消費スタイルの変容、人手不足、原価高騰…。大きな変化の局面にある外食産業の持続可能性に向き合う、リクルート飲食Divisionの挑戦

消費スタイルの変容、人手不足、原価高騰…。大きな変化の局面にある外食産業の持続可能性に向き合う、リクルート飲食Divisionの挑戦

左より、リクルート飲食Division VPの品川 翔、同じく飲食Division総合企画部 部長の森 高史

リクルートは、2000年代初頭にクーポンマガジン『HOT PEPPER』をスタートさせて以来、四半世紀にわたって飲食店および消費者の皆さんに向き合ってきました。その後、Webメディア/スマートフォンアプリの『ホットペッパーグルメ 』 が誕生。予約管理・台帳アプリの『レストランボード 』や業務・経営支援サービスの「Air ビジネスツールズ 」も組み合わせながら、時代のニーズ・課題に寄り添った形で外食産業を支援しています。 そして現在、外食産業はどのような状況にあり、リクルートは業界課題にどう向き合っているのでしょうか。飲食Divisionの責任者であるVP(Vice President)の品川 翔、大手飲食法人を担当する総合企画部 部長の森 高史に近年の取り組みを聞きました。

コロナ禍を経て様変わりした外食産業。飲食店は経営やオペレーションの変革が急務

― 大前提として、リクルートの飲食Divisionが向き合う飲食業界(外食産業)は、社会にどんな価値をもたらしていると捉えていますか。

品川: 「食べる」という行為は人の根源的な欲求にもひもづくものですよね。誰しもが当たり前に行う行為であり、当たり前だからこそ「よりおいしいものを食べたい」「食事を通じて楽しい時間を過ごしたい」と思うのは自然なこと。その意味で、私たちが向き合っている飲食業界は、人々の日常にとても近い存在だと捉えています。言い換えるならば、日常の中のちょっとした非日常。いつもと違う場所でいつもと違う料理を、大切な誰かと共にする。そうした体験を提供することで、人々に幸福感や豊かさをもたらしてくれるのが飲食業界ではないでしょうか。

飲食業界について話をする品川 翔さん

森: 図らずも、コロナ禍はそうした外食産業の価値を再認識する機会だったと思います。感染拡大を防止するために飲食店は営業自粛・縮小を余儀なくされましたし、消費者の皆様の外食控えも起きた。しかし、そうした制限のある生活の中で、やっぱり外食はいいものだと思ってくれた人も大勢いたはずです。「おいしいものを食べて、仲間と楽しい時間を過ごせたから、明日からもまた頑張ろう」と思えるような日常の活力になる。単なる食事ではなく、お店に集うことが社会全体を明るくすることにつながるのだと、私たちも改めて感じています。

― では、コロナ禍を経た現在の飲食マーケットはどのような環境なのでしょうか。

品川: 2023年5月に5類感染症移行され、コロナ禍の制限が解除されましたが、もはやコロナ禍前には戻れないというくらい、飲食店経営・運営の常識は一変しています。例えば、消費者の皆様の飲み会需要が大きく変わったこと。需要数自体はコロナ禍以前まで回復してきているのですが、かつては会社単位・部署単位で催されていたような大人数の飲み会ニーズが減少。大規模宴会向けに運営していたお店では業態やサービスの転換を迫られています。また、二次会・三次会のニーズも減少。そのため、1日に2~3回転することを前提に運営していたお店は、同じやり方を続けていても経営が成り立たなくなってきています。

森: このような時代の変化にあわせて、集客・サービス・人員配置などの方針を転換していかなければなりません。特に深刻なのが人手不足。コロナ禍で採用を控えている期間に社会全体で人手不足が一気に進んでおり、コロナ禍以前の感覚では人が集まらなくなっています。賃金を上げたくても原材料費の高騰でコストも上がっており、簡単には上げられない。そうしたジレンマを多くの飲食店が抱えています。皆さんが時代の変化を認識しているものの、その変化にあわせてお店の経営や運営をどう変えていけばいいのか、具体的な手立てに困っている。それが今の、外食産業の状態だと感じていますね。

