクターを確立していたことも役に立ったという。

「リモートワークが当たり前になると、オフィスで働くときのような立ち話や雑談がしづらいと言いますよね。でも、僕の場合は『最近サウナ行きました?』なんてチャットをもらうことが多くて、そこから仕事の相談や情報交換に繋がることが多いです。気軽には声をかけづらい環境だからこそ、キャラクターがある人の方が話しかけるきっかけが多く、情報が集まりやすい。そういうメリットを今の日常で感じるからこそ、ワークとライフをブレンドする生き方をしていてよかったと思っています」

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

川田直樹(かわた・なおき)

大阪府立大学工業高等専門学校卒業後、オフィス空間の設計・工事を手掛けるコクヨエンジニアリング&テクノロジー株式会社に入社。29歳で当時最年少課長となり、副部長、部長を歴任。現在はコクヨ株式会社の取締役室に所属している。本業の傍ら、コクヨグループ内でサウナ部を立上げたことをきっかけに、他社のサウナ部も巻き込んだ団体「JAPAN SAUNA-BU ALLIANCE」を設立、共同代表も務めている。

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