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NHK「ねほりんぱほりん」担当ディレクターが語る、多様な距離感との向き合い方

ものづくり , アイデア , ビジネススキル , マーケティング , メディア , 多様性 , 教育 , 社会貢献

文:葛原 信太郎 写真:須古 恵

ギャンブル依存症、元薬物依存症などの顔出しNGなゲストにいかに率直に話してもらい、番組を通じて視聴者に何をどう伝えるのか。NHKディレクター山登宏史さんに聞く、人との「距離感」。

現代の社会における「ほどよい距離感」とはなんだろうか。

デジタルテクノロジーの進化により物理的に離れた人同士が気軽にコミュニケーションできるようになる一方、リアルな場での対話の大切さも見直されている。スマートフォンやスマートスピーカーに喋りかけることで情報を得たり、ロボットを愛でたりすることが人々に受け入れられ、人と物の距離感も縮まった。「人と人」や「人と物」などさまざまな距離感のこれからについて考えていきたい。

今回お話を聞いたのは人形をつかったNHKのトークバラエティ番組「ねほりんぱほりん」のディレクター 山登宏史さん。この番組は「偽装キラキラ女子」「痴漢えん罪経験者」「児童養護施設で育った人」「元詐欺師」など存在は知っていても、身近にはいなかったり、わざわざ名乗り出ることがないような人々をゲストに迎える人気番組だ。コロナ禍ではセットも収録現場もソーシャルディスタンス対応をしながら制作に臨み、2020年10月からシーズン5がスタートしている。

ゲストはブタの人形に、聞き手の山里亮太さんとYOUさんはモグラの人形に扮して繰り広げられる赤裸々なトークを通じて、日常とは距離のある経験や考えを知ることができる。山登さんは、顔出しNGのゲストや、視聴者との距離感をどのように考えているのだろうか。番組づくりの裏側や哲学を聞いた。

ネット世代に届くように。着目したのは「匿名性」

――山登さんはこれまでどのような番組に関わってきたのでしょうか。

2004年に入局して、名古屋局、福井局、東京の放送センターと異動、そこでたまたま井ノ原快彦さんと有働由美子さんが司会を務めた朝の情報番組「あさイチ」の立ち上げに関わりました。2013年には福島局に異動し、福島第一原発の事故を中心に取材。2016年に再び東京に戻り、「教育・次世代」を担当する制作局に配属になりました。「週刊ニュース深読み」などを担当したあと、今は「ねほりんぱほりん」のディレクターです。

――ディレクターとは具体的にどんな仕事ですか。

テーマを考えて、取材・収録し、番組を完成させるのがディレクターです。ねほりんぱほりんには複数のディレクターがいて、それぞれが同時進行でエピソードを作っています。僕が担当したのは「養子」「児童養護施設で育った人」「わが子を虐待した人」。どれも4~5カ月かけて制作しました。2019年からは、各ディレクターの後方支援をしながら番組全体の進行管理役のデスク業務も担当しています。

――ねほりんぱほりんは、どのような経緯での立ち上がったのでしょうか。

立ち上げたのは僕ではなく、同期の女性ディレクターです。彼女からは「ネット世代に届く番組をつくろう」と考えた、と聞いています。NHKはネット世代へのリーチが弱く、課題でもありました。ネットの特徴である「匿名性」とNHKが得意とする「人形劇」組み合わせることで、ネット世代に届きつつも、NHKらしさが出せる番組としてねほりんぱほりんがスタートしました。

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山登さんが担当した、ねほりんぱほりん『養子』より(画像提供:NHK)

企画を立てるにあたり、番組の制作統括であるプロデューサーは「できるだけ大きな円を描いて」と言います。つまり、ネット界隈だけではなくなるべくいろんなテーマを扱いたいということ。その結果、「プロ彼女」「偽装キラキラ女子」など人が持っている裏の顔から、「元薬物依存症」「元ヤミ金」といった悪事に手を染めた人、「不妊治療をやめた人」「震災で家族が行方不明の人」のようなわざわざ人に明かすことのない事情を抱えている人など、どこかに偏ることなく、多様なテーマを扱えるのではないかと思います。

