元リクルートの文芸評論家と『リクルートエージェント』の事業責任者が語る、「違和感」を「チャレンジ」につなげるヒント

右より、『リクルートエージェント』の事業責任者 近藤 裕、文芸評論家 三宅香帆さん

右より、『リクルートエージェント』の事業責任者 近藤 裕、文芸評論家 三宅香帆さん

転職支援サービス『リクルートエージェント』を展開する株式会社インディードリクルートパートナーズのHRエージェントDivision。同組織では、社員の違和感や問いを起点に社内外の「個の尊重」を探究する有志プロジェクト「なかまるプロジェクト」を発足し活動しています。

その一環として2025年8月6日(水)に実施されたのが、「“違和感”をチャレンジにつなぐ」と題した社内イベント。ゲストにリクルート出身の文芸評論家である三宅香帆さんを迎え、『リクルートエージェント』の事業責任者 近藤 裕と対談を実施。その様子をダイジェストでお届けします。

目次

インプットをするため、じっくり考えるための、余白の時間はどうつくる?

岡田:ファシリテーターを務めます、岡田菜子です。本日のイベントは、「なかまるプロジェクト」という社内の有志メンバーによるプロジェクトの主催で実施しています。このプロジェクト名は、「“仲”間を“まる”っと受け入れる」が由来。部門を越えて集まったメンバーが、「障がい者」「LGBTQ+」「外国籍」などさまざまなバックグラウンドを持つ方への採用支援を探究し、障壁の解消に向けた啓発活動に取り組んでいます。

これらの活動は、メンバー自らの違和感や「もっとこうなったらいいのに」という声から始まりました。つまり、一人ひとりが感じている小さな違和感は新たなチャレンジの源泉ともいえるもの。一方で、「日々の業務に追われて考える余白がない」「モヤモヤをうまく言語化できない」「何から始めたら良いのか分からない」という声も多く聞こえてきます。

そこで今日は、三宅香帆さんと、近藤 裕さんに登壇いただき、「違和感をチャレンジにつなげる」をテーマにふたりの実践方法からヒントを頂きたいと思います。三宅さん近藤さん、よろしくお願いします。

三宅: 今日は久しぶりにリクルートのオフィスにやって来ました。どうぞよろしくお願いします。

近藤: 三宅さんの書籍、私も興味深く読みました。こうしてお話しできるのが嬉しいです。よろしくお願いします。

岡田: それでは最初のトピックスにいきましょう。「余白の時間のつくり方」です。三宅さんはリクルート社員時代から会社の仕事の傍らで書籍を上梓するなどパラレルな生き方をされていました。また、ご自身の著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』では、「全身全霊」で仕事に向き合う昔ながらの働き方に対し、「半身」で働くやり方を提唱されています。一方の近藤さんは、『リクルートエージェント』の事業責任者としてメンバーの多くからは「全身全霊」な印象を持たれている気がします。対照的なふたりですが、どうやって仕事(本業)以外の余白をつくっているのですか。

近藤: 私ってそう見えているんですね(笑)。たしかに仕事中は事業のことに全身全霊ですが、仕事以外の時間も割とありますよ。ジョギングが毎朝の日課だし、フットサル、ゲーム、連ドラ、競馬も趣味。これらは「時間があるときにやろう」ではなく、定期的に最初から自分のスケジュールに組み込んでいて、読書も週1冊を自分に課しています。

三宅: 私も近藤さんのやり方に近くて、具体的にはカレンダーアプリを駆使しています。「この時間にこれをやる」と細かく決めてしまう。「帰宅」「睡眠」まで入力してカレンダーの余白を全部埋めてやることを決めているんです。カレンダーアプリは予定の色分けができるのが便利。自分の予定をざっと眺めれば「あ、最近〇〇の時間が足りていないな」と分かりますから。あと、気をつけているのはどんなにやりたいことがあっても睡眠の時間は削らないこと。睡眠時間が減ると頭が回らなくなって、全てが中途半端になっちゃいます。

