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良い学校と良い企業の共通項とは。イノベーション組織が持つ普遍的なマインドセット

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文:森田 大理 写真:須古 恵(写真は左から日野田校長、リクルート山口)

オンライン授業や9月入学の是非など、様々な議論が展開された2020年の教育業界。次世代の教育を模索する業界のキープレイヤーに、変化の波を乗りこなす方法を訊く。

3月に全国の小中高校が一斉休校になったことをはじめ、教育現場が大きく混乱した中、以前から新たな方法を模索してきた人たちは今をどう捉えているのだろうか。今回は、校長として着任した高校で海外有名大学に多数の合格者を出すなど、その手腕が注目を集めている日野田直彦さんと、『スタディサプリ』の生みの親であるリクルート山口文洋の対談を実施した。

現在、武蔵野大学中学校・高等学校と武蔵野大学附属千代田高等学院の2校で校長を務める日野田さんは、新しい教育へのチャレンジとして4月からオンライン授業を組み込んだ学校運営をスタート。リクルートの山口が責任者を務める『スタディサプリ』もコロナ禍で学校への導入が進んでいる。しかし、学校は教師・生徒・保護者などステークホルダーの多い環境。多くの変化を前向きに進めていくためには、どのようなマインド・行動を大切にしているのだろうか。

前半では二人が思い描く教育の未来がテーマとなったが、この後半では、広くビジネスパーソンにも通じる変化・進化の起こし方を訊いた。

学校と企業、立場は違えども互いに学び合える存在

――前半では、生徒一人ひとりが学ぶ意義をみつけることが話題になる中で、これは企業にも通じる話ではないかという指摘がありました。一般に学校と企業(社会)は切り離して考えられがちですが、実は共通点が多いのではないでしょうか。

山口 私が日野田先生をリスペクトしているのは、学校と企業で立場は違えども、考え方に共感することが多いから。きっと根底にある思想は同じなのではないかと思っています。たとえば先ほど(前半で)話題になった「個人が目的意識を持つこと」だけではなく、学校や企業は「組織がどんなビジョン・理念を掲げるか次第」という考えも私たちに共通していますよね。今の時代、学校も企業もいかに共感できるビジョンを示せるかによって、集まる人が変わり、組織も変化していくもの。その意味で、私は日野田先生が教育で掲げるビジョンから大いに学んでいます。

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日野田 たしかにそうですね。私も企業の経営方針や文化から学ぶことが多いです。以前、『スタディサプリ』を運営するリクルートマーケティングパートナーズのオフィスを見学して感動したのは、全員がオープンスペースで働いていたこと。(執行役員である)山口さんも他のみなさんと机を並べて働かれているのを見て、フラットな関係性や全員でつくりあげる雰囲気を感じたんです。

そこで、私も最近は校長室からなるべく外に出るようになりました。休み時間は廊下に「万事屋(よろずや)相談所」をつくって座っている。生徒たちも校長が廊下にいることを面白がって話しに来てくれますよ。

山口 今注目されている学校と企業は、特徴が似ていますよね。例えば、目標設定を重視してそこに時間をかけることもその一つ。これは企業であれば、ミッション面談等で仕事の動機付けや意味付けをして最大限の成果と個人の成長を引き出すことであり、最近躍進している企業の当たり前になりつつあります。

ところが、学校の場合は新学期がはじまればいきなり授業がスタートするケースがほとんど。それに対して、日野田さんは「なぜ学ぶか」を考えることに丁寧に時間を使われている。世界から注目されるような人材を多数輩出している日野田先生の教育方針は、企業の視点から見ても真っ当だし、参考になります。