――こうしたテーマも、人形劇というフォーマットで表現されると、少しだけとっつきやすくなる印象がありますね。

匿名を保つためだけであれば、モザイクでもいいんです。それを、あえて人形劇にすることで、ドキュメンタリー的な内容もエンターテインメント性を持って向き合える。視聴者の感想を見ていると、表情が変わらない人形の顔に、ドキッとさせられることもあるようです。人形だからこそ光の当て方、首のかしげ方、アクションの大きさなどで、細かなニュアンスを伝えられているのでしょう。もしかしたら、身近な誰かを投影してしまいやすいのかもしれません。

建前と本音の双方を伝え、出演を依頼

――番組に登場するゲストは、顔出しNGの「さまざまな背景を持つ人」たちです。顔は出ないとはいえ、テレビに出ることに抵抗を持つ人も少なくないと思います。最初は知り合いでもない一般の方たちに率直に話してもらうために、山登さんはゲストとどのような距離感を築いているのでしょうか。

大事にしているのは、実際に出演してもらう前になるべく長い期間をかけてコミュニケーションを取ることです。番組を作るためにゲストにいきなりスタジオに来てもらうわけではなく、収録の依頼をする前からかなり時間をかけて丁寧に事前取材をしています。

その際に僕が大事にしているのは、話す時間だけではなく、会う回数です。たとえば同じ10時間分の会話をするとしても、2日間で5時間ずつ話すのではなく、週に1回2時間ずつ、5週間かけて話します。何度も会うことで、親しみを抱いてもらいやすくなるんです。また、会っていない時間に取材で投げかけた質問をより深く考えてもらえます。番組には放送日があり、もちろん締め切りもあるのですが、可能な限りじっくりと関係をつくっています。

友人との関係でも、距離を縮めるのは顔を突き合わせている時間の長さだけではなく、関係をつくった長さも大きく影響するのではないでしょうか?しばらく会っていなくても、友人のSNSを見れば、最近は何を考えて何をしているのかわかりますよね。インターネットの普及により、会っていない時間の過ごし方も、誰かとの距離感に関わっていると感じています。

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――ある程度距離が縮まってきてから、収録に参加してもらうための依頼をしているんですね。ゲストと出演交渉をするときに気をつけていることはありますか。

"建前" と "本音" を両方言うことにしています。建前は「理想」とも言い換えられるかもしれません。社会がこうなったらいいなという理想に向かうために「あなたの体験やそこから得られたメッセージが社会を変えるきっかけになるかもしれない」と、番組に出てもらう社会的意義を伝える。さまざまな社会課題が表面化している現代だからこそ、社会的意義を伝える建前は大事です。

でも、それだけではなかなか決めてくれません。話しづらいテーマについて赤裸々に語っていただく番組なので、正直、収録に参加いただいたからといって、ゲストが得することはほとんどないはずなんです。

そこで「本音」も必要になります。例えば、ゲストと共通する、自分の悩みやコンプレックスをさらけ出し「一緒にテーマについて考えていきたい」と伝える。そうすることで、同じように悩んだり、苦しんだりしている人がいると感じてもらえるのではないかと思っています。社会のためにも僕のような思いを抱えた人たちのためにもぜひ出てもらえないか、とお願いする。こうやって距離を縮めて、協力いただいています。

怒らない・否定しない司会の二人が距離を縮める

――収録当日にもゲストとのコミュニケーションで工夫していることはあるのでしょうか。

収録時の僕の役割は、ゲストが困ったときに助けるくらい。司会のお二人がいれば、僕の出番は多くありません。山里さんもYOUさんも、持ち前のお人柄でゲストとの距離感をとても上手につくります。二人は、説教も否定もしません。たまにYOUさんが厳しいときもありますが(笑)、ツッコミだったり、あくまでも冗談の範囲。ゲストは「この人たちなら、正直に話しても怒られない・否定されない」と安心して話してくれる。そうやって話を進める中で気づき、率直に経験や考えを話せる。ちょっとしたカウンセリングのようなものなのかもしれません。

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また、収録にあたって山里さんには事前にテーマを知らせますが、YOUさんには内容について一切知らせていないんです。視聴者と同じようにテーマの発表やゲストの登場に驚き、同じようにツッコミを入れる。YOUさんが、視聴者が気になることや考えていることを代弁するから、視聴者はより深くゲストやテーマについて考えられるのでしょう。

北風で服を飛ばすのではなく、太陽で暑いと気づかせる

――番組では、社会的弱者や社会課題の当事者などが登場することもあります。そうした一見遠くに見えるテーマも、ゲストが人形ごしで率直に語ってくれることで、視聴者はより身近に捉えたり、深く考えられたりすると感じています。こうした日常と距離のある話題を伝えるうえで、大切にしていることはありますか。

