民間企業が運営に参加する刑務所で、リクルートの就労支援プログラム『WORK FIT』の試験導入を実施

全ての人が自分らしい“WORK”を見つけることを目的とした、リクルートの就労支援プログラム『WORK FIT』。これまでも、刑務所および少年院で再犯防止の一貫として実施していますが、このたび、初となる官民協働の刑務所での試験導入が実現しました。そこで今回は、導入いただいた喜連川社会復帰促進センターの教育部門を担当する株式会社小学館集英社プロダクションの八木澤 洋介さん、平野 由希子さんにインタビュー。民間企業が矯正施設の運営や教育プログラムに携わる社会的意義についてお話を伺うとともに、『WORK FIT』に対するご意見もいただきました。

<導入の狙い> 継続的な就労を実現することが、再犯の抑止につながる

『WORK FIT』は、もともと2008年に起きたリーマンショックの際に、就職したくても就職できない若者の就労支援を目的に開発されたプログラムです。「自分に合った仕事が分からない」「うまく自己PRができない」といった悩みを解決するべく、リクルートが人材事業で培ってきたノウハウを応用して誕生しました。大学生向けにスタートしたこのプログラムは、現在では地域若者サポートステーションや各種就労支援団体などでも活用。対象を拡大する中で出会ったのが、刑務所・少年院などの矯正施設です。

受刑者の社会復帰と再犯防止において、就労は非常に重要なキーワード。仕事がない人は仕事がある人と比べて再犯率が約3倍にもなり、刑務所再入所者のうち7割が再犯時に仕事がない状態だったことが分かっています(出典:再犯防止推進白書:平成30年度版/法務省)。このようなことから、就労支援に力を入れる法務省の方針と、誰もが活躍できる社会の実現を目指す『WORK FIT』の思いが合致し、プログラムの提供が始まっています。

今回、新たに試験導入を行ったのは、喜連川社会復帰促進センター。官民協働による運営を行っていることが特徴で、この施設における教育部門を担っているのが株式会社小学館集英社プロダクションです。『WORK FIT』のプログラムは2023年1月、全3回に渡って実施。同センターでは、2022年から新たに女子受刑者の受け入れが始まっており、彼女たちの就労支援の一環として、今回は8名が受講しました。

民間企業が持つノウハウを活かした、創意工夫への期待

株式会社小学館集英社プロダクションの平野 由希子さん(左)と八木澤 洋介さん(右)

株式会社小学館集英社プロダクションの平野 由希子さん(左)と八木澤 洋介さん(右)

― まずは、矯正教育事業についてご紹介をお願いします。

八木澤さん: 弊社は、もともと児童向けの教育書籍やコンテンツの編集を手掛けてきた会社です。そのノウハウを子どもだけでなく、罪を犯した人の社会復帰を支援するような教育へと活かして欲しいと打診があり、2007年にスタートさせたのが弊社の矯正教育事業です。実績を積み重ねる中で全国複数の刑務所の運営に参画するようになり、今では大きな事業へと成長しています。

― 行政は刑務所の運営に民間企業が参画することで、どのような効果を期待しているのでしょうか。

八木澤さん: 今、私たちに求められているのは、民間企業ならではのノウハウを活かした創意工夫です。刑務所は、その特性上どうしても閉鎖的にならざるを得ない側面がある。そのため、外とのつながりが少なく、より良いノウハウや最新の情報を取り入れることに苦慮されていました。そこで私たちのような民間企業が既存事業で培ったものを活かして、新たな教育プログラムを取り入れたり、社会とのハブになって広く活動をアピールしたりすることが期待されています。

平野さん: 受刑者は社会から隔絶された環境に身を置いているので、まるで時が止まっているかのように感じがちです。しかし、実際の社会は今、目まぐるしく変化していますよね。このギャップを意識しないと、いざ社会に出てから変化に戸惑い取り残されてしまいかねません。そのため、私たちは激しい変化にさらされながら事業活動を行っている民間の視点で、受刑者たちに外の世界がどう変化しているのかを常に伝え続けることを大切にしています。

― 『WORK FIT』を試験導入された理由を教えてください。

八木澤さん: 受刑者が出所後に再び罪を犯さないためには、仕事に就くことが欠かせないからです。それは、安定した収入を得て生活基盤を整えるという意味だけではありません。健全なコミュニティに属し、仕事を通して助け合う、頼られる、役に立つといった人とつながる喜びを感じられることが、お金を稼ぐことと同様に重要なのです。そのため、いかに一人ひとりに合った就労を実現させられるかという目的で『WORK FIT』のプログラムを検討しました。