森 高史さんのバストアップ写真

大手飲食法人クライアントと業界の先進事例をつくり、マーケットに波及させたい

― そうしたクライアントの課題解決のために、リクルートのプロダクトの枠を超えたトータルソリューションを提案しているのが、森さんが部長を務める総合企画部です。もとは森さん個人の取り組みを起点に、チーム→グループ→部へと発展したと聞きました。森さんはどのような想いでトータルソリューションに挑戦したのですか。

森: 私はリクルートに新卒入社以来、一貫して飲食事業に携わっています。新人のころから感じていたのが「集客支援だけでお店の本質的なニーズに応えられるのか」という疑問。しかも『ホットペッパーグルメ』だけであれば、お店にとってはあくまでも集客戦略の一部でしかありません。一方で、お店と深く付き合えば付き合うほど、リクルートメディア以外の集客方法や、メニュー、店舗のオペレーションといった内容の課題に気づくことも多かったですし、お店が困っているからこそ自分の役割を超えて一緒に考えたかった。そうやって自主的にはじめた活動でご評価いただいたことをきっかけに、組織の立ち上げに至りました。

また、並行して事業全体としてもPOSレジアプリ『Airレジ 』をはじめとした「Air ビジネスツールズ」や『レストランボード』といった業務・経営支援ツールを投入。こうしたプロダクトも活用しながら、集客支援・業務支援はもちろん、出店計画や業態開発、コストやオペレーションの改善といったテーマまで幅広くご支援するようになっています。

森 高史さんのバストアップ写真

― コロナ禍以降の飲食店の支援としては、どのような取り組みが進んでいますか。

森: 最近の事例で象徴的なのは、飲食店で働く”ホールスタッフ“の価値を再定義し、人事評価や報酬制度の改定をご支援した取り組みですね。先ほどの通り、人手不足が大きな課題となっている飲食店では、業務効率化が急務。リクルートが展開する飲食店向けオーダーシステムの『Airレジ オーダー 』を活用いただくことで、注文を取る業務の負荷を減らすことができます。これにより、ある大手飲食チェーンでは、限られた人数で店舗を運営することが可能になる一方で、ホールスタッフの役割が減り、労働意欲が低下する懸念を抱えていました。

そこで、営業担当者はクライアントと一緒にホールスタッフの売上貢献につながる重要行動を可視化。「追加注文を取る」「キッチンのヘルプに入る(提供リードタイムの短縮)」といった行動を評価し、行動に対してインセンティブで報いるように報酬制度を改定しました。また、アルバイトスタッフのニーズに応える形で、給与支払サービス『Airワーク 給与支払 』の機能を活用したインセンティブの即払いも可能に。こうした変更によって、ホールスタッフが主体的に店舗の売上へ貢献する行動が増加。店舗売上が拡大するとともに、頑張り次第でより高い報酬が得られる仕事になったことで、採用上の競争力も向上しています。

『Airワーク 給与支払』の画面を表示したパソコンとスマートフォン画像

一覧画面で登録したスタッフ全員の給与を一括管理できる『Airワーク 給与支払』

― 単にリクルートのプロダクトで業務のDXを支援するだけでなく、オペレーションや評価・報酬までトータルでデザインをするような支援が求められている、ということなのでしょうか。

森: 今、本質的に求められているのは人とシステム・機械をうまく組み合わせながら、飲食店運営のあり方を変えていくことです。というのも、チェーン店によっては1店舗あたりに必要な社員やベテランスタッフが不足して、いまだに一部の店舗で営業を再開できないところもあるくらい。しかし、もはやかつてと同じ感覚で人材採用ができる時代ではありません。システムと人を組み合わせながら、少人数でよりよいサービスが実現できる、新しい飲食店運営のあり方をデザインすることが必要だと考えています。