三宅香帆さんの登壇の様子

近藤: 1日はみんな平等に24時間しかないわけだから、あれもこれもはできないですよね。決まった時間の枠で何をするのか、優先順位づけが大事なのかもしれません。

三宅: すごく分かりますし、優先順位を時と場合に応じて変えていくことも重要ですよね。例えば子どもが生まれて小さいうちは、仕事と子育てだけで精一杯になってしまうのはある程度仕方ないと思う。私の知るビジネスパーソンも、研究者も、子どものいる人は職種関係なくみんながそう言っているので、子育て中は一時的にプラスアルファのインプットやチャレンジができなくてもいいやと割り切っても良いと思うんです。

近藤: だからこそ、むやみに他人と自分を比べすぎないのも大事かもしれないですね。一人ひとり個性も事情も違うのだから、同じ土俵で競い合って焦ったり落ち込んだりする必要もないし、同調しすぎる必要もない。それに、自らを孤独に置くことを厭わなければ、優先順位の低いことに費やしていた時間をもっと有効に使えますよ。

三宅: たしかにそうですね。どの組織にもメンバーに期待するスタンダードな“型”みたいなものがあるのは分かるけれど、その通りにやる必要はないかもしれません。ルールを逸脱しない範囲で自分の価値観や個性に合った使い方、仕事の仕方にアレンジしていく感覚は、みんなに必要かもしれません。

メモを取る、書きだしてみる――違和感の正体や本質に気づくためのTIPS

岡田: では、続いてのテーマに移りましょう。「“違和感”を言語化する方法」。日々の仕事で感じるちょっとしたモヤモヤや仕事以外の出来事が、何かのチャンスにつながることもある一方、それをうまく言葉にできずせっかくのチャンスを逃しているといった声も多く寄せられています。どうすれば言語化できるでしょうか。ここは言葉を仕事にしている三宅さんのご意見から聞いてみたいです。

三宅: 私の場合は、とにかく書くことを大事にしています。自分の考えを書いてみるのはもちろん、本を読んでいて気になった言葉や印象深い一節は、書き留めておくのが癖になっていますね。そうやって抜き出した言葉はたまに俯瞰して眺めてみる。すると共通点や特徴が見えてくるので、「つまりこれってどういうこと?」と抽象化していくと、ものごとの本質に近づきやすくなる気がしています。頭の中でやるよりも、書くという行為で一度外にアウトプットしてみる方が、私は整理がつきやすいですね。

近藤: 全く同じですね。私、“メモ魔”なんですよ。仕事で人の話を聞いているときも常にメモをしているし、プライベートの読書でも、本に直接書き込んでいる。細かな具体をインプットし、抽象化してアウトプットするという繰り返しは言語化のトレーニングにもなるのでおすすめですね。特に営業のメンバーなら、お客様との商談が終わった後にその日のメモを整理して重要な部分を抽出し、「お客様が本質的に求めていること(ニーズや課題)」を自分の言葉で書いてみる癖をつけると良いです。

近藤 裕の登壇の様子

三宅: 近藤さんがおっしゃることって、文章を構成・編集していくプロセスにとても似ていると思いました。例えば、文章のまとまりごとに見出しをつける。それだけで長い文章がすごく読みやすくなるんですが、近藤さんが仕事で実践されていることって、まさにこの作業ですよね。

近藤: 言われてみればそうですね。それなら「絞る」ことも大切じゃないですか。あれもこれもと伝えたい気持ちは分かるけれど、数が増えすぎても散漫になって結局のところ何が言いたいのかがぼやけてしまう。だからこそ、自分は昔から「大切なことは3つに絞る」という癖づけをしていました。そうすることで、絶対に外せない事柄だけが手元に残り、本質が見えてくる感覚があります。

三宅: すごく分かります。私たちって冒頭に対照的なふたりだと紹介されましたが、案外似たもの同士ですね(笑)。一方で、私は抽象化が大切だと思う半面、「抽象化しすぎない方が良い場合」もあると思っています。具体のまま伝えた方が、その必要性を理解してもらえることもある。だからこそ、自分が感じた違和感を抽象化することも大事ですが、違和感を覚えたときの場面や出来事をありのまま記録し、ストックしておくこともおすすめしたいです。