『WORK FIT』が、受刑者一人ひとりの本来の持ち味を取り戻すきっかけに

実際のプログラムを受刑者が受講する様子

― 実際のプログラムを受刑者が受講する様子はいかがでしたか。

平野さん: ゲーム要素を取り入れたワークに取り組み、他の職業訓練とは一味違う、和気あいあいとした雰囲気が印象的でした。というのも、受刑者の中にはたまたま家族や友人との関係がうまくいかなかったことで孤立し、犯罪に結び付いてしまった経験から、人とのコミュニケーションに苦手意識がある(あきらめてしまっている)人も少なくありません。そんな彼女たちが、チームで協力しながらワークに熱中していたんです。最初は「人と接するのは嫌い」なんて言っていた人が、チームの仲間から「親しみやすいし、とてもコミュニケーションが苦手には思えない」と言われるうちに、「私の思い込みだったかも」と変化した人もいました。受刑者たちの犯したことは変えられない過去ではあるものの、本来のその人らしさを取り戻し、自信を付けていく姿が垣間見えた気がします。

― 他の教育プログラムと比べて、『WORK FIT』にはどのようなメリットを感じますか。

八木澤さん: チームの仲間から客観的な意見をもらいながら、一人では得られない学びを得られるところですね。あとははっきりとした正解があるわけではなく、自分なりに考えて一人ひとりが答えを見つけていく過程を重視しているところが、気づきを促してくれると感じます。

平野さん: よそ行きの言葉ではなく、自分の言葉で自分を表現するプロセスを大事にしているところでしょうか。例えば、一般的なやり方で受刑者たちに就職時の自己PRとして長所を考えてもらうと、「主体性」「協調性」といった、いかにも面接用の言葉をかしこまって使いがちです。でも、『WORK FIT』では単なる就職対策としての長所・短所探しではなく、「なぜなら~」と内面を深く掘り下げ仲間から客観的な意見をもらううちに、飾らない素直な言葉が出てきた。そんなふうに自分をさらけ出してよいという安心な場になるように、ファシリテーターが受講者一人ひとりの個性を尊重した丁寧な問いかけでプログラムを進行しているのも、『WORK FIT』ならではだと思いました。

受刑者の教育だけでなく、再チャレンジに寛容な社会にしていく活動も必要

実際のプログラムを受刑者が受講する様子

― 民間企業として参加しているからこそ目指していること、発揮したい価値を教えてください。。

八木澤さん: 再犯防止は犯罪の加害者に対する取り組みではありますが、私たちは社会全体にとっても大きな意味があることだと捉えています。再犯率が減れば、その数だけの新たな被害者を減らすことにもなる。ひいては社会全体の安心・安全にもつながるからです。この社会の一員として安心・安全を守る活動の一翼をこれからも担っていきたいです。

平野さん: 刑務所の中で受刑者の就労支援をするのはもちろんですが、どれだけ教育プログラムを充実させ、本人が更生に向けた努力をしたとしても、社会が再チャレンジを許容してくれなければ真の社会復帰はできません。私たちが地域や企業と積極的に接点を持ち、相互理解を深めていくような取り組みにも挑戦していきたいです。

― そうした想いを実現するために、リクルートに期待したいことはありますか。

八木澤さん: 一つは、受刑者の職業選択の可能性を広げること。世の中には多種多様な仕事がありますが、それを知らないために限られた情報の中からしか仕事を選べないケースは多いです。リクルートは人材事業で実に幅広い職種・業種と接点をお持ちですよね。その知見を活かして、世の中にはまだまだ多くの可能性があることを伝えていただき、受刑者たちが過去の経験にとらわれずチャレンジしていくことを促してもらいたいです。

もう一つは、誰もが活躍できる社会を目指して、世の中の理解を深めていくこと。空前の人手不足である今、刑務所で更生に向けて前向きに取り組んでいる人たちも、社会に必要な人材の一人になり得ると私たちは信じています。なぜなら、受刑者と日々接する立場からすると、たまたま置かれていた環境に恵まれなかっただけで、健全な環境にいれば犯罪には手を染めなかっただろうと感じられる人も多くいる。裏を返せば環境次第で再起できる可能性は十分にあると思うからです。だからこそ、彼らにもう一度チャンスを提供してくれる社会であって欲しい。多くの企業と接点を持つリクルートの発信力で彼らの素顔やポテンシャルを広めていただき、少しでも受け入れ先企業が増えていくと嬉しいです。

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