品川: 飲食店の皆さんが本質的に得意なこと・やりたいことは、「おいしい食事や楽しい時間を提供すること」だと考えています。店舗のオペレーションや付帯業務に関する悩みやストレスを軽減して調理や接客に集中していただくことが、飲食店はもちろんお店を訪れる消費者の皆様にとってもうれしいことのはず。しかし、アナログな業務が多く残る飲食業界において、デジタルへの苦手意識や変化への不安感から、なかなか前に進めないケースも珍しくありません。だからこそ、大手飲食店との取り組みが、中小法人や個人店も含め業界全体へ広がっていくことを目指しています。

品川 翔さんのバストアップ写真

飲食店が自信を持って健全に競争できる環境が、産業の持続可能性を高めるはず

― 人々の生活に欠かせない外食産業の持続可能性を高めるために、リクルートとしては今後どんなチャレンジをしていきたいですか。

品川: 引き続き業務支援による生産性の改善やオペレーションの変革に注力しつつも、それだけにとどまらず、飲食店が自信を持って適正な価格設定ができるような意思決定のご支援をしていきたいです。というのも、原材料費も人件費も高騰している今、コストを切り詰めるだけでは限界がある。本来は価格に転嫁すべきです。しかし、飲食業界は10円20円価格を上げるだけでも顧客離れが起きてしまうような戦いを長年強いられており、他の産業よりも値上げに消極的です。それが利益の圧迫を招き、企業も働く人々も疲弊させている側面は否めません。この状態が続いては、産業自体の持続可能性も危ぶまれます。そこで私たちは、業務支援ツールを用いて業務のDXを推進するとともに、DXによって蓄積されるデータも活用しながら、飲食店が需給バランスをより正確に捉えながら、根拠をもとに適切な価格設定ができる状態を実現していきたいです。

森: リクルートが向き合っている業界を横並びでみると、例えば旅行業界では需給バランスに応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」が一般的になってきていますよね。そうした他の業界での当たり前の仕組みを、社内で横展開して提案していくことも、リクルートの私たちだからこそできる業界貢献のひとつ。これまでの飲食業界ではなかなか用いられてこなかった手法・仕組みも、大手法人クライアントと一緒にトライがはじまっています。そうやって、価格はもちろん料理の中身やサービスなどが店舗ごとにより柔軟になり、それぞれのお店が個性をしのぎ合って健全な競争ができるマーケットにしていきたい。コロナ禍の数年間、飲食店は“守り”に入ることを余儀なくされていましたが、今後は再び “攻め”の戦略をたくさん実行し、マーケットのプレイヤー同士で切磋琢磨しながら進化を続けることで、産業全体の持続可能性が高まっていけばうれしいです。

品川: そうした攻めの戦略の企画や実行にどれだけ貢献できるかが、これからの私たちの頑張りどころですね。販促メディアである『ホットペッパーグルメ』も、業務・経営支援サービスの「Air ビジネスツールズ」や『レストランボード』も、それ単体の機能を用いた支援だけなら他にもプレイヤーはたくさんいます。点の支援で終わらせず、クライアントが本質的に実現したいことを理解しながら点をつないで一気通貫の支援をしていくこと。それが、飲食店の経営に貢献し、ひいては外食産業の発展につながるはずだと信じています。

品川 翔さんと森 高史さんの対談の様子
【Profile】

品川 翔(しながわ・しょう)
株式会社リクルート Division統括本部 SaaS領域統括 飲食Division VP
大学卒業後、2008年にリクルートへ入社。ブライダル領域の営業として結婚式場の集客支援業務に携わる。その後、事業企画・営業推進部署、商品企画部署、大手法人営業部署の部長を経て2022年に飲食領域に異動。インサイドセールス部署を担当後、2024年より飲食DivisionのVice President(VP)を務める

森 高史(もり・たかふみ)
株式会社リクルート Division統括本部 SaaS領域統括 飲食Division 総合企画部 部長
大学卒業後、2008年リクルートに入社。飲食領域で、リテール営業、法人営業を経験。2017年に自ら立ち上げた総合企画グループのマネジャーとなり、2020年4月より総合企画部の部長を務める

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