受刑者の社会復帰を支援し、誰もが活躍できる社会を。リクルートの就労支援プログラム「WORK FIT」、刑務所向けにプログラムを提供

リクルートが人材事業で培ってきた知見を生かし開発した就労支援プログラム、『WORK FIT』。学校や地域の就労支援機関などで累計3万4,000人以上が受講したこのプログラムを刑務所向けにアレンジし、この度初の試みとして栃木刑務所にて実施いたしました。社会復帰を目指す受刑者は『WORK FIT』を通じて何を感じたのでしょうか。実施の背景やプログラム受講の様子をお届けします。

再犯率と就労の密接な関係。「就業観の醸成」を受刑者が社会復帰する一助に

『WORK FIT』の始まりは、2011年のこと。背景にあるのは、2008年に起こったリーマンショックの影響で、就職したくても就職できない状況に陥っている若者が増加し、社会問題化したことです。

リクルートが人材事業を通じて培ってきた就職・採用のノウハウには、この問題を解決するヒントが眠っているのではないか。『WORK FIT』はそうした発想から開発されたプログラムです。「自分に合った仕事が分からない」「仕事の経験がないので自己PRが作れない」といった就職活動の悩みを分析。自己理解、自己分析と仕事を結びつけながら、自信をもって就職活動できるようにすることが効果的だと位置付け、プログラムの無償提供が始まりました。

当初は大学の就職課・キャリアセンターなどを通じて、学生向けにスタート。現在では、地域若者サポートステーションや就労支援団体などでも活用いただいており、累計3万4,000人がこのプログラムを受講。就職活動の直接的な支援としてだけでなく、働くことを前向きに考えられるようなキャリア教育のプログラムにも派生しており、就職活動が本格化する以前の学生や、児童養護施設の児童を対象にも実施しています。

そうした広がりの一環として、私たちは2015年から少年院向けにもプログラムを実施。自分の強みを自覚し、社会で生かせる可能性を考える『WORK FIT』のプログラムが、少年たちへの矯正教育の一環として始まりました。この活動を経て、少年向けだけでなく刑務所の受刑者向けにも拡大できないか、と検討を始めたことが今回の取り組みのきっかけです。

仕事がない人は仕事がある人と比べて再犯率が約3倍にもなり、刑務所再入所者のうち7割が再犯時に仕事がない状態だったことが分かっています。(出典:再犯防止推進白書(平成30年度版)、法務省)つまり、犯罪の抑止には就労が極めて重要だということ。誰もが健全に社会に参加するために、『WORK FIT』の新たなチャレンジが始まっています。

WORK FIT 自分らしさを発見する・伝える・働くワークショップ

受講者同士の関わりの中で学び合う、グループダイナミクス

今回プログラムを実施した栃木刑務所は、女子受刑者が収容されている施設です。「受刑者の釈放時アンケートでも、女性は男性よりも出所後の就労について『働く予定がない』と回答している比率が高い傾向にあり(出典:平成28年度~令和2年度、法務省、受刑者に対する釈放時アンケートの集計結果)、より丁寧な就労支援策が求められるのではないか」。こうした仮定を基に私たちがプログラムで重視したのは、職業訓練や就活支援の手前の部分。「私にもこんな良いところがあるんだ」と自分のポジティブな一面に気づくような、“自己肯定感の芽生え”をメインに構成しました。というのも、受刑者が罪を犯した背景には、社会からの孤立や周囲からの拒絶がある場合が多く、自分に自信を持てない人が少なくありません。働くことにとらわれすぎず、「私も誰かの何かの役に立てそう」と、感じてもらうことに重きを置いています。

また、『WORK FIT』で大事にしているのは、「グループダイナミクス」。講義を聞いて自分の頭の中だけで考えるのではなく、受講者同士がグループワークを通じてお互いにアドバイスやフィードバックをしあうことで、自分一人では気付いていなかった自分らしさや自分の強みを発見するようにプログラムを構成しています。

全3回のプログラムのうち、初日はゲームに挑戦。チーム対抗で成果を競うことを通じて、自分がチームの中で無意識にどんな役割を担っていたかを振り返り、自分らしさを発見していきます。2日目は、「みんなでカフェをつくろう」がワークのテーマ。チームで役割分担を考える中で、自分の好きなことや興味のあること、得意なことを整理し、周囲からも意見をもらいながら、自分にはどんな強みがあるか、どんなことで役に立てそうなのか、可能性を探りました。最終日はこれまでの取り組みを踏まえて、「自分らしさを自分の言葉で伝える」ことにチャレンジしています。チーム内で1分間スピーチを行い、相手に伝わるコミュニケーションの取り方を学ぶとともに、聞いていた他のメンバーからもアドバイス。「あなたにはもっとこんな良いところがあるから、こっちの話をしたら?」などと客観的なコメントをもらうことで、たくさんの自分らしさを見つけていくワークを実施しました。

受講者同士のグループワーク グループダイナミクス

「自分の可能性を信じてみよう」と思えることで、前向きな人生の再スタートを

プログラムが始まった頃、参加者の皆さんは「自分らしさなんて考えたこともない」「私にこのワークは難しいと思う」など、過去にあまり経験したことがないテーマに緊張や不安の様子も見せていました。お題に合わせて一人でワークをするパートでは、何を書いていいか分からないと手が止まってしまう人も。「好きなことはあるが、それは“自分らしさ”なのか。自信が持てない」、「子どもの頃から褒められたことがないので、何をやっても自分ができている実感がなく、楽しくない」「自分らしさと言われても、何も思い浮かばない自分がダメに思えてつらい」と率直な想いを語っている人もいました。

そんな中で、参加者が自分らしさに気付く手掛かりとなったのは、一緒にワークを進めたチームの皆さん。「私はあなたの何事にも活発なところに元気をもらっているよ」「声が優しくて穏やかだから話が聞きやすい」「作業の手順を丁寧に教えてくれてありがとう。面倒見のよいあなたに助けられたよ」と、プログラム中や日頃の振る舞いに対してフィードバックし合ううちに、少しずつ表情が変わっていくのを感じられました。自分では気づかなくても、周囲の人たちの個性は客観的に気付きやすいもの。お互いがお互いの気付いていない点を発掘し合い背中を押してもらう。そんな関係性が育まれていました。

プログラムの総まとめとして、一人ひとりが自分らしさを発表。「私は自分から話すのは得意じゃないけど、聞くのは得意。もやもやしている人の話をよく聞くことで、少しでも相手をほっとさせられるような人になりたい」、「私は子どもの頃に海外にいたので英語が話せるけど、それを自分らしさだと思っていなかった。でも、刑務所内で外国人受刑者の通訳をしたことで、こんな私でも誰かの役に立てるんだと思えた。だから、今後は自分の得意なことにもっと向き合ってみたいと思う」。このようなスピーチが各テーブルで発表されました。

もちろん、受刑者の社会復帰に向けては、『WORK FIT』のプログラムだけで実現できるものではないと考えています。他の支援プログラムとの連携やさらなるプログラムの磨き込みも必要。『WORK FIT』は、これからも全ての人が自分らしく働くことを支援するとともに、受刑者の社会復帰支援というテーマでも、きっかけづくりをサポートしていきます。

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