僕は「北風と太陽」の童話を意識しています。寒い北風で服を飛ばそうとしても、旅人は襟を立て、ボタンを閉めてしまう。太陽が気温を上げれば、服を脱いだ方が快適だと気づく。

これを番組に置き換えると、伝えたいテーマや正論をそのまま言葉にしても視聴者には届きにくいということだと思うんです。あえて遠回りをしながら多様な視点や描写をいれることで、結果的にテーマと視聴者との距離が縮まることもある。

こう考えるようになったのは、福島局での経験からです。東日本大震災のあとに福島局に異動になり、現地で暮らしながら、周囲で実際に起きていることを伝えてきました。福島第一原発事故の影響もあり、当時は福島の食や地域の良さを伝えようと番組を作ってもそのメッセージが届かないもどかしさを抱えていました。しかし、そういったメッセージを強く載せない何気ない番組で「福島に行ってみたい」とか「福島の○○を食べてみたい」というポジティブな反応をもらえることがあったんです。

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シリアスなテーマをシリアスなまま届けても、視聴者にうまく伝わるとは限らないのだと気づきました。ねほりんぱほりんのようなエンターテインメントとしても楽しんでもらえるようなかたちにして放送することで、もっと多くの人に見ていただける。それは、より多くの人にシリアスなテーマについて考えてもらう機会の提供にもなります。実際、震災から9年目の2020年3月11日に放映した「震災で家族が行方不明の人」では、大変大きな反響をいただきました。

伝えたいことを真っすぐに伝え、"知ってもらう"のではなく「確かにそうだ」と視聴者に"気づいてもらう" ことで、社会が変わっていく。今、報道の世界では純粋な「報道」の枠を超えて、社会の課題解決を目指す「ソリューションジャーナリズム」という考え方が注目されています。僕もそうした考え方をつねに念頭に置きながら、番組作りをしています。

――ということは、視聴者が番組を見てどう感じているか、どう行動しているかについても気にかけていますか。

もちろんです。放送後はもちろん、企画段階でもSNSの反応はかなり細かく見ています。世の中にはいろんな考え方の人がいますから。普段からさまざまな考え方を知ることができるように、あえて自分の意見とは異なる考え方の人をSNSでフォローしたり、検索したりして、多様な意見や情報を収集しています極端に振り切った人の意見はなるべく目を通し、彼らの思考回路を手に入れようと努力しています。そうすることで誰が何に気づく番組になるのか、そのヒントになることもあるからです。

番組をつくるときは、この人ならこんな反応をするだろう、あの人ならこう思うだろうと、想像しながら、いろんな考え方の人に刺さるようにしています。

例えば、福島局にいるときに、東京電力社員のドキュメンタリーをつくりました。その番組では、東京電力を応援している人たちにも、非難している人たちにも、どちらにも共感ポイントと問題提起ポイントを持ってもらえるように意識して作ってみました。

――簡単に責められないし、簡単に擁護もできない。複雑な問題こそ、双方の視点を意識すべきと。

そうなんです。今、SNSでは自分の意見と同じような意見ばかりが集まり、より価値観が固定化されてしまうことが問題になっています。

僕もつい、自分と異なる意見を否定してしまうこともあるのですが、山里さんとYOUさんの怒らない・否定しない姿勢を見習い「それもありだね」と考えるようにしています。「こうじゃないと!」ではなく「それもあり」。二人とゲストとの距離感から学ぶべきことは多いです。

プロフィール/敬称略

※プロフィールは取材当時のものです

山登宏史(やまと・ひろし)

1980年生まれ。早稲田大学教育学部卒業。NHKに入局後、「ETV特集『菅原文太 長ぐつの旅 人と鯨のたどった道』」「証言記録 兵士たちの戦争『ビルマ 退却戦の悲闘』」などを制作。「あさイチ」をへて、福島局に赴任。「明日へ『被災地 極上旅』」や「NEXT『社員たちの原発事故―東京電力 復興本社―』」などを制作。現在は「ねほりんぱほりん」を担当。

関連リンク

  • ねほりんぱほりん
  • 2020年10月からシーズン5がスタート!
    毎週水曜日 22時50分からNHK Eテレにて放送中

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