――社員を育てるのが上手い企業の方法論は、学校でも効果的だということですね。

山口 結局、今躍進している企業は内省と振り返りが上手い。これは私たちが『スタディサプリ』を活用して学校に実現していただきたいことにも通じます。私たちが学校にお伝えしているのは、「先生方が授業やその準備にかかっていた時間を、生徒一人ひとりに向き合ってフォロー・コーチする時間に変えませんか」。企業が週次の1on1などで社員の成長を個別フォロー・コーチングしているように、『スタディサプリ』が授業や演習などの知識定着活動の一部を代替することで先生の役割をティーチ中心から、生徒一人ひとりの個別フォロー・コーチ中心に時間をかけていただくことをご提案しています。

否定や批判すらも取り込み、変化を進める仲間にしてしまう

――お二人が教育の新たなあり方を模索される中で、新しいことや変化することを恐れたり、不安なあまり否定的にとらえたりする人はいませんでしたか。どんな組織でも何かを変えようとすれば大抵はそこにぶつかりますが、どう乗り越えているのですか。

日野田 私は対立や説得をするのではなく、反対派の彼らにもオーナーシップを持って参加してもらえるようにしています。たとえばオンライン授業を導入するときもフィードバックをもらう前提で、時間割をわざと粗めにつくりました。

すると、予想通りいろんな"ダメ出し"がくるのですが、一つひとつに丁寧な回答をしていくんです。意見がきちんと吸い上げられたと感じられると、変化を拒絶していたはずが次第に一緒につくっている感覚になる。実際に、生徒のひとりが「もっと良い代案がある」と持ち込んでくれたこともありましたね。

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山口 なるほど。きっと日野田先生は巻き込み上手なんですね。先生や生徒を学校運営の当事者にするのがとても上手いんですよ。リクルートも、一人ひとりがオーナーシップを持つことを大事にしてきた会社ですから、よく分かります。組織に従うだけの受け身な状態だったら、文句も出てきます。文句ではなく対話。対立を生まず建設的な対話の場をつくろうとしていらっしゃるんですね。

日野田 私が生徒向けによく話すのは、みなさんは学校という海賊船の乗組員であるということ。客船ではないので、ただ乗っていても船は前進しません。どこに進むのかも自分たちで決め、みんなで荒波を乗り越えて行こう、と。生徒には、誰かに決めてもらうのではなく"自分で決める"という体験をたくさんしてほしいんです。

――それでも「前例がない」とこれまでのやり方に固執する人もいると思いますが、その場合はどう対応していますか。

日野田 だからといって、トップダウンで強制することはないですね。学校の環境で言えば、実は先生よりも生徒の方がしがらみもないし古いやり方も知らないから、先に変化に適応するんですよ。すると、その変化を見て従来のやり方にこだわりのある先生方も安心して踏み出してくれる。

山口 これは企業でも使える方法ですね。最初は変化に柔軟な人たちからはじめて、徐々に全体に浸透させるやり方。組織全体の民意が変化に傾きだすと、上の人たちも変わらざるを得なくなる、民主主義の仕組みを上手く使われていると思います。

日野田 やっぱり年齢を重ねる程これまでの経験で物事を考えがちで、変化が怖いんだと思うんです。その意味では、社会人が学校教育の現場にインターンをしてみるのは良い経験になりますよ。生徒たちは純粋ですから、良くも悪くも容赦しません。遠慮も忖度もない質問をしますし、凝り固まった頭をほぐしてくれますね。

山口 たしかに、多感な時期の子どもをコーチングしてみるのは、ビジネスで必要な力に繋がるかもしれません。相手には、自分のいる会社や業界の当たり前が通用しませんから、きちんと言葉にしないと理解されないし、「なぜそうなのか」から伝える必要もある。これは相当鍛えられますね。

日野田 そんな風に学校と社会が循環する機会を増やしたいですよね。そもそも学校も社会の一部ですから、別々に扱われるのは違和感があります。学校は出入り自由な開かれた場であるべきですし、一度社会で働いてみてから再び学校に通うような選択がしやすい世の中であってほしいです。