うまくいかなかったときを想定し、“致命傷”じゃなければやってみる

三宅: それでは最後のテーマです。「行動・チャレンジにつなげるには?」。いざやりたいことが見つかっても、一歩踏み出してチャレンジするところまではいかないという声も多く寄せられています。時間的余裕のなさや、心理的な不安が足かせになっているような印象ですが、おふたりはどうしていますか。

三宅: 冒頭のテーマと同じ答えになっちゃうんですが、本当にやるつもりなら自分のスケジュールに組み込んでしまう気がしますね。やると決めたらやるというか。近藤さんはどうですか。

近藤: 自分の場合は、先ほどのテーマでもある言語化の段階で自分が今すぐ動けることを軸に考えていることが多いですね。もちろん中長期の視点で大きく描くことも大事なんだけど、明日からすぐできるアクションがひとつはないと夢物語で終わってしまいがちなので。

岡田: とはいえ、うまくいかないことが怖くて一歩踏み出せないという気持ちもありそうですよね。そう考えると、三宅さんが文芸評論家として独立したときは、なぜ決断ができたんですか。

三宅: 実はうまくいかなかったときのことも想定していたんです。2年やって一定以上の成果が出せなかったら、そのときはもう一度会社員に戻っても良いんじゃないって。そんな人生もありだなと思えたからこそ私は踏み出せた気がします。

近藤: それって「最悪シナリオを想定しておく」ということですよね。これは、事業上の意思決定をする上でも非常に大事なことなんですよ。新しく何かを始めるときは、それがうまくいったときのハッピーなシナリオに目が行きがちだけど、実はGOサインを出すために必要なのは、全てがうまくいかなかったときの最悪シナリオ。万が一最悪シナリオを辿ったとしても致命傷を免れそうならGOサインを出しますし、免れないなら今回は見送ろうという判断をすることが割とあります。同じことが個人の決断でもいえるのかもしれませんね。

三宅さんと近藤さんが対談されている様子

三宅: あとは、やって後悔するか、やらずに後悔するかを比べてみるのも良いと思います。もしチャレンジして失敗しても、挑戦したことで得られる満足もあるはず。それに対し、やらなければ失敗はないけど後悔はするかもしれない。そのどちらを取るかという判断ではないでしょうか。

岡田: リスクを取ってでもチャレンジしたいテーマは、どうやったら見つかるでしょうか。出発点は小さな違和感でも良いと思うのですが、そこから昇華させるのが難しい気もします。

近藤: 「これは死ぬまでにどうしてもやっておきたいことか」というものさしが自分にはある気がしますね。この基準に合っていそうなら、もう少し違和感を探究しても良いと思うけど、そうでない場合は無理せず一旦脇に置いておくという判断だってアリだと思います。

三宅: たしかにそうですね。リクルートでは「自分のやりたいこと」を良く問われますが、こじつけで設定しても、本当に自分の心から湧き出てくる思いでないと頑張れない。無理して置きにいかなくても良いのかもしれません。

近藤: 変に周囲に合わせて自分の本心じゃないもので取り繕っていると、自分が本当にやりたいことが見えづらくなる側面もあると思うんです。だから、繰り返しになりますが「私は私」で良いと思いますし、やりたいことがないときは「今はない」と素直に表明できるような組織風土も大事なんじゃないかなと私は思います。

【Profile】※2025年8月時点

三宅香帆(みやけ・かほ)
文芸評論家/京都市立芸術大学非常勤講師
1994年高知県生まれ。京都大学人間・環境学研究科博士後期課程中退。リクルート社を経て独立。主に文芸評論、社会批評などの分野で幅広く活動。著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』『「好き」を言語化する技術』等多数

近藤 裕(こんどう・ひろし)
株式会社インディードリクルートパートナーズ 執行役員
金融機関を経て大学院で労働経済学を学び、2005年、株式会社リクルートエイブリック(現インディードリクルートパートナーズ)に入社。2010年からリクルーティングアドバイザー(法人営業)部門でマネジャーを務め、2017年には事業企画の部長としてIT活用による事業進化を推進。2023年より『リクルートエージェント』の事業責任者を務める

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