良いものを生み出すには、"遊び"や"余白"が必要

――新型コロナウィルスの感染拡大は、教育はもちろん社会全体に変化の機運を高めた側面がありますよね。変化への抵抗が普段より少ないこの機を活かすには、何が必要だと思いますか。

山口 一つ言えるのは、コロナがあってもなくても、社会の様々な問題についてどうすべきかを主体的に考え続けることだと思います。リーマンショックや東日本大震災もそうでしたが、大きな出来事が起こると、それを基軸に世の中は変わったように見えがちです。でも、人々の生活を一変させるような進化を牽引した人は、その前から「どんな社会を実現したいか」を必死に考えています。

そこで私が鍛えるべきだと思うのは、3次元の視点。ものごとを一方向でとらえるのではなく、いろんな角度から立体的に考えられるような視点です。結局、一元的なものの見方をしていると、新しい発見はできなくなるし、考え方にも"あそび"が効かなくなる。日々様々な視点で物事をとらえられるような余裕を持つこと。"余白"が大事な気がします。

日野田 MIT(マサチューセッツ工科大学)には、「ハック=良いイタズラを大切する文化」がありますよね。いたずらには、既成概念にとらわれないクリエイティビティがあると。「こうしなきゃ」「こうあるべき」と四角四面に考えていては、良いアイデアは生まれないということなんだと思います。

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山口 仕事や教育にも、「楽しんでいる」「遊んでいる」という感覚を持つことが必要なのかもしれませんね。小さな子どもは外を走り回って遊んでいるときに、ちょっとくらい転んだからといって、その場では泣いても遊び自体はやめないじゃないですか。この失敗は大したことないと思えるくらい夢中になることだと思います。

日野田 その感覚は大切ですね。私も上手くいかないことは何度もありましたけど、それでもこの仕事を嫌々やっている訳ではなく、楽しいから続けている。だから、失敗は笑って話せる「ネタ」でしかないです。そう考えると、小さな子どもが遊ぶ様子には大人が学ぶべき点が多いですね。たとえゲームに負けても「もう1回!」と勝つまで続けたり、「なんで?なんで?」と純粋な好奇心をもったり。遊びには、ヒントが沢山あります。

山口 あとは、「食わず嫌い」をしないことかもしれないですね。たとえば今年は今までICTを敬遠していた人たちでも、オンライン授業や会議に取り組まざるを得なかったじゃないですか。すると、実際に使うことでその良さを発見する人もいるし、オンラインのサービス自体もユーザーが増えたことで急速に進化している。だから、緊急事態だからやる・使うではなく、「普段からやってみる」ことはとても大切。知的好奇心に従ってトライしてみることで、新たな可能性にたどり着けるかもしれません。

新たな教育のあり方を提示するリーダーに訊く、変化を恐れず前進する方法

  1. 前半
  2. 後半

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

日野田直彦(ひのだ・なおひこ)

1977年生まれ。父の海外赴任に伴い10~13歳までをタイで暮らす。同志社大学卒業後の2000年に馬渕教室へ入社。2008年奈良学園登美ヶ丘中学・高校の立ち上げに携わる。2014年大阪府の公募校長として大阪府立箕面高校へ当時の公立学校校長の最年少(36歳)で着任。4年で、海外トップ大学への進学者を含め、顕著な結果を出す。2018年より武蔵野大学中学校・高等学校の校長に着任。現在は武蔵野大学附属千代田高等学院の校長も兼任する。

山口文洋(やまぐち・ふみひろ)

1978年生まれ。慶應義塾大学卒業後、ベンチャー企業でのシステム開発を経て、2006年リクルート入社。進学事業本部で事業戦略・統括などを担当。社内の新規事業コンテストでグランプリを獲得し、「受験サプリ(現・スタディサプリ)」を立ち上げ。2012年に統括部長、2015年4月、リクルートホールディングス執行役員及びリクルートマーケティングパートナーズ代表取締役社長に就任。2018年4月、リクルート執行役員に就任(現任)。

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